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『力』の発現・1


「こっちだ! リンネ。すぐに部屋に運んで」


 先に伝令を頼んでいたからか、レオを連れて城についたときには、治療用の部屋が用意されていた。クロードのほか、年配の男性が幾人か迎えにでてくれていた。

 誰だろうといぶかしげな視線を向けると、クロードが説明してくれた。


「彼らは僕と一緒に魔術研究をしてくれる人たち。あと……」

「お父様?」


 そうつぶやいたのはローレンだ。たしかに、ローレンとよく似た赤毛の男性がいる。レットラップ子爵は、突然現れた娘に困惑していた。


「ローレン……なぜここにいるんだい?」


 会話を遮ったのはクロードだ。


「レットラップ子爵、申し訳ありませんが、先に部屋に向かいます。リンネも来て」

「う、うん」


 タンカにのせて運ばれているレオを追うように、私とクロードも小走りで治療用の部屋に向かう。


「クロード。助けられるよね、レオ」

「助けるんだよ、リンネ。僕と君でね」


 バタバタと部屋に入り、レオをベッドに横たえた。服を脱がせ、上半身を裸の状態にしてから、改めて魔法陣を確認する。

 レオは、呪いに侵されているとは思えないほど、逞しい体つきをしていた。三角筋と上腕三頭筋がしっかり鍛えられているから、腕が太く逞しい。厚みのある胸には、呪いの元である二重の円の魔法陣が描かれている。隙間を埋めるように古代語が、円の中央には六芒星が途中まで描かれていた。


 予想以上に魔法陣の完成時期が早い。私も驚いたが、クロードも渋い顔をしている。

 クロードはうなずくと、集まったメンバー全員の顔を見回してから、説明した。


「僕の考えた案はこうです。今レオの胸に刻まれている魔法陣が完成する前に、別の効果をもたらす記号を書き加えるのです。具体的には、〝時戻り〟の呪文をこの魔法陣全体に対してかけます。うまくいけば、魔法陣完成と同時に、時戻りも発動して、描かれた魔法陣が消えていくのではないかと思っています」


 それは、私が前に王妃様に言ったセリフから思いついた案らしい。そんなこと言ったかなってくらい昔のことだし、実際、あのとき私はなにも考えていなかったというのに、王妃様は何年もそのことを忘れていなかったし、聞いたクロードはこんなことまでひらめくんだから、すごい。思いついたことはなんでも言ってみるものだ。


「だが、書き手が違えばうまく融合しないのではないか」


 クロードの研究仲間のひとりが言う。


「それに関しては賭けになります。だが術者であるジェナ様はもう亡くなっていますし、この国には魔術を扱える人間はいません。であれば、誰がやっても一緒かと」

「あ、待って。ローレンは?」


 レオを救うのは、ローレンのはずだ。ローレンならリトルウィックの巫女姫の血を引いているのだから、魔力もある。


「ね。お願い。ローレン」


 私はそう言ってローレンを手招きしたけれど、彼女は一歩も動かず、首を横に振った。


「無理よ。レオ様は私に触られると吐いてしまうでしょう? 動かれたら呪文なんて書けない。針で刺すのよ? じっとしていてもらわなきゃ無理」


 血の気が引いたような気がした。呪文を書くと言っても、入れ墨を描くように針で刺さなければならないのだ。普通に描くよりずっと難易度が高い。


「そんな……」


 これまで黙っていたレットラップ子爵が口を開く。


「お嬢さんはローレンとお友達なのかな? どうしてローレンが魔術を扱えると思うんだい?」

「あ! えっと、それは……」

「私が言ったのよ、お父様」


 いぶかしがるレットラップ子爵から、ローレンがかばってくれた。けれど今度はローレンが詰め寄られている。


「お前はいつ魔術を覚えたんだ」

「うちに、あれだけ魔術書があれば覚えるわよ」


 レットラップ子爵は焦ったようにクロードに弁明し始める。


「実は、私の妻はリトルウィック王家の傍系の出身なのです。けれど駆け落ち同然で出てきたのですから、今はまったく交流などなく。情報の横流しなどしておりませんから!」


 どうやら、クロードに疑われるのを懸念しているようだ。

 まあ、今リトルウィックとはまったく国交のない状態なのだから、スパイという可能性もなくはない。


「心配なさらなくても、大丈夫ですよ、子爵。あなたのことはちゃんと調べてあります」


 さらっと、クロードが怖いことを言った。まあ、レオの呪文は国家の秘密だ。誰にでも明かされていいものではない。バラす前にちゃんと人選されているのだろう。

 レットラップ子爵はホッとしたように息を吐き出すと、笑顔になった。


「では信用していただいているということで、ひとつ助言を。呪文を重ねがけする場合、術者はなるべく最初にかけた人間の属性に近いほうが馴染むものです。入れ墨をするインクには、術者の血を混ぜるのですが、もとの術者に近づけるという意味では、リンネ様の血を混ぜるよりも、リトルウィックの血を引く我が娘の血を混ぜたほうがいいかもしれません。そうすれば、刺すのがリンネ様でも、馴染む率は上がるかもしれません」

「ええっ」


 そこに驚いたのはローレンだ。まあ、突然血を混ぜろとか言われたら、私だってたぶんビビるけれど。


「お父様っ、血って。私を生贄にする気ですか?」

「馬鹿。命に係わる量じゃない。お前がこの場にいなければこんな提案をするつもりはなかったが、運よくいたからな」

「そんな……」

「ローレン、お願い」


 私の懇願に、ローレンは困った顔をしながらも応じてくれた。


「わかった。これでレオ様が助かるなら」

「ありがとう! ローレン」


 レットラップ子爵がローレンの指先に針を刺し、インク瓶の中に数滴落として混ぜる。


「いたた。これで大丈夫? お父様」

「さあ、こんなことをやるのはそもそも初めてだからね。うまくいくかはわからないけれど、万全を期したいだろう」

「ありがとうございます。レットラップ子爵」


 私はお礼を言い、クロードに向きなおる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魔術で、血。 生け贄を連想しないワケがない( ̄▽ ̄;)
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