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竜騎士“竜田アゲイル”

 パソコンが落ちた。おそらくグラフィックボードが逝ったのだと思われる。


 掃除をしていなかったのもそうだが、もうかれこれ5年間もゲームの美麗な映像を提供し続けてくれたのだ。寿命とは思うが、過労だろう。いままでゲーム会社が要求する最高画質設定にずっと耐え抜いてきてくれたのだ。労わる事はあれ、責める気はない。


 パソコンは一度落ちた後、4度ブザーが鳴り、再び自動復帰を開始する。



「ここで直る可能性もあるけど、先に掃除しないと意味ないんだろうな……」



 ログイン画面で『ブゥン』と悲しい音を出して、パソコンは再び死ぬ。もういい、もういいんだ。そのまま休め。と思いを込めて、無常に電源を引き抜く。



「スノーが心配だな」


 普通のゲームなら冒険中に電源を切ったとしても、何処かの町とか拠点に戻るのだろう。しかしこの「サモンズ ワールド」にそれはない。多分、戦闘中ならキャラのAIが戦闘を続けているだろう。


 今頃、慌てたスノーが三匹のジャガー相手にダンスしているだろうと容易に想像できる。



「あ、そうだ。携帯で状況確認くらいはできるか」



 平日、学校にいる間は携帯のアプリでトレーニングの指示を出したり、ステータスチェックなどをしているので勝手は知っている。

 ただ、アプリの方ではパソコンのような操作ができない。俯瞰視点で状況を見たり、会話できるだけだ。まあ、なにもできないよりはマシだろう。



 さっそくアプリでログインすると、スノーは自力で避け続けていた。


 HPはそれほど減っていなかった。が、微々たる削りが見られる。直接的な大ダメージは受けなかったのだろう。致命傷がなければ一安心だ。


 しかしSPのゲージコントロールが自分で操作していた時よりも雑になっている。スノーの性格からして闇雲な行動はしないだろうから、たぶん突然自分がいなくなって焦ったが、均衡が破綻しない程度に戦況維持が可能だった。……と言ったところか。


 戦い方は俺のときと変わらず、回避中心だった。

 自棄を起こしたりパニックにはなっていないのだろう。


 とりあえず声を掛けてみる。


「スノー、大丈夫か?」

『なぜいきなり消えたのですか?』


 戦闘に集中しているのか、声からいつもの呆れた雰囲気ではなく、静かな怒気を感じる。冷や汗が額から落ちてきた。


「すまん、ちょっとグラボ……いや、言ってもわからないか。えっと、機械……いや、世界観が違うか? 魔道具で伝わるか? それが故障したんだ。ちょっと今すぐに操作するのは無理そうだ」


『では……私は、あなたの、所為で増えた、敵三匹の――シッ!! 面倒見なくては、いけないという、訳ですね』


「……怒ってる?」


『控え目に言ってインフェルノです』


 インフェルノ、気に入ったのか。



「とりあえず大丈夫そうで安心した。ただ無駄な動きはしないように。SP切れたら回避もできなくなる」

『無茶、です。すぐに戻れ、ませんか?』

「わかった。5分くれ」




 さて、どうするべきか。すぐにデスクトップを開けてエアスプレーで埃を取るのも手だが、一度死んだグラボをまた酷使するのも不安だ。途中で再び死ぬ恐れがある。


 で、あるならば二号機を使えばいい。二号機は現在、攻略サイトや動画再生に使っている。ただし、それほどスペックはよろしくない。


 一号機は完全にゲームをするために生まれたゲーミングPC、つまりエリート級のスペックを持っていた。

 対して二号機は妹の勉学の為にという名目で買った、中流レベルのパソコン。どういった経緯で俺が使っているのかというと……「ネットはスマフォでできるし」と妹が言い、ならば俺にくれという具合だ。なので文句はないが、あの殺人的な画質に耐えられるとは思えない。


「……ま、いっか。どうせサブだし」


 二号機のグラボの寿命が縮んでも、別に今まで必要ない事にしか使ってこなかった。

 それに既に立ち上がっているからゲームをインストールしてアカウントさえ入力すればすぐに戻れる。


 そうと決まれば行動だ。



 ゲームデータをダウンロードし、インストールを開始する。今思い出したが、よくよく考えたら一度目の時は完了までに10分くらい時間が掛かった。到底、5分で戻るのは無理だな。


 スノーには悪いが、がんばって耐えてもらおう。

 その間に一号機の蓋を開けてエアスプレーで掃除でもしよう。


「む、エアが切れてる……。ああ、思い出した。前に使い切った後に買うのも面倒でずっと放置してたんだったか」


 こりゃ困った。今から買い出しに行くほうが時間が掛かりそうだ。もういっその事、小田みたいに工具用のエアコンプレッサーでも買ってみるか。ちょっとばかり値段がするので考えていたのだが、この際いいかもしれない。



 しかしそうすると10分以上、何もできないのか。まずい。何もできなくなると勝手に不安が募ってくる。


 おちつけ。とりあえず落ち着こう。焦っても良い事はない。コーヒーでも入れてこようか。


 と考えて扉を開けようとすると、部屋の扉がノックもされずに突然開いた。オマケに顔面に扉の角が当たった。ほら、良い事なかった。




「ソロモンよ、私は帰って――て、なにしとん?」



 犯人はなんと小田だった。



「……痛い」

「その、わるかった。ちょっと驚かせようとして、つい」



 どうやらすぐに来るとは思っていなかっただろう! というサプライズがしたかったらしい。まあこれくらいで一々怒るつもりはない。むしろ助けに来てくれた感謝が先だ。



「勝手に入って悪かったな。多分手が放せないと思ってな」

「そんなのどうでもいい! 小田……いや、小田様! マジ救世主! さっさと助けて!」

「……相当余裕のなかったのな。というか、後ろのパソコン……OK、状況把握したわ」


 一号機がお釈迦になったことを察してくれたのか、さっそく小田は自分のリュックからノートPCを取り出した。

 どうやらスリープモードできたらしく、既にゲーム画面だった。その上、現在地は雪山が見える空の上だった。ワイバーンに騎乗しての移動だ。



 ワイバーンは全体的に深い緑色で極一般的なイメージと同じだ。爬虫類の目に鰐のような頭、翼は膜で足は二本。その背中に、一人の西洋鎧を着た人物がいる。



 小田が現在使用しているキャラ、竜騎士の“竜田アゲイル”だ。



 薄汚れた鉄の全身鎧がいかにもないぶし銀を出している。小田の好きそうな中年実力者系オッサンキャラだ。一応、半魔人族の分類となっている。



「家出る前にヒュードラ山脈の雪山に向かって移動を頼んで追いたんよ」


「さすが竜騎士だな。しかし序盤から空の移動とかずるくね?」


「それもそうだが、恐ろしいのは携帯で頼んでおいたことをすぐに実行してくれるAIの便利さよ」



 恐るべきAI機能。とは言うものの、このゲーム……目的地の移動が一瞬で済むような機能がないので、これくらいないと厳しい。それに小田は竜に乗っての飛行移動なので問題ないが、他の連中は地上を徒歩で移動している。その間に魔物に襲われて運が悪ければ死ぬ事もある。つまり、プレイヤーが操作していない間にも死ぬ危険性があるのだ。まさにクソゲー。



 ちなみに現在のアゲイルのステータスを見せてもらった。



名前:竜田アゲイル   クラス:竜騎士

年齢:35       性別:男

種族:竜人族      出身:ドラグラン王国

身分:騎士



武器:グレイブ

防具:騎兵鎧

装備品:竜騎士の腕輪


レベル15


HP:232 SP:195 MP:167

筋力: 82 体力:131 体格:18

魔力: 56 知性: 43 精神:68

敏速: 45 器用: 38 感知:35



肉体成長率:B+

術技習得率:C+

感覚最適化:B


性格:勇猛 義理堅い 中立的


友好種族

 人間:△   エルフ:×    ドワーフ:×

 ビースト:× オートマタ:×  半魔人:△


スキル

 槍術Lv3

 盾術Lv1

 騎龍術Lv2

 頑強Lv3



魔法

 龍翼飛行




「ステータス高すぎ! 不平等すぎね!?」

「“サモルド”でそれはお約束だって」


 ちなみに『サモルド』とは最近決まった「サモンズ ワールド」の略称である。俺は『サーモン』を押したのだがネット民には誰も相手にしてくれなかった。


 名前といえば小田のキャラ名がマダオでない件だが、それは本人が「竜田揚げ食いてぇ」とうるさく要求していたので、奴がトイレに行ってる間にキャラメイクで俺が変えてやったからだ。


 ちなみに本人は「ちょ、オマ、ひでえ」とゲラゲラ笑っていた。


「お、戦闘中の銀髪ロリを見っけたぞー」

「さすがアゲイル! 頼もしい」


 雪山だろうがなんのその、竜はたやすく空を駆ける。地上のスノーとホワイトジャガー三匹はまだアゲイルを発見してすらいない。


 小田が自前のゲームパッドを握り、操作を始める。アゲイルが竜から飛び降り、天より奇襲を仕掛けた。グレイブの刃を下に向け、一匹のホワイトジャガーの背を突き、踏み潰した。たったの一撃で敵は絶命した。


「一撃かよ」

「速度でダメージが加算されるのよ。竜に乗って落下を利用した直下攻撃。これのお陰で狩りが楽しいぜ」

「竜騎士ずるい! 俺にも操作させてくれない?」

「それだけは絶対にヤダ」



 一気に状況が好ましくなってきたお陰で不安もなくなった。どころか、スノーのレベルが2上がっていた。ホワイトジャガーが死んだ直後だったので、そのお陰だと察する。


 スノーは目の前のアゲイルにどう対処すべきか迷っていた。


『あの……突然、目の前に鎧が降って来たのですが?』

「それは仲間だ。攻撃しないようにな」

『わかりました』


 ホッと一息つけた様子だ。最後まで敵の攻撃は直撃しなかったが、掠っただけのダメージで既に半分くらいまで減っていた。間に合ってよかった。


「アゲイル、銀髪のエルフは仲間だから間違えないように」

『心得た』


 重低音な渋い声だ。男ならテンションが上がるタイプだ。

 アゲイルは肉塊からグレイブを引き抜くと、くるりと翻り、刃に付いた血を飛ばして雪を汚して下段の構えをとる。



 名前がアレの癖に仕草や動作がカッコいい、それが竜田アゲイルだ。



 そしてやっと二号機のインストールが完了した。さっそくログインしてIDとパスワードを入力、問題なくスノーのアカウントになった。これで一安心だ。



「ようやく戻った。わるかったな」

『……いえ。何とかなりましたので、インフェルノは取り消します』

「そ、そうか」



 色々あったが、これで二対二だ。今度は余計な真似はしない。

 これ以上スノーの機嫌を損ねる前に、さっさと《属性:魔》で倒してしまおう。

イメージは銀河○○さん。何がとはいわない。

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