第13食目:イモの塩かけ
次期聖女。
私のことはバレている。
だから堂々と答えた。
「美味しいご飯を食べたいですね!」
「……そうか」
微妙に納得のいかない顔をするが
「不自然過ぎませんか?この大陸」
私は両手を広げる。
「危険な動物がいると国民から苦情が来るから駆除する。食に困らないように他の獣が死なないように保護する。その結果、獰猛で危険な動物達は駆逐されて、大人しくて人間が食べられるお肉な動物ばかりが生きている」
エウロバさんは黙って聞いている。
「帝国もそうなんでしょうが、人間の力には限度がある。だからキラービーは残っているし、ドラゴンもいる。力が足りないからこそ残っている。その結果、蜜はふんだんに手に入るし、ドラゴンが生き残っているからこそ様々な恩恵を受けられる」
「龍姫の話か」
「この大陸では産まれようがない存在です」
「なるほどな。それで?」
「聖女様はやりすぎです。信仰エネルギーにこだわりすぎている。この大陸が出られない理由はそれ。人の顔色うかがっていれば際限なく足止めされる。人の欲望に際限はないからです」
「つまりだ、お前さんは」
「美味しいご飯を食べる為に、切り捨てるべきものは切り捨てようかと思います」
蜜を食べて思った。
あんな美味しいものを駆除するのは間違ってる。
ではなんでああなったのか。
それはキラービーが危険だからだ。
なのだが
「殺されて良いじゃないですか。人はなにかで死ぬんです。病気とか、人との争いでね。病気だって全部を治癒出来ない。至らない能力ならば、どこかで諦めるしかない」
「ふ、ふはははははは!!!お前面白いよ!国民よりも食を重視するか!!!」
「食が満ち足りて礼節を知ると言われました。良い言葉ですね。そうです。まずは食を充実するんです。この国は怠けている。せっかく美味しい肉があふれ、果物が実っているのに、それに甘えてロクな料理もしない。一緒に煮込んだりするだけ。帝国の龍族に笑われましたよ。私も同感です」
「カリスナダだな、そちらにいる龍族は」
「はいです。彼女の料理の技術には感動しました。帝国には素晴らしい技術がある。それはなぜか?満たされないからです。人は満たされないから努力をする。この大陸はやり過ぎです。聖女様は、やりすぎた」
エウロバさんが抱きついてくる。
「お前はとても魅力的だ。お前と語り合うのはとても楽しい。私の夢はな。帝国を文字通り一つにすることだ。公国の連合体ではない。一つにする。連合体だから歪みが出るのだ。お前の夢も素敵だ。美味しい料理の為に、信徒に苦労をさせるか。そうだ!わたしもだ!戦争は嫌いだ!人が無駄に死ぬ戦争は嫌い。だがな!歪みを無くすためには争いは避けられないのだ!」
「なにかを得るためには、なにかを失う。わたしは美味しいご飯のためには、ある程度は犠牲にします」
立ち上がって、別の屋台に行こうとしたら
「わあ!!!」
首筋を舐められた。
「ふふふ。興奮した。会えて嬉しいよ。共に頑張ろう。聖女の転生儀式は知っているのだろう?あの記憶の書き換えに負けないで。聖女になったらまたお会いしよう」
記憶の書き換え。
なんとなく知り得ている。
聖女様は記憶を継承されている。
では元の転生体の記憶は?
吹き飛ぶかもしれない。
でもだ。わたしはそうとは思えないのだ。
それが学園と後宮の存在。
学園にはわざとバカと性悪を集めたとおばあちゃんが言った。
そんな連中が後宮に入り、這いつくばって、聖女様の玩具になるのが楽しいのだと。
もしも記憶の継承で元の記憶が無いならば、それは全く知らない少女達だ。
そんな少女をいたぶってなにか意味はあるのか?
多分学園はその為に作られた。
だから転生体も記憶は残る。ただし、よほど強い意思がなければ吹き飛ぶものもあるはずだ。
でも
「美味しいものを食べるのが!わたしの存在意義です!」
他のすべてが吹き飛んでも、私はこれだけは残す。
「そうか。頼もしいな。では吹き飛ばないように美味しいご飯をたべまくろう」
「はいです!早速ですが、今度は塩辛いものを食べましょう!イモの塩かけです!シンプルな料理だけでは困りますが、シンプルだからこそ良い料理もあります!このおイモは、茹でて塩をかけるという簡単な調理方法で劇ウマですよ!」
「イモなんて下民が食べるものだろう……?」
「その固定観念がダメなのです!かく言う私も!モロコシさんに失礼な事を考えていました。モロコシなんて、獣の餌。ところが!カリスナダさんの手にかかれば滅茶苦茶美味しくなる!」
私はイモを買って差し出す。
「さあ!どうぞ!」
「まあ、そこまで言うならば……」
おそるおそる口に運ぶと
「うまい!うまいな!確かにこれはうまい!」
「そうです!美味しいものはいっぱい世界にありますよ!」
2人で笑いながら、また食べ歩きを続けた。
お腹いっぱいになるまで食べ歩いてから指定場所に帰った。
少ししてから、おばあちゃんがくる。
「ミルティアご苦労様。向こうの使者が言うには、エウロバはとても喜んでいたそうだよ」
「おばあちゃんも見張られていたのでは?」
「距離が遠かったからね。声は聞こえなかったよ」
優しい声。
おばあちゃんが、わたしに優しくしてくれる理由。美味しいご飯をいっぱい食べさせてくれる理由。
多分それが「意志を残す」こと。
転生の衝撃は凄まじいのだろう。
意志が強くないと自我が残らない。
多分、私の予想では、転生体の自我が残らないと不都合な事があるのだ。
それがなんなのかまでは分からないけれども。
「私も楽しかったですよ!」
「そうか。2人が仲良く出来たらな、とてもいいんだ」
おばあちゃんはずっと私の頭を撫で続けてくれた。




