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戦争は、終わらせるのが一番難しい

 戦争。


 その単語が現れた瞬間、皆がそれぞれに反応した。

 争いに否定的な者は怪訝な様子を見せ、肯定的な者は当然だという風にうなずいている。


 まあ、肯定的なのは主に戦闘経験豊富なアゲイルやアモンといった戦士系のキャラだったり、逆に否定的なのは戦闘経験のない緑茶さんやルピアだったりする。


 だけれどプレイヤーとキャラクターの考えが必ずしも一致している訳でも無く、否定的なルピアに対してコッコさんは戦争に肯定的な声を出していたりもする。この辺がややこしい所だ。



 人の心配ばかりはしていられない。

 自分の相棒であるスノーはというと、戦争というものを理解しているのかどうか怪しくなる程に無反応だった。まあ妙な形で不殺を信条にしているのだから、戦争には否定的なのは間違いないだろう。


 そして自分はというと、ラックさんの少々短絡的な決断を不思議に思っていたくらいだった。


 昔、一緒にプレイしていた時でも、あまり揉め事を起こさなかったラックさんだ。それがどうした事だろうか。あまりにも短絡的な結論の出し方に思えて仕方が無かった。もしくは、それほどまでに相手の態度が酷かったのだろうか。



『リーダーさん。少しばかりよろしいか?』

『はい、湯呑太子さん。どうぞ』


 どうやら年長者である湯呑太子さんが何か一家言ありそうだった。


『戦争をするという意味を、お主は理解しておるのか?』

『はい』


 ラックさんの短い返事には、様々な心情が込められていた。

 静かだけれど確かな発音、畏まるような態度、そしてちょっとばかりの緊張も混じっている。


 今、この場には重要な判断をする時に感じる、圧迫するような緊張感があった。


『……このゲームは、自分のキャラクターが死んでも蘇らんと聞いておるが、それも知っておるのだろう?』

『はい。重々承知しています』

『戦争は、時に民間人まで巻き込む。それを御主は本当に、理解しておるのか?』

『可能性が無いとは言えません』

『なら尚更だ、たった一言“申し訳ない”で済ませようとするのか?』

『そのために、事前に説明させてもらっているんです』

『……そうか。わかったわい。緑茶、出るぞ』



 湯呑太子さんの突然の言葉に、緑茶さんも戸惑う様子をみせた。


『出て、よろしいのでしょうか?』


『リーダー殿は緑茶が死ぬ可能性も考えた上で決めた事らしい。なぁに、気にする事はない。利害の不一致という奴だ。精霊騎士団、なかなか面白い趣旨ではあったが、今日限りで脱退させてもらおう。リーダー殿、異論はあるか?』


『いえ、ありません。そのための会議……いえ、事前の説明でしたので』



 湯呑太子さんの電撃脱退宣言だった。でも湯呑太子さんは元々、アクションゲームを楽しむために『サモンズワールド』をプレイしていた訳ではない。ただ、AIの積まれた緑茶さんとの会話をして楽しんでいただけの方だ。現在、湯呑太子さんのような人たちをスローライフ勢と呼んでいる。


 そんな湯呑太子さんを精霊騎士団に誘ったのは俺だ。理由は、まだヒーラー役が居なかったから、というだけだった。本当に何となくでしかなかったのだから、馬が合わなければ離脱してしまうのも仕方のない事だ。



『御主の事は割と気に入っておったんだがなぁ……』

『すみません。……もし亡命を希望するのでしたら東へ向かってください。そちらであれば戦火も遠いでしょう。必要なら他国への嘆願書も大臣に執筆させますが』

『東に行けばよいのだな。だが、書類なんぞ必要はない。緑茶は教会関係者だ、そっちの伝手で渡るわい』

『……できれば、希望者も合わせて同行させてください』

『ハッ。図々しい奴め。わかったわい。疎開組はワタシに任せておけ。まあ、どうせネットの世界だ。お前達の好きにすれば良いさ』



 こうして、一番最後に加入した緑茶、湯呑太子さんのコンビは一番初めに精霊騎士団を脱退した。

 どうやら戦争に巻き込まれたくない人の誘導もしてくれるようだ。



 戦争になると、民の事とかそういう事も考えなくてはいけないのか。



『他に、誰か脱退希望者は居るかな? 禍根は残したくない。それに、なんでも質問してほしい。説明不足だと言われるのも問題だからね』



 じゃあ、そういう事なら一番に質問をさせてもらおう。


「ラックさん。その戦争を引き起こすのは、アリッサの希望ですか?」

『まあ、半分かな』

「半分?」

『アリッサの希望もあるけど、一緒に連れていった大臣達も同じく御冠なのさ。このままじゃ舐められっぱなしで腹に据えかねるってね』


 なるほど、そういう事か。

 道理でラックさんらしくないと思ったら、キャラのAI側の思考に寄っていたのか。


 ……うん、なんか予想が付いてきた。これ、ラックさんとしてはどうしようもないわ。


 ラックさんの相棒であるアリッサとその仲間達が剣を持って準備しているのに、ラックさん一人だけ「いや待って、白旗を持とう」なんて言ったら相棒であるアリッサの信頼を完全に失ってしまう。これはノーとは言えない。だから自分も「戦いましょう」と言うしかないのだろうな。



『もちろん、僕もこの件には腹を据えかねているのは同じだ。ああいう手合いには一度、痛い目を見てもらいたいのさ。……昔のゼタ君みたいにね』

「その話はやめましょう! ハイ次、次の質問! ラックさん、戦争をやったとして、勝算はあるんですか?」



 勝算の有無が一番気になるところだ。これで全てが決まるといっても過言ではない。


 ラックさんが快勝できるといえば、問題なく乗っかれる。勝てるといえばちょっと厳しい。笑って誤魔化すなら困難だという事になる。長く付き合ってきたことだからその辺はわかる。わかっているつもりだ。



 すると、ラックさんはクスリと笑うと、それが言いたかったと言わんばかりに、自信満々に答えた。



『もちろん、快勝どころか……完全勝利してみせるよ。たっぷり言わせてもらうよ、完勝してみせるよ』



 思った以上の回答だった。これは予想外だった。


 ラックさんからそんな台詞、今まで聞いた事がなかった。


『ラックさーん。申し訳ねぇんですが、根拠とかありますか?』


 ネット越しに小田が質問してきた。今回は珍しく、ヤツは自分の家からログインしている。

 ちなみに、戦略シミュレーションゲームに関して小田も齧っている男だ。それなりの回答でなければ小田は納得しないだろう。



『そうだね。根拠は色々あるんだけれど、まず一つ、彼等は武装に対する信頼が高すぎる。早い話が、彼等は近代兵器という武器に頼り過ぎているのさ。だから、どんな攻撃を仕掛けてこようとするのかわかりやすいという点が弱点なんだよ。そもそも創作物で書かれている現代兵器が無双する話って、基本的に敵側が対策を立てていないのが問題だと思うんだよね』


『でもミサイルとか巨大ロボ、マシンガンなんかは、やっぱ強いっすよね? どうするんスか?』


『そんなものは現実と同じさ。ミサイルの迎撃装置――いや、迎撃魔法を作れば良い。


 ロボットに対しては電磁パルス波を出す魔法か、雷属性の武器で殴ってしまえば良い。相手は何も無敵じゃないんだ。倒せる相手なんだよ。大丈夫、何とかなる。


 銃が通用するのは遠距離攻撃で貫通性能があるからだ。でも僕は銃と魔法なら、魔法に分があると思っているよ。銃は直線にしか攻撃できないけど、魔法は作り方次第で縦横無尽に姿を変えられる。


 エルタニアには近代兵器を作る工場はないけれど、代わりに魔法学院があるんだよ? しかもそこに魔法使いの最高峰であるメロンソーダがいる。そこを利用しない手はないのさ。……もっとも、これはメロンソーダところぽんさんが離脱しなければの話でもあるんだけどね』


 おおぅ。なんとも意地悪な発言だ。


 そんな事言われたら(メロンソーダはともかく……)何だかんだで助けてくれるころぽんさんは断れないのではないだろうか。


 そう思ってメロンソーダの方を見てみると、奴は寝ていた。……ホント、マイペースだな。まあ会議中に寝ているメロンソーダが悪い。



『そうでしたか。うーん……。確かに広範囲を防衛魔法で囲めば、事前にミサイルを察知して、真っ直ぐに飛んでくるだけの物体なら撃ち落とす事も可能かもしれません。わかりました、私からメロンに言っておきますね』



 予想通りの結果となった。いやあ、本当に頼もしい限りである。地獄の深夜会議を潜り抜けただけはある。……いや、なんで俺なんかが上から物を言ってるんだろうね。本当にありがとうございます。今度からころぽん教を信仰したいと思います。



『意外ですね、ころぽんさんも戦争否定派だと思ってたんですが』

『私、割と戦闘好きなんですけど……』

『え?』


 どうやらころぽんさんの性格を勘違いしていた人が一名いるらしい。まあ、誰かまでは知らないけどね。



『あとね……これが一番大事な部分なんだけど……』


『まだあるんですか?』


『今回の戦争に関しては、もう終わり方まで計算しているんだよ』




 なんだか、ラックさんが凄く楽しそうに語り始めた。

 その日、俺は久しぶりにラックさんの腹黒さに、若干引きつった形となってしまった。



 まあ、先に言っておこう。




 本当に完勝してしまうかもしれない。

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