第12食目:クレオナッツとコウホークの炒め物
「ああ!屋台2人旅の!!!」
「しないからね」
ルピアが突っ込む。
「一応説明しなければな。エウロバについて」
おばあちゃんが珍しく憂鬱げに言う。珍しい。
「ヤバい人なんです?」
「……暴力は振るわないんだ。その心配はないんだが、とにかく言動がな……」
「とりあえず、なに言ってるか分からないぐらい汚い言葉使うからね」カリスナダさんが引き継ぐ。
「言葉?大陸の共通語ではあるんですよね?」
「ああ。共通語なんだが……方言と呼べばいいのか。その地方、地方にある、なんというかな、汚い言葉ってあるだろう?下品な言葉を濁して言うやつ。あれをやたら使うんだよ。なに言ってるかさっぱり分からないが、とりあえず下品なのは分かる」
「……王女様なのでは?」
「父親が狂っていたし、母親はすぐ死んだ。祖母は寝てるし、兄もメチャクチャ。ロクな教育受けて無かったんだよ」
「なんかシンパシーを感じます!うまくやれそうです!」
放置されていたのですね!仲間です!
「……実際、ミルとは上手くやってほしいと願っているんだ。あの言動も寂しいからだと思えばな……」
「そんな滅茶苦茶な王女が後継って、アラニアは大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。むしろ、国内的には、現公王の死を望んで、エウロバの即位を待ち望んでいる」
「な、なんでですか?」
「公王が狂い、息子たちが戦場で暴れている間、国内を取りまとめたのがエウロバだからだ。わずか6歳で王座に座り、臣下の中から、家柄問わず優秀な人材を配置した。帝国内の公国に攻め込むなんて滅茶苦茶な戦争続けても、アラニアが存続できたのは、優秀な外交官と内相のおかげだ。それらはエウロバが見つけ出して任命したんだよ。知能と、人を見る目が異常に高い化け物だ」
「エウロバならムチャな戦争はしないと国民は踏んでいるのですか?」
「エウロバはな、軍の拡大に否定的だったんだ。精鋭主義を説き、皆兵制を否定した。変わりに軍の待遇向上を訴えた。その動きは軍からも支持を得ている。軍の連中も無駄な戦には飽き飽きしているんだ」
「凄い人なのですね、エウロバさんって」
「アラニア公国では女神扱いだよ。だからこそ教育する人間がいないで、あんな口が異常に悪い王女様が誕生してしまったわけだが」
「今おいくつでしたっけ?」
「11だ。ミルとあまり変わらない」
「仲良く出来そうです」
「だといいのだがな」
おばあちゃんは溜め息をつくと
「まあ、明日だ。とにかく顔合わせからな」
翌日。
学校はカリスナダさん経由でお休みをもらいました。
そして転移予定地についたのですが
「……あん?あんたらがビチクソのフェイク?」
「……うに?」
なに言ってるの?
「なにがウニだ。ディスってんのかビッチ」
「あ、あの。私はルピア、この娘はミルティアです。あなたはアラニア公国のエウロバ様ですか」
「そう。アラニアのレベゼン、エウロバよ」
なに言ってるかさっぱり分からないので
「よく分からないので、ご飯食べましょう。ミルクを凍らせたやつがあるのです」
「凍らせたミルク!アイスか!いいな!私は好きだぞ!」
「はい!とりあえずご飯食べれば分かり合えます!!!」
「……うん。今回はミルが正しい気がしてきた。今の、ミルク以外なに言ってるか分かんないだもん……」
以前おばあちゃんと行ったお店で、ミルクを凍らせた物を頼む。
「どうですか?」
「旨い!うまいな!こんなディーヴァなミルクアイス!アラニアでは食べたことがない!こんな辛気くさい大陸に来るなんて嫌がらせかと思ったが、なかなかやるな!」
楽しそうに笑うエウロバさん。
「この大陸は果物やお肉が美味しいですよ。食べ歩きしましょう!」
「話が分かるな!こんな大陸のワックな文化を解説されるより、食べ歩きの方がよほど価値的だ!」
「……い、一応、文化の解説も」
ルピアが言うが
「不要だ、ビッチ。お前からは淫らな匂いがするな。ビッチも転生体になれるのか?いや、聖女がビッチだから、転生体もビッチか」
ビッチ、ビッチ、言いすぎ
「マザー〇ァッカーなクソ聖女の転生体なんてどうせゴミだと思っていたんだ、お前のようなな。だが、コイツは面白いな。なかなか気に入った」
わたしに抱きついてくる。
「わあ。ルピア、ここはわたしに任せてください」
「……そうね、正直、私がいると不快なようだからね」
「ふむ、頭のまわりは悪くないか。そうしてくれ」
結局、屋台2人旅することになりました。
ルピアがいなくなると、エウロバさんは、私にくっ付いて歩くようになった。
「なんかいい匂いがするな、お前」
「美味しいもの食べてるからですね!」
「なるほどな!」
「あ!あれ美味しそうです!果物とお肉の煮物です!節制の制約なんてないですよね!」
「もちろんだ。お前も無いのか?」
「無いです!ご飯より大切な事は無いのです!」
「そうだな!食が足りてこそ、礼節を知るのだ!神教のクソッタレ共もそこがわかっていない!!!まずはなんでもいいから食を揃える!不浄とかそんな考え方など、安定してからだ!だから帝国中に反乱が起こるんだ!」
なんか難しい話をしてきたので
「エウロバさん、どうぞです。これはクレオナッツとコウホークの炒め物です」
クレオナッツは、ちょっと甘酸っぱい果実。
コウホークはちょっと臭みのあるお肉。
二つを合わせると
「すごいな!肉の臭みがないぞ!肉も柔らかい!ここの大陸の肉はなんでこんなに旨いんだ!」
「新鮮だからだそうです」
「ふむ。都のすぐそばで畜産ができるからか。なるほどな。やはり畜産場を不浄という理由で分けるのは愚策だ」
エウロバさんはずっと難しいことを言っていた。
果実のジュースを買って、2人で飲む。
少し疲れたので座っているのだが。
「お前はどうしたいんだ?」
問われる
「わたしは美味しいものが食べたいですね」
「……そうか。それが目的か」
「はいです。エウロバさんはどうしたいんですか?帝国を乗っ取るつもりなのは分かりましたが」
ビックリしたようにこちらを見るエウロバさん。
「神教について語っていました。けれどもアラニアの国民は聖女様信仰の筈です。少なくともアラニアの治世では神教の影響は限定的。そんなに目の敵にする存在ではない。畜産場のお話もされていましたが、そもそもアラニアは畜産が盛んでは無いはずです。つまりアラニアの治世だけならばそんなにこだわる話ではないことを懸命に考えている。そして帝国の現状を考えれば答えは一つ」
「アハハハハハハ、まあその通りだよ。あんなマザー○ァッカーな皇帝一族に未来はない。私こそが皇帝に相応しい」
ギラギラした目。
野望だ。この人の目は欲望だらけ。野望が全てを支配している。
「それで、次期聖女ミルティア。あんたはどうしたいんだ?」




