第24食目:豆と香草のスープ
学園内は凄いことになっていた。
狙っていた後宮の主はルピアが就任した。
取り巻き達の混乱は凄まじい。
そして、教師からの優遇を見ても、候補は三人に絞られた。
他の娘には希望はない。
妾決定。
そこらへんの混乱と
「三人のうち、だれ?」
という予想が収まらない。
「この状況で予想なんてしたって仕方ないんだよ。私達は淡々と過ごす。それだけ」
ビネハリスさんは三人の中で唯一達観している。
自分は有り得ないと知っているからだろうなぁ。
「……そう。素晴らしいわ、ビネハリス。私も混乱してしまった。予想なんておこがましい。私たちに出来るのは、その1日を充実して過ごすだけです」
混乱して、そわそわしているマイセクローラさんも頷く。
一方で一番落ち着きが無いのがヤファさん。
頭をかきむしっている
「こ、これが5ヶ月も続くの……耐えられないわよ、こんなの」
頭の中で可能性がせめぎ合っているんだろうなぁ。
年齢の問題、ルピアとの関係。
不利材料は多い。
だが、それにも関わらず最終候補に残っている。
このあたりで混乱が収まらないらしい。
教室の騒がしさはいつまで経っても終わらなかった。
「ミルティアは、帝国に研修にいくことになりました。明日からしばらくいなくなります」
先生がみんなの前で言う。
「研修ですか?」
ヤファさんが不思議そうに言うと
「私たちはなにかを語ることを許されません。しかし、後宮の主は外交官も兼ねます。その手伝いをする娘も必要でしょう」
その言葉にみんな頷く。
「ミルティア一人ですか?」
ビネハリスさんが聞くが
「ええ。ミルティア一人です」
その言葉にビネハリスさんはうつむいていた。
お昼。
ルピアと、カリスナダさんとお昼ご飯。
目の前には
「スープ!」
「やっぱり私は、豆は煮るのが一番美味しいと思うんだ」
「同感です!」
「……私達だけ、こういうのというのも」
ルピアは申し訳なさそうにする。
「有力候補三人もこれ出してるから」
「ミルティアが疑われないためとは言え……」
「……ルピア、スティアナの亡霊を忘れたのかい?それには必要なんだよ。分かるね」
ルピアの顔が固くなる。
「まあ、難しい話はともかくとして、取りあえず美味しいスープを頂きましょうよ」
「……うん。それはミルが正しいわ。悩んでも仕方ないものね」
スープには、見慣れないものが浮いている。
「なんですか?これ?」
「香草。イビラの葉でね。豆と一緒に煮ると、香りが付くのよ」
「いい匂いがします」ルピアも嬉しそう。
「いただきま~す!」
お豆さんを食べると
「ホクホクです!味も美味しい!」
「本当に。凄い爽やかな匂い……」
三人で笑いながら食べる。
いつまでもこうやっていたい。
カリスナダさんの美味しいご飯を、ルピアと二人で楽しくしゃべりながら食べる。
こんな毎日がずっと続けばいい。
でもそうはいかない。
私は聖女様の転生体として戦うし、ルピアは後宮の主。
そして、カリスナダさんは、本質的には敵。
今しか味わえない幸せ。
せめて、この幸せを味わいつくそう。
帰り、ビネハリスさんに捕まった。
「マイセクローラさんとは思えなくなってきた」
突然、私に話しかける。
「ビネハリスさん、貴女には相談すべき人が他にいるはずです」
「いないわ。ゴマスリしてくるのはいるけどね」
少し嫌悪の表情を浮かべる。
「それにしても、一番日の浅い私に言っても……」
「勘違いだったらごめん。貴女の知能は異常よ。しかも帝国に派遣?元々妾の役割ではなくて、宰相かなにかの候補じゃないの?」
おお、そうなんですよ。元々はそうだったらしいですよ。
「少なくとも、私はそうは聞いていません」
「……まあ、本人に伝えてない事はあるか。
でもね、後宮の主の候補にべったりくっつけて、後宮の主として正式に任命されても、まだ一緒なんて有り得ないのよ。
そんなの、後宮に入ってから依怙贔屓とかあったらどうするの?
だからね、あなたが後宮に入るとは思えない。
そして、その時折見せる理解力。
総合するれば……」
「仮定の話として、実際そうだとして、最初の質問のマイセクローラさんの話に繋がるのですか?」
「貴女の目から見て、誰が相応しい?」
ビネハリスさんをじっと見て
「タチアナ、ルピア、ビネハリス。私が会った中ではこの3人しか相応しい人に会ってません」
「ヤファと、マイセクローラさんは……」
「貴女と同じ感想です。相応しくないかと」
震えるビネハリスさん。
「わ、わたしは」
「あなたの自己評価の低さは異常です。ルピアとタチアナが外れた今、冷静に見れば、貴女は本命ですよ。なにを怯えているのですか?」
「私は、有り得ない」
「何故か?は聞きません。もしそれが事実ならば、他に候補なんていないんじゃないでしょうか?」
「スティアナ、だったの?」
「私は会ってませんから、分かりません」
ビネハリスさんは震えている。
「わたしは、ありえない」
震える身体を支える。
「……わたしは、まちがえたの……?」
ビネハリスさんは崩れ落ちるように座り込んだ。
その日の夜。
お出かけの準備をしていた。
「服は帝国でも買おうな。あそこは凄いぞ」
おばあちゃんがにこにこしている。
「はいです!楽しみです!」
服を詰めてっと。
「前渡した金貨はまだ残っているか?これは国からだ」
ずっしりとした袋。
「わあ!ありがとうございます!」
「遠慮なく使いなさい」
「はい!そうします!」
美味しいもの食べ放題!
帝国かぁ。
「そう言えば、結局アルネシア公国に行くのですか?」
「ああ、まずはそこだ。アラニアにも行く。そして、新都にもな」
「わあ、新都って、帝国の首都ですよね?」
「神教の本拠地でもある。そこで会わないといけないのがいるんだ」
「……神教関係者です?」
「そうだ。龍姫から連絡があってな。次期神皇を決めたそうだ。そいつに挨拶に行く」




