第XX食目:オーディルビス王国簒奪劇
オーディルビス王国。
大陸の殆どが、人が住むには適さない巨大な山脈で構成されており、海岸沿いに街を作り、人はそこに住んでいた。
平地が殆どなく農業は不可能。
陸の獣も、険しく、寒い山脈ばかりのこの大陸には殆どいない。
海の幸だけが、この国の食を支えていた。
元々は海賊のように、航行する船を襲い、生計をたてていた者達をまとめあげたのが、初代のオーディルビス王国の国王だった。
貧しさゆえに、貪欲で獰猛。
そんな王国だったが、二代目が、聖龍大戦と呼ばれる世界を巻き込んだ戦争で戦死。
王を失い、大混乱になった王国は、聖女の祝福の力を借りて立て直すことになった。
それ以降は食は安定し、王国は大きな争いごともなく過ごせていた。
今日この日までは。
「我らは、いつまでこの貧しき大陸に閉じ込められるのか!我々は!今こそ新しい大地に移動すべきである!!!」
王宮で演説をふるう少年。
彼は国王の弟の長男。
王から見たら甥にあたる人物。
彼は王国の現状を憂い、度々(たびたび)王に他国への侵略を進言していた。
「我が国は貧しい!確かにそうだ!だがその貧しさは、畑を耕す大地がないからだ!わが大陸の近くにある島々!あれらを占領し、畑となし、畜産を行えば!我々は豊かになる!」
少年は帝国でも、聖女の大陸でもない、南の島々に目を向けていた。
そこには軍らしい軍もいない。
攻めれば占領できる。
人口の少なさから人手不足が深刻だったオーディルビス王国だが、島々を占領すれば奴隷もできる。
問題は一気に解決できるのだ。
だが、王は決断しなかった。
聖女に遠慮をして、攻めることを許さなかった。
聖女の祝福で、この国には飢えはなくなった。それで良いだろうと。
だが、それで納得など出来ない。
遂にクーデターを起こして王を捕らえた。
その少年、バディレスは、先王の家臣達に自分の野望を訴えかけていた。
家臣達も先王が正しいとは思っていない。
はっきりと言えば、先王は無能だった。
聖女の恩恵に甘え、なにもしなかった。
しかし、自分達が必死になって支えた王国を否定し、外に出ようという、バディレスの話にも共感は出来ない。
王国の幾末は混迷していた。
その時
「まあ、バディレス、立派になって凄いね」
突然。
王宮に一人の少女が現れた。
肌が浅黒い、オーディルビスの民特有の容姿。
それが何者かは、すぐ理解できたが、なぜここにいるかは、完全に理解出来なかった。
「……ま、まさか?タチアナ?」
「久しぶりだね、バディレス」
「ばかな!?なぜ!?聖女様の候補生は国には戻らないはず」
「わたしは候補生から外れたんだよ、バディレス」
タチアナはゆっくりと王宮を見渡して
「いやー。七年前からなにも変わってないね。なつかしーなー」
「外れた!?そんな事があるのか?」
「聖女様の御命令だよ、バディレス。あんたのクーデターは聖女様はお認めになられない。だが、先王の無能さも許し難い。オーディルビス王国は新王を立てる」
「聖女様の使者というわけか。だがな!では誰だ!!!王の息子か?口もきけないのに、どうやって政務をとるのだ!!!」
王には息子3人とタチアナがいた。
タチアナが出たときはまだ3人いたのだが、次男は、病で死に、将来を嘱望された長男も二年前に流行病で死んだ。
三男も、その流行病の影響で、全身麻痺をし、口がきけなくなっていたのだ。
だが、その三男が王の後継として指名されていた。
王は、聖女の祝福がある以上、王としての政務など殆どない。全身麻痺でも勤まるとしたのだ。
「だが!無策が病をよんだのだ!あの流行病は、速やかに聖女様にご報告していれば!なんとかなったではないか!いや!もっと言えば隔離だ!病人を隔離すれば良かっただけだ!」
「バディレス、その顛末は私も聞いている。その通りだよ。聖女様の祝福に甘えて、やるべきことをしなかった。どうせ聖女様が救ってくれるだろうと、なんの対策もしなかった。世界中で様々な病、災害が起こっているんだ。聖女様の能力には限界がある。被害を報告して、祝福が来るまで隔離しておけば、それで良かったんだ」
「それができる人間が俺のほかにいるのか!?父は無理だぞ!王以上に怠惰だ!他の兄弟もそうだ!俺のほかにはもういない!」
「その責任は素晴らしいけどね、バディレス。流行病を見て、看病することも、周りに忠告をすることなく、大陸から逃げたバディレスにはその資格はないんだよ」
バディレスは流行病が王宮におよぶとすぐ船で逃げたのだ。
王に代わって、懸命に病の対策に当たった王の長男は死に、三男も病の後遺症で障害が残った。
王が、全身麻痺でも三男を後継にしたのは、その時の献身があるからなのだが。
「聖女様でも癒せないほどの後遺症を受けながらも、民のために動き続けた王の子達を糾弾する立場にあなたはいない」
「では、あの人を王にするのか?」
「できるわけないしょ」
「では」
「私だってさ、バディレス。次の王は私だ。後見人は聖女様」
その瞬間、家臣たちはタチアナに向かい跪いた。
「バディレス、聖女様はお怒りだ。あんたをそそのかしたのは誰だ?たった1人でこんな真似ができるはずがない。臆病で、大人しい貴方にはね」
「お、俺は」
「おれ、ねえ。似合わないよ。僕とかにすれば?」
タチアナはつまらなさそうに言うと
「実際、あなたがクーデターとか馬鹿なことしなきゃ、次は貴方だったのにね。王の無能には聖女様も見限っていたんだ。実の親父ながら、異国の地で話を聞いてて歯がゆかったよ」
「お前は、この国を立て直せるのか」
バディレスはすがるような目でタチアナを見る。
「できるよ。わたしは聖女様の有力候補生だったんだ。転生候補生から優秀そうな人間も引き抜いてきた。安心しなさい」
「……そうか、なら悔いはない。拷問でも、好きにしろ。この国が良くなれば、それでいい」
バディレスは座り込んだ。それに兵が殺到する。
「殺さないでね。黒幕をはかせないといけないから」
単独でこんな真似をするわけがない。では誰が?タチアナには見当がついていた。
「流行病から逃げた先は帝国、か」
おそらく帝国。それも
「神教だろうね。くだらないことを考えるもんだ」
連行されるバディレスを見ながら
「安心してよバディレス、殺さないよ」
タチアナは独り言を言う。
「一生性奴隷として飼ってあげるからさ」
タチアナは淫らな顔をして微笑んでいた。




