スノー様が足をプラプラしてるだけの回
シターニア大森林に着てから一ヶ月。Xデーまで残り一ヶ月を切った状態だった。
私は退屈をしていた。
日がな一日丘の上の岩で寝っ転がって雲の数を数えていた事もあったし、エルフの大長老と呼ばれる統括より偉い人とお茶をして寛いだり、林檎の栽培園に案内されて接待を受けたり、まったく戦争らしい事などやっていなかった。
現在もする事がなく、拿捕した大型ロボットの肩の上で足をプラプラさせていた。
言いたい事はわかっています。
与えられた仕事があるだろう、と。ですが……。
「……最近ドワーフが来ない」
ココへ着たばかりの頃はこうではなかった。もの凄く忙しかった。
シターニア大森林での“対ドワーフ抵抗軍”の人員を募集。
これには手を焼いた。
何せ、まともな戦力はすでにエルタニアに出張していて、警備やら国境回りの偵察などに出向しており、戦える者などほとんど居なかった。当然だが、大型ロボットと戦うのに戦力になる者など皆無だ。
結局、獣人達の勢力側にも呼びかける羽目となったのだが、残念ながらこちらでも戦力になる者も多くは無かった。
精々、偵察として使うのが限度だ。
まあ、精霊付きでなければ戦うのに不向きなのはわかっていたし、この辺の精霊付きは皆、精霊によって大きな発展を遂げたエルタニアに流れていくのだそうだ。その一旦を担っているのが倉庫屋らしいのだが、詳しくは知らない。
ゼンタロウ曰く、精霊にとって都合のいい街作りを進めた結果だとだけ言われた。
さて、戦力になりえる精霊付きがシターニア大森林に居ない理由はここまでにして、最終的には私一人で戦う事になった。なんという無茶振り。
でも彼等が居なかったら、この広い大森林の中では索敵など不可能だったし、結果としてゼンタロウの大好物(?)であるスコアとやらが大量に手に入ったらしい。スコアとは一体なんなのか、私には到底わからないが、ゼンタロウが喜ぶものならばきっと悪い物でもないのだろう。
一方のドワーフ達の動きはというと、懲りもせずに大森林に向かって侵略活動を進めていたそうだ。とはいえ、再びルエ山脈の上に砦の工場を作ろうとしているのではなく、今度は森を切り開いて無断で整地をしていたのだとか。 さらに山を削って川を引き、町のようなものを作ろうとしていた。以前、『山の怒り』に触れて山が噴火したというデマを流したのだが、彼等はそれを鵜呑みにしているようだった。
でも好き勝手に行動しているのは何も変わってなかったし、同じような砦の工場を作るつもりなのは大体予測ができていた。
という事で、遠くから範囲を指定し発動する殲滅魔法という氷属性の上級魔法で、彼等を雪と氷の地獄へ招待した。
この魔法の名前には『破滅の冬』という意味があるらしいが、ゼンタロウが『そんな感じの魔法があったからパクッた』と悪びれることなく言っていた。
……ともかく、指定した地点から半径300mほどの範囲に及ぶこの魔法は、視界を覆いつくす大粒の雪が降り続き、空気は息をするだけで肺を凍らせる凶悪な毒に変貌し、地面から槍よりも鋭く長い氷柱が突き出てくる魔法である。
怪我人は多かったが、一応死者は出していない。
ドワーフである彼等は炎や土の属性の魔法が得意だし、普通なら死ぬような氷魔法でも何とかする術は持っている。その辺も考えた上での行動だ。
問題があるとすれば、多少森の木々に嫌われただけだ。そっちの方は本当に申し訳なかったと思っている。
で、そうやってドワーフ達がシターニア大森林に入ってくる度に凍らせ捕獲したり、大型ロボット専用の落とし穴を抵抗軍の皆で作って誘き寄せて嵌めたり、エルフたちが魔法で作った底なし沼でドワーフ達の棲家を囲んでペイント付きの矢の的にしたり……。
ちょっとずつ、イタズラに工夫が凝らされて、中々に楽しい日々を送っていたつもりだったのだが……半月後にはシターニアの森にドワーフが全く寄り付かなくなってしまっていた。
『これは、勝ち過ぎたかな?』
「勝つ事は良い事では?」
『何でもやり過ぎはいけないって話だよ。現に本来の目的とは違う結果を招いてしまっちゃってる』
本来の目的、それはドワーフ達に戦闘を継続させる事であった。
ドワーフ達が乗っている大型ロボットの武器には、弾が使われている。その弾は見た目ではわからないけれど有限で、それがなくなるとロボットは戦えなくなる。
精霊ブラック・ラックは弾をできるだけ使わせ続けたいらしい。Xデー後、それが有るか無いかで敵のストレス値が違うのだとか。
『そろそろ王都にもぐりこんで、抜け策王子とコンタクトを取りたいよな』
「そうですね」
その事についてはもう既に手は考えてあった。ゼンタロウに師匠が訪れるかもしれないと伝えた時にだ。
師匠が私に変装してシターニア大森林に私がいると思わせるという算段だ。そして私は入れ替わりで王都に戻り、ユー……なんたら王子に会ってくるつもりだ。
問題は、その師匠が何時くるのかがわからなかった事だ。
「どーも、倉庫屋でーす」
拿捕した大型ロボットを運ぶために呼んだひよこのマークの倉庫屋運送がやってきた。
ちなみにこのロボットは王都のオルレ庵の元に送られ、研究されるらしい。役に立つならばいいが、立たなければ運び損になる大きさだと思う。
「これ、いける?」
「大丈夫ですよー。一応どんな物か聞いてたんで、ちゃんと分解して分担運送するのでー。とりあえず分解できる人を連れきますねー」
そう言って帆馬車の中から何名かのドワーフ達が降りてきて、巨大ロボットを解体し始めた。そのドワーフ達の腕や足には奇妙な紋が描かれた鉄の輪が装備されていた。これは確か、精霊に抵抗するために自ら装備している特殊な手足の錠で、自分の意志で自分の体を拘束する事が可能となるアイテムである。
つまり、彼等は元教会の地下牢に居た者達という事になる。
そしてその中から一人だけ、私に声を掛けてくるドワーフの格好をした人物がいた。
「……久しぶりじゃのぉ、ハイエルフ殿」
「そうですね。師匠」
「コラコラ……。折角の変装を簡単にばらすでないわい」
待ち望んでいた人物が、やっと来た。




