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思いあまって婚約破棄・4

* * *


 ここ数日、私はひたすら静かに過ごしていた。

 先日、ローレンを怒らせて以来、彼女は私に話しかけにこない。

 前はずっとこうだったのに、いざひとりに戻ると寂しくてたまらなくて、空元気すら出せずにいる。


 教室の窓から観察していると、ローレンは、果敢にレオに話しかけにいっているようなので、任せておけばいいのだろう。小説の神様に愛されているのはローレンだもの。どんな奇跡の力も起こせるはずだ。

 私のような悪役令嬢立ち位置の人間は、動けば動くほど、ヒーローやヒロインを不幸にしてしまうに違いない。

 わかっているのに、なんだか胸が痛い。レオを追いかけるローレンの姿を、見たくない。

 どうして私は、リンネに生まれ変わってしまったんだろう。

 どうして助けられないのに、彼の苦悩を近くで見守る立場になってしまったんだろう。

 なにもできないなら、いっそなにも知りたくなかった。ただ自分の感情にだけ素直でいられるモブになったほうが、ずっとマシだったのに。


 そんなわけでふたりの姿を見たくなくて、授業が終わってからは速攻で屋敷へと帰る。

 気分転換にランニングしようとしたら、使用人やお母様に全力で止められた。


「リンネ、いい加減、そんな格好で走るのはやめなさい。はしたない」

「はしたなくてもいいんです!」


 ランニングと短パンだった前世に比べれば、長袖に乗馬ズボンで走っているのだから十分お上品だ。


「お願い。ちょっとでいいの。走らないと心が死んじゃう」

「なに馬鹿言っているの! さっさと着替えてらっしゃい! ああ、恥ずかしい。私の育て方が悪かったというの……」


 結局は、お母様の泣き落としに負けて自室に戻る羽目になる。

 せめてソロがいてくれたら、散歩と称して小走りくらいできたのに、そのソロも、あれ以来帰ってきていない。

 私はふて腐れて、ベッドにごろりと横になった。


(だったらせめて、自堕落を満喫してやるわ!)


 思考が迷路に迷い込んだ揚げ句、私は令嬢にあるまじき態度でベッドの上をゴロゴロと転がった。

 それからしばらくして、急に屋敷が騒がしくなった。


「リンネ! お客様よ」


 メイドではなくお母様に呼ばれて、私は驚いて立ち上がった。


(え、マジ? だらけていたから、髪、ぼさぼさになったんだけど)


「お嬢様、お早く。って、どうされたんですか、その髪!」

「ごめん、急いで直して」

「あああ、そこにおかけになってください。大変なんですよ。クロード・オールブライド公爵令息がお越しなんです」


 エリーが慌てたように言い、今はお母様が場をつないでいるから、と教えてくれる。


(クロードは執務中だと思うのだけど)


 小首をかしげながら、私は身支度を整え、応接室に向かう。お母様が必死にクロードを持ち上げる声が聞こえてきた。


「もう本当にクロード様は優秀でいらっしゃるわぁ」

「いえいえそんな」


 うん。お母様、落ち着いて。クロードが引いているような声を出してるよ。


「お待たせいたしました」

「まあ、リンネ、遅いわよ」

「かまいませんよ、夫人。約束もなく押しかけたこちらが悪いのですから。それに、女性は男を待たせるものです。その後で、待たされた以上の喜びをくださるのですから、ね」


 ウインクされて、お母様の方がノックアウトされそうだ。


「クロード。急にどうしたの?」

「話があるんだ。あまり人には聞かれたくない話なんだけど。室内で君とふたりきりというのはまずいから、庭を散策させてもらっても? そこであれば、エバンズ夫人も窓から様子を見ることができるでしょう?」


 そつのないクロードの提案に、反対意見など上がるはずもなく、すぐに、ふたりでうちの庭を散策することとなった。


「綺麗に整えられているね」

「庭師の努力の成果よ。私、花のことはよくわからない。名前も」

「リンネは正直だなぁ」


 クロードはくすくすと笑った。話があるという割には、全然本題に入らず、ひとしきり花の名前と栽培方法を教えてくれた。なにしにきたのだと思った頃に、ようやく本題を切り出してきた。


「レオに、婚約破棄してほしいって言ったんだって?」

「うん。レオから聞いたの?」

「まあね。国王夫妻は今大騒ぎだよ。とくに王妃様が。リンネのこと、気に入っているから。レオがガッツリ怒られていたね」


 まさかそんな展開になっているとは思わないので、私は慌てて弁明した。


「私から言いだしたんだよ! レオは悪くないから」

「そうだろうね」


 クロードは立ち止まると、私に向かって穏やかに笑う。


「レオと婚約破棄するなら、僕と結婚しようか、リンネ」



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