プレイヤーは遊んでいるだけです
翌日の朝には、黄色いひよこのマークの運搬業者がやってきた。
このマークの必要性があったのかはわからないが、今となっては馴染みのあるトレードマークでもある。
あとどうでも良いけど、ゼンタロウとコッコさんの二人がマークを作った際の会話は今でも記憶に残っている。曰く『黒く塗らないんですか?』『貴様……黒く塗りたいのか?』『へ、冗談ですよ』と口走っていた。このやり取りで二人して笑っていたのは今でも理解できないが、テンポの良さで耳に残っている。ちなみにその後、二人してむせていた。
それはともかく、運送屋さんに捕まえたドワーフを引き渡して、教会の地下牢でも奥の方に閉じ込めておくように指示しておいた。情報の引き出しは王都に居る誰かがしてくれるだろう。
『ユキノ、手はもう大丈夫だな?』
「はい。ニルのお陰ですっかり無事です」
治癒術、回復魔法、癒しの奇跡……呼び方は様々だが、ニルの治癒術は中々の腕前で、昨日怪我した手の火傷の痕も全く残らなかった。さすがに切断された肉体などは不可能らしいけど、それでも彼女には毎回頼りにさせてもらっている。
『よし。それじゃあアモンと協力して、今日はエルフと獣人の勢力と接触して、すぐに退避するように説得しよう』
「ほぅ? 彼等の戦力に加わるのではないのですか?」
私もそういう風にしてドワーフと戦うのだと思っていたのだが、精霊達の戦略は違うようだ。
『近代戦術を理解してない原住民に戦わせてもカカシと同じだ。むしろ人的被害が拡大するだけだから説得して全員エルタニアの方に来てもらおう』
「それでは彼等を難民として扱うと?」
『さあ? その辺は一時的避難民とかじゃあないのか? 世界観的にどうかは知らないけど、まあアリッサなら許可してくれるさ。それにドワーフを追い出したらすぐに森に返すつもりだし。なんなら今からラックさんに伝えておくさ』
遠い距離でも簡単に意思疎通ができるというのは、何とも便利なものだろうか。今度、メロンに頼んで同じような事ができないか聞いてみようかな。
『あ、それからアリッサが今、こっちに向かってる。二人と合流するってさ』
「……アリッサが来るんですか?」
それは初耳だ。
どうして彼女がココへ来る事になっているんだろうか。
『不服か?』
「いえ、別に……。ただ何をするつもりなのかと思いまして」
『そう警戒するなよ……。それに、アリッサをここへ来るように提案したのは俺だ』
どういう事だろうか。
詳しく聞いてみた。
ゼンタロウの言い分はこうだ。
『今回の件の手柄は、全てアリッサに押し付ける』
どうしてそんな事をしているのかというと、エルタニア王都の人気株のバランス調整らしい。
『この前話してただろう? 利用する、されるってさ。ユキノは人気者になるのが嫌なんだから、その活躍は人気者になるべき人物に押し付けるべきだ。
そこでアリッサだ。
次期王様なら国民からの人気も必要だ。活躍する場面は多い方がいい。それに今回の件は、お隣さんのエルフと獣人からの支持もお釣りで貰える。そもそも正体不明のハイエルフ様が王都内でアリッサ王より活躍してるって状況がおかしな話なんだよ。俺がアリッサの立場なら、王になる自分よりも目立ってるユキノはちょっと邪魔かな? と思っちゃうしね。
そこで問題になる前に手柄をアリッサに擦り付ける。どうよ、ユキノ的には一石二鳥だろう?』
という事だった。
聞いてみれば、なるほどだった。確かにそう考えれば私としても気が楽だし、アリッサに要らない物を押し付けるという考え方も気に入った。
『その活動として、奏には王都内でアリッサの活躍をする詩を先に作成してもらってるところだ。吟遊詩人の一般人に対する影響力って結構凄いんだなって気付かされたし』
カナデが来れない理由はそれだったのか。納得だ。
確かに彼の影響力は強い。なぜかみんなの耳に残るのだ。こう、フレーズが耳に残るとでも言うのか。普段話すくらいなら変な人と思うのだけれど、詩人としての才能は本当にあるのだろう。
と、アモンが何か疑問に思ったのか、一つ確認を取った。
「つまりアリッサ王女がココへ来るのは単なる政治的な側面のアピールでしかない、という事なんでしょうか? 砦の攻略はワタクシとユキノ殿の二人でやると?」
『なんだ、アモン。そんなにユキノと二人っきりは心配か?』
「いえ、それ程。ですがアリッサ様の戦いを見ることが叶わないというのも、少し残念だと思っただけでございます」
そういえば王座争奪から以降、アリッサが誰かと剣を向けて戦っている姿を見た覚えがない。アゲイルやカナデは見た事があるらしいけど、普通だったと言っていた。旗で味方を強化しつつ、前衛で斬り込みもできる、中衛の万能型が戦闘スタイルなのだとか。
だが逆に言うと、たったそれだけしかない。
現状、アリッサが到着したからと言って、あの大型ロボットとやらとの戦闘が有利になるとは思えなかった。
『まあ今後の戦略についてはラックさんが今夜にでも考えてきてくれるさ。それまで俺達はやる事をやっちまおう』
そういう事で、私達は日中の内にシターニア大森林の中を探索して回った。
後から思えば、そこからが今回の件で一番の苦労だったかもしれない。
果てしなく広大な森の中でエルフと獣人を探すのは非常に困難だったが、アモンが上空から偵察してくれたお陰で、彼等の住処の一つを運よく見つけることができたのだが、そこからが本格的に長かった。
なんと見つけた住処の場所から、さらに三日掛けて歩いた先にエルフの里があると言われた。そこがエルフにとって都のような場所であり、エルフのお姫様がエルタニアに送った使者の帰りを待っているのだとか。
獣人の里はエルフの里からさらに南へ三日歩いた場所にあるのだとか。
戦闘をやめて逃げてほしいと説明をするには私達でなければならないので、そこからはアモンと二手に分かれて行動する事になる。
お互いそれぞれの種族の里に向かい、途中で何度かトラブルに巻き込まれながらようやく里まで辿り着き、エルタニアの使者として到着したのだが……。
『そういえば公式文書とかエルタニア側の使者としての証明とか何も用意してなかったな』
「……どうするんですか?」
『急いでたからね、しょうがないね!』
「解決方法を求めます」
『ないね!』
開き直られた。
それから実際どうしたかというと、エルフの里に何食わぬ顔で入ることにしてみた。
が、あっさり部外者だとばれて門前払いをされかけた。ただし、“ルナイラ”の弓を見た誰かが事情を察してくれて、運よく中に入れたので今回ばかりは何とかなった。こういうところで、ゼンタロウは偶にしでかす。……まあ、私も気付かなかったのだけれど。
それから長い時間を掛けて責任者らしいエルフの男性に説明して、別の偉い身分らしいエルフにまた説明して、最後にお姫様っぽいエルフに説明して……。
一日もたらい回し気味に色んな人に説明をしていた頃、シターニア大森林のエルフ統括を名乗っていたユーステッドが帰ってきた。
今までの説明は何だったのかと言うほどに、ユーステッドの一声で全てのエルフの民がシターニアからエルタニアに向かって移動を開始したのだった。……私がここへ来た意味はなんだったのかと問いたくなる。特に得るモノもなかったのに、妙に時間と体力だけは取られた。
無駄に疲れた。そう思うのは慣れない会話を長時間もした所為だろう。……あぁ、ゼンタロウもこんな気分で二週間必死で地下牢建設を頑張っていたのだろう。今度、何かお礼をした方がいいだろうか。
……まあどうでもいいか。
それよりも、今はもっと面倒な相手が目の前にいる。
腰から両手剣ほどに大きな剣を鞘に収め、背中には戦旗付きの槍を装備した鎧姿の戦姫。
「スノー。いや、今はユキノだったな」
「……アリッサ。まあ、来るとは聞いていたので会うとは思っていましたが、精霊のいないこのタイミングですか……」
現在、精霊は席を外している状態とでも言うのか、とにかく私の傍にゼンタロウはいなかった。アリッサもそれは同じで、精霊ブラック・ラックもいなかった。
何故かアリッサはそのタイミングを狙って話しかけてきたのだ。
「何か、個人的に用事でもあるんですか?」
「ある。まあそう身構えるな。仲間として話したいだけだ」
「……仲間ですか」
何を企んでいるのか。彼女ならもっと違う言い方の方が適切のような気がした。もっとこう……部下とか配下とか、そっちの方が彼女には似合っている。彼女の発する仲間の意味が、しっくりと受け入れられなかった。
「最近の貴女は、どうにも胡散臭いですね。まるでいつも仮面を被っているようです」
「相変わらず私には厳しいな。まったく、私のなにが気に入らないんだ?」
「気にしないでください。きっと貴女と私とでは反りが合わないだけです」
命の扱いに関して。価値観に対しても。生きている目的さえも反対側を見ている程に違っている。
とはいえ、私の生きる目的なんてそれほど大それたものではない。
私はただ、閉じ込められた雪の村から自由になりたかっただけだ。その自由が叶った先で何をしたかったのかが決まっていないから、今はこうして精霊に従っている。強いて言えば、見たり、触れたり、感じたりしたかった。ただそれだけだと思う。
「では、その反りの合わない仲間として、一つ確認をしたい。ユキノ、お前は精霊をどう思う?」
「質問の意図がわかりません」
「簡単な話だ。ヤツ等を――精霊達をユキノはどう見る?」
精霊達、ゼンタロウや精霊ブラック・ラックではなく、その他の全ての事をこの場合は言っているのだろうか。
難しい。難解な質問だ。
彼等は人と同じように千差万別で、一人ひとりがまったく違った個性をしている。上手、下手もあるし、性格だって全然違う。穏やかだったり、激しかったり、まとめてどうとは決められない存在だ。
一言で説明しようものなら、不可思議な存在とでも言うしかない。
ただ、それを言ってもどうなるモノではないと考えた。
「……アリッサ、貴女はどう思っているんですか?」
「質問を質問で返すな。……と言いたいが、お前は特別だ。答えておこう。私はヤツ等が遊んでいるようにしか思えない。私達の肉体を使って、この世界を好き勝手にかき乱して楽しんでいる。そうは感じないか?」
それは、どうなのだろうか。まあ、それがゼンタロウの奨めた生き方でもあるし、色んな事に楽しめるのは羨ましい事だ。
「お前は何人の精霊付きを見てきた? 中には頭のおかしな連中が何人もいただろう? 怒りはなかったか?」
確かに感じた。何故そんなふざけた事ができるのかと、怒りもした事は何度もある。つい最近は特にだ。
「ユキノ、お前はどう思った?」
まるで、それが今回の会話の核心であるかのように、彼女は私の目を見て問いかけた。
別にそれほど重要な事でもないと思ったのだが、真面目に答える事にした。
「簡単です。私の精霊がゼタでよかった、と」
「……それだけか?」
「ええ、それだけですが?」
なんだろう。本当に、たったそれだけの事なのに、アリッサにはとんでもなく大きな衝撃でもあったかのような反応をしていた。
しかしそれも束の間、アリッサの表情がガラリと変わった。今までの妙に迫ってくる表情ではなく、あからさまな無表情だった。
この時から、アリッサの私に対する態度が変わった気がした。
「そうか。なら、もういい。お前と精霊ゼタは、いい仲なのだな」
「そうでしょうか?」
一応、言葉を投げ返したつもりだったのだが、アリッサは返す言葉を持ち合わせていなかったらしい。
この会話が彼女にとってなんだったのか、私にはわからない。わからないのだが、アリッサの底知れぬ心の闇に触れてしまったような嫌な気配だけはした。
「ゼタ君、キミいくつだい?」
「15ですけど?」
「……一番好きなロボットアニメは?」
「そんな! 一番なんてどれも選べません! でも初めてみたロボットでいうならジャイアント○ボですかね」
「ねえキミ本当に15!?」




