クリスマスは戦争だよ
本日二つ目の投稿。
m(_ _)m
ついに……ついに、きてしまった。
クリスマス・イヴ。
今日は、Xデー当日だ。
戦争だ。我々には戦争が必要なのだ。
争い、競い、そして相手を蹴落とさねば、自らの願望を叶えることなど不可能なのだ。
俺たち人類は、その事をよく知っている。
これはただの戦争ではない。
正義は我にある。
これは清く、苛烈なる聖戦と言っても差し支えない。何せ今日は聖なる夜なのだからな。
「今日は……」
「今年こそは!」
吼え猛よう、己の真なる願いを!
我が手中にその権利を与えたまえ、神よ!
「ダイハ○ド2を見よう!」
「ホームア○ーンだよ!」
辻風家のクリスマス・イヴ恒例、チャンネル戦争が今、幕を開けたのであった。
「テメエ聖! ふざけんじゃあねえぞ! ホームア○ーンなんざ何回見たと思ってやがる!? 十か、二十か、それとも百回か? もう見飽きたわ!」
「兄貴こそ譲りなさい! ダイハ○ド? そんなのいつもみたいにドンパチするだけの映画でしょ!? それに古いし、主役が汚い!」
「馬ッ鹿野郎! 普段バカとは言わない俺でも今のはさすがに切れたぞ! 古いって言ったらホームア○ーンも大概だろうが! 主役が汚い? 最高にカッコいい汚れ方してるだろうが! あんな泥と血で汚れたタンクトップの似合う主役はブル○ス・ウィリ○しかありえねえから! 大体、ホームア○ーンって最初の15分間が辛いんだよ!」
「ハア!? バカ言わないでよ! 兄貴の言うその辛い15分があってこそ、一人取り残された屋敷で自分のやりたい事が叶うケビ○の無垢な姿に心打たれるんじゃない! 兄貴は長男だからケ○ンの感動に共感できないだけよ!? それかアクション物ばっか見て脳ミソが腐ってんじゃないの!?」
クリスマス・イヴの日。俺達は全員が揃って食卓を囲む。当然、その夜ともなればテレビのチャンネル争いが激化する頃だ。
それを防ぐ為に、俺達は見たい番組は録画して、後日に各々で見ようという取り決めになっていた。そしてどのチャンネルも見てはならないという事にもなっており、最初の内は適当な映画のDVDを流して、俺達は誤魔化していたのだった。
それがいつしか、今度はお互いにクリスマスの日に見たい映画を持ち出して、依然の争いは形骸化し、新たな争いが発生していた。
そしてその裁定者は、我が家のこの人だ。
「母さん! 今年もダイハ○ドを! そして2を!」
「お母さん! ホームア○ーンだよね!? 今年こそはケビンの勇士をクリスマスに――」
「……あんたらの一昔前の映画好きは本当に誰の所為なのさ。お前達、まだ生まれても居ないだろうに」
母さんはこの判りきった採決に、頭を悩ませていた。信じられない、この世に不死身の男ジョン・マクレ○ンを出されて迷ってしまう人種がいるだなんて。確かにホームア○ーンは強敵さ。間違いなく面白い。ケビ○君の狡賢さには本当に色々と勉強させてもらったさ。俺の原点は彼に有ると言っても良い。
だがな!
もう本当に数え切れないほど見た映画なんだよ。もう台詞を聞いた瞬間には次に何を喋るのか判ってしまうほどに覚えてしまったんだよ。もうそこまで来たら、今後一切見る必要もないだろ!?
どうせ持って来るなら2か3を持ってこなければ俺は見たくないんだよ!
だがその点、ダイハ○ドは無印から2・3・4・ラストデ○と全5作品とも俺の部屋にある。そしてそのどれもが素晴らしい出来だし、同じように思えても全てが違って面白いのだ。特に無印と2はクリスマスに最適だ。なにせ作内の時期がクリスマスだからだ。クリスマスならばこれを見なくては聖夜は迎えられないってもんだろう!?
「父さんはこのパ○プフィクショ○が見たい」
「アナタのは絶対にダメ」
「……アカデミー賞では7部門ノミネート、カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞した実力派作品だぞ?」
「面白いけどそれ十八禁だから。というかアナタの趣味が子ども達を歪ませていると思うんだけど?」
「面白いのに……」
確かにパル○フィクショ○はヤバイ。タランティ○ノ節が最高に利いている作品だ。なにが一番面白いって、登場人物たちの二人会話劇だ。「足を揉むのは女のアソコを舐めるのと同じだ」という台詞で俺は一気に好きになった。惚れたと言っても良い。しかもそんな面白い会話が他に何十とも繰り広げられるのだから堪らないのだ。
それ以来、俺はパル○フィ○ションを何度も見た。あれ以上のマフィア作品を探すとなると難しいってくらいだ。ちょっとアングラ系なネタが多いけれども、そこも作風の一つだ。俺は大いに受け入れたよ。……うん? 年齢制限? 気にするな。俺は気にしてない。
でも問題が一つある。
パ○プフィクショ○、お前はクリスマス要素がゼロだからだ。だからあえて、今回は俺も除外させてもらう。
「……今年も私が決めるの?」
「「「お願いします」」」
どうか、自分の押しをよろしくお願いしますという意味を込めて、自分達の押しを力強く母に託す。
俺達は母さんに後を任せて、七面鳥やらピザやらケーキホールが並んでいる食卓の椅子で、ただじっと待っていた。
母さんは一人、テレビの前で何を入れようかと、じっと思案しつつ、選んでいる。
今年は、何が選ばれるのか。
そして俺は今年も、ジョン・マクレ○ンを我が家で見ることができるのか。……パ○プフィクショ○ならば一応、ブル○ス・ウィリ○がいるからセーフとしよう。
DVDプレイヤーに、ディスクが一枚セットされる音が聞こえる。
始まった。
それは――なぜか、微妙に新しそうな映像であった。
そうだ、この映像にはいつものファンファーレが流れるダイハ○ドでもなく、冒頭に家のシルエットが流れるホームア○ーンでもなく、ましてや十八禁マークが現れるパ○プフィクショ○でもなかった。
「……今年は『天使○くれた時間』よ」
「「「オイ」」」
やられた。まさかココに来て、裁定者である母がそんなワイルドカードを使ってくるなんて想像もしていなかった。
だが、確かに俺達は母に選択権を託して、頷いたのだ。俺たちに、もはや反対する権限などなかった。戦争とはいつも虚しいものよな……。
今年のクリスマス・イヴのイチゴショートケーキは、涙の味がした。
最高に名作でした。ご馳走様です。
全てを終わらせ、俺は自分の部屋に戻ってきた。
そこには一人、いつもの部屋にいる妖怪小田君がノートパソコンを見ながら俺のベッドで横たわっていた。
「おっつー、ゼタっち。相変わらずこの家は賑やかだったな」
「……相変わらずだな、お前も。そっちの家は?」
「毎年同じく。ま、そーいうわけでさっさとログインしろよ! もう無駄に壮大な宣誓式やってんぞ!」
「はいはい。その為に九時までには帰ってきたのよ」
本日、クリスマス・イヴのこの日に、ラックさんの計画の第一段階が決行される。
この日、エルタニア周辺の各国を集めて、とある従属調停を結ぶ話となっていた。
エルタニア周辺国は一致して、ダンケルク国のドワーフ達に対して危害を加えない。
さらに、望まれた物資であればそれを速やかに提供する。
その代わりに、侵略、または個人への略奪行為をしないこと。これを条件とする。
……とか、なんとかいう、とんでもなく有り得ない条約文をエルタニア側が中心となって、ダンケルクに持ちかけたのだ。
まったく、こんな有り得ない話に飛びつくとは、ダンケルクとはとんでもない阿呆なのだと俺は思うよ。普通であればこんな話、俺なら受けない。怪しすぎるし、気持ち悪い。
でも、ダンケルクのバッハは頷いた。「良し、やろう」なんて了承したのだ。俺には理解できない選択だ。
ともかく、自分のパソコンからサモルドを起動し、スノーの元へと戻ってくる。
スノーは現在、王都中央の広場の前、各国の首脳と呼ばれるような人物達が一同に集まった場所が良く見える塔の上に立っていた。
独特な仮面を付けて、長い銀髪を風で揺らし、小さな体躯でジッとその時が来るのを待っていた。
「ただいま、スノー」
『お帰りなさいです、ゼタ。もう少しで、全員が集まるところです』
エルタニア周辺の国々から集められた王様や権力者達。
そこには現エルタニア国王のアイデンテス・ドラン・エルタニアが立っている。隣にはアリッサ王女もいるし、今回の暗殺目標である所のユリアス王子の姿も後ろの方に確認できた。
シターニア大森林からはエルフの統括者と大長老。それと獣牙族の長と鳥獣族の長だと思われる人物もいる。
さらに一番重要な人物、ダンケルク王国ドワーフ族、族長であり王を名乗る人物、バッハ・D・ダンケルクも立っている。
白髪のボサボサ頭のドワーフで、本人よりも巨大なバトルアックスを背に担いでいる。筋肉の付き方も他のドワーフ達とは一線を画し、身長さえあれば魔物の巨人と間違えるかもしれない程だ。本当、野生的で獰猛としか思えない蛮族みたいな奴だった。
まあ今回、あっちは関係ない。あれを煮るのはもっと先の話だそうだ。
「九時の鐘と同時に飛ぶぞ」
『はい。わかっています』
もう時計の針が九時を刺すまでに、秒しか残っていない。
今回は絶対に操作を間違える訳には行かない。自らの手で操作して、即暗殺、即撤退を心がける。
秒針の一秒が、やけに早く感じた。俺の待ち遠しくて仕方がない思いを汲み取ってくれているのか。粋な計らいだよ。
「さあ、スノー。歴史に名を刻むぞ。今日が、Xデーだ」
世間一般では、今日をクリスマス・イヴと呼ぶらしい。
その日、俺達は聖戦……いや、一年目戦争の切欠を作った。




