『休みをください』誰に言うつもりだろう?
「奪われたのはなんだ。奪い取ったのはどっちだ。繰り返して少しずつ、忘れたんだろうか~♪ ……やす~みをくだっさい! 誰に――」
『ゼタ君……どうしたんだい……そんな大音量で歌って……』
「もう無理! ラックさん! ヘルプ! ヘルプミー‼ 休みをください!」
なんで俺がこんな休みをくださいの部分だけ、何度もリピートしてるかだって?
そりゃあもう二週間くらい張り付いてプレイヤーの地下牢にかかりっきりだからだよ。
もう夏休みも半分過ぎて盆休みも終盤。だのに俺はスコアポイントを稼ぐどころではなく、むしろランキング5位から転落、現在9位にまで順位を落としてしまっていた。
と言うのも……シグさんとの競争が終わった後は、王都で活動していた迷惑系プレイヤーを牢屋に放り込む作業しかしていないからだ。
プロジェクト開始から一週間ほど経って完成した精霊付き専用の地下牢の稼働は、思った以上に早く求められた。……目標の一週間以内の御褒美どうだって? 忙しくてそれどころじゃないのよ。
受け入れ態勢もすぐに整ったので次の日から検挙活動に勤しんだのだが……。
最初に牢屋に入れようと考えたのは『地の御神殿』でずっと魔鉱物をマクロ(自動操作システム)で採掘し続けていたドワーフ達だった。
……ゾンビの居た地下に今度は白ゾンビが入るのか、と爆笑していたのだが、その笑いはすぐに消え失せた。彼らを牢屋に突っ込んだあと、とある問題が発生した。
牢屋の数が足りない。
連行してきたドワーフ達が来た時、既に王都で捕まえた無法者たちが何十人程にもなる状態だった。30人ものマクロ漬けのドワーフ達がやってきたので、牢屋の空き部屋は60程未満に減ってしまった。僅か一日で許容量の半分に達しそうな数字を聞いて、すぐに増設が必要だと判断した。
檻に収容してプレイヤーが諦めるには大よそ一カ月を目安としていた。
すると一カ月間に何人が牢屋に入る事になるのかと考えると、王都を取り締まるだけで一日約十人以上。一ヶ月なら最低でも三百は檻が必要だと気づかされた。数が足りないのは明白だった。
そもそも牢屋が圧倒的に多くないとプレイヤーに対して「いつまでも収容し続けるよ」という牽制ができない。
部屋の数が全然足りないという事に気付き、突貫で牢部屋の増設を計画、半日後には無理やり通して計画を進めた。
更に収容したキャラ専用の食事を用意する厨房の限界が発覚し、それも増設。世話係に教会の信徒たちを起用していたが頭数が足りなくなり、今度は冒険者ギルドから引っ張ってきてさらに出費。生活施設が未だ不完全だという話に関してはいえば、限りなく問題は尽きない。
色々と至らない点もあったが、その都度ころぽんさんと湯呑太子さんがフォローしてくれるけれど、やっぱりハードスケジュールなのは変わらなかった。
そしてスノーはというと、王都の精霊付き専門の警備隊に参加したいと言い出した。
もうスノーの本職が何だったかわからなくなってきたが、問題行動を起こすプレイヤーの補導率がナンバーワンになった事は誇っていいハズだ。……いや、そんなもので一番になっても嬉しくないし、他に誰もやらないだけだから勝手になっただけだ。
だって、スノー含めて隊員は三人しか居ないんですよ!?
スノー、アゲイル、奏。……全員精霊騎士団だし。
そして、警備隊の参加が更なる厄災を招いた。
仕事増し増しの状況から更に、爆発的にプレイヤーが増えた。
原因は、某動画サイトでも有名なゲーム実況者がサモンズワールドを取り上げたからだという。その所為で、ダウンロードしたプレイヤーが一気に増えて、口からゲボを吐き出したくなるほど忙しくなった。
プレイ人口が一時期の十倍以上に増えたのは拍手してもいいかもしれないが、俺の仕事も一気に十倍になってしまった。いい加減ウンザリしたよ。僕ちん疲れちゃったよ。
「聞こえますか? 今、貴方に語りかけています。休みをください……休みをください……」
『……今朝からこうやって休みを主張し続けているんですよ』
『と言いつつも、ちゃんと役割は果たしてくれるんだよね』
ラックさんは褒めてくれるけど、俺はそんな評価よりも自分の事が大事だよ。
そもそも、俺が喚いている原因は小田が居ない事かもしれない。
あの野郎「夏の戦場に行ってくるわ」とかサムズアップかまして途中からコミケに逃げ出しやがった。しかも三日間、全ブース巡るとか宣言しやがって、アイツは化物か?
あとシティーハ○ターごっことか言って新宿に遊びに行って写メとか送り付けてくるし、全然帰ってくる様子がない。
「あーあ、みんな死ねばいいのに! そうすれば世界は平和だよ! さあ皆で渡れよ赤信号、俺がトラックの運転手になってやるからよォ!」
『……意味はよくわかりませんが、どうすればいいですか?』
『思ってたより重症だった』
『おそらくだが、スノーの精霊は一人頭の中で葛藤しているのだろう。支離滅裂だが、私にも経験があるからわかる』
『アリッサ、悩みがあるなら酷くなる前に僕に相談してくれない?』
アリッサ、ありがとう。でもそう思うなら仕事代わってくれ。
『話を戻して、スノーちゃんの質問だけどねぇ。今のゼタ君には何か、気分転換が必要だよね……。そういえばゼタ君、僕がこの前大阪に行った時に、なんか格闘ゲームの大会やってたんだけど、そういうのやらないのかい? 確か得意だって言ってたよね?』
「はぁ!? そんな時間があると思ってるんですか!? そんなこと言うくらいなら地下牢の件、誰か代わりを見つけて――――」
……と言うやり取りがあってから次の日。
「――南浪ゲーワン店、GBトーナメント夏祭杯の優勝は“爆忍”使いのゼタ選手! 優勝おめでとうございます!」
「余裕っすわ」
負ける気がしねえ。一人ガッツポーズして威張り散らしてやったわ。
所詮、地元ゲーセンの大会レベルなんてこんなもんだよね。初戦と二回戦はつまらなかった。準優勝でちょっと骨のある奴がいて、決勝は一ラウンドだけ様子見て、その後は圧勝した。
格闘ゲームの中でも今一番の盛り上がりを見せている人気タイトルの一つ、グレイトブラック。通称GB。
このタイトルも長い事やってるけど、深みがあって面白いんだよな。運では決して勝てないというのが好みだ。他の格闘ゲームも好きだけど、GBシリーズが一番好きだな。演出とかカッコいいし、コンボも滾るモノがある。一部、キャラの相性が酷いけれど、そんなモノはどのゲームにもよくある事だ。
「ゼタくん、強いね。学生さん?」
そう言うと、決勝戦で相手だった人が握手を求めてきた。止めてくれ気持ち悪い。お前の汗がベタベタな手を俺は握り返したくないぞ。
だが礼儀の問題もあるので一応、手は握り返す。後でちゃんとアルコールでキレイにするよ。
「そうですよ。それが?」
「いや、実は今度、地元の皆で一緒に大阪に乗り込もうって思ってるんだけど、よかったら一緒にどうだい? ほら、僕も準決勝の二人もあんまり強くないしさ」
あぁ、準決勝で負けた二人は同じチームの人だったのか。……なんかいいなぁ、そういう、リアルで皆でワイワイと盛り上がりながらバトルしに遠くに行くの。ちょっと憧れてたんだよね。
「すみません、実はそれほど、日取りに余裕が――――」
……という事があった次の日。
「すげえ、あのガキ。もう30戦も居座り続けてるぞ」
「誰なんだアイツ。誰かしらねえか?」
「ネームレスだし、わかんねえよ」
悪いな、記録保存ができるゲームカードは作ってねえけど、俺の実力は段位18はあるんだ。まあ、ネット対戦での成績だけどな。
「俺はこのままタイムアップでも良いんだが?」
ちなみに段位の最大は20で、そこから下がっていくと弱くなる形式で、おおよそ10段前後になると中級者扱いとなる。17以上の段位になると、もうひたすらに強いぜ。GBに関しちゃあネットで師匠がついてたからな。その人にみっちり鍛えられたから、どれだけGBから離れていようとすぐに実力を思い出せる。
本当はゲームパッドで操作する方が実力を発揮できる。アーケード式は配置とかスティックが慣れないんだよな。元々、コンシューマ(家庭用版)から入った勢だし。
「まただよ、そんな勝ち方して恥かしくないんか!?」
「負けたくせに言い訳か? 限られたルールの中で勝利条件を満たしただけ」
ああ、楽しい。ブ○ントさんごっこ、すっごく楽しい。新宿で冴羽○のマネしてた小田の気持ち、わかるわぁ。
だが、格闘ゲームは強すぎたら誰もやってこなくなるし、相手する人間も他の筐体に逃げるから、いつかは終わりが来てしまう。
俺も長くやりすぎて、一緒に来たはずの地元チームの人達もどっかいっちゃったし。……ご飯食べに行くとか言ってたっけな。集中してたからあんまり聞いてなかった。まあ、時間潰してたら帰ってくるだろ。
そういえば、サモルドの方は大丈夫かって?
NPCに内政が得意な奴がいて、そいつに全部丸投げしてきた。ラックさんの案だ。ちゃんと俺の後任を探してくれていた辺り、ラックさんはさすがだな。ああ、肩の荷が下りた気分だ。しばらくはフリーダムに遊び回りたい。
あと、スノーは一人でせっせと違反者を牢獄にぶち込んでいる。なんと言うか、やりがいを感じているらしい。一応こまめに携帯のアプリで連絡は取っているし、特に問題はないだろう。
しばらく筐体の椅子に座っていてたが、誰かが勝負を挑む気配もなくなり、このままいてもしょうがないので席を立って、しばらく他のゲームを遊びに行く事にした。
すると夏休みの大阪で、遭遇するとも思わなかった人物を見かけてしまった。
「げ、辻風……」
「おやおや? 鼻もげユー君じゃん」
「誰の所為やねんクソヤロウ!」
同じ中学の……ええっと、名前は思いだせん。なんか鼻がもげたイメージしかなくて、ユー君はその時の渾名か何かだ。
なんかいかにもイジメっ子って感じの奴で、すぐに手がでる典型的な問題児の印象がある。
今日はお友達と一緒にココまで遊びに来ているようだ。似たような奴が揃ってるな。……ん?
「ユウ、コイツなに?」
「あれ、コイツって親が金持ちだか芸術家だとかって噂の1組の辻風じゃね?」
「アカン、コイツに関わるな、頭おかしいんやコイツ」
どうやらお友達は俺の事を詳しくは知らんらしい。でも、さっきからなんか、後ろの方に一名だけパッとしない奴がいるけど、なんだろうな。あのメガネ君。ずっと黙ってるし。
「よくしらんけどお前等、中学三年にまでなって受験控えてるのに、ゲーセンで遊んでるとか余裕なんだな」
「……その台詞、そっくり返してやるよ」
「何コイツ、おもしれえじゃん」
「いや、後ろのメガネ君、大丈夫かなって思ってな? いじめられてねえか?」
おっと、なんか知らんけど地雷かな。なんか空気が妙にピリッときやがった。
「チゲえよ。遊んでやってるだけだっつの。コイツ根暗だからな。な、そうだろ?」
「あ、は、はは……」
なんか気持ち悪い肩の組み方だな。メガネ君、腰引けてるじゃないか。
「ふぅん、あっそ」
まあ、どうでもいいけどな。メガネ君否定しないし。それにこっちは迎えが来てしまった。
「おーい、ゼタ君! 居なくなってたから探したよ」
地元チームのリーダーさんが都合よく来てくれた。
もうシンデレラタイムか。十二時の鐘はなるのが早いね。でも今回に限って言えばラッキーだ。相手は王子様じゃなくて山賊だからな。
「あれ? お友達かな?」
「いえ、ただの同級生です。それより次の場所に移動しませんか?」
「うん? ああ、そうだね」
こっちの事情も汲んでもらえたようで、すぐにこのゲームセンターから立ち去る事ができた。まあ、あいつ等の雰囲気ですぐに良からぬ連中ってのはわかるだろうし。
その後、帰宅中の電車の中でふとチームの一人に質問をされた。
「アレ、誰だったの?」
「鼻もげユー君の事ですか?」
「……なんでそんな名前なんだい?」
「昔、俺が金持ちの家って変な噂が流れた事がありまして。それで絡まれたことがあるんですよ」
「それってイジメってヤツじゃないのか? よく平気だったね」
「まあ心得があったんで」
「心得?」
「仕返しですよ。居眠りしてる奴の鼻に、錘付きの釣り糸を鼻に引っ掛けて、錘を上窓に放り投げて引っ張ってやったんですよ。あんまりにも面白かったんで、ちょっとイタズラ心で糸を引っ張ったらブチっとなっちゃいましてね」
「それって切れたのは糸なんだよね!?」
今となっては笑い話だ。
それに、こういう問題は自分の意志でNOと突きつけてやる意思が必要なのだ。強者となってしまった怪物という存在は、天井知らずで付け上がるものだからな。そうなったら周りだって関わりたくなくなるのは当然だ。
ではそうならないためにも、虐められている側が反抗するのが鍵になるのだが……。まあそんな事、俺には関係ない。
現実に正義の体現者など居ない。
残念ながらヒーローはいつだって、夢の世界の住人だからな。
結局、自分の身は自分で守らねばならないのだ。




