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勝った側と負けた側

 舞台は再びエダン山脈東側。


 エルタニア領土では今尚、輸送ヘリが撃墜され続けていた。己の剣に青い炎を宿し、それを圧縮。アモンは、蒼炎を封じ込めた剣を目標に向かって渾身の力を込めて薙ぎ払った。すると青い閃光の鋭い真空刃が輸送ヘリの腹を意図も容易く引き裂いた。



「……ほぅ。以前のロボットとは違い、強度も脆いのですね」


 コレならば容易く葬れると考え、次から次にとアモンは輸送ヘリを撃墜して回っていた。



 さらに、エダン山脈を越えてきたドワーフ族のプレイヤー達は困った様子で目の前の雲を見ていた。


 それはエルタニア軍頭上にあった。

 彼等の目前には一際黒く渦巻き、青光りする雷雲が発生していたのだ。



 魔法学院でもレベル40以上の者たち4名での共同魔法の雷雲。一度でもこの雷に撃たれたとしたら、たとえ機体が無事だったとしても、中に居るドワーフ等に通電して気絶、或いは殺傷するのには十分な電圧量が含まれている。


 そしてコレは魔法であるからして、現実の動きをするワケではない。術者の思い通りの動きをして雷撃は襲い掛かる。



 大抵の輸送ヘリは目の前の不自然な雷雲を恐れたり、危機察知による停滞かを選んだが、一機、二機、三機と徐々に近づく輸送ヘリの姿があった。


 あえて勇気を出した行動なのか、あるいは恐れを知らぬ蛮勇の所業か、それらが入り混じった彼等の決断はたった一撃の雷光を目にした瞬間に停止してしまった。一つの雷が連鎖して、近くにあった三機の物体を感電して通りすぎていったのだ。



 ドワーフのプレイヤー達は侮っていたのだ。


 たかがファンタジーの世界で、空から訪れた脅威になど手が出まいと。


 用意した弾道ミサイルの成果も思うような結果もなく防がれてしまった。願わくば二つ目のミサイルが敵本国を襲っているだろうと……。しかしそれも爆発したときの光と音が届かない事で、彼等には僅かな希望は潰えていた。とにかく今は攻める手立てがないという理由から撤退を選び、とんぼ返りをし始めた。




 今回撃墜されたヘリはメロンソーダが5機、アモンが4機、一度の雷撃で3機。計12機となる。

 更に追加をすると、同時刻で戦闘行為のあったシターニア大森林での輸送ヘリの撃墜数は5機。


 それらを踏まえて、今日一日で撃墜された輸送ヘリの総数は、17機。

 この数はダンケルク国が現在抱えているヘリコプターの半数を超える数であった。




 対して、真正面から待ち構えて、死傷者ゼロで今日の戦闘を終えることができたエルタニアは、あっけない勝利に首をかしげていた。人々が口々にするのは「この程度なのか?」と、それに類するニュアンスの言葉だった。



 アリッサ達は雷雲の元で塹壕を作り、大型ロボットの投下予測地点を目安にドワーフ達を迎え撃つ用意もしていたというのに、その活躍は訪れなかった。


 ちなみに、塹壕は広い範囲に展開しており、精霊付き等はそれぞれに4人一組のグループを小隊扱いとし、敵を待ち伏せをしていた。



 だのに、これでは肩透かしも良い所だと現在ログインしているプレイヤー達は気が抜けてしまっていた。



 しかしアリッサと、全体戦略と作戦を計画したブラック・ラックの二人は少し違った様子でそれを見ていた。ちなみにブラック・ラックが夕方の早い内にログインしているのは、敵襲の知らせをグループチャットで知ったからだ。現在は携帯のアプリからの参加となっている。



「奴等、帰っていくな」


『どうせ空から強襲すれば攻め込めるって打算的な発想なんだよ。いいじゃないか、これで楽をして敵の物資を削る事ができた』


「……順調だな。案外と、お前の言っていた通りになるのかもな」


『酷いね、疑ってるのかい? まあいいさ。あとは連中が隠し玉さえ出してくれさえすれば、計画通り……――おっと、ゴメン。そろそろ戻らないと』


「そうか。今日は何時ごろに戻るんだ?」


『一月は大概ヒマだからね。たぶん遅くはならないよ。じゃあね』



 誰かに呼び出されたかのようにログアウトした後に残されたアリッサは、椅子に深く座り込み、そして息を吹いた。



「計画通り、か。まあ、順調な内はいいさ」




 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・





 一方、ダンケルクでは国全体で悪いムードへ向かっていた。


 ダンケルク王国の中でも一番の軍事基地は、ダンケルク王都の山の隣りに設置されている。

 そもそもダンケルクは大きな鉱山の中を掘り、その結果くり抜いた場所に都を創った街である。


 だから実質、山の隣りに大きな軍事基地が存在するのとなんら変わらない状況だ。


 鉱山の隣りで整地された土地には、現実世界の基地を模倣したかのような姿が再現されており、精霊付き達のほとんどはそこで生活していた。


 今戦争の指揮は全てそこで行なわれている、精霊付きではないダンケルク住民達は考えていた。が、実際は違う。


 プレイヤー達は基本、通話アプリなどを利用して、今後どのように行動するのかを決めていた。よって、ドワーフ達はどのように自分達が戦地に赴くのかなど、全く議論に参加はできなかったし、当の精霊付き達だったドワーフは度重なる敗戦に不満と怒りを募らせていた。


 そもそも――


 死んだドワーフ達は帰ってこない。

 だが、精霊達は再び帰ってきて誰かに乗り移る。まるでそのようなサイクルが為されているかのように、誰かが死ぬたびに新たな精霊付きが現れる。


 今のダンケルクでは、戦争を引き起こし、あまつさえ同族を犬死させていく『傲慢な精霊たち』という風評が深層心理で根付いていた。でもそれは口にはせず、ただ見守る事しかできないというのもあった。


 強大な力を与えてくれる精霊等に、よもや彼等の方針に逆らう事などできないからだ。


 今は粛々と、何も知らない無力なドワーフ達は従うしかできないのであった。




 そんな彼等の運命を握っているのは、ダンケルクを拠点にする一大ギルド「ダーク・ブラック・スミス連合」である。その長に、ドワーフ族の王として君臨しているのがプレイヤーのバッハだ。本名を馬場(ばば)隆史(たかし)という。



 彼は今日、ギルドの総意である二方面に対するエルタニア強襲作戦を指揮した。


 主な戦闘時刻は社会人が働いているはずの午後3時。


 馬場は実家暮らしのフリーターであるので、時間には融通が利いた。


 まずはシターニア大森林を迂回してエルタニアを襲う予定だった伏兵部隊。

 そしてエダン山脈を軽々と越えていく筈だった航空輸送部隊。

 さらに不意を付く超高高度から襲い掛かる弾道ミサイル二発だ。もしかしたらこのミサイルで戦争は終了してしまうのでは無いかと高を括っていた節さえあった。


 作戦開始まで馬場は、悠々と結果を待つばかりであった。



 だがその結果は、どれも散々で何一つとして成功などしなかった。ネットではその時の評価で蔓延しており、笑い者にされているか、ゴミクズか何かのような扱われ方だった。そしてギルドのグループでも同じく、内輪もめが発生していた。


 やれ「あの時言った作戦が悪かった」だの「二方面なんて戦力分散されて無駄だった」だの「決定したリーダーに責任がある」など。



 しかし最後の文言については少し疑問が残る。


 今回の作戦はギルドの幹部、馬場を含めた5名が各々納得して決議した話だったからだ。


 問題があるとすればギルドの幹部達もだ。

 そもそもの敗因は、誰も彼もが本気で考えておらず、机上の計算で『全て問題がない』と思い込んでいたことである。


 ドワーフ種族ばかりを使っている彼等にはわからなかった。空は現実と同じで遠い存在なのだと……科学の力でなければ決して手の届かないものだと思い込んでいたのだ。だから航空部隊の設立を後回しに、航空輸送部隊のみの編成で進軍したのだ。


 三人寄れば文殊の知恵など、その者達に真の意思がなければ……必死になるほどの何かがなければ、意味など無いのだ。


 命を賭けない精霊達にそれは宿らない。




『……クソが。ふざけやかって。弾薬やらロボット兵器の工場だって、もう火の車だって言って急かしたのは連中じゃねえか。しかも北部のドロイド軍の惨敗の話なんて知らねえんだよ。しらねえ話まで俺の所為にするんじゃねえよ……たく!』


 本日の作戦以外の戦闘行為は、ほとんどが彼等とは違う方針によって自発的に作戦を決行した者達の独断であった。

 今のダンケルクには一個の頭目を置いて行動しようという気は誰も持っていない。皆勝手気ままに攻撃行動に出て、それで勝てる気でいたのだ。だがそれは、チーム対抗戦に置いての“野良”と同じで、制御できない分子でしかない。奏とリトの居た北部を襲ったのは、まさにそんな野良集団の行動であった。



 その時の惨敗の責任までリーダーである馬場に批判が集まってきている今、彼の気分は至極悪かった。そんな所に、一時大陸に戻っていたオートマタのシグが、帰ってきたのである。


「随分と機嫌良さそうだな。バッハ」

『んなわきゃねえだろ。最ッ低の最悪だ。……お前が帰ってくるまではな』



 馬場はシグの帰りを心待ちにしていたかのように気分を変えていた。まるで待ち望んだお年玉のポチ袋を受けとる少年のようである。



『で、どうなんだよ。見つかったか?』

「ああ。だが残念ながら二等級の劣化品だ。しかしそれでも十分起動するだろう」

『良いんだよ! そんなもんドワーフがメンテすっからよ! それに今は状況がひっくり返るような材料が一つでも欲しいんだ。そんで、それは何処に置いてあるんだよ?』

「基地のまん前だ。適当な連中にドッグに運んでおけと言っておいた」

『ハッハー! そうかそうか! よっしゃ。今すぐ中に取り付けに行ってやるか! 待っててくれよぉ、愛しのエンジンちゃん!』

「待て」



 馬場はシグによって運ばれてきた、とある兵器のキーパーツとなるモノを心待ちにしていた。それを拝見させる前に、シグにはどうしても確認したい事があった。



「あのハイエルフ。今、どこにいるかわかっているか?」

『ああ? それならシターニア大森林に残ってるんじゃないのか? 今日も奴にやられたって報告もあるし』

「そうか、わかった」

『……言っておくが、タイミングは――』

「わかってる。お前に合わせるさ。だが首は俺が貰う」

『OK、それで問題ねえ』



 バッハは、やはり何も言わず、ただ心の中で嘲笑しながら、精霊達の動向を見物していた。


 そして意趣返しをするならば、きっとこの時であろうと、彼は確信していた。



ドラゴンがいる異世界ファンタジーで、空からの敵襲に備えていない砦はありえない! という記事を思い出しました。そういう世界感のミスは叩けばボロボロとでてきそうな気がしてきます。

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