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第XXXXXX話:世代交代

ヒルハレイズからの報告を聞き、私は頭を抱えていた。

「この大陸の病はもはや癒しがたい」

「聖女様、一刻も早くミルティアを聖都に呼び寄せ教育をさせてください」

ヒルハレイズの懇願。


この大陸には怠惰が蔓延まんえんし、私への信仰を理由に努力することを放棄していた。

その信仰ですら形骸化けいがいかしており、真の信仰心とは言い難い。

単に怠ける理由に信仰を持ち出しているだけだ。


「……転生候補体の様子は?」

「ジュブグランの報告では、スティアナはかなり厳しい精神状態のようです」


「ヒルハレイズ、ミルティアを聖都に招く用意をしなさい」

「はい!」

ヒルハレイズの喜んだ顔。

宰相としてのヒルハレイズはもう限界。

それは本人も、私も知っている。

だが他にいない。

だから仕方なかったのだが、少し前からヒルハレイズはミルティアを推薦し続けていた。


まだ幼い。だが知能はずば抜けている。

潜入させた召使いに問答させても、その賢さは折り紙付き。


聖都に呼び、宰相としての教育をさせて欲しい。

そう聞いていた。

だが

「ミルティアの出自を調べなおした報告書読んだわ」

「はい。あの両親の無関心は異常だと思いましたが、不義の子であれば納得します。

父親は教育、育児に不干渉なのは有りがちですが、母親があそこまで会いもしないのは、その罪悪感なのでしょう」


「……時期で言うと帝国の識都に行った時に孕んでいる。ヒルハレイズ、あの娘の異常な知能、なんだと思う?」

「……?どういうことでしょうか?」

「本当に人間なの?」


「……?え?ま、まさか!?龍族ですか!?ですが、母親は間違いなく人族ですよ!?」

「ドラゴンハーフの可能性があるわ」

「父親が龍族ですか……?しかし、男性の龍族など聞いたことがありません」


「龍姫から以前聞いたわ。過去に例はあったけど全員殺した。今は禁止していると」

「では」

「生き残りがいたのかも知れない。龍姫に聞いても無駄だから聞いてないけれども、私の予想はそう」


「……ドラゴンハーフですか。龍族同士の絆などがあると厄介ですね」

「ヒルハレイズ、私はそう思うわ。だからね」

私は立ち上がり

「ミルティアは転生体として招くわ」

「……は?」


「スティアナがダメになったら次はミルティア」

「な!?しかし」


「ドラゴンハーフを支配する。この大陸の苦境は貴女のせいではないわ。ヒルハレイズ。私の精神の腐敗が招いた。私から変わる。私が変える」

=====================



転生の儀式、ミルティアの精神に侵入したが、即後悔した。

『なによ、この化け物』

自我の確立が凄まじいのは、以前精神攻撃したソレイユで知っていた。

ところが、それだけではなかった。


二重思考での防御。

自我攻撃の隙に魂の攻撃と思ったが、二重思考で、魂の攻撃までいかないのだ。


『二重思考ね。カリスナダの観察でそれっぽいのは分かってはいたけれども』

ここまで強力とは思わなかった。


『じゃあ最終手段ね。本当に賭だけど』

向こうが二重思考なら、こっちも二重攻撃。


ルピアへの精神攻撃をして、二重思考をそらしている間に、ミルティアの魂を頂く。

私は力を分散しルピアに精神攻撃を行うと


『ルピア!!!????』

ルピアの悲鳴でミルティアの二重思考の防御が解ける。

やはり、ミルティアにとって、ルピアは特別な存在。

だから


『頂いた』

ミルティアの魂に直接攻撃をした。


その刹那せつな


『……これは』

魂。欲求。

カリスナダの魂は無防備だった。

龍族の魂は無防備。

だが、この娘の魂は


『あれでも欲望をコントロールしていたのか。凄まじい欲望ね』

偉大すぎる魂。

大きすぎる欲求。


私の、聖女の魂はそれに飲み込まれる。

『ここで消滅か。まあ運命だったのかもね。名前からしてそんな感じがしたしなぁ』

名前。

ヒルハレイズから報告を受けたときから衝撃を受けたその名前。


ミルティア。


私を育てた、私を守った乳母。育ての親。

その人の名前。

ミルティア。


『ミルティア、貴女の元にいくわ。母様の顔も知らないけど、貴女なら紹介してくれるわよね』

乳母のミルティアは、このミルティアとは真逆の存在だった。


賢いとは言い難い。

闇雲な信仰は頑迷だった。

ただ、ひたすらに仕えていた母と、その娘の私を守り続けていた。


『結局記憶は残る。ミルティア、後はお願いね』

正直疲れた。

乳母の元で無邪気に過ごそう。

敗れはした。でも

『これでいいのよ。きっとね』

=====================



「ルピア、聖女様の記憶の整理が終わりました」

「そう。それで、私はどうすればいい?」


「アラニアへの支援とオーディルビスへの報告。エウロバさんは帝国支配をします。それに対して支援しましょう。

オーディルビスのタチアナさんは、積極的に拡大路線を続けるはずです。南群諸島を攻めるでしょうね。認めてあげてください」


「分かったわ。私はそういう事をすればいいの?」

「はいです。外交官として色々動いて頂きます。それとですね」


私は鈴を鳴らして召使いを呼ぶと


「私と一緒にお食事する義務をですね」

「……聖女様になっても食事……」

「大事なんですよ。食欲で私は魂守れたんですから」

=====================



エウロバは新都に乗り込んだ。

既にマディアクリアの手により、皇帝一族と重臣達は捕らわれていた。


「皇帝一族は丁寧に取り扱いなさい。誰一人として、殺す気は無いわ。重臣の皆さんも安心して。殺したり追放する気もない」


皆が安堵の表情を浮かべる。

「私には野心がある。だが、すぐになにかを変えるつもりはない。今の陛下も降ろさないわ。私はあくまでも政務を行う。重臣の皆様達とも相談しながら進めます。

真っ先に変えるのは公国の帝政への関与ぐらいよ」


重臣達は「まあ、それぐらいなら」という顔をしていた。


「私の婚約者の妹であるビルナは、陛下の弟さんに嫁がせるわ。良い子が産まれるといいわね」


そして

「という訳で。いきなりは全部を変えないけれども。私に付いていけない奴は容赦なく切り捨てる。分かった?ちゃんと着いてきてね」

エウロバは、帝国の重臣達に宣言した。

=====================



聖女の代替わり。

それは念話によってなされた。


信徒全てに伝わるような念話。

相当なエネルギーを使うので、基本は行わない。

だが最初が大事だと言わんばかりに、ミルティアはその力を振るった。


『聖女を慕う全ての民に伝えます。聖女は転生しました。代替わりした私は皆さんにお伝えしなければならないことがある』


民は、手を止めて聖女の声に耳を傾ける。


『この大陸に蔓延する病は深刻です。この病は少しずつ皆さんの心をむしばみ、深刻な事態を招いている。

私は転生によりこれを駆逐する。その病とは、怠惰のことです』


ミルティアは念話を続ける。

『怠惰が努力を駆逐した。努力なくして成長は無い。怠惰により、失われた命は数限りない。私は、この怠惰を無くす。つまり』


『努力無き民に祝福は与えません』

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― 新着の感想 ―
[一言] 因果であったか…… ほんと、エウロバ有能。 やりよった! うん。当人では思っててもできなかった決断。 文字通り人が変わらないと出来なかった。 ミルは最後の思いまで受け取ってしまったのか…
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