朝多マヤと宇佐美文雄
夢を見ていた。
最初に見たのはブラインドカーテンから覗くクック先生の姿だった。
クック先生とはモン○ンで最初に相手する登竜門的存在だ。
それがノッシノッシと歩いて窓の向こうへと消えていく。
クック先生は音に敏感なので息を殺し、完全に通過するのを待つ。
クック先生が去ると私は一息吐いて再び眠りの中へと落ちていく。
「・・・きて・・・起きて!」
その声に顔を上げると私を起こすウェーブのかかった栗色の美少女が制服姿で私の事を揺さぶっていた。
「早くしないと遅れちゃうよ!」
「・・・遅れる?」
私が問い返すと栗色の髪の美少女は「もう!」と腕を腰に当てて溜め息を吐く。
「また何か発明してたのね。マヤも女の子なんだから、もう少し意識しなさいよ」
「ご、ごめん。ついつい楽しくって・・・」
「言い訳はいいから、早く早く!
今日は大事な日でしょ!」
ああ。そうだ。今日は進路を決める大事な日だった。
なんで、そんな大事な日を忘れていたんだろう?
「ほら、さっさと行くよ!
早くしないとみんなにも怒られちゃうよ!」
「う、うん」
私は頷くといそいそと着替え始める。
ーーと言っても、横着な私の着替えは至ってシンプルだ。
寝巻きだった肌シャツと短パンの上からワイシャツと制服を着れば、完了なのだから。
「また、そんな横着して!」
「時間ないんでしょ?これで勘弁してよ?」
「確かにそうだけど・・・もう、何も言わないから、寝癖を直してきなよ?」
「うん。もうちょっと待っててね?」
私は彼女に頷くとパタパタと走って行って洗面所の鏡を見ながら薄い桃色髪の寝癖の部分を直す。
私、朝多マヤは今日も一日、充実した学校生活を送るぞ!
ーーー
ーー
ー
そこで俺は目を覚ます。
また、おかしな夢を見た。
しかもかなり、鮮明に覚えている。
鏡に写った自分は平凡な一般男子高校生の顔ではなく、薄い桃色髪の美少女になっていた。
ーーと言っても、実際はかなり横着ものでやや、残念な美少女である。
それでいて、ある分野のエキスパートだと来ている。
自分で言うのもあれだが、かなり癖が強いキャラだったと思う。
「ーーっと、もうこんな時間か。俺も遅刻しそうだな?」
俺は寝巻きを脱いで、いそいそと制服姿に着替えると自分を鏡でチェックする。
目の前にいるのは眼鏡を掛けた冴えない男子高校生ーー宇佐美文雄だ。
朝多マヤと言う天才美少女ではない。
そう自分に言い聞かせ、俺は学校へと向かう。
途中でパンを買って、小腹を満たすと俺はポツリとぼやく。
「・・・進路か」
俺はマヤと栗色の髪の美少女の話で自身の現状を重ね合わせ、自分はどうするかを悩む。
正直、やりたい事などない。
せいぜい、小説家になりたい事くらいだろう。
もちろん、それで食べていけるとは思っていないので何かしらの就職やバイトはすると思うが、本当にどうなるのだろうか?
俺はそう思いながら、ギラギラと照りつける太陽を見上げた。
梅雨だと言うのに今日も一日暑くなりそうだ。
早くクールビズになって欲しく思う。
そんな事を考えながら、俺は学校を目指して再度歩き出す。