予定と違う!
「ヤー。大成功!」
「おっつー、ゼタっち。アゲイルもスノーちゃんもね」
一先ず小田と手を上から叩いて下で受けて、腕当ててダブルで指パッチン、からのハイタッチ。こういうのはお互いに決まるとますます楽しい気分になれる。
このゲームで殺陣をやろうとすると、格闘ゲームの相殺ムービーを思い出す。あれもかなり難しいけど、慣れてくると音ゲーの覚える感覚に似てきて、俺達も楽しく練習していた。
すべて上手くいったし、もう大満足だ。本当に良かった。
「まーさか『一人の死が戦争を引き起こす』を自分達でやっちゃうとはなぁ」
「その死も所詮、偽装だけどな」
それにラックさんの予定通り、しっかりと戦争しちゃう雰囲気を作る事にも成功した。
和平条約をぶっ壊した後の予定は、エルタニアを中心として周囲のシターニア大森林の族長や、その他周辺各国に呼びかけて、ダンケルク包囲網を結成する。偽装ではあるが、偽の証明もエルタニア国王の手に握られているし、実際に第一王子であった息子が目の前で殺されたのだ。『正義は我等に有』はこれで示す事ができるだろう。
それに、何度も繰り返すが、でっち上げられた証拠でも、目の前で派手にやらせればこの通りだ。
『嘘は大きいほど良い』とはよく言ったものだ。この場合は大袈裟なのだけど。
重要なのは証拠の信用性(信憑性)ではない。当事者達に対するインパクトだ。
こういうのが君主制の弱点だろうな。たった一人の心によって一国の運命が左右されるのだから、簡単に外部からの干渉を受けてしまう。
でも逆に君主制だと民主制より素早く動けるから、一概に弱点ばかりでもないとは思うけれど。『長所と短所は表裏一体、ままならぬものよな』とはDI○様も言っていた台詞だ。
するとアゲイルの元にダンケルクの王“バッハ”が近づいてきた。どうやらプレイヤーが話しかけてきているようだ。
「わるいゼタっち、ちょっくら喋ってみる」
「そうしてくれ。俺も相手がどんな奴か気になる」
小田がチャットチャンネルをオープンに切り替えると、さっそく挨拶から入ろうとした。
「こんちゃーっす。どーもバッハさん」
『気安いな、お前』
「自分そういうキャラなんで。それに戦争する相手と仲良く喋ろうって気は起きないっすね」
『……どういうつもりだ? 何かしら企んでるとは思ってたけどな』
「はぁてなぁ、自分ただの冒険者プレイヤーですし?」
はぐらかし方が雑だな。逆に挑発しているように聞こえてくる。むしろしているのか。
『お前の国の王は勝ち目のない戦争をするといっているが、いいのか? お前さえよければ、ダンケルクの側に付かないか?』
「ぶッ」
予想外に笑わされてしまった。
挑発されていたのに堂々と敵になる相手に勧誘とか、空気を読まなさすぎて怖いな、この人。
それともその事にすら気が付いていないのだろうか。なら相当な鈍感さだ。
これはもしかしたら、雰囲気で会話の流れを察する事ができないどころか、人の話を聞かないタイプの人物かもしれない。
小田はそんなバッハに対して、強くハッキリとした言葉を選ぶ事にしたようだ。
「予想外のお誘いっすけど、ノーセンキューっすわ」
『なんでだ?』
「アンタは絶対に敗北するからさ」
珍しく小田君がストレートな物言いをしていた。なかなか見られない光景だな。
それに対して、ドワーフ族のバッハのプレイヤーは怒ると思いきや、鼻で笑ってから言い返した。
『お前はバカか? 戦争ってのは同じ土俵でないと争いにならないんだぜ? ドラゴンなんて面白い乗りモンを持っていたから誘ってやっただけなのにな。そのキャラが無残にキルされるのがとても残念だぜ。そもそも刀と槍で戯れてる連中なんかに、俺たち最強種族のドワーフが負けるかよ?』
言ってくれるねえ。まあ、本人たちはロボットやら重火器で無双してるから、回りが敵だらけでも勝つつもりなんだろうけどさ。
「浪漫のわからん奴は嫌いっすよ。ま、精々首でも洗って待ってなよ」
『面白い奴だ、お前は最後に殺してやるよ』
自己愛性の強い人だという印象を周りに与えながら、彼は堂々と広場から街の外へと向かって、舞台から退場していった。
あと、最後の捨て台詞だが、その元ネタをバッハさんは知っているのだろうか……。俺はちょっとだけ会話したくなったかも。
特に字幕版と吹き替え版の違いで熱く語り合いたい。あれはまさしく、日本語吹き替えによって化けた作品だからな。字幕版だといまいち盛り上がらないのは、言い回しのインパクトが吹き替えと比べて決定的に欠けているとか云々……。同志かと思って俺はバッハさんとそういう話しがしたかった。
そんな事を思っている内に彼は部下を連れて去ってしまったけれど。
「というか、今になって気になったんだけどさ。バッハって名前、プレイヤーとキャラ名は同一なのか?」
「どーだかね? でも、本人がバッハで返事してたから、恐らくキャラとプレイヤーで名前は分けてないんじゃない?」
普通に考えればそうなる、か。
ちょっとだけ変な気分にさせられた。上手く表現できないけど、違和感というか、シコリのような疑問が頭の片隅に浮かび上がっている感じがする。そもそも、キャラの方のバッハはそれで良いと思っているのだろうか。
AIにだって感情はあろうに。スノーやアゲイル、他のキャラクター達と会話した事があるなら、普通に感じるモノがあるはずだ。バッハさんはそれがないのだろうか。あったら、俺の時のように自分とキャラを分けたいと思うはずなんだけれど。
でも、無闇に首を突っ込む話でもないから踏み込みはしない。
そんな妙に感慨深い事を考えていると、ラックさんから連絡が入ってきていた。報告でも聞きたいのだろうか。
「はい、ラックさん。早速褒めたりしてくれるんですか?」
ちょっと自分の目的の為にやり過ぎた点はあるかもしれないが、それでもしっかりエルタニア国王は宣戦布告をしてくれたのだし、大丈夫だろうと確信を得ていた……のだが、帰ってきた言葉は明らかに動揺と疑問の混じった声だった。
『いや、あの……さっきの何?』
「何って、依頼通り、見事に戦争の切欠を作りましたよって話ですけど。折角なので大々的にやらせて頂きましたが、問題ありましたか?」
『何でそんなに自信満々なのか知らないけど、あの、戦争の原因については僕に任せてって言ってなかったっけ?』
「暗殺ギルドにスノーを指名しませんでしたか?」
『してないよ』
……なんだか知らないが、ラックさんの予定ではなかったらしい。
ついでに聞き出してみると、どうやらティンが何度もダンケルクに行っている時に、拳銃を一丁だけ頂戴して帰ってきていたらしい。その銃を発砲してアリッサがそれを弾き飛ばして事無きを得る、というシナリオだったらしい。
ドワーフ達が作った武器で暗殺を企てたとなれば筋が通る話だったのだとか……。
それを聞かされて、俺と小田は思い描いていた状況と全然違う事にビックリしていた。
そもそも、それならスノーが暗殺依頼を受ける意味が全くないんだけど。
「どういう事ですか?」
『いや、それは僕が聞きたいんだけど……。まあ、あの王子が消えてくれたのは僕としても願ったりだから別に構わないんだけどね。アリッサにとっては未だに邪魔な存在だったし』
「はぁ、そうですか」
未だに邪魔、か。アリッサからすれば動機は十分という事か。
どう邪魔だったのかは知らないが、権力闘争には色々あるのだろう。難しい事はあまり首を突っ込まず、観客となって見物するに限る。『論争に耳を傾けるのは勉強になるが参加してはならない』とマクシム・ゴーリキーさんも言ってたし。
ちなみに抜け策王子は現在、忠義の厚い部下一人と共に、東方面へと逃げてもらった。つい今朝の事だ。その時から死体と入れ替わって今に至っている。
その事をラックさんに伝えようかとは思っていたのだが、どうも気が変わった。
「じゃ、今日はもう遅いんで、この辺で」
『うん、今度から変な話を受けたら、僕に相談してね。今回は本筋から外れなかったから良かったけど、思わず冷や冷やしちゃったよ』
「すみません、今度から気を付けます。それじゃあお疲れ様でした」
『お疲れ様ー』
通話を切って、自分のパソコンと向き合う。
スノーの言っていた、アリッサが疑わしいという件については、ラックさんには伏せておこう。今はまだ様子を見ておきたい段階だ。
今回の事で何がどう転ぶのかわからないし、アリッサ陣営の誰かが勝手な事をしているだけなのかもしれない。余計な詮索でもして、これから戦争をするという大事な時期に、仲間の雰囲気を悪くするワケにはいかない。
もしかしたら単純に、アリッサがこの期に乗じてあの抜け策王子を始末したかっただけなのかもしれないし。
ともかく、今度からなにが起きても大丈夫なように、備える事だけはしておこう。




