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キョーコとヨーイチ  作者: バスチアン
肩こりに困っている人はいろいろ試す
2/9

ビリビリするアレ


 ヨーイチの部屋の隅に転がっている謎の物体を見て、私は声を上げた。


「ねぇ、コレ何?」


 それはエアコンのリモコンみたいな本体から2本のコードが伸びた器具だ。プラスチックで出来ている割には持つと意外と重い。それを見てヨーイチは頭を捻る。


「ああ、それね……ええっと……名前は何ていうのかな。ほら、アレだよ」

「あれって、何よ?」

「アレだよ、ほら……えっと、電気治療器? 肩こりとかに効くヤツ。腰でも足でも使えるんだろうけど」

「電気って、ビリビリするの? バラエティ番組みたいな?」

「設定強くしたら痛いかな。あんまりビリビリって感じじゃないけど」

「ふぅ~ん」


 ビリビリしないのか。ちょっとつまんないかも。

 それが顔に出たのかヨーイチは言う。


「そう言えばキョーコって、子どもの頃からああいう番組好きだよね、昨日も見てたじゃん」

「ガリガリボーイのヤツ?」

「そう、それ」

「最近MCばっかりで身体張ってくれないのよね。昔はもっとハードなロケとかもやってたのに」

「まぁ、それはコンプライアンスとか最近うるさいから、ガリガリボーイのせいだけじゃないと思うけど」

「また、電流ビリビリのネタやってくれないかな」

「あれはもう難しいんじゃない?」

「かな~」


 ちょっぴり不満に思いながら、手に取った電気治療器を眺める。思い出すのは小さい時にヨーイチと一緒に見たTV番組だ。

 そんな思い出に混じってヨーイチが言ってきた。


「せっかくだから、ちょっと使ってみたら? 芸人の気分に(ひた)れるかもよ」

「別に芸人になりたい訳じゃないんだけどね」


 ヨーイチのしたり顔を見て苦笑しながら、私はシャツのボタンをふたつ外す。何だかんだで、この新たな肩こり解消マシーンに興味津々なのだ。

 伸びたコードを手に取り……そうして私は首を捻った。


「どうしたの?」

「いや、これってさ……どうやって使うの?」


 ON/OFFのスイッチがあるから、ここが電源だっていうのは解るけど、下手に触って痛かったら嫌だ。それを察したヨーイチは「ああ」って頷きながら、コードの先端にあるパッドを私の肩につけた。粘着力のあるパッドは冷っとしてびっくりしたのだが、それは最初だけですぐに肌に馴染んでいく。


「それじゃ、電気つけるぞ」

「いきなり強くしないでよ」

「いちおう聞くけど、それってフリ? 押すなよ、押すなよ……みたいな?」

「違うわよ」


 ヨーイチの軽口に頬っぺたを膨らますけど、直前にバラエティ番組の話をしていた私も悪い。

 そうしてスイッチからカチっと音が鳴る。

 ん?


「何も感じないんだけど……電気流してる?」


 ビリビリはしないと聞いていたものの、コードのついたパッドからは何の感覚もない。


「流してるよ。んじゃ、ちょっと強くするぞ」

「OK……ん、うぉ!?」

「あれ? 痛かった?」

「ううん……だいじょうぶ、ってか、う……」

「う?」

「うひゃひゃ、何これ、くすぐったい、うひっ、うひゃひゃっ」


 変な笑いが漏れてくる。

 何しろパッドから流れて来る電気がとんでもなく()()()()()()()だ。


「うひっ、うひひ……ヤバ、これ、おもしろい」

「面白いか?」

「うん、これ、うひゃひゃ、面白いっ」


 微弱な電気が筋肉を震わす。この身体を内側からこそばされる感覚は他では感じることの出来ない感覚だ。

 何だろ? 確かにこれはビリビリじゃない。筋肉が勝手に震えているっていうか、プルプルする感じだ。電気ってこんな感じなんだ。肩の筋肉も笑い出す。


「うひゃひゃ、ひゃひゃひゃ」

「そんな笑うかな?」

「いや、笑うって、すごいこしょばい」

「そうかぁ?」


 ヨーイチ不思議そうな顔をするけど、これ笑うでしょ。

 すごい、こしょば気持ちいい。


「ねぇ、ちょっと電気強くしてみて」

「いいの?」

「うん」


 電気の刺激はこしょばくて面白いんだけど、ちょっと弱い。コリをほぐすには物足りないかな?

 私の注文にヨーイチが強弱のスイッチを押す。


「うおっ! 何かつねってきた!?」


 (くすぐ)るような電撃が力強いものに変わる。指でつねってるみたいな感覚だ。


「すごっ、肩……揉まれてるみたい」

「ああ、そうだろ。俺もこれくらいが好きなんだよね」

「あぅ~、効くわ~~っ」


 肩から伝わるヘンテコな快感に身体の力が抜ける。

 電気が流れるたびにビクンビクンと筋肉が踊り、その度に心地の良い痛みが背筋を走り抜ける。


「効く~~ぅ」


 口を半開きにしながら私は(もだ)える。

 そこでちょっと思いついた。


「ねぇ、もうちょっと強めにしてみて」

「ああ、いいけど……ちょっと痛いぞ?」

「いいよ、いいよ、ちょっとだけだから~♪」

「そ、そうか……じゃあ」


 ヨーイチが強弱のスイッチを押す。


「いだだだだだ痛いっ!! ちょっ、止めて、止めてぇぇ!!」

「お、おお」

「うぁぁ……痛かったぁ~」


 やり過ぎた……っていうか、ビリビリはないけど本当にバラエティ番組の芸人みたいになるわ。

 やばぁ~。


「もうちょい緩めでお願い」

「あいよ」


 中くらいの強さで電気が流れ出す。


「あぁ~~っ、やっぱこれくらいがちょうど良いわ~っ」

「だよな~」

「あぁぁ~、きもち~ぃ」



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