早く抜けよ、待ってやるからさ
1月3日、敵国ダンケルクのドワーフ達が大量の兵器を準備して出撃準備に入った事がグループ通知で知らされた
事前にティンがダンケルクに潜入していたらしく、向こうの動きは筒抜けだった。だが、逆にこちらの動きも相手側には簡単に伝わるだろう事は予想しておくべきだろう。
なにせエルタニアは少数ではあるが、精霊付きドワーフも生活しているのだ。別にドワーフが悪いという訳ではないが、こういう話題は水掛け論になってしまうのがオチだからな。あまり刺激はしたくない話だけど、彼等には自粛して家に待機してもらうようにエルタニア最高権力者である王様から願いを出して貰った。それくらいが関の山かな。
でも個人的な意見を述べるのなら、スパイ行為なんて簡単にできてしまうからあまり意味がないと思う。サブアカを使ってドワーフ以外の種族になって潜入とか普通にできそうだし。まあ、そこまでダンケルクプレイヤーの頭が賢いのかは知らないけど。相手は俺達の事を完全に舐め腐ってるみたいだし。
勝負事でもなんでも、相手を舐めた時に敗北が決定する事だってあるのにね。
それと同日、スノーはシターニア大森林へとラックさんの命で出向した。移動にはもちろんカリオットだ。
ダンケルク南側とシターニア大森林の境界線にて防衛線を展開するからだ。
その過程で対ドワーフ抵抗軍に再度合流する予定だ。最近はNPCのエルフや獣人達と共にトラップを設置するくらいだったのだが、今度からはそれだけではなくなってくるだろう。場合によっては自分達が攻め込む作戦もあるかもしれない。それはそれで少しワクワクしているのだけど。
それから今回、アゲイル(小田)も一緒だ。その理由は作戦が大規模であるからというのが一つある。
俺達のほかにも冒険者ギルド、魔法ギルド、戦士ギルドにいたプレイヤー達も一緒に連れて来ている。外注参加者は十名、俺と小田を含めて総勢十二名の戦力だ。
レベル制限は一応、最低30を目安としておいた。あと、最低限の命令が遵守できる者達のみに限っての参加だ。長期大規模レイドクエストとなるのだから、今回は特に大事だ。そのメンバー選考は小田とアゲイルが行なった。
俺はリーダーって柄じゃあないし、基本的に人の事とかどうでもいい、その上一番重要な広い視野から行なう状況判断や的確な指示ができない。あくまでも俺は個人戦が得意なだけだ。他は知らない。
だからこそ、小田の同行である。
小田は俺と違ってギリギリ及第点としてラックさんから任せて大丈夫と評価された。だからシターニア大森林側には小田に参加してもらう必要があったのだ。
あともう一つ、対航空戦力としてもアゲイルは見られている。
なにせ竜騎士だからな。
制空権の確保がいかに重要なのかは予想するに容易い。一方的に空から爆撃なんてされたら、どうやっても勝てないし。
ちなみにエルタニアの空はアモンが守る事になっている。それでなくても王都にはメロンソーダ(ころぽんさん)がいるし、守りは万全だろう。
それから奏は現在、エルタニアとダンケルクの北部国境線にて待機している。辺境地帯ではあるけれど、それなりに大事な防衛拠点のひとつだ。大事な場所に、一番適切な人材が置かれることとなった。
最後にアリッサとオルレ庵はどうしているのかと言うと、エルタニアとダンケルクの中央国境線の『地の御神殿』の付近で戦力を展開している。二人の居る場所が、今回の戦争で一番の激戦地となるらしい。
ラックさん曰く『敵国は単細胞だから間違いなく、最短距離で一直線にココを通るさ。ちなみに単細胞ってのはそのままの意味ね。連携とかなくて各々勝手に動き出すから、予備動作なく仕掛けてくる。だから、みんなも常に気を張っててね』という理屈だった。
どこまでラックさんの言う通りになるのかわからないが、まあ大森林側はそんなに変わらないだろう。
なにせこっちはずっと前から対抗軍として活動してきたのだからな。余裕だろう。
と、思っていたのだが、シターニア大森林の東部、本日のキャンプ地点の事だった。
夕方になって十数名が一度にキャンプの準備をしていた頃だ。十二名と表記しないのはNPC達も同行しているからだ。メンバーはいつものホーク、ニル、ジェシーの三名と、知らない顔の男女が数名だ。NPCは雑用役として冒険者ギルドから雇われている。みんな戦闘系の職種なので、食事やらキャンプ設置などのスキルを習得していない者がほとんどだ。こういう時、NPC達は本当に助かる。出費以上の活躍をしてくれていると思うくらいだ。
そんな他愛のない事を思っていた時だった。
『なあ、一ついいか?』
スノーとアゲイルが二人で仲良く食事しようとしていると、黒いコートの良い装備を着こなした人間族のプレイヤーが話しかけてきた。確か“ヴィンセント”という名前で、武器は銃と剣というスタイルのキャラクターだ。ちなみにプレイヤーのHNはジョンだったかな。
『竜騎士アゲイルは有名だ。皆知ってる。でも、そっちのエルフはなんなんだ? エルフなのに、アンタ強いのか?』
すると、周囲から嘲笑の声が聞こえてきた。
これはスノーが馬鹿にされているのだろうか。それはゆるせんな。絶対に許せん。
「実力が気になるんなら相手してやろうか?」
『ハ? なんだそりゃ? 御宅みたいなロリコンヘンタイ好きのエルフ使いが大規模レイドに参加するだけでも空気読めてないってわかんないの?』
お、言いやがったなコノヤロウ。その喧嘩、買ってあげようじゃないか。ただし、御釣りは貴様の恥だがな。
「……御託はいい、ゲーマーなら腕を見せろよ」
『ゼタっち。その人、レベル60手前で、波に乗ってる人だから……』
「だから?」
『お手柔らかに、できれば離脱しない程度に、どーにかできない?』
「そんなベビーシッターみたいな真似は御免だね。止めるなら勝手に止めてくれ」
『アーハイハイ、承知いたしましたでござりまするよーだ』
小田のこの反応は「もう知ーらない」という意味だ。可哀想にヴィンセント……。
ちなみに場所は面倒なので、キャンプのすぐ横の広場で行なう事にした。当然、今回の同行者は皆見ている。
スノーはルナイラの弓を左手で握り、矢は番えずにヴィンセントが構えるのを待った。
「スノー、悪いな。どうも周りの連中、俺達の事を舐めてるみたいだからな」
これ以上、一般参加の連中にデカイ顔されると腹が立つからな。これでも精霊騎士団第一席で、スコアランキング3位なんだぞ。……秘密だけどさ。
でもエルフだから弱いと言われるのは理不尽だろう。そういう色眼鏡を払拭するいい機会だ。軽く一発で終わらせてやる。
と、勝手に一人で意気込んでいると、スノーが俺の言葉に疑問を抱くように問い返した。
『ゼタはそんな風に聞こえたのですか?』
「なんだ、違ったのか? じゃあスノーには連中の声がどう聞こえたんだ?」
『はい、目の前の男性の事を“王都警備部24時”のハイエルフを知らないモグリだという声が聞こえたので、てっきりアチラに対する揶揄だったと……』
それ、ジョンさんの方が笑い者にされているパターンじゃないか。
ああ、そうだったのか。そんなに有名になった気がしなかったけれど、いつの間にか実況動画のお陰で知名度もそれなりに広がっていたワケか。
じゃあ俺がこの決闘を受ける意味ってなんなんだ……。ああ、途端にやる気がなくなってきた。
「先に抜けよ。それまで待ってやるから」
『正気かよ? じゃあ――』
――まずは剣から抜いて、次に銃を抜いて弓矢よりも早く攻撃しようだなんて考えてたんだろうが……。
俺の『抜け』は剣を一センチでも抜く、という解釈だ。マヌケめ。
相手が剣を手に触れた瞬間、スノーを全力で走らせた。さらにコマンド入力で一瞬で前方に移動する“縮地飛び”を使って目前まで移動した。
まだ相手の剣が鞘から半分しか抜けていない時点でもはや決着はついていた。だが寸止めするのも面倒なので、両手で振り抜くルナイラの弓で顔面を全力で直撃させた。当然、ヴィンセント君は顔面から遠くへときりもみ回転しながら後方へと飛び、最後には地面と熱烈なキスをしていた。
さすがにその程度では死ななかったようだが、かなりのダメージだったようだ。ルナイラの弓、打撃武器としても有効なのか。良い事を知れた。
「じゃ、実力はわかったな。皆、よろしくね」
『ゼタっち、お前悪魔か』
「んだよ。抜刀が遅い相手が悪いんだろ」
誰が弓で殴っちゃいけませんなんていったんだ。俺が矢を使うなんていつ言ったんだよ。見た目でしか判断してないんだろ。
ちなみにその日の夜にヴィンセントとジョンさんは離脱した。
シターニア大森林側のプレイヤー、残り11名。
ヴィンセントとジョンでピンと来た人は私と友達になりましょう。ヒントはトラボルタ。




