利害関係を築きましょう
御話の裏
「昨日の話なんだけどさ、スノーは俺には気を遣うとかないの?」
「え、ゼンタロウに配慮が必要だったんですか?」
「そもそも選択肢になかったか」
『利用するか、されるか、ですか。その二つならする方がマシですね』
「だよな。俺もそう思う」
よし、言質は取った。じゃあ後はやる事やってしまいましょうか。
「連絡取れるかどうかわからないけど、ラックさんと話してみるよ」
『もしかして、アリッサと会う必要もありますか?』
おいおい。まだアリッサを避けたいとか思っているのだろうか。
「……そんなに邪険にしてやるなよ。苦手なのはわかってるけど、それこそ逆に利用してやろうって考えてみればいいじゃないか。会話が成立しない相手じゃないんだ。難しい話じゃないだろ?」
『いえ、苦手というより、今のアリッサはどこか不気味なのです』
「不気味?」
『はい。態度などは変わらないのですが、今までの攻撃的な側面が不自然に鳴りを潜めると言えばいいんでしょうか……。私の言いたい事、うまく伝わっていますか?』
何かを隠してると言いたいのだろうか。確かに聖剣を手にする前と後ではアリッサの印象は違う。
涼しい表情が増えた気がする。
そういえば王座争奪イベントが終わった頃からスノーはアリッサと距離を置いている。それは今も続いていて、積極的に会おうとはしない。だったら心情の変化とかあっても気が付かないんじゃないかな。
いいんじゃないか。落ち着いた雰囲気のある王様。
暴君でないって事はそれだけ自制が利いているってことだし。
「多難な時期も過ぎ去って、やっと落ち着いてきたって事なんじゃないのか?」
『……そういう感じではないのですが。まあいいでしょう』
シコリの残る言い方だったが、一応話し会いの場には向かってくれるようなのでそれで一応、この場での話は終わった。
その同日、スノーと俺は円卓会議室まで来るように言われた。
数分も掛からずに到着すると、円卓会議室には既にアリッサ、それから精霊騎士団第六席のアモンがいた。
フクロウ頭の紳士服を着た男性で、プレイヤーはダンテさん。バリバリの社会人さんで、仕事人間である。
「えっと、ラックさんは居るんですよね。ダンテさんは?」
『残念ですが、我が主は現在女性と逢瀬の最中……という設定でお願いしますと言っておられました』
「……それだけは絶対に違うってことだけは判った」
悲しい人だ。
十中八九、仕事なんだろうけどさ。いつも栄養剤飲んでヘロヘロみたいな感じでログインしてる人だし。
ダンテさんはリアルの仕事が相当忙しい人だったりする。
割とアモンだけとかの方が多いし、むしろアモン主体で色々と行動しているタイプのプレイヤーだ。仕事の休憩中などにログインしているようなのだが、朝、昼、夕、夜、どの時間にもチョロっと顔を出す神出鬼没な人である。いったいいつ寝てるのやら計り知れない。
ソーシャルゲームで時間のないライトユーザーみたいな人なのだ。
それでもアモン個人がとても優秀なのか、何故か一人で育っている。これでもレベル55でスノーよりも高い。
それはともかくとして、ラックさんがついに話し始めた。
『急に呼び出してゴメンね、ゼタ君』
「いえいえ、むしろすぐに会えて俺も都合が良かったです。でもここにアモンがいる理由ってなんですかね?」
『むしろゼタ君を呼んだのはアモン君から話を聞いたからなんだけどね。シターニアを助けてほしいって同じ話をアモン君から聞いてたから、すぐに呼んだんだ』
それって地味に凄いな。
だってアモンに話しかける事なんて本当に稀な事だからだ。いつも空を移動しているから全然捕まらないし。ギルドに所属してないから連絡の取りようがないし。どこで何をしているのか、プレイヤーのダンテさんですら把握しきれないキャラなのだ。
同じ精霊騎士団の仲間ならば、ダンテさんにグループ通話なりメッセージを残していれば、一応コンタクトは取れるのだけど、NPCがアモンを見つけるなんて凄い確率だよ、ホント。
「でも、なんでアモンにまで声を掛けたんでしょうね?」
『恐らくただビーストの精霊付きだから、という理由でしょう。と言っても、ワタクシもシターニアの出身でもないですし、そもそも地上の犬猫などに興味もございませんけど』
相変わらず辛口だな。まあ、俺も対して興味はなかったんだけど。
「それなら同じ獣人のティンにも話は行ってるんですかね? ダイスさんから連絡とかないんですか?」
『いや、ティンには“ダンケルク”に親書を運んでもらっていてね。まだエルタニアには帰ってきてないんだ』
そういえばまだ会談の日取りなんかは決まってなかったのか。お隣の国と言っても、王族の代表者が急に会いに行くわけには行かないという事か。
するとアリッサが『――そういえば』と思い出した風に口ずさんだ。
『昼間にシターニアから来たと、急な客人から面会を申し込まれたな。後日、改めるようにと言い渡していたのだが、もしかしたら同じ連中だったのかもしれない』
なんと……アポなしで次期王様に突撃するとは、中々に手当たり次第ではないか。よほど切羽詰ってるのか。
それだけドワーフ達の勢いが凄いという事なのかもしれない。
そう考えると、利用するのも案外楽にできそうな気がしてきた。余裕がない人間は重大な決断を迫られた時、ちょっとした譲歩でコロッと転んでくれるものだからな。
うん? 罪悪感はないのかって? たかがNPCに何を思えというのか。
『さて、本題に入ろう。ゼタ君、キミはココに来る前に僕とアリッサに何か頼み事をしようとしていたけれど、その内容はなんだい?』
「ええ。今回のこの件、ちょっと利用できないかと思いまして、一つひらめいたんですよ」
『……相変わらず早いね。で、具体的には?』
「アリッサが代表として彼等と交渉をして、人を取引材料にしてほしいんです」
『私が代表か。それが自然ではあるが、人が欲しい理由は?』
「単純に人手不足が深刻だからです。現在、警備隊でまともに戦力になっているのはスノーとアゲイル、奏だけです」
『待って精霊ゼタ。カナデは仕事してない。酒場みたいなギルドで歌って遊んでた』
……マジか、あんにゃろめ。今度ロープでふん縛ってからカリオットで街中を牽き転がしてやろうか。
「……戦力はスノーとアゲイルだけです。むしろ良く3にん……いえ、2人で広い王都を巡回して守っていると褒めて貰ってもいいくらいです。多少、戦士ギルド、冒険者ギルドから人を雇っているといっても、レベルが15以上の精霊付きには彼等では歯が立ちません。そこで、他の地域に住んでいる人員を引き抜きたいんです」
『引き抜きたいと言っても、難しいんじゃないかな? ゼタ君は多分、エルタニアに合流していないプレイヤーを引き込みたいって思ってるのかもしれないけれど、彼等は好きに行動したがるし、手伝ってもらうにしても戦力として期待できるかは別だ。良くてNPCが了解してくれるだけじゃないのかな?』
「ラックさん、重要な事を忘れてます。そもそも、今回助けを求めているのはエルフと獣人です」
『獣人は戦力として申し分ないけど、エルフ族は弱いって評判だし、ゼタ君のエルフが特別ってだけじゃあ……いや、待って。引き込みたいのは、エルフプレイヤーじゃない?』
「そうです。
エルフ族のプレイヤーは弱い。その所以はキャラメイク時に“100歳”以上に設定できないからです。でもNPCで百年以上生き続けているエルフなら、まだ強い。
そして、俺が一番期待してるのはNPCで年齢150以上、戦闘に優れたエルフ……森の番人と呼ばれる連中です。
彼等は王都の警備隊としてかなり魅力的な存在です。
エルフの適度な感知能力と弓術を利用すれば、精霊付きに対する不殺の戦力として非常に有用です」
『不殺? あれが?』
「そりゃ、ユキノの弓しか見てないからですよ。木の矢ならもっと弱いですし、貫通もしないです。かなり中途半端なんですよ、弓って。
だからこそ、不殺が目的の精霊付き逮捕には役に立ちます。それに麻痺毒でも開発して矢に塗れば、それだけで十分な気もしませんか?」
『なるほど、確かに……』
「無論、獣人だって戦力に加えられるならした方が絶対に得です。彼等は身体能力が高いですし、感知能力も高い。逃げ遂せてしまった者を確保するのに役立ちます」
情けは人の為ならず、全ては己の為の行動である。
利用しよう。利用し合おう。お互いにね。それが一番、まだマシな取引だ。
『つまり、ゼタ君はシターニア大森林のエルフと獣人に対して、同盟を結んでほしいと言っているんだね?』
「ええ。その通りです」
もっとも、力関係のハッキリしている同盟だ。エルタニアが上、シターニアが下だ。……意図したギャグじゃあないよ?
それに本当に彼等が困っている状態なら、きっと簡単に頷いてくれるだろうさ。なにせ、焦ってるんだからな。焦りは人の判断力を鈍らせる材料だ。
「アリッサとラックさんのやりたいように吹っ掛けるだけ吹っ掛けてください。今ならきっといい値が付きますよ」
『……ゼタ君、キミは将来いい悪党になるよ』
「悪党なんかよりもヒモになりたいですけどね」
どっちにしても悪性かな。
すると、沈黙を守っていたアモンの口から、含むような笑い声が聞こえてきた。
どうやら俺の考えにお気に召したらしい、多分同意してくれたと見ていいだろう。
『アリッサ、どうだい。上手くいけるかな?』
『問題ない。ユキノの精霊よ、お前の思惑はいつも私を楽しませてくれるな』
そりゃあ貴方の好みは大体判ってますから。
人を動かしたいと思うなら、その人の好きなもので釣るのは常套手段だからね。
『じゃあ、とりあえず今日は解散しようか。明日には彼等と対談して話をつけてしまうよ。二人にはすぐに援軍として出れるように用意しておいて欲しい。こういうのはサクっとやらないとね。じゃ、よろしく頼むよ』
さてと、ここまで思惑はいい方向に進んだな。あとはアリッサの交渉術次第だ。
アリッサには是非とも頑張ってもらわないとな。でないと俺がスコアランキング競争にいつまで経っても戻れないからな!




