ダンケルクと会談の結果報告
十月二週目の土曜日。
アリッサ達がダンケルクから帰ってきて間もないタイミングで精霊騎士団が一堂に会した。
円卓の間に全員が揃うのは約二ヶ月ぶりである。各々の座にて議題の始まりを待っていた。
そしてアリッサが最後に現れて、最奥の王の座に立つとラックさんの一声で、ついに議会が動き出す。
『皆、集まってくれてありがとう。今回は重要な案件なだけに、全員で集まれたのは本当に助かるよ』
全員がラックさんの言葉の続きを待った。
今回は夕方頃に開催された精霊騎士団の会議であるが、事前に知らされた情報からその重要性が高い事が窺えた。
『今回の話なんだけども、まあ結論から言わせてもらうとだね、全然お話にならなかったよ』
ラックさんが嘲笑混じりでお手上げでもするような口調で言ってのけていた。なんだか少し怒っている風にも聞こえる。
それをアリッサが訂正するように割り込んだ。
『ラック、結論から話すのは悪い癖だ。まずは順を追うべきだろう』
『ごめん。でもダンケルクの態度がどうにもね、何でもかんでも寄越せ寄越せと……。もう正直、関わるのも嫌って感じなんだよね……』
どうやら色々と要求されてきたらしい。外交、というか交渉みたいな段階になっていた。
どうにも一つ、二つで済む話でもないらしい。とりあえず疑問に思った事から聞いてみることにしよう。
「そもそも、今回の外交は敵情視察が目的だったはずですし、まずはそこから聞きたいですね」
色々と気になっていたことがあったはずだ。
例えば千年樹がまだドワーフ王国に残っているのかどうか。
それにグループに送られてきた画像には、とてもファンタジーに似つかわしくない近代化した都会の情景が出来上がっていた。
『あー、そうだね。それに関してはオルレ庵から話してもらおうかな……』
『はい。えっと、失礼します』
オルレ君が立ち上がる。……まあ、それほど背も高くないので座っている状態とそれほど違いがなかったけど。
オルレ君は似合わない咳払いをしてから話し始めた。
『まずはアリッサ王女に、ダンケルク王都の同行を許してもらい、感謝しています。本当にありがとうございました。
それでダンケルクの状態だったのですが、三ヶ月ほど前にボクがダンケルクを出た頃と比べると、驚くほどの変化……いえ、変貌を遂げていました。街の外見もそうでしたが、都市運営の主導権が完全に精霊付き達に掌握されている状態でした。
街や仕事場は精霊達の思うがまま改築、改造されていき、資材も資金も足りないのに誰も止める人がいないまま、暴走状態が続いています。
精霊ゼタが気にしていたように、千年樹は保管されていた資材置場どころか、植林していた木まで伐採されていました。
今のダンケルク王国は精霊達の実験場という名の“遊び場”と言っても過言ではないでしょう』
なんだか、反応に困るような内容だった。
別に俺達がやってるワケじゃあないんだけど、自分達だって似たような事してた。王都の情勢に色々手を加えたり、偶にいらんことにまで口を出したりしてきた。教会に地下牢を建設したのだって国政に介入している結果だし。
まあ、オルレ君からすれば、故郷を荒らされて気が気じゃないのかもしれない。
『あ! いえ、すみません! 決して、ここに居る精霊様たちが悪いという事ではなくってですね――』
『ハイハイ、わかってるわよ。私もアイツ等とは気が合わなかったし。全然このゲームの良さとか理解してないし』
このゲームの良さ……というと、自分で作ったキャラにAIが積まれていて、まるで本当に実在しているかのようなキャラクターと協力して、この世界を動き回れる所だろう。
普通、キャラメイキングを行なうゲームには自分の操作するキャラに自立性は無いし『自分で作ったキャラ=自分』となる。これは一つの“なりきり系”の遊び方だと言えよう。
しかしサモルドにおいて、自分の操作するキャラには自立・自主性がある。言ってしまえば『自分で作ったキャラ=相棒』となるのだ。その相棒を育てつつ、協力して何かを成していくのが『サモンズワールド』であり、分類はサクセス系の遊び方が推奨されている。
『オルレ庵がアレだから、プレイヤーの私から言わせてもらうけど、アッチの連中と私達は全ッ然違うから! もうなんか世界感ぶち壊しっていうか、遠慮なし? 周りに対する配慮とかないのよ、連中。NPCが無事なのが不思議なくらい。とにかく躍起になってる連中が多くってさ。できる事は手当たり次第にやり尽くして、少しでも経験値を稼ごうって奴が多すぎるのよ。それにダンケルクに残してきたオルレ庵の店、どうなったか知ってる? 誰もいないからっていつの間にか取り壊されて変なビルが建ってたのよ? ふざけんじゃないわよ。御宅ら土地の権利者をなんだと思ってるんだっての。なーにが一週間ログインしてない店は取り壊すよ! 私は一日だってログインしてない日は無いわよ! お前等レベル50以下のミジンコ共と一緒にすんな――』
『ロン丼さん、落ち着いてください。とにかく、やってはいけない事をしている、という事ですよね?』
『そうなのよ! ブラックさんの言う通りなのよ!』
オルレ君の代わりに話し始めたのに、ロン丼さんも大概荒れた内容だった。
というか、店を取り壊すのはマズイだろ。横暴にも程がある。それ、オルレ君とロン丼さんもそうだけど一週間店にいないからと言って、遠出しているだけかもしれないのに、勝手に他人が使うとか、居座り泥棒も良いところだ。ましてや別のモノを建ててしまうなんて、現実でそれをしたらどんな裁判沙汰になるんだろうね。
『えーと、まあオルレ庵とロン丼さんの証言でわかると思うけど、ダンケルクは暴走して歯止めの利かない無法地帯に近い状態だ。このまま放っておく事もできない。というかまた『土の御神殿』にドワーフを送り込んでるみたいだしね』
「はい、また性懲りも無く捕まえましたよ。白ゾンビのドワーフ達」
最近はマクロからボットの製作に勤しんでいるのか、ちょっと奇妙な動きをし始めていた。でもプレイヤーのシステム技能が高くないのか、まだ完全なボットにはなっていなかった。
ちなみに現在、白ゾンビ……マクロ使用者は一人、あるいは一組しかいないみたいで、決まって同じ人数でやってくる。そして新にドワーフがやってくると、以前のマクロ操作を受けていたドワーフは無事に解放されていたりする。
そんな白ゾンビのドワーフ達は教会地下牢の拡大化に尽力してもらったり、新たな精霊対抗用の拘束具を開発していたりする。なんだかんだ、彼らは充実しているらしい。
それに、今は自由にやってもらうのが一番だろう。救った、助けられたと本当に思わせるには、本人達の自主性を重んじなければ本当の信用は勝ち得ないからだ。
『で、その『土の御神殿』のドワーフに関してなんだけどね……。捕まえるのをやめろって言われたよ』
「……はい? えっと、ワンモアプリーズ」
『不法入国した盗掘者を捕まえるなだってさ』
いや、うん?
えっと、バカみたいな話を聞くと、本当に人間って聞き直したくなるんだね。未だに耳を疑っているよ。
「それ、どこのテロ国家ですかね」
『コメントは差し控えたいところだけど、激しく同意するね』
全く、困ったものだ。盗人猛々しいとはよく言うけど、間接的に聞かされただけで拒絶反応を起こしたよ。
「そもそも、それは誰が言ったんですか?」
『ドワーフの国“ダンケルク”の王、バッハ・D・ダンケルク王だよ』
「……バッハってまさか?」
『本人が言ってたよ。プレイヤーだってさ』
なんともまあ、頭が痛い話だ。
バッハといえば現在スコアランク5位のドワーフ族のトップランカーじゃないか。そんな人がこんな事態を作ってるのか。
するとオルレ君が手を挙げて発言許可を申請していた。
『すみません。そのバッハについての注釈をしたくて……。彼は元々、数多くいた王子の一人だっただけです。その王位継承権も順位は結構下の方でした。ですが、彼が前王である父ダヴリースを直接、その手で殺害し、自らが王座についたのだとか……』
なんだか、どこかで聞き覚えのある話だよな。ただし、そのどこかのアリッサ王女はバッハと違って、ちゃんと手段は選んでいるけれど。
とにかく、NPCの王様は死んだ。殺したのは現王様でプレイヤーのバッハ氏。……いや、バッハはキャラ名でプレイヤー名は違うかもしれないが、どうなんだろう。
『ちなみにバッハ氏からの要求は他にもあるよ。
自分達で絶滅させた千年樹の伐採の後援。要するに探す手伝いをしろ、だってさ。
あと鉄鉱などの資源の供給。これも自分達で散々荒らしてるのに、何を言ってるんだって話だよね。報酬金額も舐めて掛かってきてたし。
ダンジョンの情報共有化は少し考えたけど、絶対に一方通行な話だよね、コレ。どうせ彼等が知ってるダンジョンなんて、既に取りつくされた後だろうし、僕等に旨味なんて残ってないのがオチだ。
捕らえたドワーフの解放、および今後は確保を自粛する事。……これだって馬鹿げてる。もう色々言いたい事もあるけれど、返す言葉も見つけられなかったから、目の前で暴言吐きたくなったくらいだよ』
矢継ぎ早にまくし立てたが、どれも恐ろしく一方的な内容だった。全然交渉になってないし、譲歩が見えてこない。まるで最初から見下しているみたいだった。
『それと倉庫屋の運営設置、あるいはその運営ができる人物の派遣。これは急いでほしいって言われたよ。まったく、好き勝手言ってくれるよね。自分達で真似でも何でもして良いから勝手にノウハウを鍛えろっていうんだ』
……それって、今回の外交に同行したルピアとコッコさんに一番関係する話じゃないのか?
そもそも、直接文句を言ってやるとか言っていたけれど、どうなったんだろうか。
「コッコさんはどう回答したんですか?」
『呆れて言葉もなかったよ? ルピアにはアリッサ王女様の召使って設定にして存在を隠してたくらいだよ』
「いやいやいや……」
『いや、ゼタ君も本人に会えばわかるって。アレは『常に絶頂』みたいな人だったんだよ? 自分のする事は全て正しい、みたいなそういう人なんだよ。そんな人に正論に基づいた苦情なんて言っても、どうせ右から左だよ。僕から見たら酷いハリボテ小屋みたいな乱雑な国だったけど、バッハ氏にとっては立派なお城みたいなものなんだよ。
今のダンケルク王国はバッハ氏にとって、自分の城という作品なんだ』
なんだか、わかるような、わからないような……。
要するにアレか。巨大な建物を作ったり、改築改造を進めたり、ゴリラレベルの知能で政策を推し進めているのは『俺がこの国を仕切っている』という自己顕示欲から来ている……とコッコさんは言いたいのだろうか。
それでコッコさんはチキン野郎の如く、文句も言えずに帰ってきてしまった、という事らしい。……まあ、逃げなかったらダンケルク国に捕まって、働かされたかもしれないから、それが正解だったのだろうけど。
皆が溜息を吐きたくなる頃、ラックさんが言葉を紡ぎ始めた。
『正直、コレは相手に困る案件だ。それもとびっきりに頭が悪いから性質が悪い。
もうどう怒れば良いのかわからない程さ。
ダンケルクは周辺国を荒らすだけの、厄介な害獣だ。
だからこそ、何とかしなくちゃいけない。
その解決手段だけど、僕には一つしか思い浮かばなかった。
でもその方法は、ココにいる皆……エルタニアに拠点を置く全てのプレイヤーに迷惑を掛けると思う。
先に謝らせてほしい。
非常に申し訳ないんだけどさ。
僕はあのふざけたプレイヤーに、鉄槌を落としてやろうと思うんだ。
エルタニア王国は今後、ダンケルク王国との戦争を視野に入れて行動するよ』




