第XXXX話:大人はみんな嘘つき
「記憶とはなんなのか。自我、とはなんなのか。魂とはなんなのか」
聖女は、一人宮殿で喋っていた。
「思想とはなんなのか。祝福とはなんなのか。私とはなんなのか」
「答えは全て一つ。聖女は私だと言うこと。いくわよ、ミルティア。私の人生最大の賭け。あなたの魂だけを食い破り、他の全てを手に入れる」
そして、大きく手を広げ絶叫した。
「神官達につぐ!!!時は来た!!!今こそ祈りの時!!!!!!」
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「今日ですか」
「カリスナダの報告を総合すると間違いない。聖女は昨日祝福の力を使っていない。既に儀式の準備をしている」
聖女の大陸からもどったばかりのフェルラインと、龍姫は話し合っていた。
「ミルティアの自我は残るのでしょうか?」
「フェルライン、私の予想は少し違う。
今回の聖女は賭が多い。私に借りを作ってでも龍族を動かした。
ルピアの為に一つの国の王族を皆殺しにした。
やり過ぎよ。よほどの事をしようとしているとしか思えない」
「では、龍姫様のお考えは……」
「いい、フェルライン。私たちは聖女の豚の儀式の知識は正確ではない。ただ、予想では、今までの転生体は忠誠心の高い娘を選んでいる。要は乗っ取りやすい人間ね。しかし、今回はミルティアという自我が強い人間を選んだ」
「はい。新しい時代の為に、ミルティアに引き継がせようと……」
「有り得ないわよ。フェルライン。豚はそんないいやつじゃない。
私だってそう。時代が変わるから犠牲になれ、と言われたら、そいつの事蹴るわ。
そんな話じゃない。聖女の豚のやろうとしていることは、多分違う」
「では、乗っ取りですか?」
「……なんとも言えない。フェルライン、私の話を元に予想はできない?」
フェルラインは考え込む。
「ミルティアは、とても知能が高い人間です。運動能力も高い。また判断力もいいです。人族の中では飛び抜けて優秀です。まるで龍族……」
突然、龍姫が叫んだ
「ま!待って!?ミルティアの両親は!?本当に人族なの!?」
その言葉にフェルラインは青ざめる。
「おかしすぎるのよ!よく考えたら!なんでそこまで徹底して無視をする?つまり、本当の貴族の子じゃないんじゃないの!?」
「し、しかし!子を産んだ龍族の女性の子の行く末は全員把握しています!龍族の男性は、いません……あ、あああああ!!!!!ハイリンケル!!!ハイリンケル!!!」
フェルラインは絶叫する。
龍姫が龍族にした男性の唯一の生き残り。
「すぐ調べなさい!!!ドラゴンハーフというなら可能性がある!豚は!ドラゴンハーフを乗っ取ろうとしているんだ!そうだ!ドラゴンハーフならば最大の賭けになる!」
「でもですよ!姫様!ハイリンケルは姫様への捻れがあります!相手は必ず姫様に似た相手。ミルティアは全然似て……」
「……み、ミラーだ」
呆然とした顔をする龍姫。
「あの娘、ミラーに似ているんだ」
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ヒルハレイズ、ジュブグランの二人は、宮殿の部屋にいた。
「儀式は始まる」
「ミルティアか、姫様か」
ヒルハレイズは申し訳なさそうに、ジュブグランに言う。
「ジュブ、ここに至り、ようやく伝えられるわ。聖女様と、私から伝えた内容がある。それはミルティアに伏せるようにとした内容」
「ああ。転生の時期と、転生の内容だろう」
「あれはデタラメよ」
「……は?」
「ミルティアは嘘を見抜く。ジュブグランには隠し通すことは不可能。なので、間違った情報を伝えていたの」
「ま、まて。転生の内容がデタラメ?バカな、過去の転生から言っても」
「違うの、ジュブ。今回の転生がデタラメなの。今回やるのは今までの転生じゃない」
「……なにを、やるんだ?」
「ミルティアはドラゴンハーフ」
目を見開くジュブグラン。
「3つのときに、私は彼女を見つけた。信じられる?あの娘は、20日間、飲まず食わずで生きていたのよ。最初は単なるバカ貴族の育児放棄かと思っていたけど、あの生存で驚いた。そして、私の手の者を召使いに入れてミルティアを保護させ監視した。そして聖女様が気付いた。こいつは人間じゃないと」
「宰相にしようとしたんじゃないのか」
「無論そう。だから、その召使いに色々教えるようにした。10になったらこっちに呼んで本格的に鍛えようと。しかし、聖女様は決断された。ミルティアを、次の身体にすると」
「その話は聞いた通りか」
「そう。スティアナの死で決断された。でも、その前から検討はされていたよう」
「ドラゴンハーフが転生体だと、なにが違う」
「まず、乗っ取りが不可能。自我は必ず残る。だから、ミルティアの自我が残るか否かは焦点じゃない。逆なの」
「なに!?」
「聖女様の魂が、転生体のミルティアに移植出来るかどうか。
それが本当の焦点。散々カリスナダに美味しい料理を作らせて、仲の良いルピアという友人を作らせ、おばあちゃんと慕われるようなジュブグランを派遣した理由。
それはミルティアの自我を残すことが目的じゃない。
聖女様はドラゴンハーフのミルティアを、ミルティアの頭脳と能力のまま支配する。
魂と、自我、記憶の違い。いい?ジュブ。ミルティアは全力で自我を守ろうとする。自我ってなに?」
「自我?自分が、自分であろうとすることか」
「ええ。そうね。魂は?」
「たましい……?すまん、難しい話は苦手だ」
「転生をしようがミルティアはミルティア。記憶と能力は流れ込むけれども、今までのような乗っ取りが出来ない。ではどうする?そう、乗っ取らなくても思いのままに動かせるようになればいい」
「……?それが魂?」
「難しい話よ。要はこう考えて。ミルティアが守ろうとしている物は、実は聖女様は狙ってない。不可能だから。それに集中している間に、魂を打ち抜き支配する」
「魂を打ち抜かれたミルティアとはなんだ。自我は残らないのか?」
「自我とはなにか、魂とはなにか、記憶とはなにか」
歌うように語るヒルハレイズ。
「いい、ジュブグラン。自我とはね。周囲との関係からもたらせた自分という存在思考の事よ。自我を守るというのは、今までの記憶、関わりを守るということ。つまり、ルピアやあなた、カリスナダ。美味しい食べ物を、楽しい人達と食べるともっと美味しい。それらの記憶、関わりを残そうとする。それが自我の守り方」
「では、魂とは?」
「魂とは精神の根元」
「……すまん。意味が分からん」
「ど真ん中に魂がある。それを覆うように自我がある。さらにそれを覆う記憶がある。記憶、つまり経験により自我は生まれ、自我により魂は成長する。魂こそが根元。ミルティアの魂を破壊し、自我ごと取り込もうとしている」
「……これ、私に話されても全く理解出来んぞ。隠す必要なかったのではないか?全然意味が分からないしな。今でも」
「ミルティアに魂の存在を知られてはいけないの。それだけ。
自我を守ろうとすればね。ルピア達の関わりあいを守ろうとするわ。
でも違うのよ。狙うのはそこじゃないの。
ミルティアという存在そのもの。
今までの転生では自我ごと乗っ取れたから問題にならなかった。
転生体は聖女様にすべてを明け渡していたからね。でも今回は違う。
ミルティアの自我は、ドラゴンハーフがゆえに破壊できない」
「ミルティアの魂とはなんだ?」
「美味しいものを食べたい」
「……はい?」
なにを言ってるんだ?お前?という顔でヒルハレイズを見るジュブグラン。
「魂とは欲求の事よ。人は欲求が根元なの。
あれしたい、これしたい。とかね。
そして、ミルティアは生まれた環境からか、この欲求、食欲が強烈だった。
このままでは魂も奪えない。
だから、家族と友達を知らないミルティアに、おばあちゃんのジュブグラン、お母さんのカリスナダ、友達のルピアを用意した。
今のミルティアなら、この家族と友達を守ろうとするわ。食べ物よりもね」
祈りの声が宮殿に響き始める。
「さあ、賽は投げられた」
ヒルハレイズと聖女が説明している「魂」とは「イド(エス)」の事です。本能欲求ですね。
とは言え、魔法だ、転生だ、が跋扈する世界なので、結構適当に考えてください。
要は聖女は自意識支配が不可能なので、欲求(本能)を支配して、思うがままに身体を操ろうとしている。と言うことです。




