第35食目:蜜と果物、ルピア乗せ
私の能力は多岐にわたる。
生命エネルギーを吸い取り、それを還元する事が出来る。
もう一つ、信仰エネルギー。
私を心から崇める心は、こちらが吸い上げる事もなく、勝手にエネルギーとして来る。
毎回誰かのエネルギーを吸い取るわけにもいかない。
それだと、平和な時に祝福が出来なくなってしまう。
そのために、信仰エネルギーを集める事を最優先にした。
乳母との対立もそれが原因。
それがこの悲劇を招いた。
「信仰エネルギーを集める方向性は間違っていない。間違っていたのは、集めさせた人間だ」
元はカルト的な集いだったせいか、選民意識か強かった。
だから最後は「私こそが聖女様の意思」
とばかりに、勝手に暴走したのだ。
これから先は自分で全てを行わなければならない。
その為の能力。
それが『信徒の声』と呼ばれるもの。
聖女として、祝福を続ける中、この能力が発現した。
民の声、私への願いが、信仰エネルギーと共になだれ込んでくるようになったのだ。
私への祈りとは、すなわちお願いだ。
世の中には様々な不満がある。
私はこの『信徒の声』を元に、祝福を使い、信仰エネルギーを集めるようにした。
それが、乳母が殺された翌年の14の時。
そこからは地獄だった。
とにかく、人間の欲望に際限はない。
いくらこちらが叶えても、感謝すらせずに次の願いをする人間だらけだし、それどころか、叶えた内容にケチをつけて、逆恨みする者もいた。
それでも、他人に任せれば悲劇が起きる。
だから、私は歯を食いしばって祝福を使い続けた。
その結果は、私を信仰している国々ではなく、他の国で現れた。
即利益が出る私の祝福に、勝手に信仰を変える民衆が続出したのだ。
これにより、国としての信仰見直しの動きも進んだ。
なにしろ、私を信奉する国々は大陸の半分を占める。下手な対立は国の存亡に関わる。
そして、大陸内は三国を残し、全て私の信仰に切り替わった。
このあたりで、破綻寸前だった。
もう、祝福はやってもやっても終わらないのだ。
人の願いは昼夜問わない。
緊急性の高いものから手をつけるにしても、まとめきれない。
仕方がないので、私は
「司祭」と「神官」を用意し、ひたすらに『信徒の声』を纏めさせた。
それを見ながら祝福をする事にしたのだ。
そして、このあたりで私の能力の限界を知り得た。
まず、死人は蘇らない。
これは乳母の時に何度も試した。
それとなにも無いところから、なにかを生み出すこと。これには制限があった。
特定の穀物は生み出せた。
特定の花も生み出せた。
だが、金属や、肉、その他の生命をゼロから生み出すことができない。
様々調べたところ
「空気中に存在する種子が手のひらに集い、祝福の力で成長させたのではないか。だから、種子などがない、金属、肉などは生み出せない」
つまり、完全な無から、有は産み出せない。
試しに、閉鎖した地下室で、穀物を生み出そうとしたら不可能だった。
要はそういうことだった。
さて、こんな制限なのだが、信徒の皆様には関係無いわけで、『信徒の声』の大部分は「蘇り」だった。
なので「そもそも死なないように祝福を使う」としていたのだが、どうしたって間に合わないことはある。
特に流行病は深刻。
一つの街を治している間に他の街で死人が出ているのだ。
そんないたちごっこを延々と続けている間に。
私は限界を迎えた。
ストレスの余り倒れたのだ。
それが18の時。
そこで、能力を制限することを覚えた。
まずは『信徒の声』
これは全て吸い取るのはもう止めた。
寝れない。
なので、聞き流す事にした。
次、わたしのストレス解消。
考えて見れば、3歳で王座について15年間、ひたすらに祝福を続けていた。
私のストレス解消に、後宮を用意した。
よく考えたら私は神教を止めてるので、別に性行為がだめな訳じゃない。
美味しいご飯だって食べていいのだ。
なので、色々募集した。
後宮には美しい男女を共に入れ、性行為で気を紛らわした。
美味しいご飯もいっぱい食べた。
最初は良かった。
これでかなりストレスは無くなり、祝福は順調に進んでいた。
ところが、この後宮内は、男女で分けてはいたのだが、すぐ乱交が進んだ。
こっちが働いてるのに、こいつらは盛りっぱなしである。
なので、罰則などで律していた。
それが崩壊したのが30の時。
即位27年。
生命エネルギーを吸い取っていたせいか、かなり若く見られていた。
しかし、身体には限界を感じ始めていた。
そんな時に、私は殺された。
相手は後宮内の男。
私が罰を与えた女と、性交していた男が、逆恨みで殺したのだ。要は男女関係のもつれである。
聖女と言いながら、情けない死に様。
だが、その瞬間、信仰エネルギーを伝って、純粋に私を慕い、祈る少女の姿が浮かんだ。
私はとっさに、その少女の身体に乗り移った。
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「クローアチアとヒルハレイズを処分との事です」
フェルラインからの報告を聞くと
「急いでカリスナダを引き上げさせなさい」
「かしこまりました」
「新しい時代か」
顔を歪める龍姫。
「ハイリンケルはどうされますか、姫様。私の予想では、このままでは双子が殺します」
「それもまた良し」
龍姫は目をつむり
「老いたわ、わたしも。若ければ、確実にあの場で殺していたもの」
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「ヒルハレイズ!!!」
ジュブグランは、ヒルハレイズを呼び止めるが
「ジュブグラン、後はお願いね。最後にダリスグレアと3人で食事できたのは嬉しかったわ」
「死ぬなんて」
「限界よ、私は。私はジュブやダリスと違って引退後の生活も思い浮かばない。
どちらにせよ、宰相を辞めるときは死ぬときだったの。爽やかな気分だわ」
「最近は無かったのに、何故だ」
「新しい時代だからよ。
悪いけど、宰相を続ければ絶対上手く行かないし、引退したら女漁りしかしないわよ。
栄光に包まれて、同僚と楽しい思い出に囲まれて死んだ方がいい。
クローアチアもそうよ。
続けても、引退させても問題起こすわよ、あいつ。
聖女様の贄として、ここで去る。最高の選択肢」
「ヒルハレイズ、あの娘はどっちなんだ」
フッと笑う。
「もう答えたでしょ?」
「旧世代の処分か否かで分かるまでしか聞いてない。処分したあの聖女様は?」
「ジュブ、時間よ。安心して。新しい聖女様のもと、この大陸は頂点にたつ。それだけが分かればいいのよ」
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「ミルティア!あの」
「ルピア、言いたいことは分かります。けれども、説明は長くなります。まずは聖女の部屋に行きましょう」
「……そうね」
二人は部屋に入る。
そこには果物と蜜が用意されていた。
「あの二人は、栄光に包まれたまま、私の命で死ぬというのが、最も幸せな結末なのです」
「で、でも!?引退してもらえば」
「ヒルハレイズは女性関係でトラブルを抱えています。
今までは宰相の仕事が忙しかったから、そこまででは無かったけれども、暇になれば、かなりのトラブルを起こす。
クローアチアは汚職をしています。引退させれば、それが明らかになる」
ルピアは呆然とミルティアを見る。
「先代の時点では殺せなかった。他にいないからです。ですが、私ならできる」
ミルティアは果物に蜜をかけたものを頬張りながら、ルピアに近寄ると
「んんんんんん!!!????」
ルピアの唇に蜜をかけ、キスをする。
「ふふふ、ルピア、私は駆け抜けますよ。新しい時代を作り出します」
高笑いするミルティアを見ながら
「……あ、あなた、ほ、ほんとうに、ミルティア、なの……?」
ルピアは震えていた。




