ルピアはどこ?
『Xデーの日に暗殺依頼?』
「はい」
ゼンタロウはそれほど怪しむ様子もなく、何かを閃いたように言った。
『アレじゃあないか? トリガーの件だろ?』
「ですが、あれは精霊ブラックラックが何とかするという話だったのでは?」
『その何とかする方法が偶々、スノーに回ってきたのかもしれないな。確かにユー……なんだっけ?』
「ユリアス王子です」
『そう、あの抜け策王子だ。まあラックさんとしては一緒に処理できて一石二鳥なんじゃあないのかな? ……まあアレだ、スケジュールが押す事になるかもしれないけど、いつも通り、巧くやろう』
なぜわざわざ名前を言わないのだと思うけれど、全く重要でないので黙っておく。
そんな事より、どうするべきか考えないと。
Xデー当日にシターニア大森林から帰ってくるのは精霊騎士団としての行動からすれば違和感はないけれど、その他のタイミングで王都に入るとアリッサに勘繰られる可能性がある。
「ゼンタロウ、今回はどうしますか?」
『そうだなぁ。まあ、いつも通り勧告するって手が一番だけど、今回は大衆の目があるのか。それが一番厄介だな……』
どうやらゼンタロウの思考は、アリッサの目をどうやって掻い潜るか――ではなく、どうやって暗殺した風に騙すかにあった。
「そういう意図の質問ではなく――」と口を出しかけたのだが、ゼンタロウの中ではアリッサを疑うという意識をもっていない様子だった。
それを否定して、いつものようにアリッサが怪しいと相談するのも、なんだか自分が情けない気もしてくる。でも相談と言うのは大事だとゼンタロウは言っていたし……。
ええい、どうしたらいいんですか。……どちらも変に悪い予感がしてしまう。どちらを選んでもハズレの場合は、どうすれば良いのだろう。
『ま、今はどうでもいいか。待ってたらきっとアイデアの神様が良い案を運んできてくれるさ』
「また適当な事を言ってませんか……?」
『実際、考えが煮詰まっても良い案が出ない時はあるもんさ。それに、ふとした何かでヒントを得るって事もあるハズだ』
そういうものなのか。
今は考えずに、何かでヒントを得る。と聞こえはいいが、ただの運任せの後回しにしか聞こえない。
でも確かに悩んでも答えが出ない気がする。ならばココはゼンタロウの言う通りに“アイデアの神様(私は聞いたことが無い)”がお越しになられるのを待ってみるのもいいかもしれない。
『それはそうと、今は目先の課題から終わらせよう。ルピアを見つけて、いつ出立するのか相談して決めないといけないとな』
「そうですね。シターニアの領域までは割と近いですけど、そこからがまた遠いですからね……」
とりあえず何時も顔を出しているぴよぴよ亭か、倉庫屋に顔を出してみる。
ちなみに倉庫屋は窓口ならば王都の至る所にあるが、倉庫そのものの場所は極秘扱いとされている。
何せ、倉庫屋に保管されている物品の数々を全て合わせれば、現在のエルタニアの国家予算を軽く上回っているからだ。
主に精霊付きが使用する倉庫屋は、貴重な魔物の素材や、伝説級と言っても過言ではない武器や防具が収められている事が多い。さらに精霊達が役に立たないという品々でさえ、一般人からすれば手の出ない物も多い。
それほど価値のある品々が納められている倉庫は、簡単にわかるような場所にはまず設置されない。窃盗団にでも狙われればタダでは済まないからだ。
だから倉庫の場所そのものは極秘扱いとされている。そんな秘密の場所を知っているのは、倉庫屋を作るのに携わった、精霊騎士団初期メンバーの者達だけだ。
先にぴよぴよ亭に寄ってみたが、そこにルピアは居なかった。なので、今度は王城の中に入り王城内の離れにある地下牢へと進む。そこの牢屋の一つに、何時も誰かが座って閉じ込められている部屋がある。日によって人は違うが、彼に面会したいことを頼み、牢の中で座っている人間に紙を一枚手渡す。
内容は『アヒルはどこに?』という、短い質問だ。
言ってしまえば、ここがルピアの隠れ家であり、真の倉庫屋の入口だった。
ルピアはこの国の中でも一番に厳重な守りをしている王城、その地下という空間を利用したのだ。
口の堅い従業員だけを使って、牢屋の一室から地下を掘り進め、巨大な地下空間を生み出した。
尚、ほとんどの掘削作業はドワーフ族であるオルレ庵が行なった。地下空間を広げるには相当な手間だとは思ったのだが、オルレ庵は見事に五日で巨大な倉庫を作り上げた。いまでも偶に拡張作業をしているらしいが、どれほど広くなったのか、今はわからない。
それはさて置き、私は牢の中で倉庫の番人をしている彼がルピアの居所を言うのを待った。
「……残念だがアヒルは飛び立ったよ。早朝にな」
「どこに行ったかわかりますか?」
「さあな。西へ飛んだ事しか知らねえよ」
彼は紙に何かを書き残し、それを私に返した。すぐにそれを確認すると『シターニア大森林へ向かった』と書かれていた。
「わかった。ありがとう」
離れの牢屋からでると、早速ゼンタロウにルピアが発った事を伝えた。
『早いなぁ……そこは一緒に行かないんだ』
「どうしますか?」
『……鹿太郎に乗って急いで追いかけるか』
「カリオットに変な名前を付けないでください」
『○ックルの方がいい?』
「もっとダメです」
無用な問答をしつつも旅の支度を急いで行い、急いでルピアを追いかけた。
普段からあまり一緒に行動しないから知らなかったのだけれど、ルピアの行動は初動さえわからない事が多い。気が付いたらいつの間にか何処かへ移動して、用事を終わらせていたという話もある。凄腕の商人になると、それくらい早めの行動が必要なのであろうか。
カリオットに乗って急ぐ事、三日。
今回は旅のお供などは雇わずに、ひたすらルピアを追いかけることにした。
だけれど、どれだけ急いだところでルピアに追いつくことはできず、どころかその足取りさえも掴む事ができなかった。
普通どこかで休憩などをすれば何かしらの痕跡が残るはずなのに、それが無かったのだ。
結局、シターニア大森林のエルフの里へ訪れるまで、その足取りはわからなかった。
ただし、ルピアの話を偶然聞いて、私もゼンタロウも驚愕した。
何度か話を交わしたことのあるエルフのお姫様……レーテイリア姫に挨拶をしたとき、彼女が言ったのだ。
「お久しぶりです、レーテ姫」
「お久しぶりですね、ユキノさん。エルタニアからはさぞ遠かったでしょう?」
「そこそこ、ですね」
彼女は典型的なエルフの特徴を持つ金髪で、白いドレスを身にまとった穏やかな女性だ。レーテイリア姫は私の立ち位置とスタンスを理解してくれているので、あえて対等なエルフ同士の付き合いをさせてもらっている。とはいっても、やはり敬う必要性を感じさせるオーラが彼女にはあるので言葉は選ぶけれど。
「エルタニアといえば、先日ルピアさんというかわいらしい人間が、エルタニア王国の使者として来られましたよ」
「そ、そうなんですか」
先日、という事は昨日だろうか? それにしても早すぎるような気がするけれど。
どうやって急いでも、陸路なら私のように三日は掛かるし、空を飛べたとしても二日は掛かるだろうか。
「はい、つい三日前にも来られました。色々と興味深い話を父……ユースッテッドと相談されていましたよ」
「……え?」
三日前、といったのか。
それは、私がエルタニア王国を出立した日であり、ルピアが発った日でもある。
『……いやいやいや、どんな足してるんだよ。あの子』
もしかしたらあの子は、とんでもない秘密を持った人物なのかもしれない。




