第34食目:手のひらから生み出した穀物
誤字報告、初めて頂きました。
ありがとうございます。
どうしてもミスは残ってしまうので、ご指摘は本当に有り難いです。
今後ともよろしくお願いいたします
貧しい国だった。
飢えに苦しみ、子供や老人は真っ先に殺され食糧とされる。
王もこの国を立て直そうと努力をした。
名君と称えられた王は、懸命に、治水をし、兵士達を総動員して、食糧確保の為に努力をした。
だが、この年は雨が降らなかった。
治水工事をしても、雨が降らなければ意味がない。
川は枯れ、いつも以上の飢饉が国を襲った。
次の年は雨に恵まれた。
だが、想定外の大雨は、治水工事の整備を全て破壊した。
治水工事をしたことが裏目にでて、積み重ねた土砂が、街を襲った。
国民思いの名君は、神に縋った。
人間の努力は、天の災いには勝てない。
どんなに知恵を絞っても、天の気まぐれには勝てない。
だから神に祈った。
その翌年は、なにも災害は起こらなかった。
名君の努力は、そのまま報われた。
これにより、名君は神への信仰を深めた。
神の為に、信仰者を手篤く保護した。
それから10年。
名君と呼ばれた王は、気が狂ったと称された。
国の全ての政策が止まったのだ。
国の成果は、ただ神への信仰の有無だけ。
悪い結果が出れば、神への感謝が足りなかったと、祈り続けた。
良い結果が出れば、神のおかげだと感謝し続けた。
王は、神への祈り以外、なにもしなくなったのだ。
国民はこの狂った王に反旗を翻した。
国民が飢える中、王の庇護の元、肥え太った、神の教徒への虐殺が相次いだ。
王は、本来は王を守るべき親衛隊に殺された。
国内は大混乱した。
治安は失われ、信仰は失われた。
強者が弱者を食らいつくす地獄が顕在している時に、
私は産まれた。
殺された王の娘。
既に王は死んでいる。
国としての統治は失われた。
母は私を産んだ後、盗賊に捕まり、犯されて、殺されたそうだ。
私は乳母に匿われて生き延びた。
三歳の時に、乳母と私は違う盗賊に捕まり、乳母は犯され、私は殺されそうになった。
そこで能力が発現した。
乳母を犯す盗賊と、私を殺そうとした盗賊の、生命エネルギーを吸い取ったのだ。
盗賊は、干からびるように死んだ。
そして、常に飢えていた、私の手のひらには、穀物が生まれていた。
乳母は、私の能力を懸命に探った。
なにが出来るのかを。
その結果分かったこと。
私は生命エネルギーを吸い取ることが出来る。
そして、それを別の生命エネルギーに変えることができた。
それからの私と乳母の行動は素早かった。
庶民を苦しめる盗賊団の生命を奪い、その溜め込んだ食糧を放出した。私達の食糧は、盗賊達の生命エネルギーを還元したもの。
私達の名声は一気に広がった。
かつて、名君と呼ばれた王。その末娘が、奇跡を起こしていると。
混乱が続いていた王都に私達は戻り、荒らし回っていた盗賊や私兵達を殺して周り、城に帰還した。
だが、状況はなにも変わらない。
食糧不足は、なにも変わらないのだ。
貧しい国はそのまま。
数千人単位の盗賊達の生命エネルギーを吸い取っても、二人旅で消費できてしまう程度にしか、穀物は生み出せなかった
そんな中、国内の火山から噴火の予兆の報告があった。
私はダメ元で
「山の生命エネルギーは吸い取れないのか?」
と火山の近くに移動し、念じてみた。
その時の衝撃をまだ覚えている。
人の生命エネルギーどころではない。
圧倒的なエネルギーが私になだれ込んできた。
火山は噴火しなかった。
そして、私はそのエネルギーを使い、大地を豊かにしようとした。
耕せないような、岩だらけの土地を、農耕可能な土地に。
砂漠に雨を。
その噴火エネルギーだけでは足らなかった。
だが、効果は出た。
考えにくい程の勢いで、穀物が収穫できたのだ。
このあたりで、まだ私に懐疑的な人達も一気に味方になった。
私は7つの時、また飢饉が起きそうになった。
食糧事情は大幅に改善したのにだ。
理由は神教。
神の教えの教徒達。
先王への反乱時に虐殺されたが、私を助けた乳母は熱心な神教徒だったのだ。
私を即位させたこともあり、彼女は政治にも大きな力を持っていた。
彼女は私の能力は神の奇跡であると、宣伝し、また神教を保護したのだ。
あの飢えは先王が信仰を失ったから。
またこの国が栄えたのは、今の王が熱心だからとした。
そして、また神教は肥え太った。
収穫は倍でも、その何倍も食べた。
民の飢えは終わっていないのに、平然と食べ残しを続けた。
そんな中、神教の神ではなく、直接私を崇める一派が現れた。
私を「聖女」と呼び
「神など存在しない。先王の信仰は本物だった。この加護は聖女の能力である」
とした。
そして「聖女を騙す神教を追放せよ」と活動していた。
単なる過激派のカルト的な集いだったのだが、私は驚いた。
彼らの信仰エネルギーが、常に私になだれ込んでくるのが分かったのだ。
つまり、信仰されれば、なにもしなくてもエネルギーを得ることが出来る。
毎回、盗賊や獣を殺す訳にもいかない。
火山噴火などの天変地異は頻繁に起こらない。
乳母には恩があった。
だが、背に腹はかえられない。
国民の前で宣言した。
「これは神の加護ではない」
静まり返る国民達の前で
「聖女である、私の祝福である」
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流れ込む。
聖女様の記憶が流れ込む。
だから気付いた。
騙された。
「ドラゴンハーフかぁ」
双子への同情、ハイリンケルへの憎悪。
全部繋がった。
自我は残る。確実に残る。
だが
「魂、つまり、欲求を支配されたら、単なる人形じゃない」
とんでもないこと考えますねー。
『ミル!ミルティア!!!』
ルピアからの声が遠い。
「あはははは。ルピア。取りあえず自我が残るのは確定ですよ。後はお人形にされない戦いですが」
実際の私は声なんて出していない。
うずくまって、全身をかきむしっている。
服は破れ、引っ掻き傷だらけ
欲求は、本能的なものだ。
本能に逆らえばいいのか?
そんな事していたら、最大の欲求である、生存本能まで否定し始めかねない。
聖女様の記憶が雪崩れ込む。能力が雪崩れ込む。
国民からの悲鳴が聞こえ始める。
ああ、こんなの日常的に聞いてるの?
そら頭おかしくなるわ。
そう思う。
最初に雪崩れ込んだ、初代聖女様の記憶にはそんな能力なかったけど、後から取得したんですかね?
そんな事を考えながら
「聖女様。恨むなら、龍姫を恨んでください」
聖女様のやろうとしたことは、私が、ルピアや、おばあちゃん、カリスナダさんの記憶を守ろうとして、食事の欲求本能に関しては無防備になった所を攻めるというもの。
ところが
「この二重思考、ドラゴンハーフだからできたんですね」
カリスナダさんも二重思考をしていたのだ。
龍族はみんな出来るのだろう。
そして、ドラゴンハーフも。
苦しんでいる私と、冷静に分析している私。
私は元々二重思考が可能だった。
記憶が雪崩れ込み、自我を守ろうとする私。
それと、もう一つ、冷静に分析を続ける私。
「聖女様、申し訳ありません。私にとって食べ物はなによりも大事なんですよ」
百年以上大陸に君臨した聖女様。
「私の欲求は私だけの物です。私の勝ちです。聖女様」
その瞬間、聖女様の圧力が消えた。
そして
『アアアアアアアアアアアア!!!!!!』
「る!!!???ルピア!!!????」
ルピアの叫び声。
まさか。
自分の敗北が分かった瞬間、ルピアに乗り換えた?
「ルピア!!!!!!」
思考を一つにして、ボロボロの身体のままルピアに駆け寄る。
ルピアの無事を祈りながら。
すると
『頂いた』
聖女様の声が頭に響き、魂が、貫かれた。




