第XXXXX話:勝敗の行方
乳母の絶叫が王宮に響き渡っていた。
「姫様は!カルト集団に騙されているのです!あれは神の御加護です!どうかあのような妄言に流されることなく、神への感謝を!!!」
この人がいたから私は生き延びられた。
この人は自分が犯されていても、ひたすらに私の命乞いをしていた。
自分なんてどうなってもいい。
この娘だけは助けてほしいと。
ずっと一緒に旅をしていた。
この人の愛情があったからこそ、私は生き延びて来られた。
「もしも、私の祝福が妄言で、神への加護が本物ならば、すぐ答えは出るはずです」
乳母は私を見つめる。
「私は神への信仰を捨てた。神の加護が本物ならば、この国は先王の時のように、災害が国を襲うことでしょう。けれども、実り豊かな収穫が出来たのならば、私の祝福が本物なのです」
まだ7歳の子供だ。
その発言は、単にカルト的な集団に乗せられただけと、最初は信じられた。
ところが、神の信仰を捨てたと宣言したあとも、大地は豊かになり、災害は起きなかった。
その年は大風などの異常気象で、周辺の国は大損害を受けた。
しかし、私はそれらの天空のエネルギーすら取り込むことが出来た。
この国だけは異常気象が起きない。
大地はどんどん実り豊かになる。
神教を信じる周辺の国々は大変なのに、神教を捨て、聖女の祝福に守られた我等だけが、豊か。
こうなれば、一気呵成だった。
神教は廃れ、この国から追放となった。
そして、私を崇めるカルト集団のリーダーを王宮に呼び寄せ優遇した。
二年で、この国の信仰は完全に入れ替わる事になった。
乳母は徹底的に抗戦していた。
神教の偉大さを説き、いずれ裁かれるのだと私に言い続けた。
「貴女への大恩は決して忘れ得ません。貴女に私を託した母も、神の待つ天国で、涙を流し喜んでいることでしょう。よくぞ守りきったと」
母の話をすると乳母はいつも泣きそうな顔をする。
「これは政治的な話なのです。貴女の信念が間違っているわけではない。
私は王としてやるべきことをやらなければならない」
乳母を抱きしめて
「貴女の信仰は変わらなくていいのです。ただ、見守っていてください。私は大恩ある貴女にはなにも出来ません。願いは一つ、貴女には幸せになってほしい。それだけです」
私の祝福は、天変地異を生み出すことも可能だと知った。
神教の意を受け、攻め込んで来た隣国。
こちらの国は、私が即位して六年で豊かになった。
その一方で兵士の数は極端に少ない。
盗賊や、悪さをしていた私兵の生命エネルギーを吸い取り、殺しまくっていたために、兵士となる人達の数が激減していたのだ。
それが故に攻め込んできた。
だが、突っ込んできた兵士の生命エネルギーは全て吸い取り全滅させ、隣国の食糧庫に竜巻と落雷をぶつけ、食糧不足にさせた。
兵がいなくなり、食糧がなくなり、あっという間に、国として成り立たなくなったその国は周辺国に一気に攻め込まれ滅亡した。
そして、その攻め込んだ国の一つ、インカリス王国が、私への帰依を決めた。
信仰を変えると。
そして、私はその国の災害となる、山の生命エネルギーを吸い取り、大地を豊かにした。
その光景を見ていた周辺国も次から次へと、雪崩れをうったように、私への信仰を決断した。
13の時、この大陸の過半数の国は私の信仰となった。
そんなときに悲劇が起きた。
乳母が殺された。
殺したのは、私をカルト的に崇めていた集団のトップ。
「聖女様の批判を止めないが為に、処分致しました」
そいつは、私の前で、悪びれることもなく言った。
「私は、絶対に手を出すな、と命じたはずだ」
「はい。しかし、あの者の批判は目に余ります。私は聖女様のお心を……」
そいつは、ようやく私の怒りに気付いたようだった。
「……なにが、おこころだ。わたしの、こころは、あの人の、しあわせ、だ」
信仰での違いはあった。
私への批判は続けていた。
だが、それは私への愛が故だ。
天国で、母と笑顔で会わせてあげたい。
あの人はそう考えていたから、神教に力がなく、私の祝福が本物であると分かっても、なお、言い続けたのだ。
私は乳母に、ありとあらゆる金銀財宝を贈り、若くて健康的な男性との結婚も勧めた。
だが、財宝は全て神教に寄付し、結婚は拒否して、ひたすら母への鎮魂の祈りを続けていた。
乳母への手出しはキツく禁じていた。
それも理解出来ない目の前の馬鹿を重用したのが、私の間違い。
他人は信用できない。
全て自分が掌握しないといけない。
「衛兵につぐ!この者は信仰は忘れ、私の命に逆らった!重罪人である!ありとあらゆる拷問を行い!その罪深さを思い知らせろ!!!」
「せ、聖女様!?」
そいつは驚愕の顔を浮かべるが
「衛兵!躊躇うな!!!」
衛兵は殺到しそいつを捕らえると
「殺す以外の全ての行為を容認します!手を抜く事は私への背信です!徹底して味あわせなさい!私の命に逆らう罪深さを!」
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「儀式は、終わったか」
ジュブグランが、ヒルハレイズに聞く。
「ええ。あの光の塊はそうなんでしょうね。あんなの見たこと無かったけれども」
「ミルティアはどうなったか」
「自我が残る以上、正直、外からは判断つかないけれども。一個だけ判断材料がある」
「なんだ?」
「旧世代への処分を始めるか、否か」
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「ミルティア!ミルティア!!!」
ミルティアを抱きしめるルピア。
ミルティアは今はぐったりとして横たわっている。
部屋に外には他の学園生も殺到していた。
部屋に飛び込んだ光の塊。
ミルティアとルピアの絶叫。
ただ事ではない。
ルピアの衝撃は瞬間だった。
今はなんともない。
あれがなんだったのかはルピアには分からない。
ミルティアは横たわったまま、ようやく目を開いた。
そして
「ルピア。心配をかけました」
「み、ミルティア!!!」
涙を流すルピア。
「凄まじい衝撃でした。お腹がすいて仕方がありません」
「……あは、あははは。そう。ミルティア、なのね。良かったわ」
「でも頭の整理が出来ません」
「それはそうよ。それに雰囲気変わった気もするわ」
「祝福の能力のせいだと思います。どうしても溢れ出しますからね。さて、ご飯食べたいのは山々ですが、まずは仕事をしなければ。ルピア、服をください。宮殿に行きます」
「ええ。すぐ準備するわ」
宮殿に乗り込むミルティア、ルピア。
すでに神官と臣下達は跪いている。
「転生の儀により、私はこの身となった」
宮殿での宣言。
そして、手に持った枯れかけた花を、鮮やかに蘇えらせた。
祝福の能力の確認。
目の前の少女は本物の聖女様の転成体。
皆が理解した。
そして
「時代は変わります。私から新たなる時代が始まる。だからこそ、真っ先にすべきことを皆さんに伝えます」
ミルティアは堂々とした態度のまま宣言した。
「司祭のクローアチア、宰相ヒルハレイズは引退しなさい。後任はおって任命します。その去就は、四代前の事例に従いなさい」
その言葉に、ヒルハレイズは微笑み、ジュブグランは青ざめた。




