第32食目:香草と果実のコウホーク煮つけ
お城。
夜は果物の食べ放題。
大変美味しく頂きました。
そして、今はベッドで、エウロバさんに抱きつかれてる。
「お前抱いてるとホッとするなー」
にこにこしているエウロバさん。
「うに」
「帰るまでこうしていたいなー。ミルは好きな人はいるのか?」
「男性はダメですね」
「ほう。私と一緒だ」
今日男性と婚約したんじゃなかったっけ?
と思ったが、「私は女が好きだ」とか言ってたな。そーいえば。
「男は粗暴で受け付けない。もちろん、兵士たちに対する敬愛はまた別だが」
「私はどうなんですかね。召使いの人達に紛れて生きていた時に、犯されそうに何度もなったからじゃないですかね」
エウロバさんの動きが止まる。
「……まだ10だろう?」
「貴族の娘をレ○プできそうという興奮の前では、年齢なんて関係無いみたいですよ」
「それで、大丈夫だったのか?」
「その度に、召使いの料理長の女性が止めてくれましたよ。
鉄鍋を振り回す凄い人でした。
私は基本的にはその人の近くにいましたからね。幸いに全部未遂です」
「そうか、それは良かった」
「その人も男性関係では苦労していましてね。延々と男の醜さを教わりました。なので、わたしは男性は無理ですね。聖女様の妾と聞いて安心したぐらいです。
あのままだったら、貴族男性の妾で、性処理させられてましたからね」
「そうか。それは僥倖だ」
ギューッと抱きついてくる。
「本当に、ミルが聖女なのは惜しいな。なんかの間違いで聖女じゃなかったら、うちに来い」
「そうですねー。聖女じゃなかったらかぁ……」
有り得ない。
私の判断はそうだ。
「今日はゆっくり寝よう」
「はいです。お休みなさい」
翌朝、エールミケアさんは帰ってこなかった。
「戻られるまで、ここにいて良いですか?」
「もちろんだ。それまで内政の事で相談していいか?」
アラニアの食糧事情などを聞く。
「帝国の民は、魚肉の摂取に抵抗は殆どないのですね。お肉に対しては忌避があると」
「ああ。獣肉は下民が食べるものと言うイメージは強い。だが、王侯貴族や、神皇も食べたりしているらしいからな。そのあたりの感覚は複雑だ」
「偉くなると、旨いものは全部食べたくなるんでしょうね……」
アラニアの現状を見ながら
「保存食の開発ですね。
幸いアラニアは聖女様信仰だから、穀物の生産は安定していますが、新都までの道は、不安定な生産状況。
たまたま他国の食糧を分捕れれば幸いですが、運に頼る運営はありえません。
また、これから帝国を掌握しようとしているのに、略奪するのも無理でしょう。
遠征を運営するうえで、保存食の開発は急務です」
「ふむ。略奪なしの遠征など殆どないからな。そこが困っていたのだ」
「穀物だけに頼るのも問題です。士気が上がりません。なにか、こう。穀物のスープに味付けするとかで、毎日メニュー変えたりとかですね」
「なるほどな」
「ミル!ごめんね!遅くなっちゃった!……って、あれ?会議中?」
エールミケアさんが転移で飛んでくるが
「ああ、少し待ってて……、それでミル、保存食は」
「魚を使えませんかね?日持ちする魚の調理があったはずです。カリスナダさんは、海から遠い聖都で、海の魚の料理を作っていました。なにか、やり方があるはずです」
「ああ、燻製のこと?魚は保存できるよ、確かに」エールミケアさん
「そ!そうなのか!?」驚くエウロバさん
「結構面倒だから、帝国でもやってる人少ないんだけどね」
「なるほどな、早速そのやり方を聞いて……」
結局
「もうすぐ夜ですよー」
「ふむ、大体まとまった」
凄い集中力だなーエウロバさん。
結局、お昼ご飯も食べながら、会議を続けていたのだ。
「遅くなっちゃったね。はい、この転移石が寮に繋がってるから」
「エールミケアさん、お世話になりました」
「ええ、元気でね。ミル」
エールミケアさんに頭を下げる。
「エウロバさんも、頑張ってください」
「ああ、皇帝なんてすぐなってやるさ。楽しみに待ってて」
「それでは」
転移石を握りしめると、そこは見慣れた寮だった。
「ルピアー!ただいまー!……?あれ?」
帰ってきた。のだが、誰もいない。
「おばあちゃーん。帰ってきましたよー」
普段から気配もないけど、部屋にはいるおばあちゃんにも声をかける。
でもいない。
「カリスナダさーん」
調理場に行ってもいない。
「あり?帰りが1日ズレたからですかね?でも、もう夜ですよ?」
誰もいない寮の部屋。
静か
「むう。私は一人は好きじゃないのです」
常にだれかと一緒にいた。
生まれたときから召使の人たちと一緒に過ごしていた。
こっちに来てからはずっとルピアと一緒。
帝国の旅も常にだれかがいた。
「……むう、だれか、はやく帰ってきて欲しいです……」
私はベッドに包まり端っこで震えていた。
深夜
懐かしい匂い
「おばあちゃん!!!」
「!?びっくりした!起きてたのか?ミル。というか私の気配に気付いたのか!?」
「ルピアは!?ルピアはどこです!?ただいましても、誰も返事してくれないの、悲しいです!」
「……ミル、泣いているのか」
おばあちゃんはびっくりした顔をしてから、優しい、包み込むような笑顔を見せ。
「ごめんな、ミル。ルピアはもう寝ているんだ。疲れ果てたんだ。寝かしてやってくれないか」
振り向くと、そこにはルピアが横たわっていた。
「……一緒に寝ますです」
「そうか、そうするといい」
顔面蒼白のルピアの顔を見ながら
「明日、起きたらいっぱいお話しましょうね、ルピア。伝えたいことがいっぱいあります」
ルピアに抱きついて、わたしは眠った。
「え?え!?なんで、わたし、ミルと一緒に寝てるの!?あれ?」
もぞもぞ
「うにゅ。おはよう、ルピア」
「あ、おはようミル。あれ?なんで、わたし」
「帰っても誰もいなくて寂しいので、抱き着いて寝ていました」
「ああ…そうね、お帰りなさい。ミル」
「はいです!」
いつもの顔をするルピア。
「カリスナダさんのご飯久しぶりです。早くいきましょう、ルピア」
「ちょっと、慌てないでよ。まだ早いわよ、時間」
「朝ごはん食べてからくつろげばいいのです!」
調理場からいい匂いがするのだ。
きっとそこには
「カリスナダさん!」
「ミル、お帰り。ご飯食べる?」
「はいです!今日はなんですか?」
「うん。今日はね、この大陸のお肉を使った料理」
「最高ですね!」
「果実とコウホークの煮つけなんだけど、せっかくだから、辛みのある香草をまぶしてね。とても香ばしい味にしたのよ。でも食べやすいと思うわ」
「美味しそう!」
「カリスナダさん、おはようございます」
「え、おはよう。ルピア。ルピアは香草と果実の煮物。鍋から変えてるから、肉は一切入ってないよ」
「はい!嬉しいです!」
ルピアもにこにこしてる。
ああ、こんな毎日が続けば、本当に素晴らしい。
でも気付いてしまった。
その調理場。整頓されすぎている。
カリスナダさんは昨日の夜いなかった。
なにをしていたのか?
どこに行っていたのか。
そして、寮全体に呼びかける教師の声が私の予感を確信に変えた。
「本日は学園を休校とします。各自部屋で自習をするように!」
今日だ。今日、不意打ち的に転生は行われる。
「ルピア、お休みみたいですし、お話していましょう。言いたいこといっぱいあるです」
「ええ。そうしましょう。私も助かったわ。まだ気分がすぐれないからね」
ルピアの笑顔を見て、調理場のカリスナダさんを見て、部屋の端で微笑んでいるおばあちゃんを見て、光景を忘れまい、と胸に刻んだ。




