表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/47

第33食目:砂糖豆のお菓子

「あのね!それでね。帝国はお魚がね」

「はいはい」

朝ご飯が終わって、部屋でお菓子を食べながらルピアとお話する。


「というか、なんでご飯食べた後にすぐお菓子?」

「美味しいからです!このカリスナダさん特製の砂糖豆は最高です!」


ルピアはいつもの、ちょっと呆れたような、でも優しい笑顔。


「エウロバさんは果物が大好きで、いつもごはんは果物だったんですよ!」

「……あの人、私には言葉から分からないわ」


一通り帝国の旅の話をするうちに

「それと識都というところで、可愛い二人の双子さんが放置されていたので、私が聖女様になったら引き取ろうかと」


「ぶっ!?」

吹き出すルピア。


「な!?なにそれ!?帝国の人でしょう?いいの?」

「はいです。あのままいたら、人殺ししまくるので、こっちに招いた方が幸せです」


「そんな危ない人引き取るの!?」 

「……なんですかね?なんかとても親近感が湧いたんです。同じ境遇きょうぐうに同情したかもしれません。親から見捨てられて、寂しさのあまりの暴挙ぼうきょですからね」


「……そう。ミルティア、あなたは変わったわね」

笑顔で頭を撫でてくれるルピア。


「とても良いことだわ。他の人に対してそんな親近感わいて、保護しようなんて」


ルピアと話をしていて、なにか違和感を感じ始めた。


「……あれ?そうですね。なんかおかしいですね」

「……?なにが?」

「わたし、そんなに優しいかな?」


双子に対する憐憫れんびんの感情だけで引き取るまで決断するかな?

それとハイリンケルに対する怒りの感情。

わたし、あんなに熱かったっけ?


「まあいいです。私ばっかり話してしまいました。次はルピアです」


「……そうね。なにから話をするべきか。私は霊媒れいばい体質なの。霊媒れいばいとは、死者を呼び出し、その話を聞くんだけど、私は特殊でね。死者の無念むねんだけが乗り移るのよ」


無念むねんですか?」

「そう。それも親しい人だけね。親しい人が亡くなると、その無念が私に取り移る。

問題は、意識ごとじゃないのよ。その怒りだけが私に乗り移るの」


「それも大変ですね。それであの豹変ひょうへんに繋がるわけですか」

「……普段は抑え込んでいるけれど、あふれ出す事がある。あの時のように」

溜め息をつくルピア。


「スティアナと、母様の亡霊は、はれましたか?」

「ええ。二人とも満足したわ」

目をつむるルピア。


「ルピア、伝えないといけません。おそらく私は今日転生の儀式を迎えます」

「……!?え!?今日!?だって、学園やジュブグラン様は」


「私は、おばあちゃんは大好きです。カリスナダさんも。でも騙していますよ」

「……ミルがそう言うなら、そうなのでしょうね。じゃあ、もしかしたら、これが最後の挨拶ね」


「はいです。なので、私が、私であるうちに、大切な友達のルピアにお願いしたいことがあります」


「なに?ミルのお願いなら聞くわ。大切な友達だもの」

「……そう言ってもらえて嬉しいです。わたしはルピアに会えて良かった。ルピアにしか頼めません」


わたしはゆっくりと、言葉を区切って言った。

「聖女様に、意識を取られたと、思ったならば、私を、殺してください」

=====================



識都で知識の塔と呼ばれる場所の最上階。

そこは塔の創始者である、ハイリンケル特別顧問の研究室兼、生活部屋であった。


そこに、妖艶ようえんな女性が唐突とうとつに現れる。

表情は険しい。


その女性、フェルラインが口を開く前に、ハイリンケルは語り出した。


「人の無念とは恐ろしい。人の情念とは恐ろしい。

100年の長きに渡り、ありとあらゆる知識を取り込んだ。

それにより、この知識の塔は世界最高峰の知識の宝庫となった。

しかしだ、そこまで極めて置きながらだ。

私を支配するのは、まだ人間だったときの無念と情念だ」


フェルラインは黙ってきく。


「メイルに対する情念。あの娘は特別だった。

あの娘との語り合いほど楽しかった記憶はない。

あの娘により、私は知識の使い道を得た。

そして、あの娘に対する欲情もあった。

だが、それよりも知識を極めること。メイルを傷つけることを避けた」


「メイル。龍姫様の元の名前」

「ああ。龍族となり、メイルへの情念は曲がった方に発散された。顔の似た娘をなぶり、妊娠すれば研究の素材として処分した」

顔をしかめるフェルライン。


「だが、龍族になれども精神は老いる。私は老いに負けた。自分の後継が欲しいと切に願ったのだ」

「それがあの双子」

「そうだ。そしてもう一人。お前が来たのはそれだろう」


「ミラー、と龍姫様は呼んでいらっしゃいました」

「親子とは不思議なものだ。あの娘の怒りに触れて気付いたよ。ああ、この女は、私の娘だと」


「ミルティアは、あなたの娘なのですね」

「ミラー。懐かしい名前だよ。メイルから聞いているか?私達はドラゴンを狩っていた。その手段は冷気魔法。その使い手で、もっとも優秀だったのが、ミラーという女性だ」


「その女性にも欲情を?」

「欲情ではない。ミラーも私もそういう関係ではなかった。無念だよ。まさしく無念だ」


「無念?」

「ミラーは、人間関係のトラブルで死んだ。私はなにも出来なかった。

ミラーから相談もされたんだ。

だが、私はそのような人間関係の話など分からない。他の人間に聞けで終わらせた」


ハイリンケルは顔をおおう。

「その結果が、死だ。助けられたはずだ。死ぬような事までなるとは思わなかった。知識のある今ならば、救えたはずだ」


「その無念が、ミルティアになると?」

「この知識の塔には、聖女の大陸からも人が来る。その一人がミルティアの母だった。ミラーと生き写しだったよ」


「それで、子を作った」

「既に既婚だったのだがな。龍族の精力の前では貞操観念ていそうかんねんなど無意味だ。最後は自分から求めてきたよ」

また、顔をしかめるフェルライン。


「その娘は、すぐ大陸に戻った。どうなったかも知らなかったが、ミルティアは俺の娘。そして、顔はミラーに似ている。それが答えだろうな」


「ミラーという方への無念は分かりましたが、なんでそれが子を為すことに繋がるのですか?」

「分からない」

ハイリンケルは苦笑いをする。


「分からないんだよ。理屈じゃない。老いとは恐ろしいな。あれだけ知識と理屈だけで生きていながら、それを捨て去ってしまうのだから」


すると

『この馬鹿ニールが!?

なにをカッコつけているんだ!!!

お前の弱さがこの事態を招いたんだ!!!

女をはらませて殺すのもアレだが!

孕ませておいて放置とか馬鹿なのか!!!

その尻拭しりぬぐいは私がやるんだぞ!!!』

遠距離装置からの絶叫


「龍姫様。御命令いただければ、ハイリンケルを処分しますが」

フェルラインは冷静に答える。

『……手を下すならば、私自らがやる』

「かしこまりました。これ以上不快な会話を龍姫様にお聞かせするのは罪ですわ。引き上げます」


『ええ。愛しのフェルライン。戻ってきなさい。そして、ニール。この罪は重いわよ』


フェルラインは塔の窓を開け

「それではご機嫌よう」

塔から飛び降りながら、転移をした。


「老いとは恐ろしいな。メイル。俺もお前も老いたよ」

=====================



宮殿から祈りの声が響きわたる。

ここで学園生達はざわめき始めた。

「なにごと?」

「祝福の儀式にしても、大掛かりですわ」

「転生の儀式まで時間はあるしね」


転生体主要候補3人は、示し合わせることもなく、中庭で会っていた。


「誰なの?」

ヤファは憔悴しょうすいした顔で聞く。


「それを考えても仕方ないわ」

マイセクローラが答える。


しばらく黙っていたビネハリスは口を開くと


「私ではない」


謙遜けんそんしなくても。あなたは現に候補として優遇ゆうぐうされている」

マイセクローラは言うが


「私は禁忌きんきを犯している」

「はあ!?」

ヤファが絶叫


「禁忌の内容までは言わないけどね。だから私はないよ」

「じゃあ、どちらか二人……?」


ヤファとマイセクローラが見つめ合う。


しかし

「……気を悪くしたらごめん。私はね二人に聞きたかったんだ。もし、だよ。この3人でも、タチアナでもルピアでも無いとしたら、他にいる?」

ビネハリスは問いかける。


「……当然、学園生は全員候補生ではありますが」

「5人以外と言われてもな……」

二人とも困惑している。


その困惑はビネハリスもそうだった。

「この二人のどちらかならいい。でも私の違和感は消えない」


「……私が会った中で、5人以外となると、ミルティアが思い浮かびます」

「……ああ。そうか、マイセクローラさんは、知らないか。多分あの娘は初めから後宮の主のサポート役の筈なんだ。宰相候補とかじゃないか」


「なるほどな。それでルピアと一緒にくっつけていたと」

ヤファも納得したが


「だが、そうだとすると、分からない。やはり、どちらか二人か?」


ビネハリスは考えていた。

なにか自分の予想に穴はないのか。


そして寮に叫び声が響きわたる。

「ミルティア!!!!!」

ルピアの絶叫。


宮殿から凄まじい程の光の塊が寮に向かってくる。


「み、ミルティアだったの!!!???」

ビネハリスの絶叫。

「そんな!?まだ転生の時期ではないのでは!?」

マイセクローラの混乱


光の塊は、ミルティアとルピアのいる部屋に飛び込むそして


「アアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」


ミルティアの絶叫が寮に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ああ、正しく妄念と老いだった。 本当にお前は何がしたかったんだろうな。 人のままならば無念を抱こうと間違えようと、終わることができたのに。 また間違いを繰り返したよ。 お前にはメイルを老い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ