第22食目:コウホークのステーキ、プルム乗せ
寮に戻ったら、おばあちゃんがいた。
「お帰りミル、ルピア。今日は外でご飯を食べようか」
「わーい!久しぶりです!」
わくわく
「ありがとうございます。正直、今日は寮にいたくないです……」
苦笑いするルピア。
「ようやくルピアを発表できたから、会わせたいのが2人いるんだ」
「うに?また龍族ですか?」
カリスナダさんはとても好きだけど、フェルラインという人はとても怖い。
龍族は基本的には怖いと思った方がいい。
「いいや。私の同僚さ。みんなおばあちゃんだよ」
「……は?」
ルピアがびっくりした顔をしている。
そこに座っていたうちの1人は
「ああ!ダリスグレアさん!わたし知ってます!」
「なんでミルがダリスグレア知ってるの?」
おばあちゃんが驚いている。
「知ってますですよ!『グレアミール』ってお料理屋さんの看板に、似顔絵描いてある人です!」
「ああ、よく知ってるね。そうだ。ミルティアのいた街にも店出してたなぁ」
ダリスグレアさんは嬉しそうに笑う。
わたしは召使いさんたちと紛れて、城の外で食事をしたことも何度もある。
そこの激ウマ料理店が『グレアミール』
そこには、ダリスグレアさんの似顔絵が描いてあったのだが
「めっちゃそっくりです」
包みこむような笑顔。シワシワの顔で、微笑む表情。
「……ええっと、ミル。一応聞くんだけど、お隣の人は知ってる?」
「知りません。どこのお料理屋さんの人ですか?」
「宰相よ!この国の宰相!ひいてはこの大陸全ての宰相でもある!ヒルハレイズ様!」
ヒルハレイズ
「なんか、おばあちゃんから名前は聞きました。引退したいのにさせてもらえない、可哀想な人以外の知識はありません」
「その通りですよ、ミルティア。本当はあなたが後継者だったのに」
ヒルハレイズさんは本当に悲しそうに話をする。
「え?ミルがヒルハレイズ様の後継?」
「そうですよ。わたしはミルティアの知性を高く評価して、早い段階から聖女様にご報告していたのです。10の誕生日にこちらに招いて教育するつもりだったのに」
「み、ミルの頭の良さは認めますが、宰相だなんて!」
「ルピア、はっきり言いますけど、現時点の教育していないミルティアの方が、他の官僚よりも優秀ですよ。例えばミルティア、このお肉を見てください」
お肉を切り分けるヒルハレイズ様。
「はいです」
「聖女様の祝福は時間がかかる。優先順位の基準を設けても、それに沿えないことも多い。さて、そんな中で、聖女様の祝福の力をどのように振り分けるか」
お肉を7つに切り分けて
「このお肉が祝福の力と回数を表している。3つの国が納得できるように振り分けてください」
お肉の大きさはバラバラだ。
均一ではない。
ルピアは考え込んでいる。
少し見た後に
「三つの国を、肉国、果物国、穀物国としましょう」
「わかりにくいわ」
ルピアが突っ込むが無視
「選ぶ順番に優位性を持たせます」
「つまり?」
ヒルハレイズ様が微笑む。
「肉国が1
果物国が2
穀物国が3
の順番で選ばせます。
次は
果物国が4
肉国が5
穀物国が6
最後の7は全部が選ぶ権利の遅い穀物国」
ヒルハレイズ様はニヤリとする。
「この順番を明示して、どれがいい?と各国に聞きます。このお肉の形を見ながら言ったのでこの順番ですが、お肉の形にもっと偏りがあれば、また順番は変えるべきです。要は選択肢を与えて、選ばせればいい。そうすれば、人にすがるのではなく、自分の決断となる」
ルピアがビックリした目で見ている。
「要はですね、おすがり信仰がダメなんです。助けてください。救ってください。だけじゃ満たされませんよ。自分で決めさせるんです。じゃないと不満なんて無くなりません」
「素晴らしい!要はそう言うことよ!順番の是非はともかく、相手に決断させること。自分達で選ばせることが、不満を小さくする秘訣。全部人に投げるから不満がたまる」
ヒルハレイズ様はお肉を私に寄せて
「正解者はお肉食べ放題」
そのお肉にプルムの潰した塊を乗せてくれる。
「ルピア!話の分かる宰相様ですね!この国は安泰です!」
「……この、真面目モードのミルはなんで長続きしないの……」
「ヒルハレイズも苦労人なんだ。元々は殺し屋だぞ。それが、変に頭がいいせいで、宰相にまでさせられた。まだ辞めさせてもらえないしな」
「もう限界ですよ。わたしは60になるんですよ。いつまで働かせるつもりですか」
「え!?ヒルハレイズ様、ジュブグラン様と同じぐらいなんですか!?」
「私の二個下」
おばあちゃん。
ヒルハレイズさんは若く見える。40代後半ぐらい?
「この3人だと年齢の順番は当てられないぞ。ダリスグレアが一番年下なんだ」
「えーーー!」
お顔シワシワなのに
「お二人が若すぎるんですよ」
ダリスグレアさんが微笑む。
たしかに、普通に60近くだと、ダリスグレアさんみたいなイメージ。
「ダリスグレアさんも、もしかしておばあちゃんと同じところにいたんですか?」
「ええ。私は一番下でね。ジュブグラン様の足ばかり引っ張っていて」
「こいつは凄いぞ。こんな幸運な奴は私は見たことがない。フェルラインに喧嘩売っても無傷。他の部隊が全滅する中、ダリスグレアだけが、トイレに行っていて無事。挙げ句の果ては、格上の龍族相手に一人で耐えきって、最後、腹を貫かれたと思ったら、それでも生きていた」
「聖龍大戦は、本当によく生き延びられたものだと……」
ダリスグレアさんは、懐かしそうにしている。
「流石に後遺症は残ってな。部隊復帰は無理だった。しばらく事務仕事をしてもらった後、民間に帰った。そうしたら、あのグレアミールだ」
「本当に幸運でねぇ。あのお店も何度も危ない目にあったけれど……」
凄いなぁ。あのシワの数は苦労の数かもしれない
「聖龍大戦で、龍族と互角だったダリスグレアといえば有名だったんだけどね。もう昔過ぎて憶えてる人も少ないわ」
ヒルハレイズさんもなつかしそうな顔をする。
「まあ、それはいいや。二人に会わせたのはな、ルピアが次の後宮の主と発表したので、言える事があるからだ」
「?なんでしょう?」
「私たちの最後の仕事だ。後宮に混ざったスパイを血祭りにあげる」




