第1食目:イノシシと果実の煮物
「うに?」
言われている意味が分からない。
「は?はあ!?本当ですか!?ジュブグラン様!?」
「声が大きい。元々候補体は暗殺の可能性が高いんだ。本命の転生体は最後までそれっぽく無いんだよ」
「で!でも!」
「ミル、ルピア。口外を禁じる。その上で話をした理由だが、ルピア、自殺したスティアナこそが筆頭だったんだ」
目を見開くルピア。
「お前の役割は転生体を守ることだ。今回は守り抜け。それを明確に伝えに来た」
「は!はい!!!」
「そしてミル、お前に伝えた理由はそんな事じゃない。お前さんの過酷な人生は知っている。簡単には死なないだろう。お前さんはこの都で楽しめ。旨いもの食いまくれ。都に来た理由はお前さんが楽しく過ごせるためだ」
「わーーい!そうします!!!」
おいしいもの食べ放題。
わたしの心が高まった。
「以上だ。ちょくちょく顔を出すよ」
そう言ってジュブグランさんはいなくなった。
ルピアは震えていた。
「す、スティアナが転生体筆頭……わ、わたしは」
「さあ!明日から美味しいもの食べますよ~!」
ワクワクしながら今日は寝ることにした。
翌日、朝ご飯。
「なんでですか!ルピア!朝ご飯が美味しくないです!」
「……学園のご飯は美味しくないわよ。身を清めるご飯しか出ないもの」
朝ご飯には穀物しかない。
お肉もない!お魚もない!果実もない!
「どんな地獄ですか!私は貴族の残飯食べたり、召使いの人たちのご飯分けてもらったりしてましたけど、そっちの方がよっぽど豪華ですよ!」
「まさかご飯で地獄を味わってもらうとは思わなかったわ」
「いつもこうなんですか!?」
「あのね、順を追って説明するけれども。ご飯にもランクがあるのよ」
「ランク?」
「ここは聖女様の候補生。転生体として生きるのよ。身体には一番気を使う。なのでご飯はね、身を清めるとされる穀物しか食べないの」
「ウンコみたいな理屈ですね」
「下品よ。そういう言葉は候補生に相応しくないわ」
「そんな事いいながら、候補生筆頭が自殺するというのはなんなんですか」
「上品な方がたちが悪いってね。上品な分やることがえげつないかもしれないわ」
「こんなご飯食べてるからイライラするのですよ。私は都の美味しいご飯を食べたいのです」
「ジュブグラン様が好きに食べろと言っていたけど、どうするのかな。普通は無理なんだけど」
「そういえば、あのおばあちゃん、有名な方なのですか?」
「……ジュブグラン様。聖女様の親衛隊だった方よ。4代に渡って聖女様をお守りした。あの『聖龍大戦』と呼ばれる世界中を巻き込んだ戦争でも活躍されたのよ」
「ふえー。凄い人なのですね」
「ええ。今は引退されて、たまに学園にも顔を出されるのだけど、あんな事を言われるなんて」
「美味しいもの食べ放題!」
「いや、そっちじゃないから」
ルピアは疲れた顔をして言った。
「私が守れか……頑張らないと」
「あら、感心ですのね。掃除なんて」
「はい!おはようございます!」
わたしはにこにこして掃除していた。
ルピアは泣きそうな顔で止めていたのだが
「とにかくトラブルを避けることが大切です。違いますか?」
わたしは学園内では大人しく、目立たないように過ごす事にした。
それよりも大事な事は
「ごーはーんー」
食事は基本的に1日三食。
この大陸では、お昼ご飯が一番豪華なのだ。
夜は少ししか食べない。
それなのに
「るーぴーあー」
「最初に言っておくけど、これみんな同じ献立だからね」
お豆さん。
いや、お豆さんもですね、調理しだいだと思うのですよ。
肉と一緒に煮たりとかすれば、味もつくし、柔らかいし。
お豆のスープとかは美味しいのです。
でもね!でもね!
まんまなの!お豆さんがそのまま!
コリコリしながら食べるの!
「こんな地獄みたいな食事を皆さん耐えているのですか!?」
「物心付いた時からこうだから」
「お肉ー。くだものー」
「お肉は不浄よ。間違っても出ないわ」
「それは分かりますよー。神官のみなさんも食べられませんからね。でも果物はー?」
「私達は候補生。未熟な身で果物なんて食べられない」
「意味が分からないのです!」
色んな理屈で美味しいご飯を食べさせようとしない!泣きそうです。
「この豆は高級品よ?庶民が食べられるものではないわ」
「生で食べられるお豆さんだからそうなんでしょうね。でもお豆さんは煮て食べるのが最高の調理方法だと思うのですよ」
私は決意していた。
夜は美味しいご飯たべてやると。
学園での扱いは放置だった。
なので
「私は美味しいご飯を食べに行きます!」
「あのね、学園を勝手に出れないからね」
ルピアが止めてくる。
「わたしは、あのおばあちゃんの許しを得ています!」
「ジュブグラン様の名前だしても外に出れないわよ」
ルピアが呆れたように言うが
「まあ、そうなのだ。なのでこれを使え」
部屋の片隅に突然現れた
「ジュブグラン様!」
ジュブグラン様はなにか大きな石を持たれていた。
「これは特別仕様の転移石だ」
「転移石?」
「でも、この学園や都では転移妨害がされているはずです」
「その為の特別な物だ。これは一カ所だけしか転移出来ない。都のある民家に繋がっている。そこに出入りしろ」
「あれ?そう言えばおばあちゃんは、気がついたらいますけど、転移じゃないのですか?」
「老いたりとは言え、私は聖女様の暗殺部隊だよ。知らぬ間にいるぐらいはするさ」
「暗殺?親衛隊って聞いたのですが」
「似たようなものさ。聖女様の敵を事前に排除するんだから」
おばあちゃんはにっこりと笑う。
「あと、金も無いだろ。適当に使うといい」
大量の金貨。
「わあ、凄いです」
「私は金持ちだからな。楽しむといい。この都の生活をな」
ルピアと2人で転移。
そこは空き家のようだった。
「学園服ではないからバレないとは思うけど、絶対に学園生だと口外しないでね」
「はーい」
ごはん、ごはん、美味しいご飯だー!
都は夜なのに食事が出来るところが多かった。
「なに食べよう!お肉!お肉!」
「……あのね、果物はいいけど、あなた候補生なんだから、不浄な食べ物は」
「そんなこと言い出したら今更ですよ。私は貴族の残飯でお肉食べまくりですからね」
「……私たちの節制はなんだったのよ」
「あ!屋台です!お肉の匂いがします!」
屋台だー!凄いいっぱいあるー!
「おお、可愛いお嬢さんたちだな。ご飯かい?」
屋台の客引きのおじさんが声をかけてくれる
「はいです!お肉食べたいです!」
「ははは。お肉か。節制の制約は無いのかな?無いならお勧めはイノシシの煮物だ。肉と果物を一緒に煮込んでいてね、味が染みて美味しいよ。お嬢さんみたいな年齢でも美味しいと思うな」
節制の制約という言葉で、ルピアはビクッとする。
神官など、聖女様にお仕えする人達は、節制の制約を行い、お肉や魚は食べられないのだ。
お肉は不浄らしい。
でも
「わたしはそんなの無いです!食べます!」
「あいよ!銅貨五枚だよ」
銅貨。
しかし手持ちは
「おじさん、金貨で変えられますか?」
「金貨!?これは参った。お金持ちのお子さんかい?」
「はいです。こう見えても貴族の娘です」
胸をはる。
「一応、確認だ」
おじさんは金貨を噛む。
「うん、本物だ。参ったな。せめて銀貨は無いか?」
うーんと、ごそごそ漁っていると
「あ!ごめんなさい!銀貨もありましたです!」
「おお、助かるな。ならこの銀貨一枚で、この屋台から好きなの十品ほど選びなさい」
「そんなに!?」
「それが相場だ」
「わーい!」
ルピアはお肉は選ばなかったのだが
「果物だらけ」
「だ!だって!!食べていいって、ジュブグラン様も言ってるし!」
顔が真っ赤か。
私はお肉と果物だらけ。
「美味しい!イノシシの果物煮物!凄い美味しい!!!」
お肉はとても柔らかく、噛むたびに、お肉に染みた果物の味がするのだ。
甘いお肉なんて初めて食べた。
「都の食事は最高です!私はすっごい幸せですよ!」
「……いいのかな、本当に」
頭を抱えながら、でもしっかり果物を食べているルピア。
「いいに決まっているのです!」
私は幸せに浸りながら、お肉をほおばっていた。
金貨は1枚10万円。
銀貨1枚は1万円。
銅貨1枚は100円。
鉄貨1枚は1円。
ぐらいの感覚です。
基本的にはお釣りを出すという文化はありません。
(銅貨や鉄貨を大量に持っていくわけにもいかないので)
余計にもらう分は、多く品を持っていってもらいます。
なので、事前に使う分の貨幣をちゃんと分けて持って行くことが、買い物上手となります。
現に、ミルはこの買い物ではかなりの損をしています。