初夢でお願い事
『西暦2050年、なんと地球上の生物は絶滅してしまうのです!』
年越しの夜。みんなで『たこ焼きそば』を食べている最中、俺一人で死んだ目でそんな年末番組を眺めていた。
どうして我が家では、紅白や格闘技やバラエティを見ることなく、こんな宇宙人が実在するだとか世界の終末だとか……とかくしょうもない話しかしない番組を見なくてはならないのか。世界の終焉なんて、ノストラダムスだとかマヤの予言やらでもう十分だよ。無駄に人の危機感を煽る辺りが辛気臭くて俺は嫌いなんだよ。そんなもんより俺はガ○使が見たい。まっちゃんのケツのしばかれた回数が知りたいんだよ。
「ごっそさん」
「兄貴、もうちょっとでお祖母ちゃん出るけど見ないの?」
「興味ないよ……というか、見たかねえ」
年越しそばを食べ終わると、さっそく部屋へと戻る。
ネットで年越し生放送をしているリトさんのチャンネルを覗いたり、携帯でスノーの確認を取ってみたり、大した事はしていなかった。
ちなみにスノーは今、エルタニア王都の魔法学院にて新しい上級魔法の習得中である。もうしばらくすれば王都へは帰ってこられなくなる。心残りのないようにはして置きたかった。
あと、気になる点といえば……年越しだと言うのに、トラキオン運営は年越しイベントをするつもりがないらしい。他のMMOならばこの時期は毎回、派手な花火のエフェクトやら特別なBGMでもかけて「来年もよろしくぅ!」的な空気を作り出すのに、それがないというのも違和感があった。このゲームの製作者のやる気は何処へ向かっているんだろうか……。
ただ、全く楽しみが無いという訳ではない。今日は二ヶ月に一度ある、スコアランキングのランカー報酬がある日だ。
これから戦争が始まるというのだ。少しでも便利な道具は欲しいと思うのがプレイヤーの道理だろう。……まあ、相手も新たな武器を手に入れたりするだろうから、もしかしたらあんまり良くないかもしれないけれど。
「さーて、今回はランク3位という事もあって、それなりに良い物が手に入りそうだから、期待したいところだな!」
『あまり神様に失礼なお願いをして欲しくないのですが……』
「ハハ、この程度で失礼だって言うんならもうとっくの昔に俺は殺されてるぜ」
『一体なにをしてきたんですか』
いや、大した事はしてないよ。ホントだよ?
ただ毎年「楽して金儲けして左団扇で生きたいです」って初詣にお願いしてるだけさ。別に神様に何を願ったっていいんだし。そもそも神様は最初から願いなんて叶える気なんてないのさ。ああいうのは気分だ、気分。
……そういえば、願い事の話といえば印象深い思い出が一つだけある。
恋愛成就の神社で「恋愛至上主義の恋愛ブタ共め、全員修羅場を迎えて破局してしまえ!」と願ったのだ。本来縁切りの神に望むべき願い事かもしれないが、まあその辺は置いておく。
そもそも俺は恋愛が嫌いだ。恋愛なんて幻想だし、ジャンルが恋愛な作品は全てファンタジーと表記すべきだと思っている。
だって有り得ないよ。全部ファンタジーだもん。
幼馴染だから仲良くしてくれる女子なんていないし、クラスの雰囲気がそれを許さない。妹がお兄ちゃんラブなんて、絶対に妹のいない奴の願望だ。クラスメイトの女子は運動神経の良いイケメンが大好きだし、運動部に所属してない男子はただの雑草扱い。金髪ツインテールの帰国子女はそもそも現れない。科学部の不思議っ子なボッチ女子なんて生物は実在しません。アイドルやってる中学生はそもそも学校に来ない。
そう、恋愛とは全ては幻想なのだ。
少女マンガのキラキラで背景にお花が見えるのも、ただのドラッグキメてるヤバイ奴等の幻視なのだ。
ちなみに、その願い事をした帰りの日、電車の中でマジの修羅場を迎えていたカップルが破局していたのを見て盛大に笑っていた気がする。あの時ほど神様に感謝した事はなかった。
「うん、神様に敬意は必要だよな!」
『今の数秒で、何を考えていたんですか?』
「神はいつだって俺の味方」
『不敬な発言もやめてください』
敬意とは何か、考えさせられる問答だな。いや、俺が何も考えてないだけなんだけどさ。
まあ色々と無駄に話していたが、零時まで今日は張り付こうという事になった。別に運営からの贈り物は教会じゃあなくても受け取れるしね。
しばらくしてスノーが宿屋に戻ると、俺はいつも通り、ニコニコと頬杖して待っていた。
今日も飽きずにスノーさんの御裸を拝見させていただきます。いやぁ、自分でも何で飽きないんだろうか、不思議でならないよ。
いそいそと服を脱ぎ始めると綺麗にたたみつつ、慎ましやかなスノー様が誰を意識しているでもないけど、丁寧に体を拭いていく。相変わらずカワイイなぁと思いながら、今年も残り時間一分を切ったあたりで、盛大な欠伸を掻いていた。掻いてしまっていた。
まさか、そんな事があるか。スノー様の御裸を見ている最中なのに眠たいなんて、俺は一体どうしてしまったんだ。まさか病気にでもなってしまったのだろうか。
「いやぁ、キミは頭が既に病気だと思うよ?」
おいおい、ついに幻聴まで聞こえてきた。まずい。まぶたが重たいぞ。しかも真っ暗な視界の中に、いつか見たハイカラで気持ち悪い絵の御面をした自称『月の女神の眷属』とか言う奴が現れていた。
俺はドラッグなんてしてないのに、なんでこんな幻視を見ることになっているんだ。まさか、こんな年末にバイオテロでも発生したのか。
「いやいや、キミ寝てるだけだから」
「ああ、なるほど。これは夢か」
道理で頭がフワフワしてる。いや、そんなのん気に明晰夢を実感してる場合じゃあない。
「早く目を開けないと、日課の時間が過ぎてしまう!」
「女の子の裸を覗く日課は禁止されるべきだと思うんだけどなぁ」
「アンタまた邪魔するんですか」
マジで消えてくれよ。これ以上邪魔するんならアンタは俺の敵になるぜ。
いや、この場合、この女神を倒せば俺は夢から覚めるのではないだろうか。うん、そんな気がしてきたぞ。そうとなれば早く倒さなければならない。スノーさんが裸でいてくれる時間はおよそ5分間。それまでに決着を付けないと……。
「ちなみに今日はね、キミに最後のプレゼントは何がいいか、聞きにきたんだ」
最後のプレゼント? 何の話だろうか。クリスマスならとっくに終わってるんだけどな。……よくわからないが、くれると言うならもらってやろう。倒すのはその後だ。
「……スノーの穿いてるスパッツみたいな下着」
「キミにじゃなくて、スノーちゃんに上げるモノだよ?」
思わず舌打ちした。本当に使えねえ。やっぱりさっさと倒した方がいい気がしてきた。
「私が与えられる物なら何でもいいよ? 例えば“月の涙”なんてどう? 綺麗だし、持っているだけで傷が治るよ」
「あー、ゲーム内のアイテムの話か……。じゃあ――酒で」
「お、お酒? どうして?」
「何でもいいと言われてもわかんないですし? なんなら超おいしい水とかでもいいっすよ!」
「凄く雑だなぁ……。ホントにそれでいいの? 後悔しない?」
「いいから早く俺の目を覚まさせて!」
夢の中って時間の経過が曖昧だから早く戻りたいんだよ。この際、何でもいいから早く終わらせて欲しい。それに俺の我慢がそろそろ限界だ。握った拳が開かないぞ。
「わかった。じゃ、スノーちゃんには神聖酒が湧き出す黄金の杯をプレゼントするよ」
「ハイハイ。それでいいからさっさとどっかいってくれ。このお邪魔虫め」
どうやら殴る前に撤退してくれるらしい。握った拳の中指だけを立ててやりたい気分だよ。
「……ハァ。キミ達の事は個人的に好きだったんだけどなぁ。まあ、これからも死なないように頑張ってね」
「だぁれが死ぬか」
「そうだね。死なない未来があるといいね」
まるで死ぬのが確定してるみたいな言い草だったが、初日の出の太陽光が目に刺さった瞬間に、全てがどうでもよくなった。
窓から差し込むオレンジの光が、俺への哀れみを買っているようだった。
完全に寝オチした後の状況だった。机の上でキーボードに頬を当ててさ……。パソコンの動画も放送終了になってるし、携帯の中で見えるスノーはベッドの毛布に包まってぐっすりだった。
もう最悪の年明けだよ。なんたって初夢にあんな俺の欲望を阻む神様の夢なんぞ見なくてはならんのだ。
「……あ、そうだ。スコアランキングの報酬」
スノーは寝ているけれど、アイテム自体は勝手に受け取り可能で、降りてきた時点でそれが何かはわかる。
さっそく受信を開いてアイテムを入手すると、それは何処からともなく天上から降りてきた。
さあて、なにがもらえるんだろうかと昨晩の寝オチの件は忘れて、今は期待に胸を膨らませた。前回の十月は一角獣の角だった。その前の八月では全ステータスが簡単にアップできる貴重な豆。六月はシルフィードのローブ。四月はルナイラの弓。
そろそろスノーの主兵装である片手剣、あるいはダガーが欲しい所だ。別に特殊な装飾系でもいいんだが、とにかく使える物なら何でも良かった。
そしていよいよ、画面にアイテムがハッキリと見えたところで、俺は呼吸をするのを忘れてしまった。
「……黄金の……杯?」
曇り一つない黄金に輝く杯が、静かに床へと着地すると、ゴスン、という重たい音を立てて鎮座してしまった。
「あれ……嘘でしょ? さっきの、あれ、夢じゃないの? あっれぇえぇえ?」
後日、オルレ庵に鑑定してもらったのだが、本当に酒が無限に手に入るだけのアイテムだった。最悪だよ、チクショウ……。
貰えるモノはダイスで決めました。
1主兵装 2月の涙 3ネタ 4復活系 5その他
三番のネタなので、酒になりました。それでこそ芸人b




