それ触って大丈夫ですか?
「難しいなぁ。生け捕りにするのって」
正直、悩みどころだ。倒すだけなら幾らか手段はある。
例えばスノーの魔弓術で威力の高い攻撃を行う。
これをコックピットに座るドワーフを狙って射れば瞬く間に巨大な鉄塊が一つ出来上がるだろう。だが精霊付きはなるべく捕縛しなければいけないという条件があるので却下。
他にもスノーのユニーク特性である魔属性を使用すれば、巨大ロボット特有の物理防御力など容易く突破するだろう。相手の手足を奪う、あるいは地面に大穴を空けて落としてしまう、という策もある。
だがこれも却下だ。魔属性はできるだけ他のプレイヤーには見せたくない。チートみたいで中指立てられそうだし、何より魔属性はスノーにとっての切り札だ。重要な情報は安易に流出させてはならない。……今は実況動画の録画中でもあるし。
では次に、相手の弾切れ、もしくは燃料切れの線はどうか。とは考えてみたが、これは切れる前に撤退を選ばれてしまえば終わってしまう作戦だ。そこまで相手が戦闘下手だとはあえて思わない。
そもそも弾切れなど考える必要がないのかもしれない。バズーカの弾倉は腰下に二つ格納されていたし、ガトリングに関しては大型のドラムマガジンを背中で背負っている状態だ。千、二千も撃ち続ける事ができるガトリング相手に弾切れなんて考える方がどうかしている。
燃料に関してもこれは無意味だ。『サモンズワールド』の機械系の動力源は“待っていれば回復する”システムだ。空気中の何かをエネルギーにしているとか言われているけど、本当にそんな感じなのだ。回復速度に限界はあるが行動停止していればいずれ燃料は満タンになる。
ただし、今までの行動が無駄だった訳ではない。
良い事が二つ知れた。
一つはバリアなどの絶対防御系の装備がされていない事。背後に回って襲ったのだから、あるなら必ず使うだろうと思ったのだがそれがなかった。
もう一つは相手の動作が非常に遅い事。上から落ちてくるアイスコメットなど回避すればいいのに、わざわざ破壊して難を逃れた。アレは移動して避けるよりも、破壊する方が得策だと考えた結果なのだろう。でなけりゃただのムダ弾だ。
とりあえず今後の展開を一通り考えて、今後どのような展開になるかを想定してみる。
結果、負けはしないが勝ちもしない絵面が浮かび上がった。
相手は鈍足、攻撃も単調。腕も悪ければ勘も悪い。
正直、あんなお粗末なプレイヤーに倒されるくらいなら、俺は既に何処かのタイミングでスノーを死なせている。
しかしコチラも効果的な手段があまりない。
不殺で倒す事を前提にしているから困っている。何か良案が思い浮かばない限りはどうしようもなさそうだ。装甲による物理防御力の高さは相当なものだし、スノーの腕力では少し厳しいだろう。
それにアモンの様子見もそろそろ終わる頃だろうし、余り悠長には考えない。
スノーの得意な事で何かしらないかと携帯アプリの方でステータスをチェックしてみると、おやっと思うものが一つあった。
もしかしたら、案外悪くないかと思う。実際に用意されてないと設計的に問題があるモノだし、それを探し出すのも手だろう。
今度はソレを発見しなくてはならない。
「さあ開幕戦、様子見も終わったところで、ここから本格的な勝負が始まると言ったところでしょうか、解説のゼタさん。はい、そうですね。相手のロボットは旋回能力に難がありそうです。これは一方的な展開になるんじゃないでしょうか? いやー、ホントそうですね」
『無駄にイキってんじゃねえ! エルフの攻撃なんて蚊に刺されたくらいしかねえよ!』
「お前、虫に献血されるくらいなら病院でしてもらえよ。日本人ってマジで献血しないらしいから海外の人が怒ってるらしいよ?」
『んなハナシ知らねえよ!!』
相手は良い具合に怒り心頭してらっしゃる。態度にもそれは表れていて、今すぐにでも弾をばら撒きたいらしい。可動域ギリギリまで右腕を動かしてガトリングの銃口をスノーに向けてくる。しかも照準を合わせる前から砲身が回転し始めている。当たらない位置から既に撃つ気でいるなんて、冷静でない証拠だ。
「ゼタさん、相手は相当カッカしてますね。そうですね、あんまり対人戦はしてこなかったのかもしれませんね。それか、一方的な戦闘ばかりが得意になった下手クソなのでしょう。煽り耐性がゼロです。ホント、どうしようもありませんね。FPSとかやったらすぐ狩られるタイプでしょう」
『クソ、ふざけんな――』
最後にジャックを取り外した時の特有の音が聞こえてきて、通話が途切れた。どうやらヘッドセットか何かを抜いたようだ。
ゴメンね、もしも敵として出会わなかったらココまでふざけた態度では接しないんだけどさ。でも、真剣勝負に汚いもクソもないんだよ。
精神攻撃は基本だ。
格闘ゲームではそうだった。
……いや、流石に有段者同士が罵り合ったりはしないけれど、攻撃の差し合いで牽制したり圧力を掛けたりしてストレスを与えるのだ。そして精神力の弱い方が先に膝を屈する。
イライラしても同じだ。血が頭に上っている間は高揚感で自分がさも強くなったと思ったりもするが、実際は動きが雑になるばかりで良いことなんかあまりない。もともと低血圧な人なら事情は違うだろうけれどさ?
それはさて置き、作戦も大体決まったし、後はスマートに決めましょうか。
「プレゼントをくれてやろう!」
アモンにな。と、心で呟いておく。
上空にアイスコメットを生み出すと、大型ロボットはそれを処理するために上空目掛けてバズーカを使用した。脳裏に「性懲りもなく」と文句を垂れる彼の姿が目に浮かぶような単純さだ。
しかし旋廻しながらでもちゃんと上空の標的に当ててくるのは見事だ。さらに移動しながらの旋廻を覚えたのか、スノーから距離を離しつつ、視界に捉えようとしていた。相手は一つ賢くなったようだ。逆にどうしていままでそうしなかったのかと言いたいけれど。
だが残念。相手はそこで満足してしまったのだろう。
彼はアイスコメットの真上に隠れていた存在に気がつかなかったのだ。
砕けた氷塊の上からアモンが、急降下して蒼く燃え盛る剣を右肩に突き立てた。火花があちこちに飛び散りながら、水が鉄板の上で踊っているような音を奏でている。アモンはそのまま勢い任せに右腕部を切り落とそうと、突きたてた剣で引き裂こうとした――が、途中で何かに引っ掛かり、すぐさま引き抜いて空へと舞い戻った。
『おやおや、案外、中はもっと堅いんですね』
どうやら関節部の中でも一際堅い物体があるらしい。まあ腕部と胴部を繋ぐ軸だろう。重たい武装を装備するためには、それなりの耐久度を持った部品が必要になる。それに当たったのだろう。
「アモン、悪いけどもうちょっと相手の注意を引きつけてくれ! 十秒で何とかする!」
『ほぉ? 何か秘策がありそうですね。では任せましょう』
そういいつつ、彼は蒼い炎を再び剣に宿らせ、心強い返事で答えてくれた。
彼の持つ剣は先端が丸い直剣型の長剣で、魔剣などではないらしい。あの蒼い炎は本人の特性だそうだ。カッコいいよね、蒼い炎。俺の中二心が疼くよ。
それはともかく、スノーにやるべき事を伝えなくてはいけない。
チャットのチャンネルを個人に設定し直して、スノーにだけ聞こえるようにした。
「スノー、今からやってほしいことを説明するぞ」
『どうすればいいのですか?』
「簡単だ。背中に張り付いて、ハッチを見つけてくれ」
『ハッチ?』
「とにかくだ、鍵が掛かってる場所を開けちまえばいいのさ」
『わかりました』
既にアモンがロボットの気を逸らす為に、相手の視界を覆う程の蒼い炎を浴びせている。あれをされたらたとえダメージがなくても振り払いたくなるだろう。
だが、それだけアモンは集中砲火の的になる。十秒という僅かな時間だが大役には間違いない。
お陰でスノーは容易く巨大ロボットの背中に飛びつき、ドラムマガジンの留め具にしがみつく事に成功した。しばらく平らなフレームをスノーが観察していると、ドラムマガジンの設置箇所の辺りに小扉を見つけた。ちゃんと鍵穴まであるらしい。
『これ、ですね。どうすれば?』
「開錠スキルを使って開けてくれ。何かしらボタンかレバーがあるはずだから適当に押しちまってくれ!」
『それくらい簡単です』
左手を鍵穴の上に置き、氷魔法で完璧に近い鍵を作成する。いとも容易く小扉を開く事に成功すると、中には赤い色の引き抜きレバーが一つだけあった。ちょっとイメージが違うけど、間違いなくアレだろう。
巨大ロボットなら有るはずの緊急停止装置だ。
まあ、兵器だからあえて備えていない可能性も十分にあったけど、案外と普通にあるものだ。なかったら操縦不能状態の場合に対処ができなくなるのであるだろうけど。
発見と同時に、アモンが約束の十秒を迎えてサッと飛び去った。非常にいいタイミングだった。
『抜きますか?』
「抜いちゃって、どうぞ」
スノーが両手で掴んで引き抜こうとすると、少し浮いたと思ったところで何かが弾けるような音がした。ちょっとした爆発に似ていたが、その音と同時にロボットの駆動音が徐々に弱まり、やがて息絶えるようロボットは停止した。
スノーが引き抜いて掴んでいる物体を見て、何か変だなと少し思っていると、とある物体と妙に似ていた。
そうだ、この形は四角い大きな乾電池みたいだ。
「……もしかして、これバッテリーだったか?」
そんなもん引き抜いてよく無事だったな。……スノーの方が。




