第25食目:焼き魚定食
翌日。転移でおばあちゃんと一緒にアルネシア公国に着いた。
とりあえず龍姫に会うのだが
「ようこそおいでなされました。まずはこちらへ」
案内してくれたのは人族だった。
龍族ではない。
「龍姫の館にも人族はいるのですね」
「人と龍族の区別がつくか」
「カリスナダさんや、フェルラインを見て共通点が分かりました。あの漲るような筋肉は、人族の女性では見たことがありません」
「なるほどな。その通りだ。ここには人族も大勢いる」
おばあちゃんも少し緊張している。
そして
「ジュブグラン、久しいわ。すっかり、おばあちゃんになられて」
ドラゴンだ。
そう思った。目の前にいる人に見えるものは人間じゃない。
確かにドラゴン。異形の怪物。
「自己紹介などいらないわ。龍姫と呼んで、こちらもミルと呼ぶわ」
「はい、龍姫さん」
後ろにフェルラインもいる。
でも二人しかいない。
「お会いしたのは、いつ以来か。カリスナダの時にお邪魔したのを思い出します」
おばあちゃんが緊張しながら喋る。
「そうね。懐かしいわ」
にこやかに笑う。龍姫。
そして
「ミルも大変ね。あなた宰相の方が幸せだったわよ」
「私もそう思ってますです」
「今からでも直訴すれば?豚の転生体など単なる器よ。勿体ない」
豚。聖女様をそう呼んでるみたい。
怖い。
「単なる器になる気はありません」
龍姫は妖艶に微笑むと
「フェルライン、豚も時代を変えようとしているのね」
「はい。もう限界なのは自覚しているのでしょう」
フェルライン。こちらをにこやかに見つめているが、隙が全くない。
少しでも変な動きをすれば殺される。
「フェルラインさん。おばあちゃんは既に引退されていますし、私の戦闘能力は皆無です。そこまで警戒されなくても」
「ふふふ。そうね。でもね、常に最悪に備えているのよ。今回だって、不意打ちにここで転生の儀式を発動されたら、どうなるか。とかね」
転生の儀式。
「ああ、なるほどな。吹き飛ぶな。ここ」
「以前の暗殺の時にカリスナダが立ち会っているから、範囲と威力は掌握しているわ」
転生により吹き飛ぶ。
よく分からないが、龍姫への被害が想定される事が起きる。
「そこまで想定されて、よくお会いすることになられましたね?本来はフェルラインさんだけだったのでは?」
すると、龍姫はにやりとする。
「そうよ。随分反対されたわ。
でもね、私は自分の目で見たいの。次期聖女の転生体。
聖女は忠実な信徒の身体を乗っ取り不死を気取る、最悪の存在。
神教に逆らう敵。
でもね、もう時代は変わるの。
敵は敵のまま、ではいられないわ」
龍姫は溜め息をつく。
「神教も変わる、帝国も変わる。そして聖女も変わる。私達も変わる頃ね、フェルライン」
「龍姫様」
フェルラインは心配そうに声をかけるが
「大丈夫よ。眠る気はないわ。この娘の幾末は見たいもの」
そして、龍姫は言った。
「次期聖女。妾に一人龍族入れない?」
「緊張したよ。流石にな」
「豪華な宿ですねー」
「ああ、龍姫へのお客さんをもてなす宿だからな。全てが一流だよ」
おばあちゃんは疲れたように言う。
「ここから先は一人だ。ミル。案内役は龍族がつく。
危害は絶対に与えられないし、警戒するだけ無駄だ。
思う存分食べ歩きツアーを満喫するといい」
「はいです!龍族ってフェルラインさん?」
「違うそうだ。フェルラインは、ルピアの教育に来るらしいぞ」
「へー」
じゃあ誰だろう?知らない人か。
「妾に入れるという龍族かもしれんな」
「まあ、あの話は今決断する話ではありませんし」
龍姫からの提案は、おばあちゃんも、フェルラインも驚いたのだ。まだ先の話。
「そんな先の話よりも!明日からの食べ歩きツアーが楽しみです!」
翌朝。
おばあちゃんは大陸に戻った。
そして目の前には
「よろしくねー」
にこにこしている女性。
20代前半だろうか。
だが、声は幼い。
龍族だから、見た目の年齢は参考にならないが
「堅苦しい自己紹介はいらないよ。私はエールミケア。よろしくねー。ミル」
「はいです!ミルです!」
「私は諜報もしていてね。帝国の食事は一番詳しいんだ。まずはこの街から案内しよう。美味しいものは溢れているよ」
「エールミケアさん。カリスナダさんからお聞きしていました!お料理されるそうで」
「うん?ああ、そうそう。料理もやるよ。私は食事が好きだからね」
話が合いそう。
「そうですか!では早速朝ご飯を!」
「うん。この国は魚料理が多いんだ。まずは焼き魚定食食べよっか」
「おお!焼き魚!美味しそうです!」
「魚だけじゃ足りないからね。穀物も必要なんだ。こっちは品目多いよ」
宿で出された朝ご飯。
「焼き魚!海の野菜のスープ!穀物を蒸かした煮もの!野菜の塩漬け!」
品目が多いよ!四品もある!
「ここは美味しいよ。さあ、いただきまーす」
「はいです!いい匂いがします!」
一口食べると
「うん!美味しいです!しかし、色んな食事をこうやって少しずつ食べるなんて豪華ですね!」
「まあね。みんながみんな、こんな食事するわけもない」
エールミケアさんも美味しそうに食べる。
「まあ、別に今回の目的は帝国の平均的な食事を紹介するわけではないから。せっかくだから美味しいご飯を食べまくろう」
「ミルは太るタイプ?」
食事後エールミケアさんが話しかける。
「食事に遠慮しませんが、この体型です」
「そう。じゃあお昼も遠慮なく行こう。その前にお買い物行こうか。帝国のファッションは凄いよ」
「はいです!行きます!」
私の食べ歩きツアーが始まった。




