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大騒ぎのお披露目会・4

 夕方五時の鐘の音と共に、お披露目会が始まった。

 主役である私たちは、招待客が集まった後、満を持しての登場だ。


「本日は我が息子、レオの婚約者を紹介する。エバンズ伯爵令嬢リンネ殿だ」


 陛下のとうとうとした声と共に扉が開かれ、結婚式場で入場する新郎新婦のように少しずつ前に歩きだす。顔を上げれば、広間に集まった貴族たちが、いっせいにこちらに注目しているのが見渡せる。

 女性陣からは、予想通り、この程度の令嬢とどうしてという感じの嫉妬交じりの視線を受けた。誰もがうらやむ美貌の持ち主じゃないので申し訳なくは思うけど、やむにやまれぬ事情があるのだから許してほしい。男性陣はとくに思うところがないのか、好意的な拍手と笑顔で迎え入れられた。


 中央に向かって歩いていく途中で、右手側から一風違った視線を感じ、私はそちらを見た。

 そこにいたのはローレンだ。燃え立つような赤毛に、胸の大きさと腰のくびれがきわ立つデザインの、エメラルドグリーンのドレスがよく似合っている。笑っていない琥珀色の瞳は、宝石のようにきらめきながら、鋭い光を放っている。


(綺麗だな……)


 見とれていたら、彼女はぷいとそっぽを向いた。

 常に多方面の令嬢から嫌われているので、気にはしていないけれど、ローレンには最初から親切にしているつもりなので、なぜ嫌われるのかわからない。


「リンネ、どこを見ている」


 不満げにレオに言われて、彼に耳打ちしようと顔を上げた。意図を察したのか、少し体を屈めて、耳の位置を低くしてくれる。


「レオ、あそこにローレン様が」

「ああ。成金の子爵令嬢程度がよくこの場に潜り込めたものだ」


 子爵位はたしかにそこまで高くはないが、王都に居を構える貴族であるならば呼ばれるだろう。資産家であるならなおさらだ。


「招待されたからここにいるのに決まってるでしょう? レオ、ちょっとローレン様に冷たくない? レオの復学と同じ日に転入してきたんだし、他学年といっても面識あるでしょう?」

「あの程度の面識でなれなれしくされるのが気に入らない。『あなたを救えるのは私だけだ』などと、妄言を吐くしな」

「へぇ」


 それは初耳だ。私の知らないうちに、ローレン様はレオにコンタクトを取っていたらしい。


(美人なのに、レオのお眼鏡にはかなわないのか。逆かな。美人すぎるから駄目なのかも。女性が苦手なんだから、私みたいに女らしくない方が安心できるのだろう)


 気になってじっとローレンの方を見ていたら、レオに顎を掴まれ、正面を向かされた。


「あんな子爵令嬢ごとき、お前が気にすることはない」


 レオが腰をかがめて私を見つめているから、まるでキスをする直前のような距離感になっている。当然、周囲はざわめいた。


(こんな姿を見ていれば、レオが女性恐怖症だなんて周りは思わないんだろうなぁ)


 いいのだか悪いのだか微妙なところだ。

 私はこっそりと彼の手の甲をつねり、「嫌だわ。人前でおやめくださいな」と優雅に笑ってみせた。

 そのやり取りは、親密さを誇示することになってしまったようで、さらにどよめきが増す。ああー、知らないよ。

 レオはつねられた手をじっと見つめると、なぜか頬を染め、赤くなった手の甲に自らの唇をあてる。妙に色気のある表情に、私だけじゃなく、会場中の令嬢たちが目を奪われる。


「よそ見しているからだ」


 口端をつり上げて笑うレオに、令嬢たちはきゃああと歓声をあげた。

 私たちの仲睦まじい様子に、敵対するよりも親しくした方が得だと思ったのか、そこから、お祝いを告げる人がひっきりなしに集まる羽目になってしまった。

 その中には令嬢たちも含まれていたため、早々にレオの顔色が悪くなる。


(仕方ないなぁ。この場から逃げるか)


「申し訳ありませんが」


 私は顔に扇をあてたまま、立ち上がる。


「人の多さに疲れました。キンキン声に頭痛がしますの」

「まあっ」


 私のセリフに、令嬢たちが顔を赤くして睨んでくる。


「レオ様、ご挨拶はこのあたりでよろしいんじゃありません?」

「あ、ああ」


 私はそう言い、吐き気で言葉少なになっているレオの腕を引っ張って、その場を抜け出す。

 背中に、「どうしてレオ様はあんな女性を選んだのかしら」なんて声も聞こえてきて、ため息が止まらない。


(ええ、そうですね。もうちょっといい言い方があっただろうとは私も思います)


 だけど、中座するいい言い訳なんて私には思いつかない。令嬢のわがままってことにしておくのが、一番角が立たないと思うのだ。


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