第9食目:果実ともろこしの炒めもの
夜、部屋に帰ってきた。
でもルピアの様子がおかしかった。
「……母様……はは、さま……」
すると
「そうか!!!そうか!!!後宮の主ならば!!!あのグズ共に復讐が出来るのか!!!!!ははさま!!!待っていてください!!!このルピアが!!!必ずや!!!ははさまの仇を討ちます!!!!!待っていろグズ共がぁぁ!!!!!!」
普段の冷静で苦労性なルピアのイメージが吹き飛んだ。
憤怒に支配された修羅の表情。
よっぽど辛い事があったのだろう。
ルピアに抱きつく。
「ルピアー。はい。甘いお菓子だよー。お豆の砂糖浸けだよー」
「……ミル」
「辛い事があったら、美味しいご飯を食べるんだよ。そうしたら耐えられるから、ね。怒りだけじゃすぐ死んでしまうよ」
ルピアの髪を優しく撫でる。
「……ミル、ミルティア……」
怒りに支配されたルピアは、今度は泣き出してしまった。
「よしよし。甘いお菓子たべようね。美味しい食事をすれば、また明日頑張れるよ。怒りに支配されちゃダメだよ」
「うん、うん」
幼子のように、ルピアは泣いていた。
翌朝、ルピアは気まずそうに部屋に来る。
「あ、あの、昨日は」
「おはよう、ルピア。今日もカリスナダさんが朝ご飯作ってくれるって!」
「そう、それは良かった。それで、昨日の事は」
「私はご飯の事以外は全部忘れてしまうのです。憶えて欲しかったら、ちゃんと『忘れないで』と事前に言って下さい」
「……ふふ、そうか。うん。とりあえずご飯食べようか」
「はいです!」
ルピアのあの修羅の表情。
お母さんが大変な目にあった。
その復讐を狙っている。
それにしてもあの豹変はおかしい。きっとそれだけじゃない。
ルピアはなにかを抱えている。
「まあ、そんな事は美味しい食事に比べたら大した話じゃないのです。きっと」
屈辱も復讐も。毎日の美味しい食事があれば乗り切れる。
朝ご飯はカリスナダさん特製の卵料理。
そして!!!今回は!!!
「今回は特別にね」
「お豆さんが!お豆さんが!」
今日のお昼ご飯は塩に漬けられたお豆さん。
ちゃんと茹でてあるのだ。
「美味しい!毎回これはだめなんですか!?」
「実際栄養分が足りないんだよ。茹でちゃうとね。その分量を食べてくれるといいんだけど、そうもいかないでしょう?みんな年頃の女の子だし」
ふと、ルピアが私を見る。
「そう言えば、なんであんなに食べてるのに、痩せてるの?」
私に聞いていますか
「分からないです。昔からそうです」
「……うらやましい……」
みんなダイエットしてるのか。
わたしは無縁ですね!えっへん。
周りを見ると、みんな美味しそうに茹でたお豆さんを食べていた。
笑顔が凄い。
やっぱり美味しいご飯は世界を救うのです。うんうん。
「あなた後宮の主でも狙ってるの?」
突然知らん人が声をかけてくる。
「いいえ。全く。わたしはそんな器ではないのです」
「じゃあ、なんでルピアにくっついてるの?」
「お世話してくれる良い人だからです。ルピアさんが有力候補なのは後で知りました。ルピアさんが聖女様になったとしても、私は無理ですよ。まだ10ですよ、わたし。記憶の継承のある聖女様と違って、後宮の主はそんなもの無いでしょう?選ばれませんし、選ばれても出来ません」
なんかビックリした顔でこっちを見るその人。
「そ、そう。ならいいの。ありがとう」
すぐ退散してくれる。
良かった。
「……知能が高いという意味がようやく分かったわ。あなた、人の思考を先読みするのね」
ルピアが来る。
「人の顔色、窺って生きてきましたからね」
「なるほどね。まあ、あんまり教室に長居するとまた絡まれるわ。帰りましょう」
2人で寮に帰ると
「おばあちゃんただいまー」
「おや、気配が読まれたかな?」
おばあちゃんが現れる。
「ううん。単にいつも部屋にいるから、今日もいるかなーって」
「正解だ。今日はカリスナダに料理を作ってもらいなさい。わたしは別の人間に用があってね」
「誰ですか?」
「内緒だ」
悪戯っぽく微笑むおばあちゃん。
「ミル、ご飯だよ~」
カリスナダさんに呼ばれる。
「はーい!今日はなんですか!」
「今日はね。果実をふんだんに使った料理。わたしオリジナルだよ。楽しみにしていてね」
素材は、果実七種類、豆、そして、もろこし。
もろこしは正直人間はあまり食べない。
畜産の餌だ。
なのだが。
「カリスナダさん、毎回不思議です。なんでこんなに料理がうまいのに龍族になんてなったんですか?料理店開けばウハウハですよ」
もろこしが美味しい。メチャクチャ美味しい。
サクッとするのだ。食感が。
サクッ、サクッと歯の感触が楽しい。
そこに果実の甘い、甘いうまみがせめてくる。
満点です。
もろこしさん。今まで餌扱いしてごめんね。
今日から君は私の中のエースだ。
「逆。龍族になったから料理が上手くなったの」
カリスナダさんが答える。
「ええー。どーいう理屈ですか?」
「龍族になるとね、知能と運動能力が底上げされるの。じゃないと鉄鍋二つを振り回して調理なんて無理よ」
なるほどー。
「ただ料理で思い出すのはフェルラインさん。あの人の料理は凄いわよ。わたし、美味しさのあまり失○したのあれしかないもの」
「なんか意味分からないけれども凄そうですね!」
楽しくおしゃべりしながら食事。
ああ、でもこういうの良いなぁ。
幸せです。
食べ終わって部屋で寛いでいたらおばあちゃんが帰ってきた。
「おかえりなさーい」
「ああ、ただいま」
いつも通りのおばあちゃん。
でも後ろにいるルピアは顔面蒼白。
「どうしたのです?ルピア」
「ああ」
おばあちゃんはにこやかな笑顔を浮かべ
「学園にルピアを殺そうとする人間がいたからね。先に殺してきたんだ」




