結果が全てと言うけれど
夏休みが終わった。終わってしまったのだよ、諸君。さぁ、夢から覚めて、現実に戻ってくる時間だよ。
私と同じ中学三年生諸君。最後の夏の思い出はどうだった?
海や山へ出かけて、異性のお友達と真夏の夜に一線でも越えたりしたのかしら? あら、羨ましい。そんな奴が居たらコラ写真でも作って校内に貼り付けちゃおうかしら。ゴリラの交尾写真に同級生の顔が貼ってあったら、きっと皆にとっても忘れられない思い出になるさ。俺からのプレゼントだ。遠慮せずに受け取ってほしい。
一方の自分はと言えば、ずっとクーラーガンガンに利かせた部屋でゲーム三昧でしたとも。
一応、外に出る事はあった。その度に汗流して暑い暑いと思うのだけれど、九月になってもそれは変わらないらしい。
そもそも夏休みは八月末までって誰が決めたんだろうね。
月が替わったからといっても気候が激変する訳じゃあないのに、どうして夏休みは九月になった途端に終わるのか。融通が利かない奴は嫌われるんだぞ。
風とか全然涼しくないし、熱気だってまだまだ残っている。家を出て五分だけど、もうお部屋が恋しい。なんか今から家に帰って引き篭もっても許される気がしてきたぞ。
「おっす、ゼタっち」
ココ最近、まったく見なかった奴の顔が急に現れた。今まさに帰ろうとしたタイミングだったのに邪魔された気分だ。
そもそもコイツ、俺が一番辛い時期に東京に遊びに行き、あまつさえエンジョイ写真を毎日送りつけてきた薄情な奴だ。そんな奴は存在そのものを抹消しても許されるだろう。
「えーと、どなた様だったっけ?」
「はじめまして、冴羽○です」
「クソみたいな物真似するな。吐き気がする。贋作は疾く失せよ。不敬であろう」
「どこの金ぴか鎧の英雄だよ。もう、冷たいなぁゼタっちは……。ほい、お土産」
そういうと奴はカバンから何かを取り出した。
それは茶色の紙袋だった。中身はわからない。ただの紙袋を、奴はまるで重要書類であるかのように手渡してきた。それほど厚みのない紙袋で、中身はちょっと大きい目の用紙だとわかる。
いぶかしむように紙袋の中身を覗くと、そこには俺が好きだったゲームの人気キャラが目に飛び込んできた。銀髪ポニテのスレンダーな少女で、黒タイツが似合う最高にクールなキャラだ。そんな女の子が頬を染めて女の子座りしながら、私のジョニーがスゥっと立っちゃうような表紙のウスい本が、傷も折れも一つとてない状態で保管されていたではないか。
全てを察した俺は、黙ってそれを自分の鞄の中に仕舞いこんだ。
「いやーあっはっはっは! お帰り小田神様。俺は世界一の親友を持った男だよ!」
「この熱い手のひら返しよ」
やかましい。今は心の友との再会にただ純粋に喜ぼうではないか。
「それにしても、マジで久しぶりだな。盆前から夏休み明けまで来ないとか、お前も大概、極端だよな。なんかあったか?」
「そりゃねえ。こっちは夏休みの宿題は中盤から追い込むタイプだから。ちなみにゼタっちは宿題やった?」
「そんなもん知らん。やらなくてもどうせ成績表に1の数字が並ぶだけだろ。むしろその程度で許されるんなら甘んじて受けてやろうじゃないのさ」
「……それを正々堂々と言っちゃダメなんだぜ」
別に小田しかいないからいいんだよ。まあそんな事は言わなくてもわかってるだろうから言わないけどさ。
「それより大変だったらしいじゃん。アリッサがドワーフの砦を焼き払ったって聞いてるけど、どうなったん?」
「どうもこうも、現在進行形で事後処理中でございますよ」
一応、経緯を兼ねてシターニア大森林での出来事をまとめて説明した。
アリッサが聖剣の炎で現場を大炎上させた。
それ自体はラックさんの判断らしいから文句もないし、むしろ助かったと思っている。コチラのお株が下がらずに済んだのだからありがたい話だ。冗談じゃなく、帰ろうとしてたからね。
あと、気になる砦工場の損害状況だが、なんと見事に全壊である。
炎が降り注いだ後に何度も爆発していたので、恐らく工場内の火薬だとか燃料に燃え移ったのだろう、と推測された。全く火の手が収まらなかった。
ドワーフの種族特性で炎耐性があるはずなのだが、そんな彼等でも爆発の衝撃には敵わないらしく、火が消えた後は誰一人として生き残ってはいなかったらしい。
遠目でスノーとアモンが見ただけだから確定とは言えないが、あの火の海と爆発の嵐で生き残れる奴が居たら何されても生き残るだろうよ。
「なんだ。結果的に砦は攻略したんだ。問題ないじゃん」
「そっちはな。でも火消しがなぁ……」
「山火事でも起きたん?」
「いや、そっちの火消しじゃなくて、情報漏洩を防ぐ方の意味」
火事の方は簡単に解決した。
火災現場が水神の眷属のいる真上というのが助かった。水神の眷属に火を消すために水をありったけお願いしたら、大瀑布のような水量を下から上へ噴出させて、一帯が大豪雨に見舞われたと勘違いするような消火活動をおこなってくれた。
その場に居た全員が例外なくずぶ濡れになった。本当に気の毒だった、お疲れ様です。ついでに水も滴る良い女がいたのでスクショさせていただきました。
そっちじゃない方の火消しについては一つ仕事が増えた。
アリッサの使った技は、どうやらラックさんとしては伏せておきたい能力だったらしく、スノーにとっての魔属性みたいなものなのだろう。あまり広まると困るらしかったので、何かしらのカモフラージュが必要だった。
という事で、今はそちらの問題に取り掛かっている。いわゆる事後処理という奴だ。
エルフの姫様と相談して『山神の怒りを買ったドワーフに天罰が落ちた』という筋書きを作ってもらっている最中だ。
実は誰かが予知夢を見ていた事にしてもらって、事前に大森林から逃げ出したのもその一環だという話をでっち上げた。これでアリッサの能力はもみ消した。
あと、これにはもう一つ大きな意味がある。
エルタニアは何も関わっていないと言い張るためだ。
一応、会談しようと話し合いを進めている最中だ。
だというのに先に手を上げてしまったという事実を作るわけにはいかない。元々そのつもりだったけれども、それを大っぴらにする訳にはいかないのだ。
まあ、そんな面倒を掛けなくても時間が経てばダンケルクにはプレイヤー経由で詳細は伝わるだろう。それでもエルタニアは関わっていないと、黒を白だと言い張る理由があるのだ。そういうのも、外交では必要なスキルだそうだ。
それに部外者の第三国からすれば山神でもアリッサでも、どっちの仕業でもいい話だ。どっちでも良いからこそ、彼等はどちらの主張にも中立であってくれる。……らしいよ?
さも自分の考えのように語っているが、全部ラックさんの受け売りである。
戦略ゲームはしないからよくわからんのよ。内政とか武器、文化、外交術、特産物、それぞれの発展とか必要なのはわかるんだけどさ。アクションゲームと比べると面白さが今一つ欠けているので理解が浅い。
だからその辺はラックさんにほとんど任せている。
「とりあえず、今は嘘の細かい内容を決めてる最中。無駄に時間掛かって仕方がねえよ」
「ほーん。でも一応順調なんね。ならいいじゃん」
「まあ、概ねはな」
最後にスノーに関してだけど。
突然の砦攻略に関しては、特にリアクションはなかった。憤りもないし、困惑もしていない。
ただ、沈黙を貫いている状態だった。
何十というドワーフ等が死んで、もしかしたら思うものがあるかも知れないが、途中放棄して帰ると話していた時だったし。たぶん、こうなる事は予測できていたはずだ。きっと大丈夫だろう。
現在はシターニア大森林のエルフの里にてルナイラの弓の改修中だ。今後は魔力の巡りがよくなるらしい。強くなるならいいけれど、弓の攻撃力は矢の種類に依存しているところが大きいので、もしかしたらあまり変わらないかもしれない。
「ほんじゃあ王都に帰ってくるのはまだまだ先になりそうかな?」
「そうかもなぁ。あ、そうそう! 俺の渾身の動画見た?」
「……ああ、うん。なんていうか、ゼタっちっぽい感じだったよ?」
「なんだよそれ。もっとハッキリ言ってくれ」
「……とても、個性的、だったよ」
それ、ダメな時の常套句じゃん。
そんな感じで、俺の中学最後の夏休みは終わった。
そして……残念ながら、今日から二学期である。




