第0食目:貴族の残飯のスープと召し使い達用の芋の煮っ転がし
その貴族には跡継ぎがいなかった。
息子が生まれて欲しいという願いをよそに、産まれたのは女子だった。
その少女は両親から相手にされず、召使いの手によって育てられた。
彼女が産まれてから五年後、待望の長男が産まれた。
少女はますます放置された。
少女の名はミルティア=アディ=ネルテルゼ。
ミルと周りから呼ばれていた。
彼女は、貴族の子でありながらまともな教育を受ける事もなく、召し使い達に紛れて生活していた。
貴族の女子の将来は、貴族の妾や正妃ぐらいしか選択肢はない。
ミルにも妾の話が出てきた頃に、都から使者が来た。
「な!なんですと!?」
「そんな!!!ミルティアが聖女様の転生体候補生ですって!?」
ミルの両親は、使者の用件に驚愕していた。
「はい。候補生は100名おります。そのうちのお一人です」
聖女。
100年以上前からこの大陸を支配している主。
祝福と呼ばれる能力で、砂漠を、実り豊かな土地に変えるなどの奇跡を起こし続けていた。
その聖女は転生という行為をする。
長くても30年で、身体を変えるのだ。
その際、元々あった記憶も継承する。
その転生体の候補生は、大陸中に散らばっている。
その候補は、神官が見つけ出し通達するのだ。
「では、ミルは」
「転生体によりけりなのですが、ミルティア様は都に来て頂き、教育を受けて頂きます」
「もちろん、その事に異議などありませんが……」
「お伝えしなければならないことがあります。候補生の行く先についてです。当然ですが、転生体候補であるだけで、実際に聖女様に転生される可能性は低いのです。しかし、都に集めた転生体候補生は、聖女様の転生と共に必ず妾として入ることになります」
「なるほど……いえ、しかし、聖女様の妾です。それは我々にとっても望ましいことです」
ミルの父親が答える。
「ご理解頂き助かります。それではミルティア様に、お別れのご挨拶をされてください」
両親はミルティアに特に執着はなく、恥をかかせるなとそれだけだった。
それよりも、召使い達は涙ながらにミルティアを励ました。
ミルティアなら聖女様の転生体になれると。
ミルティアも皆に感謝し、転生体の集う学園に向かう事になった。
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「すごーい!おおきーい!」
わたしは、都を見て興奮していた。
まだ都は遠い。でもそこから見ても都の大きさは分かった。
「おいしいものとかいっぱいあるかな!?おじさん!」
「あははは。そうだね都は美味しい料理が多いよ」
馬車をひくおじさんは優しげに話してくれる。
「わーい!楽しみです!」
わくわくしながら、わたしは都に向かっていた。
無事都に着くと、衛兵の人達に引き渡されて、護衛されながら学園に向かう。
「すごい賑やかです!美味しそうな匂いもします!」
「ふふふ。楽しそうだね」
「はい!都で美味しいもの食べたいです!」
「そうか。まあ、しばらくは学園から出れないが」
「むー。残念です」
食べ歩きしたかったのにー。
学園。そこはとても大きな建物。
入り口には先生達が並んでいた。
「ミルティア=アディ=ネルテルゼ。ようこそいらっしゃいました。ここは、聖女様の転生候補生が集う学園。今日からあなたはここで、聖女様に相応しい教育を受けます」
「はい!頑張ります!」
わたしは笑顔で答える。
「それでは、後はここにいるルピアが案内します」
「ええ。よろしくね。ミルティア。同じ候補生のルピアよ」
「はい!よろしくお願いします!ミルと呼んでください!これからよろしくお願いします!」
「あなた、いくつ?」
移動中、唐突に年齢を聞かれる
「え?今は10です」
「そう。なら先に言っておくわ」
ルピアは振り向き言った
「あなたは落ちこぼれの劣等生。ここでの生活は、これから先、地獄しかないわよ」
落ちこぼれの劣等生。
ルピアはそう言った。
「来たばかりなのに分かるのですか?」
「ええ。ここに来る年齢と、迎えの先生の数で分かるのよ」
「ふえー」
そんなことあるんだ。
「10で来るなんて例が無いわ。普通は5歳には来るの。教育することなんていくらでもあるからね。10からじゃ教育なんてしようがないもの」
「あれ?じゃあなんで私は選ばれたのでしょう?」
「多分、他の候補生が死んだからね」
「わあ、悲しいですね」
「あなたは死なないで」
「???え?なんでです」
「あなたと同じ。遅くに来た子が虐められて自殺したのよ。価値のない娘には酷薄よ、この教師共はね」
ルピアは色々教えてくれた。
要するに、来た年齢と、教師のお出迎え加減でもう、その娘の期待度が分かるらしい。
中には家の問題で遅くに来る娘もいるが、その場合は教師達の出迎えが凄い。
今回の私は、びっくりするほど少なかったそうで
「まあ、放置されるのは慣れてますから。ただイジメは嫌です。どうにかならないですかね」
わたしは部屋でクルクル回りながら考える。
「ああ、そうだ。どっかのグループに取り入ればいいのか」
私の方針が決まった。
「ミルティアです!ミルと呼んでください!よろしくお願いします!」
元気よく挨拶。みんなの態度は冷淡。
事前にルピアに話を聞いていて良かった。
「ふふふ、ミル、でしたっけ?あなたは勘違いされているのかも知れませんが」
気の強そうな人が私に話し掛けてくるが
「あ!私が落ちこぼれなのは知っています!それは家でもそうでした。落ちこぼれらしく、わきまえて生活しますので安心してください!」
後ろにいたルピアが「お前なに言ってるの?」みたいな顔で見ていたが
「まあ!ちゃんとそれがわかっているなら良いのですよ!これからよろしくね!」
「はいです!」
良かった。うまくやれたようだ。
それがキッカケになったのか、クラスの人達は、私に変な態度を取ることもなかった。
その日の夜、ルピアは私の部屋に来てくれた。
「なにあれ?」
「落ちこぼれ扱いは慣れています。それよりもイジメは嫌なので、取り入ることにしました」
「……思い切りがいいのね」
「そうでなければわたし、実家で殺されてましたよ」
「……一応、貴族の令嬢って聞いたんだけど」
「貴族なんてゴミためです」
両親は放置、両親に仕える下級貴族は腹いせに私をぶん殴る。
召使いの人達が優しく無かったら、私はとっくに死んでいた。
「わたしは元々最下層なのです。落ちこぼれと言われても今更です。召使いの皆さんに、他の貴族の残飯とかを残して貰わないと私は生き残れなかったのです」
父と母の顔なんてまともに思い浮かばない。
教育なんてされた記憶もない。
ご飯を一緒にした記憶もない。
徹底して私の存在は無視されていた。
召使い達に紛れて、わたしは生き残ってきたのだ。
最下層?地獄?
どこも一緒。私は元々そうなのだ。
今をどう生きるが大事なのです。
あの城では召使いのみなさんに取り入って生き延びた。
今回は先輩達に取り入って生き残ればいい。
「……あなた、印象と違う。とても強さを感じるわ。本当は聖女様の転生体はあなたのような人が相応しいのでしょうね……」
「わたしはそんな器ではありません」
「そうでもないぞ。ミルティア=アディ=ネルテルゼ」
突然
その部屋に老婆が現れた。
「ふえ?」
「……え?あ、あなたは…」
その老婆の姿を見てルピアは震える。
「初めまして、ミルティア。わたしはジュブグランという」
「初めまして!ミルと呼んでください!お婆さんはこの学園の先生ですか!?」
「先生ではないが、この学園には何回か顔を出している」
「み、ミル、あなた、ジュブグランさん、知らないの?」
ルピアは顔を青ざめさせている。
「……?うにゅ?有名な方なのですか?わたし全然教育受けてないから分からないのです」
「知らなくていいよ。もう過去の話だ。私はもう引退したおばあちゃんだよ。だが、ミル、そんなお婆ちゃんがしてやれることがある。ルピアもよく聞きなさい」
「は!はい!」
ルピアが背筋を伸ばして聞く。
「半年以内に聖女様は今のお身体を変えられる。ミル、あんたが聖女様の転生体候補の筆頭だ」
「龍族と愉快な仲間達が繰り広げる館でのトラブルで、私の精神が限界です」
と同じ世界で、登場人物も何人か被りますが、独立したお話です