第30食目:ミズエレの煮付け
「な、なんの真似ですか?」
ルピアは、ジュブグランと共にフェルラインと会っていたのだが、もう一人は布袋に入っていた。
「なんかね。聖女の民見たら発作的に拷問しだすから、見せないように、動かないようにしてるの」
「どんなヤバい人なんですか……?」
「ジュブちゃんは、私のこと、やべーやべー。言ってるみたいだけど、私は常識的な龍族だから。やべーのはこの娘よ。言っておくけど、止めろ言っても止まらないわよ。龍姫様への忠誠は本物だけど、それ以外はアレすぎだからね」
そう言って布袋を担ぐフェルライン。
「それで?すぐ近く?」
「ああ、この城だ」
目の前にある城を指差すジュブグラン。
「相手は、この王の一族である……」
「王の一族ね、じゃあ、この城全部が対象。と言うわけで行ってらっしゃい、チャズビリス」
布袋を開けるフェルライン。
「ま、待て!?勝手に」
「いえ、ジュブグラン様、母様の怨みはそこまでしないと晴れないかも知れません」
「……そうか。お前がそう言うならばしかたない」
布袋から出て来たのは、フェルラインと似た、妖艶な美女。
だが
「……そ、そこまで拘束してなくても……」
手脚には鎖。口には布。
「まあ、これから巻き起こる惨事を見てれば納得するわよ」
フェルラインは全ての拘束を外し終わると
「愛しのフェル。じゃあ行ってくるわね」
「ええ。聖女の豚に見せつけてあげて。これこそが我々であると」
「ふふふ。もちろんよ。龍姫様に恥をかかせないわ」
チャズビリスは単騎で、1000の兵士が守る、王侯貴族の城に乗り込んだ。
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「今日で最後なのですか?」
「ええ。この神都の食事で最後よ」
エールミケアさんと蜜水を飲みながら会話。
また、贅沢ですね。
「なんかあっという間でした」
「楽しかった?」
「はい!とても勉強になりました!」
「今日は予定とかないから、美味しいご飯食べまくりましょう?」
「そうしましょう!」
楽しみ。
新都で一番美味しいと評判の料理屋さんにきた。
「ふむ。このお魚料理はなんというのですか?」
「これはミズエレの煮付けね」
「煮物は、私の大陸でも比較的多かったですが、こちらの料理は、単に煮るだけではなく、様々な工夫があるのですね。なんでこのミズエレ、骨が無いのですか?」
ミズエレは食べたことがあるが、骨が多くて食べ辛い印象。
ところが、これは全然骨がない。
「鍋を密封して、煮続けることで、骨が溶けるそうよ」
「へー」
「食材にあった料理があるわけですね。素晴らしい」
美味しいなぁ。
「夜はあんまり食べないでしょ?」
「なにを言ってるんですか!?エールミケアさん!夜もいっぱい食べますよ!!!」
「……夜はサッパリした果実はどう?と言おうとしたんだけど」
「素晴らしいです。是非そうしましょう」
果物、果物。
「本当は、ルピアも連れてきたかったですね。きっともっと美味しく食べれていました」
エールミケアさんが嫌な訳ではない。
龍族とは思えない、気配りができて優しい人。
カリスナダさんタイプ。
でも
「そうだね。本当は、そう提案したんだけどね。彼女も大変みたいよ。今チャズビリスさんがそっち行ってるから」
亡霊の退治。
帰ったら聞こう。
多分私の勘だと、おばあちゃんは嘘をついている。転生まで2ヶ月もない。
不意打ち的に転生の儀式は始まる。
「あと何日ですかね」
カリスナダさんの食事、もっと食べたいな。
おばあちゃんとかも一緒にね。
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グラドニアに攻め込んだエネビット公国は終始優位に戦を進めていた。
そんな中使者が来る。
「和平か」
「いかが致しましょう」
「降伏以外に道はないと伝えろ。ただし、王族の処遇はこれでいいとな」
公王マヤノリザは書状を見ながら答える。
「別にグラドニアの王族をどうこうするつもりはない。勢力を取り込むだけだ」
すると宮殿に人が飛び込んでくる。
「どうした、なにごとだ」
「大変です!アラニアより伝言!公王エウロバがこちらに出向きたいと!転移の許可を求めております!」
「転移?単騎でくるのか?よかろう。許可しろ」
転移は空間移動魔術。
転移石という魔法鉱物を使用すれば、魔術が使えないものでも転移は可能だが、一つにつき一人しか使えない。
また、基本的に重要な場所には転移妨害の魔術がかかっている。
当然この城もそうだった。
その転移妨害をとき、しばらく待つと、エウロバは宮殿の中心に降り立った。
「久しいなエウロバ。成人の儀で来てもらった時以来か」
「そうね。あんたもいい年なんだから結婚すれば?」
マヤノリザは17。結婚の適齢期は15程度。結婚してもおかしくはない年齢だ。
特に王族の男性で、成人を過ぎても未婚というのは珍しい。
「黙りなさい!無礼な!」
マヤノリザの後ろに控えていたビルナが激高して怒鳴るが
「口開くな。ザー〇ン臭せえんだよ。ビッチ」
「び、びっち?ざー〇ん?」
聞きなれない単語に戸惑うビルナ。
マヤノリザは止めようと口を開こうとするが
「そもそも全部お前が悪いんだろうがサゲマン。
マヤノリザは当初の予定通りに、ティオレ公国のエムールと結婚しておけばこんな事になってないんだよ。
ティオレが介入してきたら、流石にわたしもすぐ攻め込むなんて真似は出来てないしな。
分かったか、ビッチ。お前がプッシーで物事考えるから、ブラザーが苦労してるんだよ。シット」
単語の意味が分からず、半分ぐらいしか理解できていないが、エムールと結婚していればこんな事にはなっていない、お前が悪い。と言っているのは伝わった。
ビルナは
「やかましい!淫乱クソ女!!お兄様は偉大だ!お前なんぞが敵うか!!!」
「だからそう言ってるだろ、人の話を聞けシット。キスマイブラックアス。
マヤノリザはハイプで、公王の中でもレベゼンだ。
それをお前がバステッドだとディスってるんだよ。
ユーノーワットアイムセイング?」
「わけわからない事言わないで!お兄様は渡さないわ!!!」
「やめろ、ビルナ。エウロバも、ビルナと喧嘩しにきたわけじゃあるまい」
早く用件を言え。とマヤノリザは促すが
「いえ?それが目的よ。マヤノリザ。あなたとのドッグレースを期待していたんだけど。プロップされているだけあるわね。
私もデフな相手と無理に争う気はないわ。
マヤノリザ、私はね。帝国を一つにする。公国の連合体の現状で250年は長過ぎよ。
元々は単なる便宜上仕方なく始まった体制よ、これ。
公国の括りは害悪でしかない」
「帝政に公国が口をはさめない現状は憂慮しているし、対策をするべきだ。この混乱の根源はそこだ。その協力はしよう」
「私の簒奪は認めるのね」
簒奪。その言葉に宮殿はざわめくが
「陛下も、ご兄弟も、限界だ」
マヤノリザは頷いた。
臣下たちのざわめきは収まらないが
「さすがマヤノリザ。クールだわ。
まあそこは別に知ってるからいいの。その先の話。
公国体制で最終的な対立は避けられない状態のままだと色々不都合があってね。
帝国掌握するにも、あなた側に乗る公国が増えるのは困るの」
エウロバは微笑み
「婚約しましょう、マヤノリザ。婚姻関係となり、両国は共に帝位を目指す」
ざわめいていた宮殿は、一転して静かになった。
全員が顔を青ざめさせ、微動だにしない。
唯一1人を除けば
「まあ、そこにたどり着くか。エウロバ。いいだろう、婚約ならば……」
マヤノリザは冷静だった。
エウロバが単騎で飛び込んでくると聞いた時点で予想していたのだ。
結局エネビットが、アラニアと相対の立場を保持したまま勢力を伸ばせば、公国を排する時に、一気にエネビット側に味方がなだれ込む。
エウロバがその対策をしないわけがない。
婚姻関係を結べば、エネビットは、アラニアと同類扱いとなり、同じように反発を招く。
だが、マヤノリザにとっては、婚姻関係になることで、エウロバの抑止に動けるのだ。
帝国内において男性の立場は基本的に上。難しい立場に立たされるが、マヤノリザにとっても考慮に値する提案。
そして、即結婚ではなく、婚約関係ならば、破棄もできる。
そう判断したのだが
「ふざけるな!!!!!認めてたまるか!!!お前のような淫らで愚かな底辺のゴミが!!!お兄様に触れさせてたまるか!!!!」
絶叫するビルナ。
そう、ビルナが問題。
あとで、婚約ならば破棄もできると説明しようとしていたのだが
「だからお前に喧嘩売りに来たんだよ。エアヘッド。
マヤノリザはクールだから話が速いが、お前がいるからディリーダリーだ。
お前の行く先などワットエバーだが、そこらへんの豚にでも飼ってもらえ」
エウロバの目的はビルナの追放。
ビルナは、マヤノリザに対して、敵愾心を煽ることしか言わない。
マヤノリザ単独であれば、妥協点も見つけられるだろうと踏んでいたのだ。
「……お前の要求は、俺との婚約と、ビルナの追放か」
「そう。あんたも、臣下たちも分かっているはずだ。ビルナの存在が、如何にこの国の存在を危うくしているのか」
ビルナは顔を青ざめさせる。
「さっきも言った婚約破棄の件もそう。各公国の王女への無礼もそう。
優秀で、礼儀正しいマヤノリザがなぜここまで孤立しているのか?
本来であれば、帝国本国からの指令がなくても、救援ぐらいは寄越すでしょ。エネビット落ちたら次はうちぐらいはわかるしね。」
「あんたが原因よ、ビルナ。兄への病的な執着が、エネビットを存亡の危機に、ひいては帝国の存亡の危機にさらしている。
私はマヤノリザは夢を語るに値すると認めているけど、あんたを認めない」
「帝国を滅ぼす悪魔は貴様だろうが!!!!」
ビルナはエウロバに跳びかかろうとするが、マヤノリザが抱きかかえて止める。
「ビルナ落ち着け。エウロバ。用件は理解した。次は俺がそちらに伺おう」
「ええ。いい返事を期待しているわ。マヤノリザ」
エウロバが消えた宮殿
「公王様」臣下がなにかを言おうとするが
「明日、改めて会議を行う。アラニアとの関係、そして、ビルナについてもだ」
「お兄様!?」
「ビルナ。一緒に来い。では解散とする」
ビルナを抱きかかえたまま、自分の部屋まで戻るマヤノリザ。
「お兄様!」
「おちつけ。エウロバの提案をそのまま飲むつもりはない」
少し落ち着くビルナ。だが
「しかし、破棄が可能な婚約は受ける」
「お、おにいさま」
ビルナは悲しそうにいう。
「それと、お前の嫁ぎ先もだ。話をする」
「そ、そんな!?」全身を震わせるビルナ。
「安心しろ、相手は動けない。お前には手を触れることもできない」
「……え?」
「陛下のご兄弟。先帝の9男にあたるディルハウエル様に嫁げ。あの方は生まれながらにしゃべることも立ち上がることも出来ない。あの方なら安全だ」
「そ!そんな!私はお兄様と離れるなんて!」
「安心しろ」
ビルナの頭をなでるマヤノリザ。
「俺はエウロバと共に、新都に行く」




