表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/47

第13食目:イモの塩かけ

次期聖女。

私のことはバレている。

だから堂々と答えた。


「美味しいご飯を食べたいですね!」


「……そうか」

微妙に納得のいかない顔をするが


「不自然過ぎませんか?この大陸」

私は両手を広げる。

「危険な動物がいると国民から苦情が来るから駆除くじょする。食に困らないように他の獣が死なないように保護する。その結果、獰猛どうもうで危険な動物達は駆逐くちくされて、大人しくて人間が食べられるお肉な動物ばかりが生きている」

エウロバさんは黙って聞いている。


「帝国もそうなんでしょうが、人間の力には限度がある。だからキラービーは残っているし、ドラゴンもいる。力が足りないからこそ残っている。その結果、蜜はふんだんに手に入るし、ドラゴンが生き残っているからこそ様々な恩恵を受けられる」

「龍姫の話か」


「この大陸では産まれようがない存在です」

「なるほどな。それで?」


「聖女様はやりすぎです。信仰エネルギーにこだわりすぎている。この大陸が出られない理由はそれ。人の顔色うかがっていれば際限なく足止めされる。人の欲望に際限はないからです」


「つまりだ、お前さんは」

「美味しいご飯を食べる為に、切り捨てるべきものは切り捨てようかと思います」


蜜を食べて思った。

あんな美味しいものを駆除するのは間違ってる。

ではなんでああなったのか。

それはキラービーが危険だからだ。


なのだが

「殺されて良いじゃないですか。人はなにかで死ぬんです。病気とか、人との争いでね。病気だって全部を治癒出来ない。至らない能力ならば、どこかで諦めるしかない」


「ふ、ふはははははは!!!お前面白いよ!国民よりも食を重視するか!!!」

「食が満ち足りて礼節を知ると言われました。良い言葉ですね。そうです。まずは食を充実するんです。この国はなまけている。せっかく美味しい肉があふれ、果物が実っているのに、それに甘えてロクな料理もしない。一緒に煮込んだりするだけ。帝国の龍族に笑われましたよ。私も同感です」


「カリスナダだな、そちらにいる龍族は」

「はいです。彼女の料理の技術には感動しました。帝国には素晴らしい技術がある。それはなぜか?満たされないからです。人は満たされないから努力をする。この大陸はやり過ぎです。聖女様は、やりすぎた」


エウロバさんが抱きついてくる。

「お前はとても魅力的だ。お前と語り合うのはとても楽しい。私の夢はな。帝国を文字通り一つにすることだ。公国の連合体ではない。一つにする。連合体だから歪みが出るのだ。お前の夢も素敵だ。美味しい料理の為に、信徒に苦労をさせるか。そうだ!わたしもだ!戦争は嫌いだ!人が無駄に死ぬ戦争は嫌い。だがな!歪みを無くすためには争いは避けられないのだ!」


「なにかを得るためには、なにかを失う。わたしは美味しいご飯のためには、ある程度は犠牲にします」

立ち上がって、別の屋台に行こうとしたら


「わあ!!!」

首筋を舐められた。

「ふふふ。興奮した。会えて嬉しいよ。共に頑張ろう。聖女の転生儀式は知っているのだろう?あの記憶の書き換えに負けないで。聖女になったらまたお会いしよう」



記憶の書き換え。

なんとなく知り得ている。

聖女様は記憶を継承されている。

では元の転生体の記憶は?


吹き飛ぶかもしれない。

でもだ。わたしはそうとは思えないのだ。

それが学園と後宮の存在。



学園にはわざとバカと性悪しょうあくを集めたとおばあちゃんが言った。


そんな連中が後宮に入り、這いつくばって、聖女様の玩具になるのが楽しいのだと。


もしも記憶の継承で元の記憶が無いならば、それは全く知らない少女達だ。

そんな少女をいたぶってなにか意味はあるのか?


多分学園はその為に作られた。

だから転生体も記憶は残る。ただし、よほど強い意思がなければ吹き飛ぶものもあるはずだ。

でも


「美味しいものを食べるのが!わたしの存在意義です!」


他のすべてが吹き飛んでも、私はこれだけは残す。


「そうか。頼もしいな。では吹き飛ばないように美味しいご飯をたべまくろう」

「はいです!早速ですが、今度は塩辛いものを食べましょう!イモの塩かけです!シンプルな料理だけでは困りますが、シンプルだからこそ良い料理もあります!このおイモは、茹でて塩をかけるという簡単な調理方法で劇ウマですよ!」


「イモなんて下民が食べるものだろう……?」

「その固定観念こていかんねんがダメなのです!かく言う私も!モロコシさんに失礼な事を考えていました。モロコシなんて、獣の餌。ところが!カリスナダさんの手にかかれば滅茶苦茶美味しくなる!」


私はイモを買って差し出す。

「さあ!どうぞ!」

「まあ、そこまで言うならば……」

おそるおそる口に運ぶと


「うまい!うまいな!確かにこれはうまい!」

「そうです!美味しいものはいっぱい世界にありますよ!」


2人で笑いながら、また食べ歩きを続けた。



お腹いっぱいになるまで食べ歩いてから指定場所に帰った。


少ししてから、おばあちゃんがくる。


「ミルティアご苦労様。向こうの使者が言うには、エウロバはとても喜んでいたそうだよ」


「おばあちゃんも見張られていたのでは?」

「距離が遠かったからね。声は聞こえなかったよ」

優しい声。


おばあちゃんが、わたしに優しくしてくれる理由。美味しいご飯をいっぱい食べさせてくれる理由。

多分それが「意志を残す」こと。

転生の衝撃は凄まじいのだろう。

意志が強くないと自我が残らない。


多分、私の予想では、転生体の自我が残らないと不都合な事があるのだ。

それがなんなのかまでは分からないけれども。


「私も楽しかったですよ!」

「そうか。2人が仲良く出来たらな、とてもいいんだ」

おばあちゃんはずっと私の頭を撫で続けてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うん。案外大元の聖女の人格は疲弊しきってるのかなぁ…… でも、イジめられる前提で候補をズラしておいて、聖女になったらぶつけどころにするって歪んでるなぁ……いや、ぶつけどころを用意する優しさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ