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第19食目:タボと薬草の包み焼き

「るーぴーあー」

「はいはい」


結局ルピアは学園に帰ってこなかった。

心配で寮に戻ったらいたのだ。


「ルピア!聞いてください!ルピアがいないせいで、今日のお豆が異常に美味しくなかったんです!!!」

「うん、相変わらずで良かったわ」

「相変わらずじゃないです!ルピアがいないとダメなんです!一緒にいてください!離れないでください!」

ルピアはびっくりした顔をする。


「ルピアがいないと不味い料理が、倍、不味くなるんです!」

「ねえ、そこは『倍、美味しくなくなる』んじゃないの?」


そうとも言いますね。


「でもね。これからはあまり一緒に食べれないかもしれない」

「な、なんでですか!?」


「正式に命じられたわ。後宮の主にね。まだ学園には残るけど、別行動が多くなると思うから」


「ああ、心配しなくていい。ルピア、ミル。お昼とかは一緒にできるよ」

「本当ですか!?おばあちゃん!!!」

相変わらず、おばあちゃんは気付いたらいる。


「教育するのはカリスナダだからね。うまくやってもらうよ」

「なるほど!お願いします!」


嬉しそうにうなづく、おばあちゃん。


「ルピア、まずはスティアナの亡霊退治からだ。これに手助けは出来ない」

「分かっています」

スティアナの亡霊?


「母上の亡霊はフェルラインが自信をもって推薦するチャズビリスという龍族が来る」


ガシャン。


調理場にいたカリスナダさんが、調理用の刃物を落とす。


「うそ!?チャズさんが来るんですか!?」

「ああ。会ったことはないが、ヤバい奴なんだろ?」


拷問ごうもんの天才ですよ。基本的におかしい龍族の中でも、とびきり危ない方ですよ!あの人、龍姫様と、フェルラインさん以外の指示聞きませんからね。暇だと言う理由で、突然隣にいる人に拷問始めるんですから!」

意味分からないのです。なんですか、その人。



「……母様は癒されますか?」

「カリス、チャズの拷問のヤバさを教えてやってくれ」


「とりあえず、産んでくれた両親を呪うようになりますね。なんでこんな苦痛だらけの世界に産み落としたんだと」

「……すごいですね、それ」


「泣き叫ぶなんて最初だけですよ。出来ないんですよ絶望がヤバすぎて。龍族の住む地下にはね、龍姫様を殺そうとしたスパイが囲われているんですよ。チャズさんは暇つぶしに拷問してたんですけど、通りがかるたびに、殺してください、殺してください、ばかりですよ」


「……ちょっと期待してきました。母様も癒されると良いのですが」


ルピアの発狂か。

あれをどうにかしようとするのか。


スティアナの亡霊。母親の亡霊。

ルピアはなにを抱えているのだろうか。



晩御飯はー!

「にーく!にーく!にーく!」

「ごめんね、魚料理だよ」

「へ?この焼けたいい匂いが魚?」

匂いだけならお肉だと思う香ばしさ。


「ええっとね、薬草って知ってるでしょ。傷口に塗って癒やす草」

「はいはい。食べたことありますが、苦かったです」

「……なんで、食べたことあるの?」

ルピアがジト目。


「うん、あれね、火を通してある処理をすると、スッゴい美味しくなるの」

「え!?そうなんですか?」

ビックリ。まずかったよ、あれ。


「水に一週間漬けるの。そうすると苦みがぬけて、爽やかな香りだけが残るのよ。それに火を通すと、こんな香ばしい匂いがするの」


料理が運ばれたが、確かにお魚。これは下魚と呼ばれて、あんまり美味しくない、召使いさん達がよく食べていた、タボ。


「タボは知ってるわよね。安くて、いくらでも手に入る魚。美味しくないと言われているけれども、タボの特徴は食べやすさ。とにかく身がホクホクして、骨が少ない。味はちょっと苦みがあるの。でもね」

焼いた薬草をまぶしながら


「さあ、召し上がれ」

「はいです。頂きます」

一口食べると

「にゅ!にゅうううう!!!なに?これ?味が!凄い!」

なんというんだ、ピリ辛い?

ちょっとした刺激。

苦みが全くない。


「手間はかかるのよ、この料理。でも安くて食べやすい魚に、ひと手間かければ、こんな素敵な味になる」


「ルピア!このタボは革命ですよ!食べて……」


ルピアは焼いた薬草に包まれた茹で豆を食べながら、涙を流していた。


「カリスナダさん、結婚してもらえませんか……?」

「るぴあー!正気にもどってー!」



薬草包みの茹で豆も美味しかった。


「私幸せです!」

「それは良かった」

おばあちゃんはにこにこする。


「そうだ。私の食べ歩きツアーの話ってどうなったんですか?」

「憶えていたのか。今時期の話をしている。派遣は確定的だ」


帝国に派遣されて食べ歩くツアーの話。


「私的にはバッチコイです!」

「ああ。前向きなのは助かるよ。エウロバもアラニアに派遣してこいと言ってるらしい」

「いいですね!」


「実際はアルネシア公国付近だな。あのあたりは龍姫の為に食が充実しているから」


「カリスナダさんのいたところです?」

「うん。料理人のレベルは高いよ。海は近いし、ミルの大好きなお肉もあるしね。楽しみにしてて」

「わーい!」

楽しみだなぁ。



食後、寮は騒がしかった。

タチアナさんが別れの挨拶をしているのだ。


私とルピアは他と離れた部屋にいるのだが、わざわざタチアナさんは来てくれた。


「タチアナさん、本当は私達がいくべきなのに」

「ううん!僕が来たかったからさ!」

にこにこしているタチアナさん。


取り巻きの人達はいない。

一人で来たらしい。


「ルピア、大変だけど頑張ってね」

「ううん!そちらこそ。王様でしょ?女王様?」

え?タチアナさん王様になるの?

いなくなるのはさっき聞いたけど。


「ルピアとはまた会えるさ。それよりミル、君と話したいんだ」

「うに?私と?」


「うん。ルピア、ちょっと借りていい?」

ルピアは戸惑いの顔を見せるが


「大丈夫、行ってきますよ」

おばあちゃんがどうせ隠れてるだろうしね


でもなんの用だろう?バレたのかな?

直感かなにかで


部屋に入ると


「ミルティア、単刀直入に言うよ。後宮は地獄だ。あなたみたいな娘は虐められて、なぶるように殺される」

バレてはいなかった。違う用件だった。


「……あの聖女様の妾、また、後宮の主はルピアさんと聞きました」

模範解答で返そう。


すると

「私は王族。後宮の惨状は聞き及んでいるよ。酷い有り様だ。聖女様のお苦しみを分け与えられる。学園から行った妾は基本的に八割が10年以内に死ぬ。そして、聖女様転生時には、例外なくみんな死ぬ」

それは聞いたことがある。

聖女様転生の時は、妾は全員死ぬのだ。


「ミルティア、君はとても優秀だ。見ていて思った。とても頭がいい。私の国に来ないか?オーディルビス王国は貧しい国だが、海の幸に恵まれている。今回、特別なはからいで、候補生を国に連れていけることになったんだ。ミルティア。あなたの力をオーディルビスに貸してほしい」

頭を下げるタチアナさん。


王女様なのに頭を下げるんだ。

凄い。


「ごめんなさいです。私はルピアに付いていきます」

「……そうか。それもまた道だ」


「海の野菜美味しかったです。どうか、お元気で」

「オーディルビスの魚を食べさせられなかったのは残念だ。きっと、貴女なら、一緒に美味しく食べれたんだろうな」


そうですね。タチアナさん。

私が聖女様になったら、必ず食べに行きます。

そのためにも、絶対に消滅しない。

生き残る。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミルが、だんだん絆を得ている……(落涙) それはそうと本気でルピアの背景は何が!? あの生きた拷問で解決するってどういう事!?
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