第18食目:一人ぼっちで食べる生の豆
学園に登校するなり、ルピアが先生に浚われた。
「るぴあー」
「先に教室にいっててー」
先生達は青い顔をしていた。
なんだろう?
教室に入ると、一部の人達がざわついていた。
あれは
「……!?ルピアさんは?あなた一人なの?」
その一人が話しかけてくる。
なんとなく思い出した。
この人達はタチアナさん達の取り巻きだ。
「先生に浚われました」
「タチアナ様と、ルピアさんが……」
タチアナさんもそうらしい。
見るとマイセクローラさん、ヤファさんは教室にいた。
ヤファさんは取り巻きに囲まれて硬い顔をしている。
そしてマイセクローラさんは、平静な顔をしているが、足が震えている。
あと有力候補で残っているのは
「おはようございます」
衝撃的なおっぱいこと、ビネハリスさん。
教室に入るなり、一斉に振り向かれる。
「え?な、なんなの?」
「2人……ね」
マイセクローラさんがつぶやく。
すぐビネハリスさんの取り巻きが耳打ちすると、顔を青ざめさせた。
まだ近くにいるタチアナさんの取り巻きの人に話しかける。
「要は候補が確定して呼び出されたと、皆さん思っているわけですか?」
「……もちろん、それもある。今回は異例ずくめだからね。でも、2人よ、もしかしたら……」
すると、先生がやってきて、ルピアとタチアナさんも入ってくる。
あれ?二人とも笑顔。
なんかスッキリした顔をしている。
なんだろう?
「おはようございます。皆さんにお伝えしないといけないことがあります。この度都の宮殿より呼び出しを受けました。ルピア、タチアナの二名は、聖女様と謁見します」
聖女様と謁見
タチアナさんの取り巻きは悲鳴のような声をあげる。
そして、ヤファさん、マイセクローラさん、ビネハリスさんの取り巻きは感嘆の歓声。
当の本人達。
ヤファさんは口を抑えていたが、明らかに笑みがこぼれていた。
マイセクローラさんは顔全体を手で覆っていた。
多分感情を見せないように。
ビネハリスさんは硬い表情を浮かべていた。
この反応から察するに、多分
「お分かりのことかと思いますが、次期転生体に、聖女様がお会いになることは絶対にあり得ません。なのでこのお二人はこれから別カリキュラムでの授業を行います。そして、これから先に話すことが重大です」
有力候補生2人が抜けた。
まだ重大な事があるのか?
と生徒が驚く。
すると
「いま、いらっしゃる後宮の主の更迭が決まりました。聖女様の転生よりも先に、後宮の主の任命を行うとのことです」
その言葉で教室はパニックになった。
「わたしは変な目で見られなくなって清々しい気分だわ、ミル」
「おめでとうございます」
「ルピア、聖女様に呼び出される件は心当たりがあるのかい?実は私はあってね」
タチアナさんもすっきりした顔をしている。
「……ええ。あるわ」
「そうか。私の国は少しおかしいことになっていてね。もしかしたら、国に戻るのかも知れない」
「そんな事が許されるのですか?」
「過去に例はないけど、今回はそんなのばかりだろ?」
「オーディルビス王国に異変が?」
「大した話じゃないよ。クーデターだって」
ごめんなさい。私が無学なせいかもしれませんが、クーデターって大した話なのでは無いでしょうか?
「だ、大丈夫なのですか?お国は?」
「戦乱にはなってないからね。まあそんな体力もないんだよ。うちは。王族間の争いなんだけどさ」
あっけらかんと笑うけど、多分大事なんだろーなー。とは思った。
でもルピアはなんなんだろ?
2人は正装に着替える為に授業免除。
まあ、でも今日は授業どころじゃなかった
後宮の主が先に決まる。
それって誰が決めるの?
って話じゃないですか。
今までは転生された聖女様が決められたわけだけれども、今回は先に決めるそうですよ。
つまり、取り巻きの存在意義が無くなってしまう訳ですわ。
取り巻きの人達の大混乱を尻目に、有力候補三人はかなり落ち着いていた。
「騒いでも仕方ない」
ヤファさんが言う。
「ええ。聖女様の判断に間違いはないわ。信じなさい」
マイセクローラさん。
ビネハリスさんは、椅子で伸びながら
「天命を待つってね。もうこうなったら、待つしかないんだよ。どうせあと5ヶ月だ」
5ヶ月。
私が学園に来て一月が経っていた。
1人ぼっちのお昼ご飯。
堅いお豆。いつも以上に味がしない豆を齧りながら、ルピアのいない寂しさを味わっていた。
「誰かと食べるご飯って美味しいんだね」
こんな豆でも、ルピアと食べているときの方が美味しかった。
私は半泣きになりながら、豆を齧り続けていた。
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ルピア、タチアナの二人は教師に連れられ宮殿に来ていた。
王族のタチアナは平然としているが、ルピアはかなり緊張していた。
宮殿で待っていると、聖女が現れる。
候補生になってからは絶対に聖女とは会わないことになっていた。
その聖女が目の前にいる。
普段は天真爛漫なタチアナも、さすがに緊張していた。
すると
「タチアナ、前会ったこと憶えている?」
親しげな口調の聖女。
「はい。まだ4つでしたか。父に連れられご挨拶しました」
「ええ。懐かしいわ。立派に育って」
にこやかに聖女は話をする。
見た目は二十代前半。
だが、転生体の年齢は30代も半ばだった。
「タチアナ、あなたは私の転生体の有力候補だったわ。でも大変に悲しいことに手放さなさければならなくなりました」
「それでは」
「ええ。オーディルビスのクーデターを認めるわけにはいきません。タチアナ、私があなたの後見人です。オーディルビスの王になりなさい」
「聖女様、かしこまりました」
「取り巻きの少女もいるのでしょう?国に連れ帰ってもいいわよ。特別に許可してあげる」
「本当ですか!?」タチアナの目が見開かれる。
「ええ。今回は異例ばかりだもの。いいわよ」
「ありがとうございます!!!」
タチアナは喜ぶ。
そして、ルピアに向けて聖女は言った。
「ルピア、あなたには、後宮の主を命じます。今の主はもうダメ。あなたの裁量で改革しなさい」
後宮の主。
宮殿内はざわめきが起きた。
「もっとも、いきなりは無理。5か月間の研修を命じます。それまでは学園に戻り、特別なカリキュラムに取り組んでもらうわ。カリスナダ」
「はい」
カリスナダがそこにいた。
「カリスナダが教師役。そして、今回はもう一人、特別にお招きしたわ。会いたくないけど。どうぞ、フェルライン」
「あらあら。素敵なご紹介ありがとうございます。お話しするのは初めてかしら?ルピア?」
妖艶な雰囲気をまとった美女。
だが、その威圧はおそろしく、ルピアは震えた。
「たまに学園に来るからよろしくね。ルピア。後宮のなんたるかを教えてあげるわ」
「……よ、よろしくお願い、します」
「戻ったら学園は大騒ぎになるでしょうね。でも隠さなくていいわ。あと当然だけど、転生体の予想なんて無駄なことはしなくていい。以上よ」
謁見は終わった。
するとタチアナはすぐ囲まれる。
「荷物をまとめて、候補生に声掛けをしたら、明日にでも国に戻ってください」
「明日!?」タチアナが驚く。
「クーデターに正当性を与えてはならぬのです。全てが整わぬうちに、タチアナ様に即位して頂きます。明日の午後に出発します」




