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前編

あなたは幼馴染と離れ離れになったことはありますか?幼馴染と再会したらどうしますか?

もし、再開した幼馴染と昔みたいに遊べたら嬉しくありませんか?小さい頃、何も考えずに友達と遊んだ楽しさ。成長してから、友達と遊ぶ楽しさ。成長したからこそ分かるお互いの気持ちや考え方。

この本が幸せな物語か、悲しい物語かは読んだ人次第で決まると思います。あなたがどう考えるかです。

どちらの捉え方も恐らく間違えではないと思います。色々な考え方があるのが人間なのですから。

ただ、僕は書いてる途中に泣きそうになりました。


他のサイトにも載せるかもしれません。

俺の名前は立花湊。大学生。普段はゲーム三昧の生活をしている。他にはアニメ、漫画、エロゲー。重度のオタクである。アニメ、漫画、エロゲー、ゲームどれも幅広いジャンルをプレイしている。

そして俺は一人暮らし。大学での講義を終え、家でするゲームのことを考えながらマンションの階段を上がった時、異変に気づいた。

 俺の部屋の前にしらない人がいる。それも女だ。外国人か?銀髪で髪が長く、赤い目をしている。一目惚れだった。

「つ、つき合ってください!」

告白してしまった。人生で初めて告白した。自分でもびっくりだった。こんな衝動に駆られたことすら初めてだった。

ゲームの世界ではこんなに取り乱したことないのに。俺はいつでも冷静沈着で皆から頼られるクールビューティーなキャラを

演じていたのに。

 「エルさんいつも落ち着いていて凄いですねー!憧れます!」なんて言われても落ち着いた声で「そんなことないですよ(キリッ)」と返せてた俺がこんなことをするなんて……。ちなみにエルというのはネット上で使っている俺の名前だ。

「え、誰?って湊?」

「何で俺の名前を……?」

ていうか、俺の部屋の前に居たし、俺に用事がある人だったのか?

「やっぱり、湊だよね。私だよ私!リアだよ。」

リア……?リアってもしかしてあのリアか?小さい時凄く仲良かった女の子だ。俺とリアと春っていう3人組でよく遊んでいたんだ。

確かに銀髪で赤い目をしていた気もする。昔過ぎて詳しくは覚えてないが、仲はよかった。俺とリアと春。

「リアってあのリアなのか?本当か?っていうか何でここに?」

「本当にそのリアだよー。何でって湊に会いに来たんじゃん。」

俺に会いに来ただって?

「急にどうしたんだ?っていうかここの場所良く分かったな?」

「君のお母さんに聞いた。湊の家に行ったら一人暮らししてるって。びっくりしちゃった。」

家か。実家はここから遠くはないし、リアも昔来ていたことがある。覚えていても不思議ではないが、よく覚えていたな。

母親を恐らくリアの事なら覚えてたんだろう。見た目も独特だし、可愛いしな。

「家に来ていたのか……。それは悪いことしたな。会いに来たって急にどうしたんだ。」

正直混乱していた。リアは小さい時家族の都合で引越していってそれ以降会っていなかったし、音沙汰無しだった。何度か会いに行こうとか、連絡を取ってみようとしたけど、当時小さかった俺にはその方法が全然分からなくて、諦めていた。

久々に会えたのは当然嬉しい事なんだけど、驚きが勝っている。まさか、また会えるなんてな。会おうと思ってる時はあえず、意外と何でもない時に出会えたりするもんだ。

「ねえ。私の事助けれくれないかな?私あんまり時間がないの。お願い!」

急に来て助けてだって?!俺は今から何か危ない事をさせられてしまうのか……?

「え、え?!助けてってどういうこと……?勿論俺に出来る事ならしてあげるけど……。」

でも、困ってるなら助けない訳にはいかない。危なかったとしても、困ってる人は放っておけない。目の前に助けられるかもしれない可能性があるんだから。

「ほんと?今助けてくれるって言ったよね?言質とったからね?もう逃げられないよ?やったー!」

もしかして、放っておいた方がよかったか?何だかその言い方は怖いぞ。もう、逃げられなくなってしまったのか。それでも、男に二言はない。出来るだけの事はしてみよう。犯罪以外なら。

「え、うん……。出来る事なら勿論するけど……。助けてって具体的に何をすればいいの……?」

「家を出てきたからしばらく泊めて欲しいの!他に頼るところもないからお願いっ!」

「家に泊める?!それはちょっと問題があるんじゃない……?」

「えー?さっき何でも言う事聞いてくれるって言ったじゃない。湊は嘘つきなの?私嘘つきはあんまり好きじゃないわ。」

「ええ……。」

無茶苦茶言うじゃん。急に家に来た人を泊めるのって凄い勇気いるくない?勇気っていうか本当に泊めても問題とかにならないんだろうか?

しかも女の子だし。リアは逆に平気なのかな?泊まりにきたんなら予め覚悟はあったんだろうけどさ。

「うーん……。」

「お願いっ!このとーり!」

凄く深々と頭を下げている。そこまでしなくても……。そこまでして泊まりたい理由ってなんなんだ……?

「わかった。とりあず今のところは泊めてあげることにするけど……。」

「やったーっ!湊ならそう言ってくれると思ってたわ。よかったよかった。どうなることかと思ったわよ。」

「いや、それ俺のセリフ……。いったいどうなるんだよ……。」

急展開過ぎて付いていけない……。休みたい……。

「と、とりあえずこんな所で居るのもなんだから、家入るか?」

「そうね。家に入れてくれるなら何も言わないわ。」

ガチャ……。部屋とか掃除してたっけな……。片付けとか何もしてなかった気がする。そんな散らかってはないと思うけど、女の子を家に入れるって緊張するな。小さい時だったらまだしも、この年齢になってからだと覚悟がいるよな。相手にそんな気がなくても俺は持ってしまうしな。

相手がもし、そういう気があるなら俺が持たないのも失礼かもしれないし。でも、分からないよ。

部屋に入ると漫画やらアニメ、ゲーム、グッズなどに興味津々だった。こういうのに興味あるのかな。そういうのが好きなのなら、俺は嬉しい。

同じ趣味の話を出来る事は嬉しいし、仲いい人が好きだと尚更嬉しい。こっちからどんどんお勧めしたりするべきなのかな?難しいな。

「はい。これ。とりあえずお茶でいいよね。他にないけど。」

「エッチな本とかゲームとかあるの?」

「ぶっ!!!」

飲んでいたお茶を盛大に吹いてしまった。

「ちょっと湊、お茶を急に吹いたら汚いよ。」

「ごめんごめん。急にびっくりする質問がきたから。聞き間違いだったかな。何て言ったっけ?」

「エッチな本とかゲームとかないの?年頃の男の子ってそういうのに興味があると思ってたんだけど。」

俺も年頃の男だ。あるに決まっている。ただ、こういう場合どう答えるのが適切なんだろう。まだ、大学の女友達とかに聞かれているなら平常心を保てたかもしれない。

上手く対応できていたかもしれない。ただ、懐かしの幼馴染となると戸惑ってしまう。自分の気持ちの中でお互いあの頃で止まっているからだ。

純粋な子供のころで止まっているからだ。それが急にエッチな話なんてどうしたらいいんだろう。ないって言ってもばれないかな……。

普通の人なら「ない。」といっても疑ってくる。それでもリアなら純粋なあの頃のリアのままなら俺を信じてくれるんではないだろうか……。

実際にはそういうグッズ、フィギア、漫画、アニメ、ゲーム、どれもある。ただ、女の子と二人っきりの部屋でそういうもの持っていると発言してしまうと引かれてしまう気がする。

ていうかアニメとか漫画に興味があると思っていたが、そっちが目当てだったのか……? 

「な、ないよ。」

どうだろう。自然に言えただろうか。気づかれてないだろうか。今日もクールにキめれているだろうか。やっぱりこういう所で自然にそういう事に興味がないよって言える男がモテるんだろうか。

それともイケメンの場合逆にそういうことに興味があるアピールをして女をかっぱらっていくのだろうか。難しい。

「男の子ってそういうの皆好きなのかと思ってた。湊は大人だね~。ん?これは何々……。」

「あっ、それは……。」

見られてしまった。俺のエロ本。部屋の片隅に段ボールに入れて置いてたんだが見つかってしまった。恥ずかしい。

「スバルのえっち。やっぱりこういうの持ってるんだね~。隠さなくてもいいのに。でも、よかった。」

「あはは……。ごめん。結構持ってたりする。いや、よかったってどういうこと?」

「ちゃんと男の子で良かったって思って。同性愛者とかだったらどうしようって思ってたの。それならそれで応援はするけどね。」

「それは大丈夫。女の子が好きです。えっちなこともすきです。興味あります。」

この際あらいざらい吐いてっしまった。

「そっかそっかー。それは良かった。健全な男の子って感じがしてその方がいいわよ。」

「まあ、健全な男の子ではあるかな……。」

「うんうん。」

リアはやけに頷いていた。何を考えているんだろう……。

「そういえば、春にも会いたいわね。春がどこにいるか知ってる?」

「春か?春とはしばらく会ってないな。小学校の時俺たち凄く仲良かったじゃん?ただ、リアが居なくったり、学年が上がったりして、中学校も別だったし関わりなくなっちゃんたんだよ。そもそも小学校も別だったからな。仲良かったのが不思議だったぐらいだけど。

偶然出会って偶然仲良くなったんだよな俺たち。」

「そうね。出会ったのは偶然だったと思うわ。でも、仲良くなったのは必然よ。」

「え、どういうこと?」

「その内わかるわよ。ふふ。」

必然……?正直意味がわからん。リアは何か知ってるんだろうか……?小さい時から不思議な女のこではあったが。

「春に会いたいわ。湊、春を探すわよ!」

「お、おう……。急に会いに行っても春はびっくりするんじゃないか?」

「びっくりさせるのよ!驚いてもらわないと驚かせ涯がないわ!それに、春も会いたいと思うわ。湊と私に。」

「驚かせに行くのかよ……。春ごめんな……。それに俺たちに会いたいって?」

「湊も春に会いたいでしょ?」

「まあ、そうだな。リアとも出会えたんだし、どうせなら3人でまた会ってみたい気持ちはある。」

「そういうことよ。私たちが会いたがってるんだもの。春も私たちに会いたがってるに決まってるわ。春を探すわよ!」

凄い強引な考え方だな。リアは相変わらず昔と変わってないな。そういう前向きな考え方に俺たちは引っ張られてきた。憧れてる部分だ。

「わかったわかった。」

こうして春探しが始まった。

さて、どうやって春を探したものか。小中同じ学校だったやつらに連絡を取るのが一番早そうだが、なんにしろ友達が多くない。

仲良くなったりする友達は結構いたんだが、しばらく遊ばなくなるとどう接すればいいかわからなくなってしまう。相手も自分に戸惑ってるように感じる。

しばらくあってない友達に「よっ久しぶり!今何してる?」なんてとても言えない。その後なんて会話を続けたらいいんだ……。

リアとかならそういうの遠慮なしに行けそうだな。自然と話せてそう。何が違うんだろうな。雰囲気か?俺ももっと気楽な雰囲気を作り出したほうがいいんだろうか?……。無理だな。

「どうしようね~湊。そうだ、湊の友達に春の居場所しってそうな人いないの?」

「それが居たら一番手っ取り早いんだが……。思い浮かばないな。そもそも学校が一緒だったことがないからな……。昔知り合いだった全員に声を掛ければどこかで辿り着けるかもしれないけど、正直無理があると思う……。それか、母親とかか?正直可能性は薄いからやるとしたら本当に最後の手段だな……。」

春以外の同じ小中学校一緒だった奴に連絡取ることすら正直難しいしな。それが春ってなるともっと難しくなる。何かいい方法があればな。

\偶然出会えるなんてことがあればラッキーだが、まさかな。

「そう……、わかったわ。地道に探すしかないわね。」

「そうだな。何か手掛かりがあればとっつきやすいけどな……。」

グー……。とんでもない音量で腹の音が鳴っている。リアの。

「あはは……何も食べてないのよね。お腹空いたわ……。」

偶然の出来事でパニック状態になっていたけど、冷静に考えると俺もお腹空いてきたな。そういえば朝からあんまりご飯食べてなかったな。

「時間も時間だしな。何か食べるか。何か食べたい物とかあるか?外食でもいいぞ。」

「喫茶店に行きたいわ。ちょっと洒落てるような。」

洒落てるような喫茶店?!俺にそんなとこ知ってると思ってるのか?!おいおい。ハードル高いぜ。リアなら確かに好きそうだけど、俺にはちょっと難しいな。そもそも近くにあるのかな?多分あるんだろうな。俺が興味なくて行かないだけで……。

「え、喫茶店か……。あんまり行ったことないし詳しくないぞ。」

「それなら近所にある所で良いわよ。来る途中道に迷ってたら見つけたの。あそこに行ってみたいわ。」

近所の喫茶店?あるにはあったのかもしれないけど、俺の頭の中にはなかったな。

「近所に喫茶店なんてあったのか?全然知らなかったわ。喫茶店って何か緊張するな……。」

「なんで?」

「喫茶店っていった事の無い人間からすると凄くハードル高く感じないか?ご飯食べに行くような場所とはちょっと違うじゃん。

所謂ファミレスとかみたいな。軽食?ってイメージだ。俺みたいなやつは行かないからな……。」

「私がいるから大丈夫よ。湊は何も気にしなくていいわ。」

「リアが居たら確かにちょっとましかもな……。一人だと絶対に行かないし、この機会に喫茶店デビューしてみるか。」

「ええ。何事も経験よ湊。」

「確かにそうだな。」

もし、気に入ることあればこれから通えるし、段々興味が出てきた。美味しいところだといいな。

「よし、いくぞ!」

「急に元気になったわね。よし、ゴー!」

二人で勢いよく家を出ていった。二人共腹ペコだったからな。でも、リアはすぐに疲れてダッシュしていたのもつかの間だった。

「こっちよ。そこを曲がって、はい、ここ!」

近所だけど全然来たことのない道だった。こんな所に道が……。それに店なんてあったのか。よくリアは見つけたな。

個人で経営してるような店だった。個人で経営してる喫茶店に通うってなんだか渋いよな。憧れる。

通ってみようかな。マスターとかが凄い渋い人のイメージだ。それでかっこいいんだ……。

通ってマスターと仲良くなったりしちゃってな。それで相談事なんかしてみるんだ。凄い大人っぽい。

喫茶店のマスターと仲いいって凄いかっこいい響きだ。自慢できるかもしれない。

「おぉ~こんな所に喫茶店があったのか。本当に知らなかったな~。店の名前は…chatシャ errantエラント

洒落た名前してんな~。どういう意味だ?」

「迷い猫とかそんなとこよ。」

「良く知ってるな。

「昔聞いたことあるわ。あまり記憶には残ってないけれど。」

「これって何語?」

「フランス語よ。多分。」

物知り博士だった。物知りな人が身近にいると凄い便利なんだよな。質問に毎回答えてくれて、知らないことを教えてくれる。凄い楽しい。ワクワクする。

「よし入ってみるか!」

「ええ。そうね。早速はいりましょう!」

「知らない店って初めて入るとき緊張するんだよな。」

入る前に気合を入れていたらリアはさっさとドアを開けて入っていった。大胆だな……。確かにリアは人見知りとかそういうのしなさそうだ。羨ましい。俺が気にしすぎなだけなんだろうか。

「いらっしゃいませ~。」

うぉ……。ウェイターさんのレベル高え~。凄い可愛い。毎日通おうかな。金髪セミロングのウェイターさん。身長は小さく胸はそこそこ。正直タイプだ。リアも相当可愛いが並ぶレベルだな。

「何名様でしょうか~?えっ……。」

ガシャーン。ウェイターの人が持っていたティーカップを落として割ってしまった。え、俺たち何か悪い事してしまったんだろうか。ドキドキしてきた。

何か入るときにルールがあったのだろうか。俺たちはそんなに驚く姿をしていたんだろうか。俺の顔が悪すぎたか?

「リア…?それにもしかして、湊……?」

「え、春じゃない?もしかしなくても春だよね?私の目に狂いはないはず!春を見間違えるはずないもん!」

春……?俺の中の春は男なんだが。どういうことだ?確かに当時から可愛らしい顔つきだったが、俺の記憶では男だ。

「リア。違うぞ。春は男だっただろ。すいません、こいつが勘違いして。」

「湊、春は女の子よ。」

え……?俺は何か勘違いしてるのか?話してる人物を間違えていたのだろうか。いや、でも春の話をしていたしな……。春が女の子……?

「湊が当時勘違いしていただけよ。春は元々女の子だよ。私、昔聞いたもん。私は昔会った時から女の子だと思っていたけど、湊が男扱いしてるから私の勘違いかなって思もって聞いたの。そしたら女の子って教えてくれたよ。」

衝撃の事実だ。可愛いらしい顔つきが女だったからなのか?それに、女の子だとしたら俺色んなことにつき合わせてしまっていたぞ……。

危ない遊びとか色々危険な事とか男がやるような遊びに付き合わせていた気がする。よく俺に合わせてくれてたな……。

「ほ、本当に春なのか?リアの勘違いじゃなくて?」

顔をよく見てたら確かに春の面影がある。段々とそんな気がしてくる。でも……、信じられないぞ。

「久しぶりだね、リアに湊。そうだよ。春だよ。」

マジか……。マジで言ってるのか?俺はとんでもない勘違いをしていたのか……。

「やっぱり~!春~~~。会いたかったよ~!!!」

凄い勢いでリアが春に抱き着いていった。羨ましい。これが、百合なのか。リアルで初めて見た。中々に良いものだ。

「ちょっと近づきすぎだってばリア。」

「そんなこと言わないでよ~。すりすり~。」

「くすぐったいってば。」

「ちゅー!」

「ちょっと!」

春は声はでかいものの、本気で嫌がってるわけではなさそうだった。春もリアと出会えて嬉しいなら本当に良かった。それに越した事はない。

「ねえー春ー!会いたかったわー!まさか、こんなとこで会えるなんてー!今日は運が良い日だわ!」

リアのスキンシップは凄いな……。女の子同士っていいな。二人共可愛いし、ジロジロと見てしまう。そっか……。春は本当に女の子だったんだな……。あまり実感が湧かないけど……。

「それとごめんね、湊。隠してて。実は女だったんだ……。」

「そうだったのか……。」

上手く言葉が出てこない。ど、どう反応すればいいんだ。こういう場合普通どういう反応なんだ。「そうなんだ。」だけではあまりにも軽いというか素っ気なさすぎる。

何か繋げないと……。こういう重そうな話題の時何て言えば……。

「す、す、す……」

「す?」

「凄い可愛くなったな!!!」

勢いで取り合えず褒めてみた。昔見た雑誌で書いてあった気がする。女は取り合えず褒めておけばよいと。物凄くどもってしまった。あまりにも言い慣れてないセリフだった。

「良かったわね~春。願いが叶ったわね!」

「願い……?」

「湊は知らなくていい!」

春がリアの頭を叩いてリアは少し痛がっていた。良く分からなかったが、とりあえず俺の言葉は悪くはなかったみたいだ。良かった。実際に春は可愛かった。

元々男だと思っていたのもあるのかもしれないけど、女の子として本当に可愛いって思えるレベルだ。お世辞じゃない。本心だ。だからこそ、緊張もしてしまうが……。

「それにしても、本当に春なのか……。な、何か勘違いしてたみたいで悪かったな……。」

「昔の事だし、気にしなくていいよ。そんなこと。」

「昔の事っちゃ昔かもしれないけど……それでも……。」

そんなことって言われてもな。俺にとっては結構衝撃的な出来事だぞ。男友達だと思ってた奴が可愛い女の子になってたなんてな。普通あり得ないし、それに昔の事思いだすと申し訳ない気持ちが……。

「僕にだって責任はあるし、湊が誤解してることも知ってたから。一人称も僕だしね。しょうがないと思うよ。」

「そう言ってくれたら少しは気が楽だが。そうだ!せっかく会ったんだし何かさせてくれよ!何かしてほしいこととかないか?!」

「え……してほしい事?と、とりあえず……」

「とりあえず?」

「とりあえず、席に案内するね。マスター、2名様です。」

マスターが奥で「はいよー。」と言っている。女性の声だった。勝手に渋いダンディーなおじさんかと思っていた。

何て言うか美人なマスターだった。これが都会なのか……。マスターは気にしてなさそうだったけど、入り口で話すぎたかな。

リアはなんだか物凄く上機嫌だった。確かにこうして3人で会えた。奇跡だ。

俺は俺で嬉しい。ただ、戸惑ってもいる。頭が追い付いていない。春が実は女だったなんて。

それに、凄く可愛かった。雰囲気は違うものの春って感じが残っていた。喋り方、仕草、昔の春を髣髴とさせるように。

男だと思っていた旧友が実は女でとてつもなく可愛い、これは運が良いといえるのだろうか?可愛い女の子は友達に何人いても困らない。

男だったら男のままで勿論よかったが、再開できたのは本当に良かった。間違いなく運がいい な!

今日一日で昔会えなくなった友達二人に会えるなんて、凄い日だ。

時間的に客数が俺たちしかいなかったため、3人で席に座り話すことになった。

「それにしても、凄い奇遇だわね~。」

リアが改まった場で第一声を発した。

「確かに二人とこうやってまた出会えると思ってなかった。」

「二人?リアと湊も久しぶりだったんだ?」

「ええ~。そうなのよ~。湊に会いに行ったら春とも会えるかなって思ってたんだけど、湊ったら春の居場所知らないって言うからびっくりしちゃった。本当にどうしようかって。」

「あはは……。リアが居なくなったのと、学年が上がったりしていくにつれて自然消滅みたいな感じだったよね。」

「そうだな……。」

ちょっと気まずい空気が流れてる。どうしよう……。何か俺から一言言わないとな……。

「悪い!それと、性別勘違いしてて本当に悪かったな。」

とりあえず最初に潔く謝っておいた。こういうのは勢いで最初の方に謝っておいた方が後々気まずくならなくて済む。気にしすぎて後々ギスギスする方が嫌だった。

「それに関しても、本当に気にしなくていいから。本当は女だったって事にしてくれたらいいから。」

本当にあまり気にしてなさそうだった。さばさばしている。向こうが気にしてないなら俺も必要以上に気を遣うのはやめよう。

気になる事ではあるが、久々の再開だ。色々な話をしたい。気になることはいくらでもある。

「せっかく再開したんだし、まあ明るくいこうか?話したいことはいくらでもある。」

「それは、そうかもしれないわね。私も気になることだらけよ。」

「僕も気になることだらけだよ。」

「じゃあその話しようぜ。」

何とか上手く話題を作れた。

「私、まず春と湊が疎遠になっていたこと自体に驚いてるわよ。二人は何だかんだ恋人になるんだろうなって思ってたし。」

いきなりリアがぶっこんできた。

「いやいや、俺はまず春の事男だと思ってたしな。付き合うとかどうとか以前だったぞ。当時は。」

「そこよ、そこ。私も湊が誤解してることは知っていたわ。」

リアも知っていたのか。俺だけが誤解していたらしい。

「私がいなくなった後、春が何も言わなくても春の成長を見て、最悪湊が気づくのかなって思ってたの。」

まぁ、確かに誤解していても成長していくにつれ身体が発達していく。胸の膨らみとか見ていたら気づいたかもしれない。それにしても、本当に女なんだな。

「湊。視線が胸にいきまくりよ。」

やばい、胸を見すぎていた。これは流石に引かれたかもしれない。童貞オーラ丸出しだ。

「あんまり見られると流石に恥ずかしいよ……。」

「ごめんごめん。つい、気になってしまって。」

引かれてはなかった。

「女の子っぽくなれたかな?」

「めちゃくちゃ女の子っぽいぞ。ていうか女の子だろ。可愛いぞ。」

「えへへ……。嬉しいな。」

こんなに可愛い女の子なんて少ないぞ。少し喜んでくれてたみたいだし、悪くない受け答えだったんじゃないか?

「春が優しくてよかったわねー湊。」

「あぁ。春は昔から優しかったな。いつも俺に合わせてくれて色々してくれてた。そういうのが嫌なわけではなかったのか?」

「それは、うん。嫌じゃなかったよ。全然。僕も楽しくてついていってたし。」

良かった。関わりがなくなったのも自然消滅みたいな感じだったから少しモヤモヤしてたんだ。何か明確な理由があって会わなくなったら、自分の中でけじめを付けることができたんだが、そうではなかったからな。

「当り前じゃない湊。そんなの春を見ていたら嫌がっているかどうかなんて一発だったわ。」

「そうなのか?」

「だって、春は湊の事好きだったじゃない。」

リアが喋っている途中に慌てて春がリアの口を塞ぐ。あまりうまく聞き取れなかった。

「え?なんて言ったんだ?」

「大丈夫大丈夫。大したこと言ってないから。リアの言ったことは気にしないで。」

「気にしないも何も聞き取れなかったが……。」

何だったんだろう。何をそんなに慌てているんだ。

「まあ!それは置いといて!」

急に春が大きな声を出した。

「急に仕切りだしたわ。」

春がリアのほっぺたをつねっていた。

「本当に嫌じゃなかったし、3人で遊んだりするのも凄く楽しかったよ。ずっと遊んでいたかったぐらい。」

「それには、同感ね。いなくなっちゃった私が言うのもなんだけど、楽しかったわ。こうやってまた会いに来ちゃうぐらいには二人の事好きだったし。」

「それについて一つ疑問に思ったんだけど、リアと湊はどうしたの?」

「俺も何て言ったらいいか分かんないが、家に帰ったら家の前にリアが居た。」

「え?!」

「そうよ。二人に会いに来たくて生きたのよ。」

「相変わらずリアは凄い行動力だね……。」

春はリアの行動力にちょっと引いていた。確かにリアはやりたいと思ったことはすぐにするタイプ。そういう部分は憧れる。やりたい事をやってる人ってやっぱり素敵だ。

「ねえ春?やっぱりこの喫茶店に来て間違いなかったわね。春に会えたし!」

「あはは……。確かに会えたのは本当に嬉しいよ。」

「リアはすげえな。ただの気まぐれで喫茶店に来ただけだと思ってたんだが、まさか春の場所に来てしまうとわな。」

なんて豪運の持ち主なんだ。これも、リアが言っていた偶然じゃなく必然だったりするのだろうか?それはないか。ただ、偶然すぎてもしかして三人また出会えたこと自体必然の出来事だったのではないかと思えてしまう。

「湊って大学生だよね?どこの大学行ってるの?」

「夏目大学だよ。その心理学科だ。」

「え?!夏目大学?!一緒じゃん!」

改めて思ったら春も大学生か。それに一緒の大学。2年目で気づく衝撃の事実。

「まじで?学科が違うからかな。見かけた事なかったな。」

「僕も湊を見かけた記憶がないから多分出会わなかったんだろうね。それにしても、同じ大学だったんだ……。えへへ。」

「二人共同じ学校なんて奇跡ね!豪運だわ!」

「そういえば俺たち見てすぐ気づいたのか?」

「すぐ気づいた。リアは見た目が特徴的だし、春も見たらすぐわかったよ。二人一緒にいたら尚更わかったよ。凄いびっくりしちゃったけど。」

確かにリアは見た目が特徴的だ。綺麗だし銀髪だし一度みたら忘れないかもしれない。出会ったとき最初は気づかなかったけど。俺のことも覚えてくれてたんだな。なんだか暖かい気持ちになった。

「大学でも、もしかしたらすれ違ってたかもしれないな!気づかないだけで。」

「それはない!」

春が形相を変えて大きな声を出した。とてもびっくりした……。何の気なしに発した一言だっただけに衝撃が走った。

「僕が湊に気づかないはずはないよ。ほんとに会ってなかっただけだと思う。僕のこの見た目にも見覚えないでしょ?」

確かにこんな可愛い子とすれ違っていたら今日会った時に気づいていた筈だ。言われてみれば納得。

「湊は春を舐め過ぎよ。気づかないはずないわよ。」

俺はそんなに見た目が変わってないのだろうか。成長してないかな……。気づいてもらえると嬉しい反面悲しい想像をしてしまうな。流行りのネガティブ思考なのだろうか。

「確かに春の言ってることが正しいかもしれないな。俺もこんだけ可愛い子見てたら覚えてるはずだ。」

「春っ?!流石にお世辞だとしても照れちゃうよ。」

「いやいや、本当に可愛いぞ。なかなかこんだけ可愛い子いないぞ。」

「えへへ……。ありがとう……。は、春もカッコよくなったね!」

「そ、そうか……?照れるな……。」

女の子にかっこよくなったねって言われるとこんなに嬉しいのか!お世辞でも嬉しい。褒められるってこんなに嬉しい事なんだな。普段褒められないから特別嬉しく感じるな。

「ちょっとちょっと、二人でイチャつかないでよ~。私も混ぜて~。ねえねえ、私は可愛くなった?」

「リアは昔から女って知ってたからあれだが、リアもめちゃくちゃ可愛いぞ。」

「確かにリアは昔っから可愛かったからね~。今は昔と違って大人っぽくなったね~。凄い成長の差を感じる……。」

確かにリアは何というか凄い成長していた。胸が。春も特別小さいわけではないけど、リアは大きい!って感じだ。

「えへへ~ありがと~。それはそうと、胸見過ぎよ湊。」

またやってしまった。とても気になってしまう。

「ごめんごめん。つい……。」

「湊がえっちなのは知ってるから、まぁいいけどね~。」

「湊がえっちってどういうこと?何かされたの?湊っ?!」

春がまた形相を変えてこっちを見ている。何もしていないのに……。冤罪ってこういう気持ちなのか?

「いや、何もしてないぞ!何もしてない!何かできるならしたいぐらいだが何もしてないぞ!」

必死に何もしてないアピール。

「湊の部屋に言ったらえっちな物がいっぱいあってね~。」

「それぐらいは年頃の男の子だし持ってるんじゃない?」

「春ったら考え方が大人ね~。私もそう思って湊にえっちなもの持ってる?って聞いたら最初ないって答えたのにあったのよ。」

「それは仕方ないんじゃない?やっぱ、女の子にそういう事聞かれると「ない!」って答えたくなるのが男心なんじゃないのかな。」

「春は何でも知ってるわね。」

恥ずかしい。恥ずかしい。顔から火が出そうだ。俺が悪いのだがかっこつけて失敗したことをばらされるのは物凄く恥ずかしい。しかも女の子相手に。

「それにしても、まさか同じ大学とはな。驚きだ。でも、学部とかが違うとなかなか会ったりしないもんな~。」

「そうだね~。正直びっくりだよ。まさか、湊と同じ大学に行けるなんて。」

春は何か知らんが、もじもじしていた。どうしたんだろう。

「そういえば、二人共連絡先交換しといたら?」

「そうだな。このLIMEでこのIDに送ってくれ。」

「分かった。」

「科学の進歩ね。電話番号を交換するのかと思っていたらまったく知らないものが出てきたわ。」

リアは物凄く驚いていた。確かに電話しか知らない人からしたらとてつもない進化かもしれない。こっちの世界のことをあまり知らないのだろうか?上手くカバーしてやらんとな。

「リアは?交換してくれないの?」

しまった。リアは異界にいたからこういうのは何ももってないんだろう。今どきスマホを持ってないなんて中々ないからどう言い訳しよう。

「持ってないの。今度買ってみようかしら。」

「持ってないの?!今どき珍しいね~。機会があったら一緒に買いにいこーよ。リアとも連絡とったりしたいしさ。」

「ありがと春~。大好き~。」

「ちょっとくっつきすぎだってば。」

百合っていいな。もっとやってくれ。俺は介入しないから!百合に男が入っていくのは許せん。

「でもリアと連絡とるときどうしたらいいんだろう。」

「それなら、湊に連絡してくれれば一発よ。いつでも春のためなら準備できてるわ。」

「どういうこと……?」

しまった、話題がまずい方向に。ど、どうしよう。

「私これから湊の部屋にお世話になるの。だから湊に連絡してくれたら無問題よ!」

「湊~っ?!どういうこと?え?!二人は今日会ってもうそういう関係になってたの?!」

「違う違う違う。誤解だ。」

「湊ったらっそんなに否定しなくてもいいじゃない。さっき泊めてくれるって言ったじゃない。」

「それはそうなんだが……。そういうことじゃなくてだな。」

「許可したってどういうこと~~~?!」

ヒートアップして収集付かなくなってきた。リアはまったく気にしてないようだし、どう説明したらいいのやら……。上手くリアが家に泊まる言い訳を考えなければ……。

「その~だな……。リ、リアの親御さんに頼まれてだな!ちょっと訳ありなんだ!やましいことはない!」

「親後さんに頼まれたのならしかたないのかもしれないけど……。むぅ~。いいな。」

何となく納得してくれたらしい。最後なんか小声で呟いてたが。

「まぁ、そんなところね。」

何故か自信気なリア。どこからその自信は来るんだ。

「そうだ!春も泊まりにくれば?3人いたら楽しいわよ!きっと!」

「え。」

「行ってみたいけど、湊の迷惑になりそうだしやめとくよ。」

「湊~迷惑なの~?」

正直三人は楽しそうだけど家に女の子二人何て凄い緊張してしまうな。ど、どうしよう……。俺がイケメンなら即答でOKなのだろうか。

「お、俺は迷惑じゃないぞ!春さえよければいつでも来てくれ!春さえよければな!」

 とりあえず、相手に任せる作戦でいこう。こう言っとけば大体向こうが断るだろう。春には少し申し訳ない事をしたが。

「え……ほんと?」

 あ、あれ。思ってた反応と違う。あれ……。

「今日はまだバイトもあるし、今度の休みの日泊まりにいこっかな……。リアとも話したいし。」

「そうしようそうしよう~!私も春と話したいわ~!」

どうやら泊まることで話が進んでしまいそうだ……。一人も二人も変わらないか!ずっしり腰を低く構えてドンと行こう。

「それはそうと、二人共何か頼まないの?」

「そういえばそうだな。話に夢中で忘れてた。腹減ったから喫茶店に来たのに。何にしようかな。」

 完全に目的を忘れてた。ただただ、喫茶店に来て話し込んでただけだった。マスターの方をそっと見てみるとまったく気にしてはなさそうだった。

「私オムライスが食べたいわ。これってケチャップで文字を書いてくれるやつでしょ?何か知ってるわ!」

 あーいうのって普通の喫茶店でもやっているのか?メイド喫茶特有の文化かと思ってたが……。

「本来そーいうのはやってないけど、簡単な文字だったら書いてあげるよ。」

 特別待遇だ。リア様様だ。

「マジ?!じゃあ俺もオムライスにしようかな~。」

「湊が言ってるとちょっと引く。」

「え?!やってくれないのか……。」

「いや、そんなに落ち込まないでよ。書く書く。ごめんごめんってば。僕が悪かったから!書く文字は指定しないでね。難しいことはできないから。」

 よかった。引かれて落ち込んだが一度ぐらい体験してみたかった。本場のやつとは違うだろうが、オムライスを作ってケチャップで字を書いてもらうのってなんだかんだ、男の夢だ。

「飲物は?」

「俺アイスカフェオレで頼む。」

「私も~。」

「かしこまりました~。アイスカフェオレ2個とオムライス2個~。」

 自分で言いながら自分で用意してる。どういうプレイなんだろう。もう一人の自分に言っていたんだろうか。マスターは何もしてねえ。どういう店なんだ……。

「それにしても、この喫茶店に入って正解だったわね!春に会えたんだもの。」

「リアに付いて来て正解だったな。俺一人なら絶対にこんな洒落た所来ねえからな。二度と会うことがなかったかもしれん。」

 春を探すのには時間が掛かると思ってたからな。思いがけない幸運だ。リアは本当に凄い。

「どうどう?春可愛いわよね?」

「ん?確かに可愛いと思うぞ。中々いないレベルだ。」

「えへへ~。嬉しい~。」

「何でお前が喜んでんだ?」

「秘密~。」

 どういうことだ。まぁ、実際可愛い。二人共可愛い。こんな二人と友達って凄い幸せ者なんじゃないか?!

「はい、お待たせ~当店特別のオムライスととっても美味しいカフェオレだよ~。」

 お、来たか。ちょっと楽しみだ。喫茶店のご飯って美味しそうなイメージがある。できる事なら通いたいしな。春にも会えるなら会いたいし。

「そのセリフ皆に言ってるのか?」

ちょっと疑問だった。あれか?可愛い子がああいうセリフを言うのが売りなのだろうか。

「言うわけないじゃん。ノリだよノリ。」

 即答だった。でも一安心。

「っていうか、お前も食べるんだな。」

「いいでしょ別に~。他に客もいないんだから。流石に普段からこんなことはしてないよ。特別なの特別。」

 喫茶店にもやっぱり人が多い時間と少ない時間があるんだろう。他の席には誰もいなかった。

さてさて、オムライスには何て書いてあるんだろう。わくわく。

 何っ……?!これは……。オムライスにケチャップで「オムライス」と書かれている。こいつは自分がオムライスって認めてもらえなかった何かなのか?

 自分で自分の事をオムライスって主張するオムライス何か哀れだ。考え方の問題か?!名札か!名札だと思えばわからなくもない。俺たちだって小さい時していたし。大人だって社員証とか言って書いてあるもんだからな。オムライス、お前は哀れなんかじゃないぞ!立派に自分を持っているんだ。頑張れ!

「このオムライスちょっとユーモアがあるな。」

「でしょでしょ~。オムライスにオムライスって書いてあるのちょっとおもしろくない?」

 春はちょっと自信ありげだった。確かに俺もいろんな突っ込みを頭の中で考えてしまった。ちょっと面白い。スプーン一杯ぐらいの面白さ。

「な、面白いよな。リア。」

 リアのほうは、まじまじとオムライスを見ていた。何か思っていたのと違ってショックを受けていたようだ。お前の気持ち少しだけはわかってやれるぞ!

「私は「大好き!」とか書いてあったらよかったな~。ちょっと期待してたのにオムライスって……。へへへ。」

 なんだかんだ少し笑ってた。よかったよかった。

「流石にそんな事書くの恥ずかしすぎるよ。いくらなんでも。流石にね……。」

 そりゃそうだろうな。普段書いてるならまだしも、特に知り合い相手なんて恥ずかしそうだ。

「それにしても、オムライス美味しいな。なんか食べたことあるやつと全然違うぞ。半熟の具合ととろっとろの感じと、チキンライス!美味しすぎるぞ!」

「確かに美味しい!これは店に出来るレベルだわ!」

「店で出してるもんだからね。」

 春が小声で突っ込んでいた。

 確かにかなりレベルが高かった。あまりオムライスを食べたことがないが通って食べたいなって重されるほどだった。家ではまねできないなこれ。




「毎日これ食べたいわ~。ねえ、湊。毎日着ましょうよここ。お願い~。」

「確かに美味いし通いたい気持ちはあるけどな、これ二人前となると金が……。」

「今日は3人前お願いね。」

「えっ?!お前の分も俺が払うのかよ!まあ……春の分ならしょうがないか。こうして再開できたんだし。」

「嘘だよ嘘。じょーだんだから。今日は全部払わなくていいよ。僕が出しとく。次からはこういうことしないけど。今迄の僕の詫びも含めて今日は僕が出しとくから。」

 ちょっと安心した。正直一人分増えたぐらいじゃそんなに差はないが、これからの生活の事を考えると助かる。

「それはそれで、なんだか申し訳ない。わかった。また来た時注文してお金払うよ。」

 これからまた遊んだりできるだろうか。いつかこの借りは返さなければ。

「うん。お願いね。」

「何とかこれからもオムライス食べれそうね。」

 リアはオムライスを食べる事しか考えてなさそうだった。毎日は無理でもちょくちょくな。物凄い勢いでオムライスを平らげていた。もう無くなっていた。

「食べるの早いな。」

「お腹減ってたんだもん。それに、美味しいし。」

 それにしても、早すぎんだろ……。俺もさっさと食べるか。それにしても美味い。レシピを知ってるとはいえ、春はすげえな。

「春って料理上手なんだな。嫁として理想なんじゃないか?」

「えっ……!?こ、こんなの練習したら誰でもできるよ!急に変な事言わないでよ。びっくりするじゃん。」

「いやいや、相当だと思うぞ。練習してたとしても、センスとか相当あるんじゃないか?」

「もう、褒め過ぎだってば……。まぁ……そんなに言うならご飯作ってあげなくもないけど……?」

「おう。気に入ったからな。またここの店来るぞ。」

「湊のばかっ!!!」

 凄い怒鳴られてしまった。悪い事言ってしまったんだろうか……。普通に会話出来ていたと思っていたんだが。

「な、なんかごめん……。」

「湊は鈍感だからね~。鈍すぎ。まあ、私もここの店に連れてってもらえるならいっか。またオムライス食べたい~。」

 リアは相当気に入っていた。

「もう食べ終わったんなら帰ったら?」

 春は少し不機嫌なままだった。悪いことをしてしまったみたいだ。あまり長居しても店に迷惑だし、そろそろ帰るか。いつか春に何かしてやらんとな。

「悪かったな春。もし、俺にして欲しい事とかあったら何でも言ってくれ。喜んで引き受けるから。何でもいいぞ。迷惑かけっぱなしだしな。」

「何でも~?じゃあ……。また今度会った時にでもお願い聞いてもらおうかな。」

 少し微笑んでいた。どうやらご機嫌をとれたようだ。一安心。

「おう。何でも言ってくれ。そろそろ帰るわ。また暇なとき3人で遊んだりしようぜ。」

「また春と遊びたいわね。今度いつ暇なの~?遊ぼうよ~。」

「じゃあ……今度の土曜日遊ぶ?空いてるけど……。」

「今度の土曜日なら俺も大丈夫だし、そうするか。また連絡するよ。それじゃあな。」

「春ばいばい~。またね~。」

「二人共またね~。ありがとうございましたー。」

 そして店を去っていった。

 「それにしてもオムライス美味しかったね~。」

「ああ、美味しかった。オムライスなんて滅多に食わないからあんなに美味いもんなのかって正直驚いた。それに、カフェオレも俺好みの味だった。美味い。」

 俺は毎日一本ぐらいカフェオレを飲むぐらいにはカフェオレが好きだ。その俺が「これは美味い!」と素直に思えるほどだった。カフェオレって何故か昔から好きなんだよな~。

「美味しかったね~。また食べに行こうね~。」

「あぁ。春もいることだしな。あまり迷惑にならない程度に行こう。」

「そういえば、春の制服姿可愛かったね。もっと見てたかったわ。写真撮ってもらえばよかったかしら。」

「可愛かったな。」

 確かに可愛かった。あれが、春じゃなくても可愛いな~って思っていただろう。それとは別の気持ちもあった。男だと思っていた奴が実は女で、あんなに可愛いなんて。

 正直自分の頭で整理がついていない。っていうか、正直ドタイプだった。身長が低めで胸もそこそこ。髪も似合っていた。リアは、リアで昔と変わらず可愛いままだし、凄い成長してるし、ドキドキしてしまう。昔と同じような感じで接することが出来たらいいんだが。自然にいけるだろうか。

 「惚れた?」こちらをニヤニヤと見ながら質問してくる。こういう時どう答えるべきなんだ……。素直に答えるべきなのか、はぐらかすべきなのか……。ただ、正直な話まだ混乱していてわからないな。もう少し会う回数が増えたりするとそういう気持ちがわかってくるんだろうか。

「わからないな。正直可愛くて驚いたが、混乱の方が上だな。ぱにっくだ。不意打ちを食らった感じだ。」

「そっか~。」

 何故かちょっと残念そうだった。

「でも、これからよね。春ともこれからいっぱい会えるだろうし、又沢山遊んでるうちに色々変わっちゃうかもね。」

「そうだな。これから昔にみたいに三人で遊べるかもな。あいつにはあいつの予定とかあるだろうから、しょっちゅうは難しいかもしれないけどな。」

「それもそっか~。三人で暮らせたらいいのにね。」

「えっ?!どういう意味だ?!」

「そのままの意味よ。3人で暮らせたら楽しそうじゃない。嫌なこともすぐ忘れれそうで。」

 確かに楽しいは楽しいかもしれないが。色々な意味でだめなんじゃないか?俺からするととても嬉しいことではあるんだろうが……。想像してみたら、確かに悪くないが……。

 ただ、昔の状態での3人とは少し違うからな……。やっぱりまずいだろう。いい年した男女が三人で暮らすっていうのはちょっとどうなんだろう。

「それはちょっとだめだろ流石に。楽しそうは楽しそうな事なんだが、だめだ。」

「えぇ~なんでよ~。いいじゃない。ケチ。」

「ケチとかそういうことではなくてだな。ダメなもんはダメだ。」

 リアがしょげている。出来る事ならやってやりたいが、春にも春の人生があるわけだしな……。それに、ちょっと無茶苦茶な考え方だ。いつまでも子供のままじゃないんだぞ俺たち。

 そもそもこいつは俺の事とかどう思ってるんだろう。正直ただの幼馴染ぐらいでしか見てなさそうだが。

 さて、家に帰ってきた物のこれからどうするか。まだ夜の7時だ。普段ならアニメかゲームだ。人が居る場合ってどうしたらいいんだ。

 そんな経験あんまりないからどうしたらいいかわからん。それに相手は女の子だ。緊張する。リアはあんまり気にしてなさそうだが、立場的に俺から何か言った方がいいんだろうが……。

とりあえずあれやこれや考える前に聞いてみるか。

「暇だろ。何かするか?テレビかゲームぐらいしかないが。」

「何言ってるの。湊がいるじゃない。」

「えっ……。」

「湊が居たら私は退屈しないわよ。まあ、せっかくだからゲームでもしようかしら。何かおすすめのゲームある?」

「色々あるがリアがどうゆうやつが好きかにもよるしな。とりあえず面白そうなやつ何個か見せるからどれか選んでくれ。」

 最近流行ってるFPSのゲームからRPG、カードゲーム、色々な動画を見せてみた。

「どれか気になったやつあったか?」

「私これやってみたい!」

今流行りのバトロワか……。初心者でもまぁ何とか始めやすい部類か。味方もいるし最悪なんとかなりそうだな。RPGとかの方が興味あるかなって思ってたから意外だ。

まず、チュートリアルに沿って一通りの操作とかゲームのルールを教える。思いのほか呑み込みが早かった。

こういう時ゲーム歴が長い俺には何がわかって何がわからないのかわからんな……。難しそうな操作とかでも教えたらすぐに理解していた。

これはリアがただ上手いだけなのかこういうものなのかどっちなんだろう……。

「とりあえず、設定とか操作とかは大丈夫そうだな。一通りのルールはわかったな?最後まで生き残ったら勝ちだ。」

「大体わかったわ。あとはキャラクターによる能力とかの差がわからないぐらいね。」

「それはやらないとわからないかもな。マップも実際の場所と違うからやって覚えていけばいい。わからなかったら教えるから、何でも聞いてくれ。」

「わかったわ。このゲームについて詳しいのね。」

「ある程度な。」

結構やりこんでいただけあって、そこそこ知識と技術はある。人に教えたこともあるから教えるのもそんなに下手じゃないとは思うが……。

「後は一応味方もいるから余裕があれば位置だけ確認しておけばいい。とりあえず始めるか。」

マッチングボタンを押した。時間が時間なだけあってすぐに人が集まった。

「キャラクターは見た目好きそうなやつ選んでおけばいいよ。また教えるから。」

「わかったわ。」

ゲームのキャラクターって凄い個性が出るんだよな。女性だから可愛いキャラクターとか選ぶのかな~って思ってたらゴツイキャラクター好きだったり渋いおやじ好きだったりするんだよな。

ほう……。リンか。中々見る目あるのかもしれないな。今結構強いと言われているキャラクターだ。見た目も可愛い。

「そいつは最初から体力が他のキャラクターより多いだけだから、能力とかはあまり気にせずにいいぞ。」

「単純なキャラクターなのね。分かり易くていいわ。」

「それで、今からこのマップのどこかに降りるんだ。とりあえず、何かの建物目指して降りたいところに降りてみろ。」

「わかったわ。それじゃ、ここにしてみるわ。」

渋いな。中々いい場所に降りている。周りには敵がいなく、アイテムもそこそこある。最初に居ては中々いい選択だ。装備をある程度整えて戦う事ができそうだ。

ゲーム始めた時から敵が多すぎる所に降りたり、アイテムがないとことかに降りたりすると正直練習にもならないし、ゲームにもならないからな。

「後はさっき言った感じで敵が居たら銃を撃ったり囲まれないように気をつけてればいい。わからんことがあったら聞いてくれ。」

「わ、分かった……。」

凄い集中してる。あまり喋りかけないほうがいいだろう。後は後方腕組おじさんになって見守ってよう。

おっ、敵が居た。戦闘が起きそうだ。同じレベルの敵と合うようになってるから、めちゃくちゃ強い敵はいなさそうだが。

倒してる……。普通に思ってたより上手だ。初めてとは思えないな。センスを感じる。やってればすぐに上達しそうだな。

「回復したほうがいいぞ。そこのボタンを押せば回復できるから。」

「うん……。」

試合展開を見てる感じ一位取れそうな展開ではある。一位は難しくても上位には入れそうだ。初めてにしてはまずまずの結果残せそうだ。

あと4部隊だ。場所もいい。運が悪くなければこのまま行けそうだな。

おっ。甘えた相手を良いポジションから一方的に倒してる。残り一部隊だ。おっ、勝った。凄い。初めてでこれは凄いな。画面には一位の文字が。

「中々上手いな……。やるじゃん。」

「これ勝ったの……?」

「勝ったぞ。一位だ。初めてでこれは相当上手いぞ。センスあるな。楽しいか?」

「勝ったのね……。集中しすぎてて気づかなかったわ。そうね、正直わからない部分が多いけれど楽しいわ。興味が湧いたわ。」

「楽しいならよかった。ゲームは楽しんでなんぼだからな。もうちょっとやってみていい?」

「ああ。いいぞ。好きなだけやってくれ。それでわからんことがあったら聞いてくれ。」

しばらく後ろでやってる姿を眺めていた。

スマホなどを弄りながらリアのゲームプレイを見ていたら気づけば12時になっていた。リアは結構はまってるみたいだった。

「もう十二時だから俺はそろそろシャワー浴びて寝るけどリアはどうする?」

「もう少しやってていいかしら……?」

 相当はまってるみたいだった。始めたばかりだからやっぱずっとやってたいんだろな。気持ちは痛いほどわかる。楽しそうだし、特に問題ないだろう。

「ああ。いいぞ。気が済むまでやっててくれ。そういえば飲物とか飲みたかったら冷蔵庫から勝手にとってくれ。冷蔵庫とか家にあるものは適当に使ってかまわないから。」

「ありがとう。じゃ、遠慮なく。」

 リアはそう言って冷蔵庫からお茶を取り出してゲームを再開した。

 ふう……。シャワーは気持ちいいな。ぼーっとしながらシャワー浴びている時凄い好きなんだよな。シャワーを浴びてぼーっとしていると30分ぐらいざらに経っていることがよくある。

 それにしても今日は色々あったな。もう会えないって思ってた二人と再会して、なぜか同居が始まって。この感じだったらリアと暮らすのもスムーズに過ごせそうだ。

 ポジティブな感覚だ。これが気まずい感じとか、気を使いすぎる感じになってたら正直しんどかった。あまり想像したくない展開だったからほんとによかった。

 外でそういうことになったら逃げるという選択肢があるが、家だからな……。

 正直これから楽しそうだな……。ていうか、リアのゲーム上達早かったな。みるみるうちに成長していった。横からアドバイスを挟んだりしていたが、吸収が早かったな。

 それと、嗅覚というか感覚が良い。選択が上手というか。ゲーム上達で凄い大事な部分だ。知識がいくらあろうがそれを状況によって選択する能力がなければ正直話にならない。

 その部分は何というか教えたりしても成長できる部分ではあるのだが、教えたからといってどうにかなる部分ではない。正直本人次第な所が大きい。あの分だと相当はまりそうだ。俺は俺で新しい楽しみな事が増えたしよかった。

 あれ、今シャンプーしてたっけな……。考え事しながらシャワー浴びてたりすると忘れてしまうんだよな……。もう一回して出るか。

「じゃあ寝るわ。おやすみ。」

結構眠かった。凄いぼーっとしていた。色々あったからかな。」

「ええ。おやすみ湊。」

 布団に入っても部屋に生活感が残ってるのは少し違和感があるな。普通俺が布団で寝たら部屋から何も音が聞こえないからな。実家を思い出すな。実家では妹がうるさかったからな。すぐに寝てしまった。

 良く寝た。昨日は色々な事があったからな。いつもより良く寝れた気がする。随分ぐっすりだったな。

 ん……?何だ?手に知らない感触がある。やけに柔らかくぷにぷにしている……。気持ち良い。揉み揉み……。

「湊ったら朝からえっちだね……。おはよ。」

「え……?」

 頭が固まった。思考停止状態。どういうことなんだ……?何で同じベッドに女性がいるんだろう……?何も分からん……。

 あ、そうか……昨日リアと一緒に居て……。これはリアか。段々と状況が理解できてきた。

「湊ったらいつまで胸揉むのよ。そんなに触りたいのなら言ってくれればいつでも触らせてあげるのに。」

「えっ!ごめんごめんごめん。」

 手にあった柔らかい感触はリアの胸だった。温かくて柔らかくて気持ちよかった……。あれが女性の胸……。

 ヤバい。ベッドから抜け出したいけどどうしよう。急な展開にパニックになる。不味い事をしてしまった……。

「湊ならいつでもいいわよ。好きなときに触ってくれれば!」

「いやいや、だめだから。女の子は気軽にそんなこと言ったらだめだよ。」

「気軽じゃないわよ。ちゃんと勇気を持って言ってるわよ。湊にしか言わないんだから。」

「それでもだめだから!」

 そんなこと言われたらドキドキしてしまう。年頃の男には刺激が強すぎる。興奮してしまうじゃないか……。

 色々な事を考えている内にリアがベッドから出て行って洗面所に行った。ふう、よかった。これで少し落ち着ける。

 ていうか、何でリアと一緒に寝ているんだっけ?思いだせない……。一緒に寝るはずないんだが。

 そういえば、先にベッドに入って寝てしまったからリアにベッドを譲れなかったのか。それでゲームで疲れたリアがベッドに入ってきたってところか。

 疲れてて何も考えずに悪いことしちゃったな。リアはあんまり気にしなのかもしれないけど、流石にそういう話で済ませられないしな。

 これからはリアにベッドで寝かせるようにしないとな……。流石にラッキースケべが許されるのは今回だけだろう。

 どこからとなくいい匂いがする。ベッドからか?鼻を近づけてクンクンと匂いで見る。リアの匂いだ。良い匂いがする……。

 さっさとベッドから出て気を紛らわそう。腹もすいてきたしご飯でも食べるか。リアも腹が空いてきた頃だろう。

 冷蔵庫の中から朝食に使えそうな物を捜しながら、何にしようか考える。といっても、元々作る料理なんて限られてるし、材料もそれほどないけど。

 リアは普段何食べるんだろう。俺とかだったら朝から重めの物でも平気で食べれたりするけど、女子ってそういうの気にしそうだ。

 小洒落た軽食とか食べてそうなイメージ。俺は正直どっちでもいいし、その時の気分次第だけど他人の分は流石に分からないな。

 何にしようか考えてるところにリアが丁度洗面所から出てきた。

「リア、朝ごはん食べる?」

「ええ。貰おうかしら。」

「食べたいものとかある?材料が多くあるわけではないんだけど。出来るだけ希望には合わせるつもり。」

「何でもいいわよ。湊が作ったのなら何でもいいわ。どれでも美味しく食べるから。」

 何でもいいって、やっぱり一番難しいんだなって改めて思った。お母さんごめんなさい。実家に居るときはいつも何でもいいって言ってたな。

 何か言っても採用された覚えはないけども。それでも何か言っといた方が気持ちとしては楽だな。ある程度何回か食事してたら相手の好みとか気分に合わせて料理できそうだけど、まだ最初だからな。とりあえず、誰でも食べれそうな感じの物でも作ってみるか。

 食パンを取り出してレンジに入れて待ち時間5分に設定。その間に冷蔵庫から取り出した卵をフライパンに乗せ、目玉焼きを作る。目玉焼きは手慣れたもんだ。だいたいの焼き具合に調整できる。

「リアは目玉焼きの焼き加減に好みとかある?」

「半熟がいいわ。」

「おーけー。」

 半熟か。いいチョイスだ。俺に任せておけ。こんなの俺にとってはお茶の子さいさいだ。味付けは塩コショウをしておいて、後から好みに合わせて追加でと。

 せっかくだし、ハムも追加で用意しとくか。普段とは違い少し豪勢な感じで。少しだけな。自分の時だとよっぽどな事がないとしないけど、客がいると少し丁寧に豪華にしようとしてしまうな。少しぐらいいい所を見せようとしても罰はあたらんだろう。

 よし、食パンも焼けて時間的にはピッタリだな。普段だったら目玉焼きとかハムをパンに乗せてその場で立ったまま食べてるけど、流石に今そうするのは何か違う気がするな。行儀悪い。リアにそんなことはさせられないし、お皿に分けて出してみようか。

 育ちの差が出てしまうよな、こういう時って。普段ちゃんと皿に分けて出したりしないからな。でも、一人暮らしってそういうもんだよな?

 皆手を省けそうなところって省くよな?しょうがないよな?面倒くさいんだもん。

 今思ったら、俺ってそういう所結構あるかもしれないな。リアが居る間ぐらいはせめて気を付けて行動しないとな。あんまり品の無い人間だと思われたくもないし。出来るだけ意識しよう。

 こんなにお皿使ったことなかったな。一枚以上テーブルに出したことないかもしれない。ぐちゃぐちゃになろうと、一枚に何とか乗せようとしてるからな。

 洗い物増えると面倒だし。こうやって何枚かの皿に別々に食べ物を乗せてるとちゃんとした食事って感じがするな。気分としては悪くない。

 朝食をリアの前に持っていく。気に入るといいんだが。最悪不味くなければいい。苦手とかじゃなければ。

「リア、飲物いるか?お茶が珈琲ぐらいしかないけどな。もし、他にほしければ自販機で買ってくるけどどうする?」

「お茶を頂くわ。」

「わかった。」

 冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いで渡す。コップにお茶も普段ならしないな。ペットボトルのまま飲む。皆家ならそうだよな?

 でも、友達の家とか行ったら大体コップで出てくるんだよな。人が来たらやっぱそうなるよな?普段からしてるわけじゃないよな?俺に品がないだけかな?

「湊の家のお茶美味しいわね。何だか落ち着くわ。」

「市販の安いお茶だよ。お茶なんてどこのでも大して変わらなくない?」

「いいえ。そんなことないわ。湊が入れてくれたから美味しいのよ。」

「そ、そう……。ありがとう。」

 何だか照れてしまう。そこまでストレートに言われてしまうと悪い気はしない。嬉しいけど、でも本当に大したことないお茶だからわるい気もしてしまう。

「目玉焼きとかハムとか食パンに何か調味料かける?醤油とかソースとかマヨネーズとかあるけど、何か好きなのあれば……。」

「うーん。それは難しい話ね湊。」

「難しい話?」

 俺は知らない間に難しい話をしていたのか?リアの好みを聞いてただけだった気がしたんだけどな。

「目玉焼きに何をかけるかで喧嘩をするってよく聞く話だわ。目玉焼き以外でも、卵焼きに砂糖を入れるか醤油を入れるかとか。湊がした質問は一歩間違えば、私と湊の間に亀裂が入る話よ。」

 どういう所で暮らしてきたんだ?よく聞くような話ではあるけど、本気で喧嘩したりまではしないだろ……。でも、調味料って好みで凄い差が出るよな。

 たまーにとんでもない物かけたりする人もいるからな。あと、量。とんでもない量をかけたりしてる人を見たりすると引いてしまう時がある。

 ご飯なんて好みだから、文句があるとかではないんだけど、それはちょっと……ってのはあるからな。リアはそういうのなかった気がするんだけど、会わない内に変わったりしてしまったんだろうか?大体の事なら受け入れられる自信があるけど、大体の事で頼む。

 いや、考え方が間違っていたのかもしれない。俺は今、俺がそういうのを気にしてると思われてるんじゃないか?って考えてたけど、そうじゃないのかもリアに凄い好みがあって、リアと俺の好みに差があったらリアが耐えられないのかもしれない。段々不安になってきた。

 試されてるのはリアじゃなくて、俺の方だったのか……?リアは俺が作ったご飯なら何でもいいとか言うぐらいだったら勝手に味にそこまでうるさくないタイプかと思ってたんだが……。

「大袈裟じゃないか……?俺はどれも好きだぞ……。」

「それじゃだめよ。」

「え……。何か不味い事言ったか?」

「ええ。大不味よ。」

 大不味って何だ……。初耳だよ。

「湊は分かってないわね……。女心って物を。湊なら私の意図を汲んでくれると思ったのだけれど。」

 女心……?!そんな難しい話をしていたのか……!通りで俺には理解できなかったみたいだ……。女心はやっぱり難しいんだ……。

 俺は味の好みの話をしていたの思っていたのに、いつのまにそんな話に……。

「悪い!お、俺はどうしたらよかったんだ?!女心ってやつを教えてくれ!」

 困った時は謝って教えを乞う。これが俺のやり方だ。

「そうね……。湊には私が女心って奴を教えないといけないみたいね……。それじゃ女心って奴を教えてあげるわ。」

「おおっ!先生!お願いします!」

「先生……?良い響きね。悪くないわ。」

 リアは髪の毛を手で掻き揚げ、教師の気分になっている様だった。

「じゃあ、湊君。君は目玉焼きに醤油派の人間になってみて。」

「は、はい……。醤油派ですか……。」

「ええ。そうよ。貴方は醤油派の人間。それ以外の派閥の人間とは戦わいといけないの。」

「戦う?!」

「ええ。貴方はソースやそれ以外の調味料を目玉焼きにかける人間に醤油の良さを伝え、醤油の派閥に入れる使命があるのよ。」

「そうだったのか……。」

「それで私はソースの派の人間。目玉焼きにソースをかけることを使命として生きているわ。」

「リアは俺の敵なのかっ?!」

「ええ。そうよ。来なさい湊。私に醤油の良さを伝えてみなさい。」

「ははは……。愚かだなリア。」

「えっ?!」

「リアともあろう者が醤油の良さに気づけないとはな……。」

「ふふ。私はソースを愛しているわ。ソースこそ大正義よ。湊こそ醤油を信じていいのかしら?」

「醤油を信じてていいのかだと?ソース何てものを信じている奴に言われたくはないな……。醤油の良さをリアに伝えてやろうか?」

「やってみるといいわ。私の気持ちはその程度の事で揺るがないもの。来なさい。」

「醤油の良さはな!醤油の良さは……。」

「ほら。早く言ってみなさい。貴方の醤油への思いはその程度ではないはずよ。」

「醤油の良さは……。日本人と言えばソースより醤油だろうがっ!」

「ぐっ……。やるわね湊……。今のは効いたわ……。私としたことが……。まさか敗れるなんてね……。」

 リアは自分の胸に手を当てながら息切れした感じで苦しんでいた。

「なあ……。」

「ええ。」

「何これ?」

 何これ以外の感想が出なかった。俺は何をしていたんだろう。醤油の良さも何も思いつかなかった。別に美味しければ調味料は何でもいいよ……。

「何となく味の好みで言い合いみたいなのをしてみたかったのよ。皆しているらしいわ。何となく憧れていたのよ。一度ぐらいやってみたいじゃない?」

「そうかな……?あんまり喧嘩とかはしたくないけど。」

「兄弟喧嘩とか友達との口喧嘩とかってやっぱり憧れるわ。友達!って感じがしていいじゃない。喧嘩別れとかは嫌だけど、仲良いからこそできる事って

あるじゃない。そういうのを真似てみたかったのよ。」

「そんなもんかな。喧嘩とかあんまりしてこなかったのか?」

「そうね。無かったわ。」

「それはそれでいいんじゃないか?喧嘩っばかりも結構辛いと思うぞ。」

「それはそうかもしれないわね。」

「ま、まあ!リアの言ってることが分からない訳じゃないけどな!」

「湊は優しいわね。」

「そうか?」

「ええ。私は満足したわ。たまにするから良いものなのかもしれないわね。それに、仲直りできてこそ良い物って思えるのかもしれないわ。そんな感じがした。」

「まー。そういうもんかもな。」

 そういえばリアって兄弟とかいなかったもんな。今まで友達とかと喧嘩とかもなかったのだろうか?良い人の周りには良い人が集まりやすいしな。

 そういう所で過ごしたら自分が体験したことのない事に憧れるの少しわかる。俺も喧嘩なんてあんまりしたことなかったな。

「それで本題だが、調味料は何かかけるか?」

「そうねー。醤油貰えるかしら。今日は湊のせいで醤油派の人間になってしまったから。」

「さっきのまだ続いてるのかよ……。別に自分の好きな奴でいいんだぞ?」

「大丈夫よ。調味料何てその時の気分だもの。どれでも美味しく食べれる自信があるわ。」

 料理はどれでも美味しく食べれるように育ててもらいましたってたまに聞くけど本当なのかな。不味い物なんて不味い気がするんだけどな。

 良いところの子供とかそういうイメージがある。色々な物を食べる機会が多いからだろうか?訓練次第で好き嫌いってどうにかなるのかな。

「それなら良いけど。はい、これ醤油。」

「ありがとー。湊は普段何かけるの?」

「俺もその時の気分だな。醤油か塩コショウとかが多いかな。今日は醤油派の人間だから醤油かけるけどな。」

「お揃いね。」

「そうだな。」

 調味料お揃いで一緒のご飯食べたりするのって不思議な気分になるな。普段してるなんて事のない事が素敵な事に感じれる。

 何も言わなければ、何も気づかなければ素敵な事にすら感じなかったのかもしれないけど、リアの一言でそうなんだなって思えてしまう。実感するんだ。

 一度お揃いって思ってしまうと自分の頭の中をお揃いなんだ……って気持ちで巡りまわる。普段しない俺には少し刺激的だな。

 お揃いとかペアルックとかしてるカップルとか友達を見ててなんであんなことしてるだろうって思ってたけど、少し気持ちが分かった気がする。

 なんて事の無い事を共有することで一緒の気持ちになれるというか、一緒なんだなあって思えることが幸せなのかもしれないな。

「目玉焼きとパンも美味しいわ。毎日これでもいいぐらい!これからも作ってくれる?」

「それぐらいだったら簡単に作れるからいいよ。お気に召したならよかった。」

「当り前じゃない。湊が作ったの物なら何でも美味しく食べれるわ。任せて。」

「いや、不味い物は食べちゃダメだよ……。ちゃんと味見して美味しいか確認しないとな……。」

 喜んでくれるのは嬉しいし、食べてもらえるのも純粋に嬉しいけど、ここまでくると少し心配になってしまう。味とかわかってるんだろうか……。しっかりしないとな。

「あ!そうだ!」

「どうした?」

「オムライス作ってもらえば良かったわ!忘れてた……。私としたことが……。」

「オムライスか……。確かに喫茶店で食べたのは美味しかったもんな。春があれを作れるなんて純粋に凄いと思ったな。」

「ええ。とても美味しかったわ。だから湊が作ったのも食べてみたいの。いいかしら?」

「考えておくよ……。」

「前向きな検討をお願いするわ。」

 喫茶店で美味しいのを食べてから自分で作って食べると絶望しそうだ。その差に。当たり前だけど店と素人が適当に作ったのでは差がある。

 練習したり調整したらある程度自分の好みのやつを作れるようになるかもしれないけど、時間掛かりそうだな……。リアの頼みだし無碍にはできないしな。

 考えてみるか……。オムライスってあんまり食べた事すらなかったなー。自分の中で珍しい料理って感じだ。

 オムライスを作るなら他の料理を作ろうってなってしまう。昔からあんまりオムライスと出会わなかったせいかな。

 馴染み無い物って切っ掛けがないと食べようと思ったり作ろうと思わないよな。思わないというか、思えないよね。そもそもの頭の中にないんだから。

 そういう意味では今回は良い切っ掛けになったのかもしれない。オムライスを知るための切っ掛けに。そう思うと前向きに捉えられてきたな。

 いつか頑張って作ってみよう。リアが美味しいって言ってくれるようなオムライスを。

 それにしても今日の朝食は何だか美味しい気がする。誰かと一緒に食べてるからだろうか。それともリアと一緒に食べてるからだろうか。

 朝食を人と食べるのは随分と久しぶりな気がする。誰かと付き合ったり結婚したりしたらこんな感じなんだろうか?

 家に人がいるだけでやっぱ随分と色々な事が変わる気がする。実家に居た時を思い出すな。家族は元気にしてるだろうか。

 一緒に住んでいたら住んでたで鬱陶しく感じてしまう時があるが、一緒に住んでなかったらたまには会いたいなという気持ちになるときがある。何だかんだで家族の事が好きなのだろうか。あまり実感はないけど。

「湊、ボーっとしてどうしたの?何か考え事かしら?」

「え、あ……そうそう。昨日ゲームどうだった?ていうか、いつまでやってたの?」

「ゲームは凄く楽しかったわ。何もかも忘れて疲れ果てるまでやってたわ。気づいたらベッドで寝てたわ……。ゲームって恐ろしい……。」

「楽しかったんならよかった。眠いならもう少し寝てれば?僕はそろそろ支度して大学に行ってくるけど。」

「そうね……。とりあえずそうさせてもらうわ。起きて時間があったらゲームしててもいい?」

「大丈夫だよ。壊したりさえしなければ。」

「ありがとう湊。じゃあ、お言葉に甘えてもうひと眠りさせてもらおうかしら。」

 リアはベッドに着いた瞬間眠っていた。よっぽど眠かったんだろうか?寝るまでが早すぎる……。朝までゲームしてたんならしょうがないかな。

 気持ちは凄くわかる。朝方までゲームやってると次の日凄く眠たいからね。

 でも、ご飯食べてすぐ寝たら体に悪くないのかな……。次から気を付けないとな……俺が。

 リアもゲームのしすぎて体調とか崩さないといいけどな……。リアが体調崩しでもしたら俺の責任だからな。

 さて、そろそろ着替えたりして学校に向かわないと間に合わなくなってしまうな。さっさと支度しよう。

 家を出て駅まで歩ていく。何だか今日は気分が清々しい。テンションがいつもより高くなっている気がする。

 いつもはどんよりした気分で大学に向かっているが、今日はちょっと楽しめそうな気分だ。嬉しい事があったら他の事にも影響を及ぼしてくれるんだな。

 自分の中でプラスのスパイラルが生まれてるきがする。こんなこともあるんだな。人生で初めてかもしれない。

 今なら何をされても許せるような気分だ。余裕のある男というのは常にこんな感じなのだろうか。羨ましいぜ。そんなことも今の俺なら許せる。寛大な気分で許す。

 一つ気づいた事がある。人生を良くするための秘訣。いつまでも奥手になっていないで、自分から何か一つだけでいいから成功させる。

 その成功させた事が次の成功を呼ぶ。そして、成功した生きた方がまた成功を呼ぶ。そんなスパイラルがあるような気がする。

 羨ましいな。お金持ちの人とか最初から成功しているようなもんだから予め良いスパイラルを作れてそうだ。

 俺も何か一つぐらい成し遂げたいな。特にしたい事も無いけれど……。

 やっぱり目標とかある人は良いなって思う。憧れる。何か一つの目標まで突っ走ってる人は素晴らしい。色々な困難もあるんだろうけれど、俺みたいな何もできてない人生からすると凄く羨ましい。かっこいいって思う。俺には何があるんだろうな……。何なら出来るんだろう……。

 ああ……。またネガティブな思考になってきてしまった。さっきまでの良いスパイラルはどこへ行ってしまったんだ……。一瞬でいつもの俺に戻ってきてしまった……。

 ま、所詮俺はこの程度の人間か……。仕方ない。人には人の生き方やり方があるからな。俺はこのまま生かさしてもらうか。

 そもそも、色々な事考えすぎなのかもな。勿論考える事は大事なのだろうけど、頭で一々考えないで体に素直になった方が良いのかもしれない。

 上手く言ってる時はいつだってそうだった気がする。考えれば考えるほど色々な事を考えてしまい、足踏みする。

 考えないことが前に進む一歩なのかも。ま、急に言われても無理だけど……。


「おーい。湊ー?朝からそんな顔してどうしたの?」

 駅の片隅で考え事しながら立ち尽くしていたら後ろから肩をトントンと叩きながら声を掛けられた。

 なんか、アニメとかで良く見る光景だ……。ただ、実際になってみるとちょっと怖い。こんな経験初めてだから。陰キャコミュ症の俺にはちょっと向いてないみたいだ。

 急に声を掛けられるだけで体がビクっとしてしまう。恐る恐る声を掛けられた方を確認すると見知った顔つきの人物だった。

「あ、あれ。春じゃん。おはよう。」

「うん。おはよう。僕で残念だったね。」

「え?いや、全然残念じゃないけど……。」

「え……。そう……?なら良いけど……。」

 春は何故か少し顔を赤くしていた……。

 ていうか、何だこの空気……。凍ってるのか?氷結か?どうなってるんだ……。絶妙に気まずいぞ……。昨日三人で話してた時は全然何とも思わなかったのに二人だと絶妙な空気だ……。

 リアと二人で話してる時は上手く話せてたから、俺成長したか?って思ってたんだけどそんなこと全然なかった。どうしよう……。

 な、何か少しでも話さないと気まずい……。こういう時は何を話せば……。

 巷で流行っている噂のあれを使用するしかないか?こうなったら、使うしかない!いっぞ!

「今日天気良いっすね……。」

「え?ああ、そうだね……。」

 ……。全然だめだったみたい。流行ってるっていう噂の会話デッキを使ってみたが、俺には向いてなかったようだ。会話って難しい。

 春とは久々だし話したいことも沢山あるし、聞きたいことだっていっぱいあるはずなのにな。

それにしても、春は随分と女らしくなった。元々の印象が男だったから尚更。髪型も似合ってるし、色も似合ってる。

「んん?どうしたの?ジロジロ見て。何か変だったかな……?」

 ジロジロ見てたのがあまりにも不自然だったみたいで気づかれてしまった。確かにジロジロ見られるのは気分が良くないかもしれないし、申し訳ない事した。

「やっぱり、春なんだなって思ってさ。ジロジロ見てごめん。あんまジロジロ見たりされるの気分良くないでしょ?」

「まあね……。でも、春なら別にいいよ。気にしてないから。」

「そうか?ならよかったけど。じゃ、今からずっとジロジロ見てても構わないってことか?」

「えっ……。」

「今、春そう言ったよな?俺ならいいって。」

「う……。……。」

 春は凄く後悔してるような表情をしている。自分の発言の愚かさを恨んでいるんかもしれない。

 ジーっと顔を見つめてみる。春は照れながら顔を真っ赤にしている。最初はそっぽ向いていたが、春は春で対抗してきた。

「じゃ、僕も湊の顔見ててもいいよね?」

「え、あ……。あぁ、いいぞ。」

「……。」

 凄い照れる。俺まで顔真っ赤になってる気がする。こんな美少女と見つめ合ってるなんて人生初めてかもしれないし、何か他の理由があるついでに見ているとかではない。

 見るために見ているとかいう謎の状態だ。心臓がドキドキしてきた。脈拍が凄く早くなってるのが感じる。

 でも、仕掛けだしたのは俺だし男には退くに退けない戦いがある。いくら春でもこの勝負は譲れない。

 そうだ、これは勝負なんだ。勝負ってなると話は変わる。相手を負けさせるために何か仕掛けなければならない。

 恥ずかしくて降参させる状態を作らなければならない。

 ただ、何も思いつかん!誰かの顔をまじまじと見つめた事なんてないし、女性とのコミュニケーションなんて俺の人生とはかけ離れてたからな……。春もまったく退いてくれる様子がないしな……。

 一つだけ思い浮かんだ策がある。至ってシンプルな作戦。俺も恥ずかしいけど、相手も間違いなくダメージがあるはず……。やるしかない。

 俺は春に一歩足を近づけた。そして、もう一歩。そして、顔を近づける。どうだ?俺も相当恥ずかしいけど、春も相当恥ずかしいだろ。頼むから降参してくれ。

 春ははにかみながら目線を反らさず、ずっとこちらを見てる。至近距離で顔を近づけ合って見つめ合ってる。

 なんでこいつはこんなに耐えれるんだ?もう、俺にはこれ以上の策がない……。敗北を認めるしかないのか?これで最後なのか……。どうしたらいいんだ……。男には負けを認めない時があるのかもしれない。

 負けを認めようとしたとき、電車が到着した。これは、流石に引きわけじゃないか?春も流石に遅れたくはないだろう。大人しく、退いてくれるんじゃないか?

「な、なあ。」

「なに?」

「電車来たし、流石に引きわけってことにしないか?大学遅刻しちゃうぞ。俺が悪かったしさ……。」

「じゃ、春の負けってことでいい?」

「え?」

「僕は遅刻してもいいよ。」

 まさかの返答だった。春はニコニコしながら強気な発言。春はこんなにも負けず嫌いだったのか。それとも退くに退けなくなっているだけなのだろうか。

 流石に俺はまだいいけど、春を遅刻させるわけにはいかない。リアにばれたら怒られそうだし、俺も流石にそんな事させたくない。悔しいけど、負けを認めるしかないのか……。

「悪かった!俺の負けだ!さ、早く電車に乗ろう!置いて行かれる!」

 春の手を引っ張って電車に入ってった。

「ちょ、危ないから!力強いってば……。」

「ごめんごめん。俺が本当に悪かったから。こんな事で遅刻させるわけにもいかんしな。車掌さんも乗るの待ってたみたいだし、何か申し訳なくてさ……。」

「ま、僕の勝ちってことだね。」

「悔しいけど、そうだな。」

「何であんなことしたの?」

「春をちょっとからかってみたくてさ。どういう反応するかなって。それに、春可愛いしさ。ちょっと気になっちゃったんだよ。」

「ふーん。」

「悪かったって。そんな怒んないでくれよ。もうしないからさ。」

「怒ってないし、別に又してもいいよ?」

「え……?」

 そんな事言われたらドキドキするじゃないか。心臓がバクバクする。美少女を眺めていいなんて滅多にない事だぞ。

 いや、これは冗談か?普通こんな事ありえないしな。俺としたことが、安い挑発に乗ってしまうとこだった。乗りたいけど……。欲望に忠実になるなら乗っかるべきなのか?

だめだ。上目使いの春可愛すぎるだろ。反則じゃんそんなの。ここで、素直にまたするよって言えない俺が悔しい。

「ま、僕はこの電車乗り過ごしても遅刻しないけどね。一限目からじゃないし。ちょっと用事があるから早く家を出てただけだから。」

「え……?!そうだったのか……。」

「だから遅刻する可能性があったのは湊だけってこと。僕に有利な勝負だったって訳。どう?怒った?」

「いや、別に怒らないけどさ。元々俺が始めた事だし。それなら、もうちょっと見ててもよかったな。」

「えっ?!えへへ……。だめだよ。ちゃんと遅刻せずに行かないと。僕が怒っちゃうから。」

「理不尽な……。」

 男は素直に負けを認めることが時には大事みたいだな。怒られたくないし……。

「よくよく考えると、駅で春見かけたことなかったしな。授業の始まり時間が同じだったら多分出会ってただろうな。」

「そうだねー。」

「家この辺だったんだな。そういえば、昨日聞いてなかったな。考えもしてなかったわ。」

「駅からめちゃくちゃ近いわけじゃないんだけどね。春は駅から近め?」

「そうだな。結構近いぞ。」

「そっかー。ふふ。」

「どうしたんだ?」

「別に、どうもしないよ。」

 どうもしないと言いながらもニヤニヤしていた。何か企んでいるんだろうか?

 それにしても、家が近いなら3人で集まりやすいな。リアも喜ぶだろう。駅がいくつか離れてたりすると、やっぱり手間がちょっとかかっていくからな。

 今日の朝出会えてよかった。出会わなかったら中々知れない情報だったかもしれないし。朝から春の顔も見られたし。

 友人と出会ったりすると元気がでて良いな。それが春だと尚更。毎日こうやって朝出合って駅とか電車の中とか大学までの道とか話したり出来たら凄く楽しいんだろうな。ただ、実際には時間が合わないからあんまり出会う機会がないんだろうな。溜息が出てしまう。

「溜息なんかついてどうしたの?もしかして、さっきの事怒った?」

「そんなので怒るはずないだろ。何かさ、こうやって毎日春と喋りながら大学行けたりしたら幸せなんだろうなって思ってたんだけど、

そういう機会はあんまりないんだろうなって思ったら落ち込んできてさ。」

「え……。僕と毎日会いたいの?」

「な、何かちょっと違う感じがするけど、そうだな。そうできたら楽しいだろうなってだけだよ。」

「えへへ……。そっか。」

 春はどことなく喜んでいた。春は笑顔が似合うな。ずっと笑わせていてやりたいな。

「春がどうしても僕と会いたいっていうなら考えてあげないこともないけど?」

 ガシャン。電車のドアが開いた。目的地の駅まで着いた。さっさと降りないとな。

「何か言ったか?アナウンスの声が大きくて何も聞こえんかった。もう一回言ってくれるか?」

「ふんっ。もういい!」

「え、何を怒ってるんだよ。聞き逃したのは悪かったって。もう一回言ってくれよ。」

 春はなんでこんな怒ってるんだ?女心は難しい……。

「春はこれから大学でしょ?僕はちょっと行く所あるから、じゃあね!」

 春はそそくさと歩いて行った。怒らせてしまった……。電車のアナウンスで聞こえなかったんだから許してくれよ……。次会った時謝らないとな……。許してるくれるといいが。

 大学に着いて中を歩いていると見知った顔の人物を見つける。

「よう。夏目。」

「ん?何だ、湊か。おはよう。」

 俺の数少ない友達の夏目。こいつには大分世話になってる。正直こいつが居なかった事を想像すると恐ろしい。

 こんなに頼りになるやつは中々いない。少なくとも俺と友達をやってくれてるだけ有難い。

気を使わなくていい知り合いの一人だ。

「どうした?浮かない顔して。」

「いや、朝から友達怒らせちゃってさ。原因もあんまりわかってなくて。」

「友達……?」

「おいおい、そう疑うなよ。幼馴染ってやつと奇跡的な再開をしたんだよ。しかも、二人。そんでその一人と朝たまたま会ったんだけど、怒らせちまったんだよ。どうしような。」

「ほーん。何で怒らせたわけ?」

「会話の途中でさ、電車のアナウンスがなって相手が話してたこと聞こえなくてさ。聞き直したら不機嫌になってた。」

「なるほど。ま、運が悪かったな。お前らしいけど。」

「うるせえな。運が悪いのは自覚があるけどさ。」

 夏目と話してると気分が落ち着いてきた。持つべきものは友だな。特になんて事のない話を聞いてくれる友人が居ると助かる。話をするってやっぱり大事な事なんだろうな。

「その幼馴染って女か?」

「なんでわかった?!」

「お前の顔見てたらそんな感じがした。話してる時の表情がそれっぽかった。」

「すげえなお前……。何か特殊能力持ってんの?」

「顔に出過ぎだって。伊達にお前と友達やってねーよ。」

 こいつ凄すぎるだろ。それとも本当に顔に出過ぎてるんだろうか?あんまり言われたことないけどな……。

「そういえば、夏目は小鳥遊春ってしってるか?ここの大学に在籍してるんだけど。」

「小鳥遊春?なんか聞いたことある気がするな。風の噂でだけどな。」

「噂って何だ?」

「ただ単に可愛いってだけだよ。同じ学年に可愛い奴がいるぞ!みたいなさ。金髪で身長が低めの子だろ?すれ違い様に見たことがある。」

「多分それだ。」

「何、その子がお前の幼馴染ってわけ?」

「そんなとこだ。」

「まじかよ。ちょー羨ましいぜ。紹介してくれよ。」

「おいおい、人の幼馴染に手を出す気か?」

「そんな気はないって。特にお前の幼馴染ならなおさらな。単純にお前の幼馴染ってどんな奴かなって興味があるだけだよ。」

 本当かよ。でも、こいつからあんまり女の話聞いたことないんだよな。流石に春とこいつがくっついたとこは想像したくないけど、純粋に彼女ぐらい作って欲しい気持ちはる。夏目は本当にいい奴だからな。男としても嫉妬するぐらいし。

「機会があればな。春も良い奴なんだ。困ってたりしたら助けてやって欲しい。」

「お前の幼馴染なら任せとけって。そんな所見かけたら猛ダッシュで助けてやるよ。」

 こいつは何だかんだ俺の事を良き友達って思ってくれてるみたいなんだよな。何でか知らないけど良く助けてくれるし、一緒に居る時間も長い。俺はこいつに対して何もしてやれてないのにな。いつか恩返さないと。やっと午前の授業が終わった。

「夏目、飯食いに行こうぜ。」

「おう、いいぞ。今日は何食べるかな。迷うなー。やっぱカツ丼か?」

「お、いいなカツ丼。俺も久々にここのカツ丼食べたくなってきたな。でも、ラーメンも食べたい。」

「わかるぜ、その気持ち。ここの学食何でも美味いからな。どれも食いたくなる。しかも安い。」

 大抵の物が単品二百円から三百円ぐらいで食べれる。量もそこそこあって学生には大助かりだ。

 今日の気分としてカツ丼もラーメンも食べたい。でも、流石に二つ共食うのはきついんだよな。量がそこそこあるからな……。

「なあ夏目、カツ丼とラーメン半分ずつしないか?両方食いたいんだよ。」

「ふむ。お前の考え分からない訳でもない。今日はお前の案に乗ってやろう。」

「話がわかるね。そうと決まればさっさと行くぞ。席が空いてるうちにな。」

「そうだな!」

 食堂まで夏目と二人ダッシュで向かった。

「今日も人多いな~。時間帯的に当たり前か。」

「昼間つったら食堂のピークだろうなそりゃ。人は多くて当然。でも、席は取れそうだな。一安心一安心。」

「夏目席取っといてくれ、俺が注文してくる。他に何か食べるか?」

「ん~。そうだな。ついでに唐揚げも注文してくれるか?」

「そんなに腹入るのか?凄いな。それとも特別腹減ってんのか?」

「朝食べてないから腹減ってんだよ。それと、二人でつまんでたら意外とすぐなくなると思うぞ。」

「確かにな。じゃ、注文してくるわ。」

「おう、任せたぞ。」

 早めに食堂着いたおかげでそんなに列は長くない。遅れて到着したら結構またないといけないからな。

 腹が減ってたらとんでもなく辛い状況だ。食堂は良い匂いもするしな。食欲が湧いてくる。

「はい。次の人何にしますか?」

「ラーメンと唐揚げとカツ丼お願いします。」

「はいよー。ちょっと待っててね~。」

 三十秒ぐらい待ってるとすぐに出来てきた。いつも思うけど、注文してから来るまで早いよな。普通のご飯屋さんならもっと掛かるよな。学食はスピードも大事なんだろうな。人が多いし。

「はい、お待ち。」

「どうもー。」

 ペコリと頭を下げ席の方へ歩いていく。

 夏目はどこだ……?なんか、席にいる友人とか探すの苦手なんだよな……。誰も何とも思ってないんだろうけど、変な人に思われてないかな?って感じる。自意識過剰もいい所だが。

人込みの中歩いていると声が聞こえてきた。夏目の声だ。やっと見つけれた……。

「おーい。こっちだぞー湊ー。」

「おー。わかったわかった。今行くー。」

 あれ?夏目の隣に俺の知ってる人物がいる。どういうことだ……?

「春、さっきぶり。」

「さっきぶり……。」

 春も困惑している様だった。あはは…と困り顔の様子。なんで春がいるんだ?大形予想はつくけど。

「ど、どういう状況?」

「いや、お前の見たままの状況だけど。」

「そうか……。」

 確かにそうだな。質問の仕方が悪かったか。

「俺の予定だと夏目一人だけが居るはずだったんだけど、なんで春もいるの?」

「そこに居たから。」

「そうか……。」

「あはは……。何かごめんね?」

「いや、春が悪いわけじゃないし全然居てくれてもいいんだけどさ。夏目が何か強引に誘ったりしたんじゃないのか?迷惑かけなかったか?」

「え、別に迷惑は掛けられてないよ。急に話しかけられてびっくりはしたけど……。」

「俺も話しかけて断られたらすぐ下がるつもりだったてば。お前の知り合いって知ってんだから流石に強引な事はしないって。信用してくれよ。」

「夏目の事は大分信用してる方だぞ。お前でも春に迷惑かけたら許さんけどな。」

「わかったわかった。まあまあ、説明するからとりあえず座れって。ささ、小鳥遊さんもどうぞどうぞ。」

 四人用の対面式のテーブルに座ることになった。そして、何故か夏目の指示で隣に春が座ることになった。

 こいつは何か誤解してないか……?

「で、どういうことだよ夏目。」

「今日の朝偶然小鳥遊さんの話してただろ?でさ、食堂で席を取ろうとして見渡してたら偶然その小鳥遊さんが居たわけよ。で、一人みたいだったからちょっと声掛けたってわけ。俺も小鳥遊さんがどんな人か興味あったしさ、湊が居るっていったら即OKだったぞ。」

「春、本当か?」

 俺がいるから即答だなんて本当か?春って知らない人間とかあんまり好きじゃなさそうなイメージなんだけどな。

「そうだね……。どうせ一人で食べる予定だったから。流石に知らない人とご飯は食べないけど、湊が一緒ならいいかなって。」

「だそうだ。な、特別悪い事はしてないって。そう険しい顔をするなってば。」

「そんな険しい顔してたか?」

「見たことないぐらい険しい顔だったぞ。」

 そんなに険しい顔だったのか……。自分がそんな表情出来る事に驚きだ。あんまり怒ったりしない方だと思ったんだけどな。

「そっか、春に迷惑かけてないんなら別にいいんだ。疑って悪かった。」

「おう、良いって事よ。お前がそんな顔するなんてよっぽど小鳥遊さんの事が大事ってことだろ。それぐらい伝わってくるって。」

「そりゃ大事だろ。しばらく会ってなかったとはいえ幼馴染なんだから。」

「本当に幼馴染ってだけか?」

「どういうこと?」

「おっと、喋りすぎたな。そろそろ食べようぜ。せっかく美味い飯が冷めてしまう。小鳥遊さんも話し込んでて悪かった。是非食べてくれ。」

「う、うん……。分かった。」

「先カツ丼半分もらうぞ。」

「わかった。じゃ、ラーメン貰うわ。」

「おう、小鳥遊さんも唐揚げよかったら食べてもいいっすよ。こいつの友達なら是非是非。」

「じゃあ、食べ終わった後お腹に空きがあったら少し貰おうかな。」

 春はカツカレーを食べてるようだった。女子にしては珍しいメニューなような気もする。でも、俺は沢山食べる子は好きだ。サンドイッチ一個しか食べてないような人を見ると心配になってしまうからな。三人沈黙のまま時が流れる。何か喋った方がいいんじゃないのか……?

 知り合いと知り合いが知らない同士の時って結構苦手なんだよな……。夏目と関わってる時の俺と、春と関わってる時の俺ってまたちょっと違うし少し恥ずかしいんだよな。共感してくれる人は世界に一人ぐらいいてくれてもよさそうだけどな……。

「春、カツ丼半分食べたからラーメンそろそろくれ。」

「わかった。」

「二人共随分仲良さそうだね……?」

「そうっすね。こいつ、いや、春とは結構仲いいんすよ。春って結構珍しいタイプで中々こん    

 なに良い奴いないっすよ。親友っす。マブダチ?大分世話になってるっすよね。」

「夏目……急にどうした?」

 何か夏目の態度がおかしい。テンションが高いのか……?何かが違う。何かをアピールしようとしてるのか……?

「いやいや、普段から思ってること言っただけだって。お前みたいな良い奴そうそういないぞ?」

「世話になってるのはどちからというと俺の方な気がするけど……。俺って夏目がいなかったらどうなってたかって想像したくない程

だぞ……。」

「お、嬉しい事言ってくれるねえ親友!お前のそういう所が気にいったんだよな。これでも大分信用してるぞ。

「確かに、それは何となく伝わってくるときがあるけどな。特別何かしてあげた記憶がないんだけど……。」

「親友ってもんはそうゆうもんだってば。自然な事が大事だろ?」

「まあ、確かに。」

 自然な事か。良いこと言うじゃん。親友とか友達ってもんは何かしてあげたからなるもんではないもんな。

 自然とそういう空気が出来上がって自然と一緒に居る。それが親友な気がする。損得勘定以上の存在。

「二人ってもしかして、できてたりする?」

「ぶっ!!」

 春が目を光らせながらとんでもない事を言ってきたから、食べてたカツ丼を口から吹き出してしまった。

「おい、汚いぞ春。」

「悪かった……。てか、何でお前はそんな平気な顔してんだよ。俺らできてるの?って疑われてんだぞ。」

「いや、何回か他の人にも聞かれたことあるし……。」

「マジ?!」

「マジマジ。一つだけ言っとくと俺は異性が好きだし、そっちの気はないから安心しろ。」

「そうか……。それは良かった……。」

 まじかよ?知らない間にそんな噂があったのか?初耳だ……。友達が夏目しかいないからそんな噂をたてられてしまったのか?

「そっか……。ちょっと残念。」

 春は言葉以上に残念そうな顔をしていた。いやいや、残念がるのはおかしいって。俺と夏目ができてるはずないだろ。

「春ってばそういうの好きなの?いわゆるBLってやつ?」

「いや、あんまり。知らない人の見てもおもしろくないし。でも、湊がそうなのかなって思ったらワクワクしちゃった。えへへ。」

「えへへ、じゃないよ。普通にゾワってしちゃったよ。夏目とは単純に仲がいいだけ。」

「ふーん?イチャイチャしたりしないの?」

「いや、男同士でイチャイチャしないでしょ……。なあ?夏目。」

「湊は顔が可愛いからな。イチャイチャぐらいなら全然してもいいぞ。肉体関係までは想像できないけど。」

「えっ?!?!」

「きゃーーー!!!」

 春は物凄くテンションが上がっていた……。春は腐女子の素質があるんじゃないのか?普通は引くでしょ。

「冗談冗談。小鳥遊さんが喜ぶかなって思って言っただけだって。俺にそっちの気はないし、湊もないだろ?安心しろって。」

「良かった……。」

 本当に良かった。大切な友人が減りそうな危機が訪れていた。

「そっか……。」

 春は相変わらず残念そうだった。

「まあまあ、こういうは異性のやつは良く見えたりするんだって。湊も百合好きだろ?例えば小鳥遊さんが可愛い女の子とイチャイチャしてるの想像してみろよ。どうだ?」

「それは凄く良い!」

「えー……。」

 春は物凄く引いていた……。女の事イチャイチャする事に対してじゃなく、俺に。俺のテンションの上がり方に……。だってしょうがないだろ。テンション上がるでしょ。

 春がリアとイチャイチャしてるの想像したら、そりゃテンション上がるよ。是非してくれって感じだよ。傍から見てるだけで満足だよ。

「だろ?そういうもんなんだって。女性は男同士がイチャイチャしてたりしたら俺らが百合を見るのと同じ感じに見えるんだって。感覚的にはな。」

「なるほど……。夏目は賢いな。俺もまた一つ成長できたよ。」

「そうだな。感謝してくれ。」

「春は女の子とイチャイチャするの嫌か?」

「んー……。嫌かすらわかんないな。友達あんまり居ないし、したことないから想像もできない。唯一ボディタッチとかがあるとすればリアぐらいじゃない?イチャイチャとは違う気がするけど……。」

「確かに。喫茶店で会った時も抱き着いたりしてたよな。あれは良かった。」

「リアって子が湊の幼馴染のもう一人か?」

「ああ、そうだ。」

「その子も良い子か?」

「良い奴だな。少なくとも俺の知り合いは良い奴しかいないと思うぞ。夏目含めて、リアも春も。」

「そっか……。それは、大変だな!春さん。でも、とりあえず応援してるよ!」

「夏目君……?勝手な気遣いはいらないよ?それと、湊に余計な事言ったら怒るからね?」

 気づいたら春が険しい顔をしていた……。っていうか、二人知らない間に仲良くなったのかな?俺の親友同士が仲良くなってくれるなら、それに越したことはないが。

「でも、そっか。お前の友達ならいつかそのリアって子にもあってみたいな。きっと良い人なんだろう。お前だけじゃなく、小鳥遊さんの友達でもあるんだろ?間違いなくいい人だろう。」

「そうだな。」

「そうだねー。リアは純粋っていうか、子供っていうか。中々あんなに良い子いないよねって感じだよねー。見た目も可愛いし、羨ましい……。」

「リアって子を知らないから比べたりするのは出来ないけど、小鳥遊さんはよっぽど可愛い方じゃないか?春もそう思うだろ?」

「そうだな。リアが可愛いのは事実だが、春も凄く可愛い女の子だと思う。」

「ちょっと……照れるってば。そういうのいいから!」

「良かったな小鳥遊さん!応援してるぞ!」

「夏目君……?それ以上言ったら殴るよ?」

「ど、どうした……?何で春は怒ってるんだ……?」

「こいつが本当に鈍感で申し訳ないっす。」

「昔から知ってる。」

 怒ったと思ったらいつのまにか二人共呆れた顔をしている。どういうこと……?何があったんだ……。全然二人の会話についていけない。

「さて、食べ終わったしこの辺にしとくか。春も急に誘って悪かったな。」

「気にしなくていいよ。楽しかったし、気使い過ぎだよ。嫌だったら断ってるし。」

「そうそう、お前は気使い過ぎなんだって。俺たちはお前の友達なんだからいらない気を使う必要はないぞ。もっとずけずけ来てくれた方が友達涯があるってもんよ。ね!小鳥遊さん!」

「はぁ……。そうだね。湊はちょっと気を使い過ぎかもね。僕は湊なら大抵の事気にしてないから。朝、あんな変な事してきたのに今更何に気を使ってんの?」

「朝?」

「いや、ははは……。あれはごめん。気の迷いだ。忘れてくれ。」

「おいおい、朝何やったんだよ。気になるじゃねーか。教えてくれよ。」

「夏目は知らなくていいよ。そろそろ行こうぜ。春もじゃあな。」

「うん。またねー。バイバイ。」

「あ、小鳥遊さんバイバイー。また3人でご飯食べたりしようねー!」

 何だかんだあって今日の講義も終わった。

「じゃあな、夏目。また明日。」

「おう。また明日~。」

 今日は何かいつもより沢山話した気がするから、一人になった途端急激に寂しくなってきた……。家に帰ったらリアがいるだろうし、気合入れて家に帰るか!家に人がいるっていうのもいいもんだな。

「ただいまー。」

「おかえり湊。楽しかった?」

「そこそこだな。今日は初めて大学で春と会った。元気そうだったよ。」

「昨日の今日じゃそんな急に変わることなんてないんじゃない?」

「それもそうか。」

 家に帰って話し相手がいるってやっぱりいいな。実家のような安心感。

「そっかー春に会えたのね。それはよかったわ。春も湊も一緒に居て欲しいもの。その方が私は安心するわ。」

 友達同士仲良くしてて嬉しいみたいなことだろうか?

「そうだな。3人一緒にいれたらそんな嬉しい事はないぞ。」

「そうだね。私二人共大好きだもの。二人には幸せになって欲しいわ。」

「リアもだろ。俺と春とリアが幸せになるべきだ。」

「ふふ。そうね。私も今幸せよ。」

 言葉とは裏腹にその目は少し遠くを見ているような気がした。

「どうした?」

「何でもないわよ。今幸せだなって幸せを噛みしめていたのよ。湊、今を大事にする事はとても大切なことよ。」

「そうかもな。でも急にどうしたんだ……?」

 「柄にもない事言ってしまったかしら。それはそうと、お腹空いたわ湊。」

「そうか……。飯……そろそろ飯にするか。何か食いたいもんあるか?」

さっきのリアの表情何だったんだろう……。しばらく会ってない内にリアにも色々な人生があったんだろうな。

 気軽に触れられない空気だった。気にはなるんだけど、他人のプライベートってどれくらい踏み込んでいい物かわからないし、地雷を踏んでしまったらどうしようもない。リアはリアで謎が深いからな……。いつか知りたいことはいくつもあるけれど、今じゃないだろうな。

「そうね。今日は湊のオムライスが食べたいわ。作ってくれる?」

「リアはオムライス好きだな……。簡単になら作れるとは思うけど、喫茶店のと比べないでくれよ?間違いなく負けてるから。」

「比べたりしないわ。味なんて気にしないわ。湊が作ったオムライスが食べたいのよ。」

「そうか……。それでも味は大事だろ。出来るだけ美味しくなるように作ってみるよ。」

 なんか期待されてるのかな……。喫茶店のオムライスを食べた事もあって正直あんまり乗り気ではない。確実に勝てない相手に勝負を挑んでるような物だ。味は気にしてないって言われても俺が気にするしな……。そもそも料理って味大事だよな?

 オムライスをいつか作るんだろうなとは予想していたけど、思ったより早かったな。昨日美味しいの食べたばかりなんだから、もうちょっと待ってくれてもいいとは思ったんだけどな。神様はいけずだな。

 ネットで作り方調べながら作るか……。作ったことないから今の状態で作るとケチャップライスに卵焼き乗せただけみたいな感じになってしまう。

 自分で食べる分にはそれでもいいんだけど、リアに食べさせるってなるとそれでは流石に申し訳ない。俺もちょっとは良いところをみせたいしな。

 オムライスってふわふわのとろとろのやつがやっぱり美味しいのかな?喫茶店のはそんな感じだった。

 それとも変わったやつのほうがいいのか?アボカドオムライス……。なんだこれ。初めて見たぞ。本当に美味いのか……?

 迷ったときはド定番のシンプルなオムライスにしよう。簡単なやつのほうが俺でも作れそうだしな。

 ケチャップライスってこんなに調味料いれんの?!初めて知ったんだけど……。まじかよ。ケチャップライスって言ってるのにケチャップ以外の物入れ過ぎじゃない?俺の想像してたケチャップライスはご飯にケチャップかけただけなんだけど。

 これじゃケチャップ以外の調味料可哀そうじゃないか……?もっと特別な名前付けてあげたほうがいいんじゃないか?

 なるほどなー。料理って愛情が大事ってのがちょっとわかった気がする。自分のために作る料理ならご飯にケチャップかけただけで終わるもんな。

 リアのためならこんないっぱいの調味料を入れたケチャップライスを作ってあげたくなる。

 いくつかレシピを見たけどこれが作り易そうだな。これにしよう。そうと決まればスーパーに材料買いに行くか。

「スーパーで材料買ってくるけど、何か他に欲しい物とかある?」

「アイス食べたい。」

「アイスか。味とかどれが良いとかはないの?」

「湊に任せるわ。湊と一緒のやつがいい。」

「そうか……。分かった。自分が好きじゃない奴だったとしても文句言わないでくれよ。任せるって言ったのはリアなんだからな。」

「言わないわよ。ありがとう。」

「じゃ、行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

 何だろう。帰ってきてからのリアはちょっと元気なさそうに見える。ゲームで疲れすぎちゃったんだろうか?

 昨日結構元気そうだったから心配になってしまう。すぐに元気になったら良いんだけどな。リアを元気にするためにもはりきってオムライスを作ろう!段々気合入ってきた。そうと決まればスーパーまでダッシュだ!うおーーー。

 ふう。疲れた。スーパーに来るだけで疲れた。帰りはゆっくり歩いて帰るか……。普段買わない調味料とか材料買うのって時間掛かってしまうな。

 どこに何があるかわからん。普段使うものしか知らないからな。リアのおかげで新しい事に挑戦できている。感謝しないとな。

 忘れてた……。アイスも買うんだっけな。どれ買おうかな……。俺のセンスが試されている。出来るだけリアの好きなやつを買ってあげたいけどどれがすきかわからん……。

これいいじゃん。抹茶のアイスあるじゃん。久々に食べたいな。抹茶ならリアも嫌いではないだろう。そうと決まればこれに決定だ。後は帰るだけだ。帰りはゆっくり帰ろ。

「ただいまー。」

「おかえり、湊。材料まで買いに行かせて悪かったわね。ありがとう。」

「気にしないで良いって。じゃ、さっそく作るからちょっと待っててくれ。今までも待たせたけど。」

「期待して待ってるわ。」

「期待に応えれるよう頑張るよ。レシピ見て作るから不味くはならないと思う。」

「湊の事は信頼してるから大丈夫よ。」

 信頼を失わないように頑張らねば……。信頼されるって凄く有難い事なんだけど、必然と責任が増していくよな。この責任を取れる力量は俺にあるだろうか。

 レシピ道理作って不味かったらこのレシピが悪いだろ。よし、そう思ったら気が楽になってきた。さっさと作ろう!リアもお腹空かせてるだろう。

 なるほどな~。先にケチャップライスを作るわけね。そりゃそうか。後から卵を載せてぱかっと割ってるのをよく見るもんな。

 こんなところか?ケチャップライスは美味く作れたんじゃないか?レシピ道理問題なく作れてそうだ。味見しないとな。

 味見は料理の基本って誰かが言ってた気がする。うん。悪くない。これならリアに食べさせても問題ないだろう。

 後はオムライスの醍醐味、卵だ……。オムライスと言えば卵だろう。卵が主役だろう。多分……。

 ん?これ俺が思ってたオムライスと違うな。この方が簡単そうだけど。俺が知ってるのと言えばケチャップライスの上に卵を乗せてたけど、これはどちらかと言うと巻いてる感じだ。薄い卵焼きを作ってそこにケチャップライスを載せて丸く包み込むような感じ。俺でもできそうだな。

 卵が半熟状になったらケチャップライスを乗せると……。なるほど。

 おっ、これは上手にできたんじゃないか?これを丸めるようにして……。おおっ。自分でもびっくりだ。レシピ道理作れてるっぽいぞ。

 思ったり料理のセンスあるのかな。自惚れすぎか。レシピ見て作っただけだしな……。

「リアっ!できたぞ!多分そこそこ上手に出来てるぞ。自信作だ。喫茶店のやつほどじゃないけど十分に美味しいと思う。」

「ありがとう、湊。本当に感謝してるわ。」

「え……?そこまで感謝しなくてもいいんだけど。もっと気楽でいいんだぞ?ほら!冷めない内に食べてくれ。きっと美味しいから。」

 なんか本当にちょっとおかしい。こういう時の対応がわからない……。とりあえず様子を見るしかないのかな……。

 リアが一口食べた!どうだ?美味しくできてたか?不味くないか?大丈夫かな?もう一口か?感想はいつだ?どうくる?!

「美味しいわ。本当に美味しい……。うっ……ぐず。」

「えっ……?リア?どうした?不味かったか?」

 食べて美味しいって言ってくれたと思ったら急に泣き始めたんだけど?!不味いのに無理して食べてたのか?

 やばい。女の子泣かせてしまった……。どうしたらいいんだ。どうやったらリアは泣き止むんだ?!

「ごめん。ごめんなさい。とっても美味しいわ……。本当に美味しいわ。私の為にこんなに美味しいオムライス作ってくれてありがとう。」

「そ、そうか?なんで泣いてるんだ?何か悪い事しちゃったか?」

「湊は何も悪くないわ。私が勝手に泣いちゃっただけよ。気にしないで……。本当にオムライス美味しいんだから。」

「わかった……。」

 美味しいのならよかったんだけど、困惑してる。言葉をかけるより黙ってみてる方がいいんだろうか。

 とりあえず、食べ終わるのを待つか……。

 リアはパクパクとオムライスを食べていく。味が悪くないのは本当に良かった。

 リアが食べてるのを横からずっと眺めている。何で泣いちゃったのかはわかんないけど、こうやって美味しく食べてくれてるのを横から見てるのって何だか幸せだな。こういった時間が永遠だったらいいのに。

 色々考えながらリアを見てたらいつの間にか食べ終わってたみたいだ。

「ご馳走様。美味しかったわ湊。」

「良かった良かった。アイスはどうする?抹茶のアイスにしたんだけど、今食べるか?」

「食べようと思ってたけど、思ったよりお腹膨れちゃったわ。また後で貰うわ。それと、抹茶のアイスは大好きよ。」

「良かった。」

「ねえ、一緒に散歩しない?ちょっと外の空気吸いたいわ。」

「いいぞ。」

 散歩なんて久々にするな。一人でしてると飽きちゃうんだよな。何か目的がないと続かない。たまにするのは気分転換になるけど。

 夜は外の風が心地よい。夜って何だか好きだな。明るい時より暗い方が好きだしな。夜の散歩って何だか落ち着くな。

 沈黙のまま二人でずっと目的地もないまま歩いてる。この空気感を味わってるって感じだろうか。

 周りを見てると色々な人達がいる。学生から、カップル、夫婦、子供まで。俺たちは他所から見たらどんな風に見えてるんだろうか。

 恋人同士に見えてたりするかな。自意識過剰か。女性経験がないと想像だけが捗ってしまうな。

「ねえ、湊。」

「んん?どうした?」

 突然話しかけられてビクってしてしまった。こちらを見てるリアはニコニコしててとても可愛らしかった。

「ふふ。呼んでみただけよ。」

「なんだそれ。」

 こんな何ともないやり取りが俺の心を熱くした。心地よい。漫画とかでよく見るシーン。実際に体験してみると悪くないな。

「湊。」

 しばらく歩いてたらまた名前を呼ばれた。また名前を呼んでみたってだけかな?分かっててもちゃんと反応しないとな。

「どうした?」

「手繋いでくれない?」

「えっ?!」

 思いがけないセリフだった。女の子と手を繋ぐなんてしてみたいぞ。物凄く。でも、これって即答したら下心ありありの男に見えないかな?ちょっと時間を空けて言うのが礼儀か?

「別にそこまで嫌ならいいわよ。」

「是非!手を繋ごうリア!」

 自分の考えが裏目ってしまった……。今度からは下心ありありで即答しよう。女の子に恥をかかせてはいけない。絶対に。

「えへへ。」

 リアは笑っていた。リアの手は暖かい。気持ちいい。女の子の手って皆こんな感じなのかな?ずっと手を繋いていたくなる。

 女の子と手を繋ぎながら散歩っていつまででもできるぞ、これ。毎日散歩してもいいぐらいだ。

 そのまま無言のまま自然と家の方に向かっていく。何も会話をしないまま一歩、また一歩。

家についてしまった。ずっとこのまま歩いてたかったのに、こういう時に限ってすぐ家についてしまう。まだ歩いていたかったな。

「着いたわね。」

「そうだな。」

 最後の抵抗としてゆっくりドアを開けてやる。何に対して抵抗してるんだ俺は……。

「湊、アイス食べたいわ。」

「わかった。冷蔵庫から出してくるよ。」

 冷蔵庫からアイスを取り出してテーブルに持ってって腰を下ろした。

「ほれ。冷たいからゆっくり食べなよ。」

「アイスは冷たい物よ。」

「確かにそうだな。」

そして抹茶アイスを一口食べる。久々にアイスを食べたけど美味しいな。実家に居た時はよく母親に買ってきてもらったりしてたんだけど、一人暮らしだとできるだけ必要のない物は買わないようにしてるから食べなくなったんだよな。

「私としたことが何も考えていなかったわ……。」

「んん?どうした?何も考えていないのはいつもじゃなくて?」

「湊?」

「ごめんごめん。で、どうしたんだ?」

「せっかくなら違う味のにしといてもらえばよかったなって。二種類の味食べれるじゃない。」

「え?!」

 それって所謂食べさせあいみたいな事か?本当か?俺の妄想か?なんでリアは当たり前のように言ってるんだ?どういう常識してるんだこいつ。

 俺の考えすぎか?普通に考えて食べさせ合いではないな。俺がおかしかったな。

「ま、確かに二種類のアイスがあったら二種類の味を楽しめるもんな。」

 当たり前の事を当たり前のように返してみた。俺だけが勝手に食べさせ合いとか考えてたら恥ずかしいしな。相手の反応を見るための俺の策だ。どうだ?!

「そうね。分かってるじゃない湊。」

 これはどうなんだ?!リアはどういう意味で言ってたんだ?!あえて核心に触れてないのか?!気になるぞ!凄く!

 その後しばらく反応を伺ってたけど何もなかった……。俺の妄想だっただけみたいだ……。

「ちょっとシャワー浴びてくるわ。リアはゆっくりしててくれ。」

「わかったわ。」

 今日も色々あったな……。シャワーを浴びながら今日一日の事を思い出す。リアと出会ってからなんだか充実してるな。

「湊ー?今開けたら怒るー?」

「えっ?!なんでだ?!何かあったか?」

「湊のお風呂姿覗こうかと思ってー!」

「そんなことしたら怒るにきまってるだろ!」

「あはは。わかったわ。」

 なんなんだほんとに。お風呂覗かれるって凄く恥ずかしいな。何でなんだろう。裸を見られる以上の恥ずかしさがある気がする。

 相手が服を着ていてこちらが裸だからなんだろうか?相手も裸だったらどうだろう。それはそれで恥ずかしいな……。

 ふー。今日のシャワーも気持ちよかったな。満足満足。

「やっと出てきたわね。なんでお風呂覗いちゃダメなの?」

「恥ずかしいからに決まってるだろ。リアだって覗かれたら嫌でしょ?」

「湊なら構わないわよ。」

「えっ?!」

「湊ったらえっちだね。そんなに私の裸見たいんだ?可愛いわね。」

「なんだ。からかってるだけかよ。男なら見たいに決まってるだろ。あんまり男をからかうなよ。」

「わかったわ。えへへ。」

 女ってやつは怖いな。すぐ自分の武器を使ってからかってくる。見たくない男なんているはずないのにな?!俺間違ってないよな?!

「私もシャワー借りていい?」

「おっ。そうだな……。」

「そう。ありがとう。それと服も借りたいんだけど……。あと、洗濯機も貸して欲しいのだけど。」

「そうか……。良く考えたらそうだな。確かにそうだ。そりゃお風呂入って服洗ったら着替えが居るよな?!」

「そうね。」

 そういえばリアの服とか何も考えてなかった。俺の家に泊まってるんだから、リアが持ってきてない限りないよな。普通に考えて。

 服とかズボンとかパジャマとかはあるとして下着とかどうしたらいいんだ?何もなくてもいいもんか?俺のパンツでもあったほうがいいのかな。わからん……。

「パジャマとか服とかは貸せそうなのあるんだけど、下着とかどうしたらいい?」

「なくてもいいわよ。直で着るわ。」

「まじかよ。」

「だってないんだもの。そうするしかないわ。」

 それってどうなんだ。俺はいいけど。女の子としてどうなんだ?大丈夫かな……。リアが着た服俺どんな顔して着たらいいんだろう。そもそも着たらだめか?

「分かった……。とりあえず着心地よさそうな服用意しとくよ。タオルも風呂の前に置いとくわ。」

「ありがとう。じゃ、お風呂場有難く借りるわね。」

「うん……。」

 家の中で女の子がシャワー浴びてる。凄くドキドキしてる……。何なんだこの感じ。

 これって覗いたりしたら死ぬかな?やばい。やばい思考が頭を駆け巡る。だめだな。精神統一しないと。

 ふう。深呼吸だな。いや、ネットで適当な動画でも見とくか。そうでもしとかないとリアの事が気になって仕方ない。

 ただ、動画を見てる最中もずっとリアの風呂の事が気になって頭から離れなかった……。

「ありがと、湊。お風呂頂戴したわ。」

「うん……。」

 お風呂上がりの女性って何て色っぽいんだ。出来るだけ露出の少なそうなパジャマにしといたけど、えろいな。

「お風呂覗きに来なかったわね?」

「するわけないでしょ……。」

「するわけないって、そんなに私の裸って興味ない?」

「興味ない訳ないでしょ。興味はあるけど、そんなことしたらリアに嫌われちゃうからだよ。」

「そんなことで嫌わないわよ。」

 いやいや、そんなことって。そんなことで済ませられないだろ?!とっても大事な事だろ!なあ!

「お風呂で裸になっているところを覗かれて文句言える立場じゃないもの。それぐらい自覚してるわ。それで文句言ってたら当り屋も良いところだわ。」

「いやいやいや……。そうはならないでしょ……。流石に飛躍しすぎだって。そういうのは暗黙の了解っていうのかな、覗かないもんなの。」

「湊ったら頭が固いわね……。」

「リアは自分が可愛いのをもっと自覚した方が良いと思うよ……。」

「私は自分が可愛い事ぐらいは知ってるわよ。」

「それもそうだったかも。」

 リアは結構な自信家だ。自信に伴うだけの実力もあると思ってるけど。何でもやるし、色々な事に挑戦してたイメージ。行動力がある人ってやっぱり自信があるのかな?

「お風呂の件は一旦今は保留にしといてあげるわ。」

 良かった。良かったって言うのも可笑しい事なのかもしれないけど、俺が理性を保てている間に空いてから引いてくれて助かった。

 欲望に負けて見る!なんて言ってしまったらお終いだ。それだけはしたくない。事件は起こしたくないからな。

「それはそうとお願いがあるんだけど。」

「なんだ?」

「一緒にゲームしましょうよ。一人でやってるのも楽しかったのだけれど、湊と一緒にゲームやりたいわ。」

「そか。よし!じゃあ一緒にゲームするか!」

「やった!やるわよー!」

 確かにゲームって誰かとすると、より楽しいんだよな。一人でするのも悪いわけじゃないんだけど、人数が多いとそれはそれで楽しいんだ。

 夏目とかともよく一緒にゲームしてるけど、楽しいんだ。ゲームにもよるだろうけど、春とリアと三人でできたりしたらいいな。

 この三人ならきっとゲームを楽しめるだろう。楽しくない訳がない。

「でも、二人でするゲームなら限られるな。何にしようか?」

「そうなの?」

「そうだな。昨日リアがやってたやつは無理だな。あれに関してはパソコンがもう一台ないとできないな。二人でできそうなゲームって何かあったかな。パソコンじゃなくて、ゲーム機でする奴の方がよさそうだな……。これの中から面白そうなやつあるか?」

ゲーム機のカセットをいくつか見せて、説明していく。

「これはどう?キャラクターが可愛くて興味あるわ。」

「それか……。いいんじゃないか?とりあえずやってみよう。俺も久しくやってなくて操作とかストーリー覚えてないな。」

 謎解きゲーだ。最大二人まででプレイでき、協力してゴールを目指すゲーム。案外謎を解けるときはスムーズに解けていくんだが、一回分からなくなるとそこで止まったりしてしまうんだよな。このゲームはワープが醍醐味なんだよな。出来るだけリアに謎解きの部分はやらせてみよう。

 チュートリアル部分が終わり、本題へ進んでいく。

「大体わかったか?」

「多分ね。進んでみないと分からないわ。」

「それもそうだな。とりあえず進もう。分からなかったら聞いてくれ。」

「ええ。」

 そうして、道なりに進んでいく。そうすると最初の難関部分まで到達した。ここは少し頭を捻らないとクリアできない。今までの応用が必要となる。

「わかったか?」

「うーん。そうね。多分分かったわ。湊そこまで行ってくれる?」

「ああ、分かった。」

「で、私がこっちに行ってと。これで行けるんじゃないかしら?」

 画面に一面クリアの文字が。リアは賢いな。俺はやってる時もう少しかかったな……。俺がバカなのかな……。

「凄いな。何にも引っかからずにクリアまで行けたな。簡単だったか?」

「そうね。手こずる場面はなかったわ。」

 嫌味ゼロだな。確かにどこにも手こずってなかったし、理解してなさそうな場面も無かった。最初だしな……。

 それからも手こずったりクリアできない所が一切なくエンド画面まで行ってしまった。

「リアは凄いな……。初見プレイで最後まで手こずらずに行けるって中々いないんじゃないか?」

「そうなの?中々面白かったわ。湊はどうだった?」

「俺か?俺は素直にリアに感心して面白かったな。なんかスゲーって感じだった。」

「ならよかったわ。私だけ楽しんでてもしょうがないものね。」

「そんなことはないと思うが。まあ、俺もリアが楽しかったんならよかったよ。」

「ええ。」

「そろそろ寝るか?」

「そうしましょうか。湊も明日学校なのでしょう?私も少し眠たくなってきたわ。」

「そうだな。」

「じゃあ一緒に寝ましょう。こっちこっち。」

「だめだ。一人で寝てくれ。流石に二人で一緒の布団に入るのはだめだ。」

「嫌なの?朝起きた時だって私の体触ってたじゃない。減るもんじゃないし、私はいいのよ?」

「それでもだめだ。嫌じゃないけど、だめなもんはだめだ。俺はこっちで寝るからリアがベッドで寝てくれ。」

「湊はいけずね。分かったわ。もしそっちが辛くなったらいつでも来ていいのよ。」

「行かないよ。ほら、さっさと寝るぞ。」

「ええ。おやすみなと~。」

「おやすみなとって……。おやすみ、リア。」

 おやすみなと……。何だそれって思ったけど、意外と気に入ってしまっている自分がいるのが悔しい。リアには内緒だけどな……。

もし、興味を持っていただければブックマークや高評価などしていただければ助かります。

少しずつ物語に変更を入れる予定です。物語の結末などには変化は入りませんが、日常話や細かいところを修正したいと思ってます。よろしくお願いします。

また、感想や指摘などあれば受け付けてますのでお願いします。


皆さんはこの物語どう感じていただけたでしょうか。

書いてみたら誰かに読んで欲しくなり投稿させて頂きました。

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