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キョーコとヨーイチ  作者: バスチアン
耳かきはひとにやってもらう方が気持ちいい
7/9

耳の中をサリサリ


 ようやく片付いて空になったダンボールを紐で縛る。


「はい、終わり」

「ってか、早く片付けろよ」

「ごめん、ごめん」


 言いながら、ちょっと広くなった部屋を見渡してゴロっと転がる。


「つかれたー」

「ちょっと箱開けて片付けただけだろ」

「いや、休みの日にすることはないでしょ」

「むしろ休みの日にしなかったら、いつするんだよ」

「う~ん、気が向いたら?」

「まぁ、いいけどさ。窓閉めるけどいいか?」

「開けといて。まだちょっと埃っぽい気がする」


 鼻をムズムズさせながら答える。

 むぅ、埃っぽいせいか耳まで痒い。


「ん~~ぅ」


 寝っ転がったまま背伸びしながら手を伸ばす。目標はテレビの横。その脇に置かれている耳かきだ。

 よし、届いた。


「ん、耳かきして」

「はいはい」


 大人しく耳かきを受け取るとそのまま座るので、私はゴロゴロ転がりながらヨーイチの膝に頭をにじり寄る。ヨーイチの方も慣れたものだ。私の頭、お膝の上にON!


「じゃあ、するぞ」

「うん、やって~」


 最初はビビりまくっていたヨーイチだが、何度かやってる内にすっかり慣れたのか落ち着いた様子で耳かきを構えた。

 ゆったりとした手つきで耳朶(じだ)に触れるとゾワリとした感触が背筋を走る。


「どうした?」

「ん……いや、触りかた上手になったじゃん」

「偉そうだなぁ」


 呆れながら耳かきの先端をゆっくりと耳たぶに当てると耳つぼを押すように先端を、くいっ、くいっ、と圧しつけていく。

 まずは耳たぶの柔らかい所。焼成する前のパン生地みたいな柔らかさの耳たぶに鋭い先端が食い込んでいく。


 くいっ、くいぃ、くいぃぃっ


「うぅ~、ピリッとくるわ~」

「イイ感じ?」

「うん、イイ感じ」


 当たり前だけど耳の外側だから少しくらい強くしても大丈夫。ちょっと痛いくらいが気持ちいい。そんなイタ気持ちいいのが脳髄を刺激する。

 マッサージされるように刺激された耳が熱くなる。それに私が満足していると、ヨーイチは今度は耳かきの匙で耳介の溝に溜まった垢をゆっくりと搔き出していった。


 ズズ、ズズズッ……


 外周からゆっくりと耳かきが垢を掘り起こしていく。


 ズ~~ッ、ズゥ~ッ……


 外からじっくりと内の方へ耳かきは進む。割と先が薄い耳かきを使っているので軽めのタッチだ。

 耳の皮膚を傷つけないように、先端の部分が耳の溝を擽るようにしてゆっくりと外周の耳垢を搔き出していく。


「ん~~、イイ感じだわ」


 ずい、ずぃ~っと耳かきが這う度に、耳の汚れがこそぎ取られていくのがよく分る。


「はいはい、そうですか」

「うん、実にトレビアンな心地だわ」

「何語だよ?」

「分かんない。それよりも耳の穴の中もやってちょうだい」

「へいへい」


 注文の多いお客の要望にも専属耳かき師は応えてくれる。

 ヨーイチは慎重な手つきで私の耳たぶを引っ張る。耳たぶを摘まむ指の力は痛みを感じるちょっと手前くらい。こうして耳たぶを引っ張ると中が見えやすいらしい。私としても耳たぶを引っ張られたときのピリリとした感じが何とも心地よい。


「んじゃあ、入れるぞ」


 言いながら、匙の先端の部分が、すっ……と耳の穴の中に入る。

 研ぎ澄ました刃物のような気配がした後、薄い匙の先端が耳孔の入り口の部分に触れた。


 さりさりさり……


 溜まって層になった耳垢の表層。それを耳かきの先端が少しずつ削っていく。


 さりさり、さりさり……


 乾燥した細かい耳垢。それをかき集めるようにして匙は耳壁を舐め上げる。


「ん……イイ感じ」


 触られているのは入口のすぐ側なんだけど、この辺りって自分の指では届かない。そこを細い棒の先端が見事にはまり込み、さりさりと耳垢をこそぎ取っていく。その力加減も絶妙。こそばゆいと痛いのまさに中間だ。何度も入口と奥を行き来した耳かき棒は動くたびにビリりとしたイタ気持ちいい感覚に伝えて来る。


 さりさりさり……ざりっ


 そんな心地良さの中、耳の中に引っかかるような手ごたえあり。でっかい塊がこびりついているんだろう。これは今日のメインディッシュだな。


「ちょっと力入れるぞ」

「は~い」


 獲物の姿を捉えたヨーイチは固まった耳垢の表面をカリカリと引っ掻いた後、その根元へ向けておもむろに先端を差し込む。


 ガリッ!!


 大きな音が聞こえる。耳かきの先端は確かに得物の根っこを捉えていた。

 耳垢はびっしりと私の耳壁に根を張っている。それを耳かきの先端にある匙のカーブを使ってテコの原理でグイッと引きはがす。

 これは……入ったな。


 バリリッ!!


 さらに大きな音が鳴る。同時に首筋に電気が走るような強烈な快美感が私の全身を貫いた。


「くぉっ…………ん」


 思わず声が出る。

 しかしそれでもヨーイチの操る耳かきは止まらない。先ほどの一撃で砕けた耳垢の塊を匙で掬い取ると、海に沈んだ太古の船を引き上げ作業(サルベージ)するように力強く持ち上げる。


 ぐい、ぐいっ、ぐぐぐっ……


 匙の先端を耳壁に、ぐいぃっと押しつける。


 ずり、ずりりぃ~~ぃ


 背中がゾクゾクするような快感と共に大きな塊が耳の穴から引きずり出される。


「あぁ~、脳みそ引きずりだされそ~」

「怖いな、おい」

「そんくらい気持ちいいのよ」


 かゆい部分に溜まっていた垢が搔き出される。じっくりと時間をかけて引きずられた末に耳垢が摘出された。その後にやって来るのは圧倒的な解放感だ。


 ズササ、ズサササ……ゴポッ!


「うぅ~~~~ぅ」


 心地の良い電撃が頭の先からおへその下まで走り抜ける。


「あ~ぁ、いいわ~、ヨーイチってば上手になったじゃない」

「そりゃどうも」




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