大丈夫です(無事とは言ってない)
スノーが引っこ抜いたバッテリーのようなモノは一斗缶ほどの大きさの黒い箱だった。容量にすれば16リットルほどの大きさだと説明すれば伝わるだろうか。スノーの身体が小さい所為で余計に大きく見える。
黒い箱は湯気を昇らせて、陽炎を発生させていた。
それを重そうに地面に投げ落とすと、やっとスノーが肩の力を抜いて同じく地面に降り立った。
「スノー、大丈夫か?」
『はい、問題ありません』
そう言いつつも自分の手を気にした様子でふと視線を下に向けると、スノーが無言で手の平を見せてきた。
手の平の皮が剥けて、赤く腫れていた。熱された鉄板を自分で握ったみたいな状態になっている。
『……これ大丈夫?』
いや、大丈夫じゃないから。確認したら状態異常に火傷が付与されていた。こういう時は冷やすに限る。
「とりあえず処置が先。氷魔法で手を冷やして、包帯で処置。それから後でニルって子に治してもらおう。……それから、怪我させてゴメン」
『そっちは平気、気にしてないです』
スノーは本当に気にしてないのか、全くと言っていいほどケロッとした表情で言ってみせた。もしかしたら戦闘による高揚感で一時的なハイになっているのかもしれない。
何はともあれ、魔撃で氷玉を作り出し、手の平で包んで冷やさせる。
そんな最中にもスノーは自分の手ではなく、ロボット内部の人物が気になって仕方がない様子だった。
『手はもういい。それよりも中のドワーフはどうする?』
「そっちはアモンに引っこ抜いてもらおう。スノーは既に一つ引っこ抜いたからこれでイーブンの仕事だ」
もうスノーとだけ言葉を交わす必要がなくなったので、チャットのチャンネルをオープンに変更し直して、アモンを呼び寄せようとした。が、その前に彼はスノーの目の前まで降りてきてくれた。
『流石、と褒めておきでしょうか。ユキノ殿とゼタ殿はやはり一味違いますな』
「今回はたまたま運が良かっただけさ。本当はできるかどうか不明だったし。それにユキノに怪我させちまった」
『しかしそのお陰で、今回はうまくいきました』
「強調する部分がつらい!」
まるでいつもはダメみたいに言わないでほしい。……自覚がない訳ではないから余計に悲しいのだよ。
そういうどうでもいい言葉は飲み込んで、早速アモンにはコックピットの扉を破壊してもらい、中にいるドワーフを引っ張り出してもらった。
その際、斧を持ったドワーフが座席から飛び出してきたが、アモンの鳥足がその豪腕を掴み上げると空中まで引っ張り、高さ4、5メートルから急降下してドワーフを地面に叩きつけた。
アモンは余裕たっぷりの仕草で足についた土の汚れを手で払うと、何事もなかったかのように立ち振る舞っていた。
『ほぅ。この程度ですか。なんとも期待ハズレですね……』
『アモンが強いだけ』
『そうでしょうか? ユキノさんに比べればワタクシなどまだまだです』
『過度の謙遜は嫌味って師匠が言ってたの、いま理解した』
『ホッホッホ。それは気にしすぎです』
「それよりもドワーフの心配してやれよ。さっきの一撃の後から何も喋ってないぞ」
死んだとはさすがに思わないが、結構ダメージがありそうだった。アモンが雑にドワーフの腹の下に足を入れてひっくり返させると、彼は白目で気絶していた。
さて、この後どうするかを考えてみよう。さすがにこれ以上の行動は疲労度的にやめた方がいい。
一度拠点に戻ってこのドワーフを持ち帰ることにしよう。スノーの手も治療しなければいけないし。
あと、相手のプレイヤーが少しうるさかった。スノーとアモンには無視を決め込んでおけと指示しておいたが、途中から馴れ馴れしくなって「頼むよー何するんだよー教えてくれよー」という具合になっていた。俺はスピーカーを切れば済む話だけど、スノーとアモンは耳を閉じても関係ないみたいだった。可哀想に……。
ちなみにその時の怒りはしっかりと後に現れて、ドワーフの身に着けている物を全て剥ぎ取って精霊付き専用の拘束縄で縛り、最終的には拠点から離れた木に吊るして放置した。見張りには誰も置かなかったけれど、果たして大丈夫だろうか。……まあ、さして語る事もなし、結果として大丈夫だったと追記しておこう。ちょっとドワーフが体調を崩した程度だ。
時計の短針が11時に差し掛かる頃、適当に漫画でも読みつつスノー達の会話を聞き流していると、ラックさんからやっと連絡がきた。
『遅くなってごめん、盆明けで妙に仕事が溜まっててね』
「いえ、問題ないですよ。それで会談はどうでした?」
『概ね上々らしいよ。希望通り、森の番人と獣人の兵士を借りる事ができた。他にも戦時には共に戦線を築く約束を取り付けたとか、精霊付きの暴走に対しても積極的に協力してくれるらしい』
「……それだけですか? もっと美味しい話はないんでしょうか?」
『うーん、プレイヤー的に美味しい話かい? それならエルフの鍛冶師を貸してくれるってさ』
「エルフが鍛冶を?」
森の住人がそれをするってどうなんだろうか。
そもそもエルフが鍛冶仕事をするというのが想像できなかったが、エルフが銀道具を作るというのは聞いた事もあるし。しかし、ドワーフよりも鍛冶の腕が上だとは到底思えない。
「それ、ドワーフよりも有能なんですか?」
『さあ? でも、アリッサの聖剣のメンテナンスとかしてくれるらしいよ。なんでも、神に名を頂く程の偉大な武器……僕等が“異名持ち”と呼んでいる装備になると、特殊知識を持つエルフでないと加工できないって設定らしいよ』
「へえ、だったらスノーの“ルナイラ”も見てもらえるんですかね」
『かもね。で、そっちはどうだった? 何も問題はなかった?』
「それがですね。ちょっと想像していたよりも厄介な状況に変わってまして――」
と、そこからドワーフ側がどのような状態になっているのかを、想像と想定を織り交ぜながらラックさんに説明した。
多分、相手はロボット兵器で武装したジャンル違いの戦略……いわゆるファンタジー殺しの手法で戦ってくるだろう、と。
銃弾、火薬、爆撃、もしかしたら大型ミサイルが飛んでくるかもしれない。
そもそも銃を用いた戦術とファンタジー戦術ではどうしても不利な部分がある。
ズバリ、殺傷可能距離だ。
剣は言わずもがな、手の届く範囲が限界。槍なら槍の長さだけ。
弓だと300mくらいが限界だと聞いたことがあるけど、それも特殊な大型の弓、しかも上級者でなければ難しいだろう。
魔法ともなると種類にもよるが、肉眼で見える距離までが攻撃範囲となるだろう。それ程の実力を持つ魔法使いもそれ程いないけれど。
一方の銃はというと――
携帯が簡単な拳銃で5~10m。尚、殺さなくても良いなら弾丸は1000mでも飛ぶらしい。
アサルトライフルなら300mまでは狙えるらしいし、どんなノーコンでも数撃てば一発くらい当てられるだろう。
長距離狙撃銃にもなれば2kmまでは狙って撃てるらしい。そこまで行くと凄腕とかになるんだろうけど、銃に限らなくても良いなら迫撃砲が候補として現れてくる。ロボット兵器が現れたのなら自走砲みたいなヤツもきっと出てくるだろう。
まあ殺傷距離の話は極端に考えているけど、実際はもっと色々な戦略戦術が絡んでいる事だろう。その上でも、やはり現代兵器の方が勝っている風に感じる。
自分でもわかってるさ。かなり色眼鏡で現状を捉えてるってことくらい。
でもどうしても現代兵器VSファンタジーで考えると、ファンタジーに対して否定的になってしまう。きっと昨今の現代兵器で異世界無双系のアニメ漫画の影響を受けているからだろう、ちっともファンタジー側が勝てる未来が想像できなかった。困ったものだな。
当面の目的はルエ山脈の頂にある砦の攻略となるのだが、それもどうしたらいいものか。きっと大砲とか連射して爆発するタイプなんだろう。空から鉛の雨が降ってくる事だってあるかもしれない。
『へぇ……そんな事になってたのか……。そりゃ困ったね』
「そうです。困ったもんなのです」
俺の説明を聞いて、ラックさんも悩むように唸っていた。
『まあ、そっちの対策はまた考えておくよ』
戦略に関してはラックさんの方が得意だ。こういう時は素直に頼りにさせてもらおう。下手な考え休むに似たりっていうし、適材適所で対応してもらおう。
『とりあえず今日はお疲れ様。明日にはアリッサもそっちに向かわせるから、それまでヒーロー活動よろしくね』
「ハハ、ヒーローは見返りなんて求めませんよ」
『そりゃそっか』
まあ、ヒーローが見返りを求めちゃいけませんって訳でもないとは思うけどな。
「ところでロボット戦で視界を封じる魔法を使わなかったのは何故ですか?」
「アモンと連携が取り難くなるってのもあるけど、一番の理由は動画の絵にならないから!」
「……後ろの理由は言わなくても良かったのでは?」




