背中をボリボリ
ある日のこと。
最近買ったばかりのお気に入りのマグカップでココアを飲みながらテレビを見ていた時だ。急に何か背中が痒くなってきた。見ている番組はファミレスの舞台裏みたいな内容だ。お笑い芸人のガリガリボーイがMCをしている情報バラエティで、名物のハンバーグが如何に技術の粋をこらして作られているのか熱弁している。つまり番組内容は関係ない。もちろんココアもマグカップも関係ないだろう。
「何? どーしたの?」
隣で一緒にテレビを見ていたヨーイチが訊いてくる。
「いや、何かちょっと背中かゆい」
言いながらもじもじと身をくねらす。何だか背中にアリでも這ってるみたいだ。
ウズウズする。
「乾燥肌? やっぱ加湿器買った方がいいかな?」
「でもヨーイチ、毎日水入れ替えるとか無理でしょ」
「うん、無理。メンドイ」
「でしょ」
タオルを干すとかでもいいんだけど、それも難しいだろうな。コイツは昔からめんどくさがりなのだ。
最近1Kから1DKの部屋に引っ越して2部屋分を温めることになったエアコンはガーガーと雄たけびを上げながらも健気に働いてくれている。
それにしても背中がかゆい。
「う~ん、かゆ~い~」
言いながらクルっと後ろを向く。ヨーイチの目には私の背中が映っているはずだ。
「背中掻いて」
「やっぱ、そういう流れか……」
「いいから、早く」
「へいへい」
言いながらヨーイチの手が私の手に向かう。
爪の先がシャツの上から背中に触れた。
ポリポリ、ポリッ
上へ下へと爪が走る。
「どう?」
「ん……もっと上」
「この辺?」
「違う、もっと左」
「……ここ?」
「違うわよ、ここよ」
そう言って、左の肩甲骨の内側を指さす。
「いや、届くんなら、そのまま自分で背中掻けよ」
「他人にやってもらうのが、いいんじゃん」
「まぁ、それは分からないでもないけどさ」
ブツクサ言いながら左の肩甲骨の内側に指が伸びる。
ポリポリ、ポリポリッ
今度は良い感じで爪が引っ掛かる。
「ん……そこ、良い感じ」
「それはどーも」
肩甲骨に沿って指先が這うと、ポリポリという音とともにかゆい部分が塗りつぶされていく。
ヨーイチの爪の感触を味わいながら、私は身を震わした。
「うぅ~ん、そうそう、そこ。もうちょい強めで」
「へいへい」
注文に応じて背中への圧が強まる。同時に痛みにも似た快感が私の背中を走り抜けた。
ポリポリ、ボリボリ
シャツの上からヨーイチの爪が的確にかゆい部分を攻撃してくる。
「そうそう、そんな感じよ。上手じゃない」
「そーですか」
「うむ、余は満足じゃ」
背中のかゆい部分をイイ感じに掻いてもらって、私はすっかりご満悦だ。
「う~ん、気持ちい~い♪ 次は右の方もお願いね」
「へいへい」