第7食目:穀物をすりつぶしたハンバーグ
「この大陸は食物が溢れている」
カリスナダさんは、お肉を炒めながら話をしてくれる。
「はいです」
「聖女の力によるものだが、果実はいつも実り、畜産の動物は飢えに苦しまず、いくらでも飼うことができる。穀物も常に収穫可能。水もいつも新鮮」
二つの鉄鍋を自在に操りながらお料理。
あれ凄い重いんじゃないかな?
力持ち。
「新鮮な食材は美味しい、余計な味付けはいらない。だからシンプルに煮込むだけ、焼くだけになる。それで美味しいからなのだが。そうなると料理の技術が発展しない。こっちの大陸はな。飢えには困らないのかもしれないが、他の文化の発展が遅れているのだ。装飾品もそうだな。なんというか、生活に困らないからか、向上心が生まれない」
鉄鍋から美味しそうな匂いが漂う。
「この節制の制約もそうだ。実はな、私の故郷の帝国も似たような節制をしている方たちがいる。神教の皆さまだ。この方たちも節制を心がけており、肉も魚も食べない。なのだが、穀物だけとか苦行以外のなにものでもない。なので、教義に反しない食べ物は他にあるのか。そして、穀物自体で美味しい食事は出来ないのか?模索し続けた」
鉄鍋の動きが止まる。
「出来上がった。ルピアを呼んできてくれ」
「はーい」
なんだろう?今のお話とお肉の料理関係あるのかな?
疲れた顔をしてルピアが戻ってくる。
「ごはんだよー」
「……貴女の能天気さを分けてほしいわ。切実に」
またなんか言われたのかな?大変だなー。ルピア。
「今日はカリスナダさんの手料理」
「ええ、お肉の匂いがするわね。でも、私はお肉は…」
「ああ、きたきた。はい、こっちがルピア。こっちがミル」
「あれ?なんかお肉の色が違うです」
ルピアのはなんかお肉が崩れてるし。
「ルピアのはね、肉は全く使ってない。全部穀物だ。穀物をすりつぶして、肉と同じような食感と見た目を再現した食べ物だ。私たちは『スイーゼ』と呼んでいる」
「え!?これが穀物!?」
「見えないだろ?だましてないよ。鍋から全部変えている。肉は一切使ってないから安心して食べると良い」
「は、はい。頂きます」
私も食べよう
「う!うま!カリスナダさん!この肉料理うまいですよ!」
「そっちは素材を生かしたシンプルな料理だ。そのうえで、スイーゼも食べてごらん?」
「!!!え!?なんか味はさっぱりしてますけど、これも美味しいし!」
「凄いだろう?これぐらいのことをやるのが創意工夫ってやつだよ。こっちの大陸にはこういった工夫が足りない……って、ルピアどうした!?口に合わなかったか!?」
見るとルピアが涙を流していた。
「……ち、ちがう。おいし、すぎて。これ、めちゃくちゃ、おいしい…」
涙を流すほど美味しいわけですか
「ルピア、スイーゼも美味しいので、私にも分けて……」
殺気。
純然たる殺意が私を射貫く。
「お肉食べまーす」
お肉の方が美味しいもんね。うん。
「おなかがいっぱーい」
わたし、幸せ。
「…ミルの気持ちが少し分かったわ」
ルピアも食べ過ぎたみたいで横になってる。
「学園も大変だろう。せめて食事は楽しくとりなさい」
「……そうだ、ミル。明日ね、対抗戦があるから」
「対抗戦?」
「ボールを使った球技があってね。それの対抗戦。有力候補5人で競うんだって」
「……なんのためにです?」
「だれが転生体に相応しいのか」
「ごめんなさい。私はこっちに来て日が浅いのでさっぱり意味が分からないのですが、転生体って球技で決めるんですか?」
「そんなわけないでしょ」
「じゃあ、なぜ?」
「私が知りたいわよ。なんかそういう話になったって伝えられたの」
「本当に意味が分からない連中ですね」
「半年後に正式に決まると言われて、みんなの心がざわついているのよ。なんかやってないと落ち着かないんじゃない?」
「災難ですね、ルピア」
「他人事じゃないのよ、明日球技やるのミルだから」
…………
「意味分かんないし!!!」
「転生体が怪我しちゃダメだろうってことになって、代理でやるらしいわよ」
「だったらそもそも対抗戦を辞めれば良いんじゃないですかね!?」
そもそも、本当はわたしが転生体じゃないの?
「わたしもそう思って反対したんだけど、もうほかの4人は納得してるって言うし。あなたが怪我するのもいやだったんだけど……」
と、肉の皿を見て
「まあ、節制もロクに守ってないし、今更怪我の一つや二つしても今更な気もしてきたし」
「なんか扱いが適当ですね!!!」
ルピアが酷いのです。
「別に負けたっていいのよ。けがをしないように適当にやって」
翌日
朝から球技。
「やあ、ミル。君がルピアの代理かい?」
タチアナさんが話しかけてくる。
「はいです」
「球技なら僕がやりたいんだけどねー。なんか転生体候補は怪我しちゃだめって。みんな候補生なのにね」
「わたしもまったく同感です」
タチアナさんとは話が合いそうです。
「ミル、呼ばれてるよー」
「はーい」
では行きますか。
「ルールは単純。ボールを遠く飛ばした方が勝ちです」
えーーーーーーー
「怪我のしようもないじゃないですか。私的にはボールのぶつけ合いとかだと思っていたのですが」
「そんなことをして怪我をしたらどうするの!?」
怒られる。
そんなこと言い出したら、こんな争いなんてしなければいいのです。
「じゃあ、ルピアの代理、ミルから」
「はーい」
負けていいらしいし、適当にやろう。
「いっきまーーーーす」思いっきりボールを投げる。
そのままボールはネットに当たる。
「あり?このボールよく飛びますね」
「……ミル、そういえば」
ルピアが私の身体をペタペタと触る。
「わ、なんですか」
「……ミル、ジャンプ」
「ふえ?」
言われた通りジャンプをするが
「うん、運動神経凄いのね、あなた」
「……?そうなんですか?」
初めて言われた。
他の人たちは結局ネットに届かず、私とルピアの勝ちとなった。
お昼休み
「ミルの運動神経、知能は異常に高いよ。ルピアは気付かなかったのかい?」
「すみませんジュブグラン様、まったく…ご飯の事しか喋ってなかったので、気づきませんでした……」
おばあちゃんが学園にいたのでお話する。
「今度一緒に水浴びするといいよ。選ばれた理由が分かる」
「……え?ま、まさか!?」
ルピアが私の胸を掴む
「わ!?な、なんですか!?ルピア!?」
「……じゅ、10歳で、ちゃんと膨らんでる…」
「将来性豊かだろ?」
「なるほど……」
色々納得されたようですが
「お昼ご飯の邪魔しないでー」
美味しくなくても、お昼ご飯なのにー。