魔女と梟の共同戦術
シターニア大森林に大型輸送ヘリが飛行していた頃、同じくエダン山脈を上空から越えようとしている大型ヘリがメロンソーダの設置した感知魔法により発見された。
その感知魔法はいま、滅多矢鱈に植木鉢や虫入りのビンなどが散乱している研究室の中、水晶玉に赤く点滅させて危機を知らせていた。
「ふぁ……アァ。ねむ」
メロンソーダが毛布のように扱っていた分厚い本の中から起き上がると、これ以上ないほどに口を大きく開け、目を擦って髪をかき上げていた。
魔女のトレードマークたる黒い三角帽子と箒は主人に置いていかれて、今は二つとも机の上で彼女の帰りを待っている。
長い黒髪がだらしなく顔を隠し、余計にルーズな性格を強調させていた。
「ああ、もう。……部屋の魔力枯れてるし」
メロンソーダは何をするよりも先に机の上に置いていた壷のような御香立てに粉を適当に入れて、魔法で軽く火をつけた。すると、薄い緑色の煙が立ち始める。それからやっと自分の帽子に手を掛けて頭に乗せた。
「ホント、人界って奴は難儀だよ。魔界の空気が恋しいなぁ……。いや、やっぱいいか。クソババア共が居ないだけ数億倍はマシだし。……あーだる。それより、それよりっと」
一人でぼやきつつ、手首をブラブラと振ってから赤く点滅する水晶玉に手をかざした。
彼女は瞑想するように息を止めて、目を閉じ、他の事など解らないほどに集中すると、メロンソーダの意識だけが水晶玉の中へと入り込んだ。水晶玉に潜り込んだ意識は、水の中を泳ぐようにその中心へと向かっていき、いずれ中央へと辿り着く。
その中央へと到着すると――同時刻のエダン山脈エルタニア側に設置されたアリッサ達のいる軍事拠点に、黒い魔女の姿が突然現れた。
周囲では突然現れた謎の存在に驚き、新手の魔物かと警戒していた。が、丁度居合わせたアリッサが手を上げて待てと指示をすると、無用な混乱は避けられた。
「唐突に現れるとは、またどのような魔法だ。メロンソーダ――。いや、今は“緑眼”とでも呼ばせて貰おうか」
「別に大した魔法じゃないし。水晶魔法をルートに仮想投影術と精神没入術と念動符術をハブ結合させて、サブを適当に繋げさせた簡単な多種混合術式だよ」
「……すまない、全く簡単に聞こえないのだが?」
「あー? 今ので? じゃ、説明とかどうでもいいか。それより飛んでくる物体が複数迫ってるよ」
それだけいうと、黒い魔女は重力を失ってしまったようにゆっくりとした速さで地面から離れていった。
「まて、何処へ行く?」
「何処って、お約束どおり、何かきたら私が落とす約束だろ?」
手をヒラヒラとさせて雑に別れの挨拶を済ませると、黒い魔女は箒も使わずに空高くへと浮かんで消えてしまった。
ちなみにこの黒い魔女の姿はメロンソーダにとって、ただの投影機で映した実態のない空像にすぎないが、痛覚を除く五感や意識などの感覚は空像ありきとなっている。そして、魔法を発動する起点となるのも、その空像である。
「さーてと、コレ使えるかなぁ」
彼女は黒マントの内ポケットから緑色の宝石の付いたピアスを取り出して耳の辺りに近づけた。
「おーい。フクロウ、聞こえるか?」
『ホゥ……。突然で驚きましたが、しっかりと聞こえていますよ』
ピアスの宝石からアモンの声がしっかりと聞こえてきた。これは一時、スノーの要望に応えようとして考えられた、古代文明の遺品と精霊ころぽんのアイデアによって開発された、遠くの者と通信が可能な魔道具の試作品である。
割と普通に会話できているようで、メロンソーダもこれには満足した。
『ところで、メロンソーダ様。如何なされましたかな?』
「お前、今どこにいる?」
『エダン山脈の中央、やや北寄りでしょうか。現在、偵察中でして』
「偵察でなんでそんな所にいるんだよ?」
『メロンソーダ様が開発された地雷があまりに仕事を為され過ぎており、そこを突破するような者が現れないからです。ですので最近は裏道の発見が主な任務となっております』
「あっそ。まあそっちはいいや。今、西から何かが飛んできているのが見えるか?」
『飛んできているもの、ですか。……ホゥ? ええ、見えますよ。なにやら棺桶のような形の空飛ぶ鉄の箱が見えますよ』
「うん、多分それだ。今から魔法で弾着観測射撃するから、観測手を頼んでいいか?」
『だん……なんとか射撃でございますか? 申し訳ございません、無学なもので、それがどういったものなのか教えていただいてもよろしいでしょうか?』
「……お前もめんどい奴だな。もういい。適当に撃つから、どの程度外れたか教えてくれ」
『畏まりました』
メロンソーダはエダン山脈の頂よりも高い……どころか、常人では決して到達できない、雲と同じ高さまで昇りきると、そこで小屋ほどの巨大な岩の塊を作り出した。使われた魔法の属性は【土・炎・風】の三種。
それをまずは手始めにと西へ向かって放り投げるように岩に命令して放った。
魔法で作り出した岩石は重力の思うがままに落ちていくと、途中で中から爆発し、空中で四散した。メロンソーダがそうなるようにと、仕掛けておいたのだ。
特定の領域にのみ、岩石の雨を降らせると、メロンソーダはアモンに確認を取った。
「どうだった?」
『今落とした範囲でも命中はいたしましたが、いささか火力不足なのでは?』
「あっそ。いや、あんがと。そんじゃ、今度はもっと投げるから」
そういって、メロンソーダは先ほど作った爆散する岩を何十と作り出し、一度に全てを放り投げた。岩が雪崩のように空から降り注がれる音が轟き、岩石と鉄クズが地面が同時に落ちるという、普通ではまず聞き慣れない騒音を奏でていた。
「おい、フクロウ。今度はどうだった?」
『お見事でございます。今ので5機ほど、撃墜いたしました』
「ふうん? すくね……のか? つーか今更だけど、相手の数は全部でいくつだよ」
『ざっと25機ほどでした。残り20ですね』
「多い……。あーあ、面倒臭いなぁ、もっと沢山投げるか……。ン?」
メロンソーダは再び、なんの苦労もなさそうな態度で爆散岩をまた何十幾つと作りだし、同じ手法で放り投げて使おうとしていた、その時だった。
メロンソーダの感知防衛魔法が、猛烈な速さで空を突き抜けてやって来る謎の存在を感知した。
申し訳ございません。
明日、明後日は恐らく更新が不可能となるかと思われます。物凄く中途半端な節でございますが、なにとぞご容赦を……。




