第27食目:ハルゼリアのゆで卵
塔の地下。
そこには多くの魔獣が捕らわれていた。
「これは、大陸から駆逐された魔獣ではありませんか?」
「そうだ。研究には必要だから生かされている」
ハイリンケルは恐れることなく地下を進む。
「あの双子が暴れたらこの魔獣どもでも抑えにはならんのです」
どんな化け物なのですか。
「ニール、と呼ばれていましたね」
ハイリンケルの足が止まる。
「懐かしい呼び名です。私をバカとなじるのも、ニールと呼ぶのも、あの娘しかいなくなった」
「元恋人かなにかですか?」
それぐらいしか考えられない。
あれだけ怒れば、殺してもおかしくない。
だが龍姫は殺さなかった。
「違いますな。そんなものではありません。そう、兄妹が近いかもしれません。血のつながりはありませんが」
一番奥の大きな扉に着くと
「こちらです」
鉄格子みたいなので捕らわれているのかと思ったが、その部屋は豪華だった。
2人は拘束もされていない。
それよりも、その顔。エールミケアさんが悲鳴をあげる。
「そっくりですね」
龍姫そっくり。
「そう思われますかな?母が似ていたのでそうなのかもしれませんが」
「こんにちは!ミルティアといいます!好きな食べ物はなんですか!?」
二人は怪訝そうな顔をしたあと
「お姉様、頭のおかしそうな女がいます」
「おねえさま、りゅうぞくがいます」
二人して『おねえさま』と呼び合う。
顔もそっくりだから、めちゃくちゃ分かりにくい。
「この二人だ」
ハイリンケルが顎で指す。
「消えろ、汚物」
「きえろ、おぶつ」
同じ言葉を繰り返すが、二人目は舌っ足らず。
「ご飯も同じ物が好きなのですか?卵料理は好きですか?」
とりあえず話をする。
こういう、自分とは明らかに違う価値観の人とは、ご飯の話しか分かり合えません。
「卵料理?ご飯、くれるの?」
「たまごりょうり、たべたい」
うむ。伝わった。
「ハイリンケルさん!ご飯用意してください!卵料理です!」
「……そうか、とりあえず任せる。上の人間に頼んでこよう」
ハイリンケルは上に上がる。
「あなた達はなに?私達をどうするの?」
「おねえさまと、ひきはなすの?」
「少なくとも、私はそんな気はしないです。引き離されるから暴れるだけでしょうしね。きっと」
「お姉様、この女は使える」
「おねえさま、このおんなは、ばかではない」
2人は無表情で話し合う。
なんとなく、通じ合うものがあるのだ。
この娘達も、大人達から無視されて育てられたのだろう。
私は、食事に依存した。この二人は依存相手がお互いだったのだ。
多分二人が『おねえさま』と呼び合っているのが、その証。
二人とも、誰かにすがりたいだけ。
「とりあえず、ご飯食べてから話し合いましょう」
持ってこられた卵料理は、一言で言うと悲惨だった。
「こんなもの、人が食べるものではありません。残すのも勿体ないので私が全部食べますが、別の物を作り直してください」
そういうと、エールミケアさんが
「この塔は、食事に無関心な人間が多い。私が用意してくるよ」
といって出て行った。
双子は抱き合って待っている。
年は私とあまり変わらないぐらいか
「貴女は誰?」
「あなたは、なにもの?」
「ミルティアと言います。ご飯が大好きな10歳です!」
「龍族でも、ドラゴンハーフでもない」
「でも、ただのにんげんでもない」
「ただの人間ですよ、今はね」
聖女様の力が入り込んだらどうなるのだろうか?
聖女様は人なのか?
悩むが
「貴女は、私達をどうしたい?」
「ふたりとも、つれていってくれるの?」
「今すぐとは、いきませんが。2ヶ月後ぐらいですかね」
この双子は私に似ている。
私と同じ苦しみを味わった。
だから、きっと私なら分かることがある。
「お待たせ。準備できたよ」
エールミケアさんが帰ってきた。
さあ、ご飯を食べよう。
「美味しいわ、お姉様」
「こんなに、おいしいの、はじめて。おねえさま」
二人とも喜んでいる。
「美味しいご飯は、明日への活力です!この卵料理はなんて言うんですか?エールミケアさん?」
「ええ、これはハルゼリアという鳥の卵を使った料理でね。
卵を茹でて、その身を取り出したもの。それに、果物を砕いた実を載せて食べるの。甘くて、おいしいでしょ?」
「はいです!初めてたべましたが、とても美味しいです!識都も良い街ですね!」
「美味しかった」
「とても、まんぞく」
二人とも食べ終わった。
「それで、ミルはどうするの?」
「その前に。お二人は『おねえさま』と引き離されるから、邪魔者を殺してきたのですよね?」
「そう。あとお姉様を虐めるやつを」
「そう。おねえさまと、ひきはなされるのは、いや」
だそうなので
「許可なく殺人をしないと言うなら、二人とも受け入れますよ。もちろん、なにをやるにも二人セット。なんと、もれなく、美味しい食事が」
「……お姉様と一緒ならいい」
「わたしは、それがいい」
2人とも頷いた。
ハイリンケルにまた会う。
「コミュニケーション不足です」
会うなり言う。
「ふむ」
「ゆっくり話を聞けば伝わったはずです。あの2人は寂しいだけです」
「忙しくてな」
まあ、そうなんでしょうね。私の両親もそうでした。
「優先順位に失敗するのは、賢いとは言いませんよ」
私は吐き捨てるようにハイリンケルにつぶやいて部屋を出た。
「怒ってたね」エールミケアさん
「当たり前です。龍姫さんが怒った意味が分かりました」
なにが忙しいだ。
忙しくても、気をとめることぐらいは出来るはずだ。
それもせず、寂しくてやらかした行動を理由に追放する。
「ここにいても、あの双子は、寂しさのあまり人殺しを続けるだけです。私が招きます」
イライラしていたので
「エールミケアさん!やけ食いです!美味しいもの食べましょう!」
「さっき食べたばかりじゃん……まあ、なんか座って食べよう。私も疲れたよ」
塔から出てエールミケアさんと、食事する場所に向かった。
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学園の地下室。
1人の少女が震えていた。
ヤファの取り巻きの1人。
スティアナの虐めを真っ先に行った、ロイナ。
「手助けは出来んよ。ルピア」
ジュブグランが静かに話しかける
「分かっています」
ルピアは目をつむり答える。
「な、なんなの。ルピア、こんな縛るとかして」
すると
「私には霊媒体質がある」
「れいばい?」
聞きなれない単語に聞き返すロイナ。
「親しい人にしか発動しないから、今まで二人しかしない。1人は母様。もうひとりは、スティアナ」
目を見開くロイナ。
「乗り移りとも違う。その果たされなかった無念が私に取り移る。意識は私。その怨みが私にくる」
「ま、まさか」
「ロイナ。貴女が、スティアナにしたことが、さほどでなければ、そこまででは無いはずよ」
「や、やめて!そんな!私は!」
「ごめんね。スティアナに言って」
ルピアは限界だと言うように、身体を脱力させる。
そして
「ろ、ロイナーーー!!!!!」
ルピアは見せたことがない激高の表情でロイナの顔に蹴り込む。
「い!いだい!!!」
「ロイナ!!!ぶちころしてやる!!!」
怒りに支配されたルピアを見ながら、ジュブグランは黙って見守っていた。




