抜け策王子、会いに来てあげたよ
王都へ忍び移動中、スノーから強引に聞きだした。
だってあのスノーが泣くほどなんて、只事じゃあないと思っちゃうじゃあないか。
それでどうにか聞き出せたのだけれど、どうにもアリッサに対する疑いがピークに達しかけているような感じであったらしい。
まあ確かに、現在のアリッサの立場は強い。サルタル師匠さんの言っていた事が正しければ、暗殺ギルドはエルタニア王家の言いなりだという事がよくわかる。
もしもこのままラックさんの計画が上手くいけば、いずれアリッサの一人勝ちに近い状態になるのも想像に容易くない。そうなってくると、何かしら調子に乗ってしまうのが人という物だ。……スノーはそれがアリッサだと言いたいのかもしれない。
しかし、アリッサのプレイヤーはあのラックさんだ。
ラックさんが万が一でも、仲間を裏切るような行動はしないとも思えた。
けれど、ここで一つの可能性にも行き着く。
ラックさんではなく、アリッサ側の陣営の誰かしらが手を出さないとは限らない。そりゃあ当然、今まで暗殺偽装の依頼も数多く行なってきたのだし? 可能性が全くないワケでもない。
考えても仕方がない疑いかもしれないが、相棒のスノーが我慢できない状況になってきているのだから、ココが引き際と取るべきなのかもしれない、か。
『……ゼンタロウ? やっぱり、怒ってますか?』
「いや、すまん。ちょっと考えてた。まあ、そりゃ気を使ってくれた結果だったと思うし、今度から遠慮せずに言ってくれると助かるよ。とにかくアレだな。スノー。何かあった時の為に、対策だけはしておこうか」
『! はいッ』
なんだか嬉しそうに返事されてしまった。
俺としてはなんだかなぁ、という気もするのだけれど。だって、仲間を疑うみたいであんまり気が進まない。まあ信じ過ぎて悪い結果になる事の方がもっと恐ろしいのも事実だ。
ラックさんや精霊騎士団の皆には悪いが、本気で逃げ出す……旅に出る準備だけでもして置こうかな。
・・・・・・・・・
それから数日後。
王都にスノーが到着したあと、すぐにエルタニア兵士に変装させた。現在、王都にスノーはいない事となっている。もしスノーの言った通り、アリッサに狙われているような状況であったなら、誰にも見つからないのがセオリーだろう。……俺個人としては、そこまでアリッサを疑っている訳でもないけれど。
それに今回、暗殺偽装をしなければならないのは、あの抜け策王子だろう? あんまりやる気が湧かないな。
それにまだ具体的な暗殺方法なんて思いついていないし、さてどうした物か。最悪の場合、本当に殺しちゃっても良いような気もする。
『ゼタ、いつでも行けます』
「ほいほいっと。今回は王城だもんな……心して行こうか」
王城の中門を潜ると、物陰に隠れて変装していた服装を魔属性で消し去り、シノビ姿のエルフとなると白の外壁を文字通りに駆け上った。シノビクラスになると、壁を垂直に立って登る事が可能、本当に素晴らしいスキルだ。
ただし、本来は壁を登っても王城の上階へは登ることができない。エルタニアの城には国外の敵からスパイ活動を防ぐために、城の至る所に魔法防衛陣が張り巡らされている。それは一見すると何もない壁にだってあるし、屋根の上にもある。
だが、スノーはエルタニアの近衛騎士様が持っている護身用のアミュレットを所持している。まあ、以前手に入れた物をそのままネコババしているだけなのだが。
それさえ持っていれば、防衛魔法には引っ掛からずに、王子の私室にもぐりこめるという事だ。セキュリティホールがわかってさえいれば本当に楽だな。
『事前情報によると、ココですね』
王城でもかなり優遇された位置に、件の王子の部屋はあった。東棟の一番上なんて、理想的な場所と言っても良い所だ。
無遠慮にバルコニーに侵入すると、窓の物陰にスノーを伏せさせて、プレイヤーの俺が部屋の中を伺う。ちなみにスノーが顔を出す事はない。こういう時の三人称視点は本当に便利だ。上手く利用して、俺だけが中を見れば良い。そうすればスノーはノーリスクで中の状況を知る事ができる。
「OK、ばっちり中に王子様っぽい奴がいるぞ。どうやら真面目に御仕事中みたいだな……。いや、もう一人、なんかいるな?」
王子のような人物は机と向かい合って何かを必死に書いていた。おそらく手紙、だろうか。机の脇には書類も多いし、もしかして割と仕事できる人物だったりするのだろうか。
そしてもう一方の誰かだが、こっちは本当に何者だろう。将校風の軍服を着た男性で扉の横に立っている。近衛騎士の一人だとは思うが、いささか厳ついな。強そう……には見えるが、相手がプレイヤーじゃあないと、モンスターでなければそれほど強くないからなぁ。黙らせるのは簡単そうだ。
……ここから見える範囲ではこれが限界か。
「よし、スノー。派手にやっちゃうか」
『派手ですと隠密にならないはずなんですけどね』
まあ、いつもの事だ。だから隠密レベルのスキルレベルが上がらないのだと思うけど、やっぱりこういうのってインパクトが欲しいからさ。
混合魔法のシルバーダークネスで部屋の中に白い雪が舞う空間を作り出す。なにやら中で喚き出しているような声が聞こえるが、あんまり聞こえないな。窓を閉めているからな。
さて、お次はこんな方法で使ってはいけない魔法、第一位“ヘイル・フィンブル”を使用する。
本来は広範囲に対する殲滅魔法として開発したモノだが、今回は出力一割未満だ。スノーが魔法の使用を拒否したいと強く願えば、魔法は不完全なモノと成り下がる。それを利用すると、本来の使い方とは少し違った効果が得られるのである。
範囲は王子様の部屋の中だけ、現れる効果は部屋の中が氷漬けになって、全ての物質が触れないほど冷たくなる。こうする事で、外へと逃げられる心配がなくなるし、逆に中へ入る事も難しくなる。やりすぎると中のNPC達がまずいが、五分以内で片付くならば命に危険はないだろうさ。
騒がしい所に遠慮なくスノーが窓を無音で破壊し、不気味に侵入する。魔属性はこういう時、本当に便利だ。
中に入ると、どうやら王子様が部屋の外へ出たがっているのを、将軍風の男性が落ち着かせて守ろうとしているのがわかった。どうやら、将軍は王子の部下と思って良さそうだ。
『夜分に失礼します。えーと、あなたがユー……抜け策王子でしたか?』
『誰だよそい……つ!? あ、あああ!! お、お前はあの時の!?』
『落ち着いてください、ユリアス殿下! 奴がどうしたので!?』
『コ、コイツ! 以前アリッサと一緒に居た意味不明でメチャクチャに強い銀髪のエルフだ! まさか、今度こそ僕を殺しに――!』
おっと、抜け策王子さんはどうやらスノーの存在を覚えていたようだ。これは意外だな。どうせ忘れてくれていると思っていたんだけどな。
案の定、その情報に警戒した近衛の将軍が剣を抜刀してスノーの前に立ちはだかった。
『御下がりください、殿下。この賊がいかに強かろうと、私目が必ず奴を!』
『た、頼んだぞ、ベイル卿! こんな奴、お前一人で何とかできるハズだ!』
何とかできるハズって……凄い台詞だな。自分でも無理だって思ってても、何か声を出さないとと思わなければ口にできない言葉だ。
でも大方、そうなるだろうなとはわかっていた。いつも通り、話を聞いてもらえる程度には実力差を見せ付けよう。
「スノー。一人で大丈夫か?」
『余裕です』
「ほいなら任せた」
スノーができると言うのだから後は任せて、俺は動画の編集作業でもしながら片手間に覗いていよう。
スノーは無音でどこからともなく、投擲専用のアイスダガーを八本作り出し、その全てを一度に投げ放った。
その後、どうなるのかを見届ける前に、懐から魔鉱のナックルダガーを両手に装備し、まずは剣を握っている男の方へ突っ込んだ。
投げたアイスダガーは数本だけが抜け策王子と将軍の下へと飛んでいき、他は二人の退路に投げられていた。それを将軍が剣で一本はじき落とし、残りの数本を己の身を挺して抜け策王子の分も含めて体で受けきった。
そこに苦悶に歪む表情と、痛みをかみ殺すような声を漏らし、将軍が「刺し違えてでも」と無理に剣を差し向けようとする。
スノーはそれを見てから回避し、一瞬で背後に回ると男性の背中を蹴り飛ばして前のめりに倒れさせた。
簡単に倒れた配下を尻目に、王子様が腰から装飾多過な剣を引き抜き、すぐに構えようとする。しかし構えの動作が完了する前に、スノーがたナックルダガーのナックル部分が、細い刃を挟み込み、叩き折った。
一瞬で決着が付いてしまったところで、抜け策王子の目の前で武器をしまう。
「うーん、ここまで実力差があると、もはや自慢にもならねえな。一分も経ってない」
『まあ、こんなものでしょう』
王子は自分よりも体格の小さなスノーに恐れて、地面にへたり落ちてしまった。
『な、なんなんだよ、お前は……』
「どうやら話をしても良さそうですね。実は――」
という具合で、こちらはいつも通り、説明回みたいな結果となった。……いつもこんな感じですけど何か問題があるだろうか?
こうして、事前の説明は済ませておいた。当日になった時に、あとはこちらで手引きを済ませればよい。
問題はどうやって大勢の人の前で偽装暗殺するかなのだが、本当にどうにかするしかあるまい。




