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私は気になります

「少し誇張しすぎたかな……」


 宿の部屋に戻って毛染め用の魔道具を使い、暖めた湯で身を清めてから布団に飛び込み、もう随分と親しんだ枕に顔を埋めて反省していた。


 ゼンタロウには少しばかり嘘を吐いていた。

 いや、それほど間違った事も言っていないのだけれど、宿屋の主人達の話はしなくても良かったかもしれない。でもそれだと、王都に残る理由に少し物足りない気がしたのだ。


 精霊付きであるアゲイルやメロンソーダ達は、大切だけれど守られるほど弱くはない。だから自分がココに残る理由にはならない。

 仕事でも日常でも関わりのあるホーク達や師匠も、言われてみればゼンタロウの言う通り、亡命させれば問題はなかった。


 だからそれほど親しくもないけれど、いつも顔を合わせていた宿屋の主人夫婦を引き合いに出したのだ。

 我ながら理由選びが強引だったと思う。しかしゼンタロウはそんな理由でも納得してくれて、いつもながら妙に聡い言葉を使って私の迷いを払おうとしていた。



 そうまでして戦争に参加……いや、王都に残ろうと思った理由はそんなに多くはない。


 たった一つ、あのアリッサに関してだ。



「……怪しい」



 なにがとはわからない。ただ明確な理由はないけれど、特に最近の彼女からは嫌な気配を感じる時がある。命の危険を感じるような魔物と遭遇した時に起きる、毛が逆立つような感じに似ている。


 アリッサからは、そんな気配が時たまするのだ。



 私は、その理由を知りたかった。



 ……そんな事を言うと、またゼンタロウから呆れられるような気がした。だから他の理由を作ったのだ。



 でも王都に残って、知り合いを守りたいと思うのは本当だった。少しばかりの覚悟が必要だったのも嘘ではない。




「……迷った時は心に従え、ですか」




 答えは決まった。……本当は決まっていた。

 ちょっとばかり、決心がつかなかっただけだ。


 人が死ぬのを見るのは嫌だ。でもそれは自分の傍から誰かが居なくなる虚無感を味わってしまうのが嫌だからだ。


 それは誰かと別れても同じ事。

 私はまだ、私の知っている皆がいる“エルタニア”に居たい。居続けたいと感じていた。


 それが自分の勝手な考えだという事も理解している。でも、そう思ってしまったから仕様がない。



 問題は、戦争中に人を殺してしまわないかだけど……。

 それならいつもと変わりはしないか。だって私は暗殺者なのに人を殺さずに仕事している。


 なら今回もそれと同じだ。


 そう考えたら、悩む必要もない気がした。


 気が付くと、その日の夜はとても深い眠りにつく事ができた。







 それから三日後、全員の答えが出たらしい。


 結果はゼンタロウから聞かされた。



『大方の予想通り、戦闘系のアゲイル、奏、アモン、ティンは参戦する。準戦闘要員でもあり、技術開発専門でメロン、オルレ君も当然参加する。問題は商会側のルピアだけど、状況次第で離脱はさせてほしい、だってさ』


「そうですか。良い判断だと思います」


 ルピアはただでさえひ弱な見た目をしているし、何より戦ったら簡単に死んでしまいそうな予感がする。状況次第といわずに、最初から逃げてもらっても良いと思うのだけれど、どうやら直接斬り合うだけが戦争ではないらしい。上手く交渉するのにルピア(の精霊コッコ)がどうしても必要だと言っていた。


 その辺の事情は私にはさっぱりだ。



「それで、戦争が起こるまで何をすれば良いんですか?」

『シターニア大森林に行って、対ドワーフ抵抗軍を作る』

「なんですかそれは?」

『ただの造語だ。まあレジスタンスみたいなモノかな』

「れじすたんす? えーと……すみません、聞きなれない言葉です」

『……まあ早い話、ダンケルクに対する嫌がらせの一環だ。ダンケルクの連中には程よく戦闘して武器弾薬を消費してもらわないといけないらしい』


 よくわからないが、シターニアで戦ってくれば良いのだろうか。



『あと今回は途中までルピアが同行する。シターニアのエルフと獣人に極秘裏に会談する必要があるらしい。と言っても、会談が終わったらすぐ次に向かうらしいから、最初だけだけどな』


 そっか、今回はルピアが一緒か。ルピアと一緒に何処かへ行くなんて、なかなか無い経験だ。ちょっとだけ楽しみかもしれない。


「……気になったのですが、他の皆は何をするのですか?」


『まずメロンは国防に必要な魔法創造。その助手として、空が飛べるアモンが手伝う。エルタニア中を駆け回るらしいぞ。アゲイルは騎竜が使えるようになったらそれに付き合う。それまでは今まで通り、警備隊のお仕事だ。


 武器開発担当のオルレ君は言わずもがな。奏はそれに同伴する。奏の戦闘をうまく使えば、それなりの事ができるだろうしな。


 あと、ティンはダンケルクとの橋渡しに起用された。何度も行ってるので顔も覚えられたらしいし、足が速いから連絡役にもピッタリだ』



 という事らしかった。皆、忙しいという事か。


「……そういえばアリッサは?」


 ドワーフ達よりも動向が気になるアリッサだけ、何をするのか聞いていなかった。


『さあ? でもXデーの日までは王都の重鎮の説得に忙しいんじゃないのか? アリッサは次期王様なだけで、まだ王女だし。領地巡りもしなくちゃいけないだろうから、忙しさはそれなりじゃないのか?』



 どうやらゼンタロウもハッキリとは知らないらしい。

 ……どうしようかな。


「……ちょっと気になりますね」

『そう?』

「そうなのです」



 決めた。

 エルタニアを出る前に、少し師匠に相談してこよう。ゼンタロウも心に従えと言っていたし、この判断に間違いはないだろう。


 早速、王都地下街へと向かう。

 人間風の変装を済ませ、いつもの薄汚い店から地下街の暗殺ギルドへと入り込む。相変わらず下水の臭いが酷いけれど、それも師匠の部屋までだ。急いで扉まで前までくると、瞬時に氷魔法で開錠して、扉を開ける。もはや合図の決まりごとなど、記憶の片隅にも残っていない。


「たのもー」

「……なんじゃか日に日に軽率さが増しておらぬか、お主」

「気の所為です」


 気の所為だと言ったのに、師匠は大きな溜息を吐いて頭を抱えていた。


「まあ、何でもよい。少し座れ。今回は中々に厄介な話が来ておるぞ」

「お仕事?」


 どうしよう。

 しばらくの間、シターニア大森林に行くから仕事が請けられないのに……。

 更に言うなら、今日はサルタルにアリッサの動向を調べてもらいたかったから来ただけなのだ。


 そう思いながらも、勧められた椅子に座りつつ、今日のサルタルは様子が変だと思えた。

 何時もより真剣度が増しているというか、言葉の節々が重く聞こえてくる。


 座って待っていると、サルタルが静かに封筒を差し出してきた。中身は当然わからないが、なにやら上等な紙質だった。依頼主は貴族か。


「この封筒を開けた時、依頼を引き受けたとみなされる」


 いつもの事だ。

 当然だ。暗殺の仕事は他人に知られるワケにはいかない。守秘義務はあって当たり前だ。だからその方法にも頷ける。


 サルタルは言わば仲介人だ。私がそれを履行するかどうかを確認する義務がある。


 だからサルタルは封筒を注視せねばならないはずなのに、彼の視線は封筒には無く、私の背後の窓に向けられていた。


 サルタルが濡れた唇でぴっちゃぴっちゃと鳴らし始めた。ただ遊んでいる風に見えるかもしれないが、これは合図だ。しかも初めて見る合図だ。


「……個人的には受ける事をオススメしよう」

「どうして?」

「他にやれる奴がおらんからじゃ」


 これは、絶対に拒否できない依頼という合図だ。

 背後に誰かいるという事か。それとも依頼主が問題なのだろうか。


 仕方が無い。

 シターニアに行ってから暇があるのかは知らないけれど、サルタルの顔を汚したくはない。



 半分諦めた気持ちで封筒の中身を見て、それを確認した。



 書かれた人物の名前を読んだ瞬間に、いったい誰が依頼をしたのかを瞬時に理解した。理解してしまった。



「……わかった」



 机の裏に爪で引掻いて文字を書き残し、アリッサについて調べておいてほしいと頼んでおく。


 この場でアリッサの名前は出せそうになかったからだ。




 事も有ろうに、暗殺指定日は件のXデーを指定していた。


 そして暗殺対象は、いつかの王子……“抜け策王子”こと『ユリアス王子』だった。

さあ、抜け策王子、キミの出番だよ?

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