今度は戦場で会おう
勝敗の結果確認を終えた後のやり取りは、淡々としたものだった。
スノーを変装スキルで狩人の姿に戻している間に、シグさんは自分の武装を素早く片付け、直ちに立ち去ろうとしていた。
慌てて弾薬費などの支払いを提案しようと制止したのだが、シグさんはそれを断った。
『金は必要ない。今回は物見遊山のつもりで立ち寄っただけだからな』
「いえ、そうは言っても弾薬費だってタダじゃあないでしょう? 国から政務費として幾らか出せるので受け取ってください」
『気にするな。オートマタに必要なのは金ではなく、鉄屑を武器に変える魔法使いと腕のいいメンテ技師だ。俺はそのどちらも事足りている。ではな』
戦闘中はなんともやり難い相手だったが、戦闘以外には興味がないのかとても淡白だった。
シグさんの興味は本当にハイエルフの有無についてだったのか。その日のうちに王都の外へと出ていく姿を誰かが見たと、後から聞き及んだ。
強烈な印象だけを与えて綺麗に去ってしまうシグさんの存在に対して、スノーも奇妙な感慨を抱いていた。
『なんとも機械族というのは、規格外な存在なのですね』
「オートマタな。まあ、シグさんが特殊なだけだと思いたいところだな」
実際、どうなんだろうな。
湯水のように使い続けていた弾薬だったが、いったいどれだけの経費があれば可能なのだろうか。
多機能レーザーカノン、小型巡航ミサイル、マシンガン……。途中から見学するのを止めて戦闘に勤しんだから他の武器はわからないが、他にも色々と持ち歩いているだろうな。そういえば、腰につけていたバレルの長いハンドガンも使っている様子もなかった。
動きも鈍重とは思えない機動力だったし、今度からオートマタに対しての研究もするべきだろう。
自分で操作する機会があれば一番なのだけれど、そうそう上手くはいかないな。
『ゼンタロウ、変装終わりました』
「お疲れさん。地下ゾンビの件が早く解決したお陰で、また次のお仕事ができるぞ。やったねスノー。お仕事が早く終わったはずなのにまた別のお仕事しなきゃいけないの、なんでだろうね!?」
『人の死なない仕事なら何でも楽しいです』
俺は楽しくないけどね。
今後の活動はほとんど他人に指示を出すものばかりだ。
今回ゾンビ掃除を終えた地下の整備開発、檻の建設依頼と搬入、ギルドに精霊付きの対応についての要請交渉、衛兵には精霊付きが被害を出した際に知らせる連絡網も作らなくては……。ああ、今思いついてしまったが、プレイヤーに対する厳重注意の基準なんかも考える必要もありそうだ。いきなり逮捕では反感を買いかねない。
もういっそ、誰かにぶん投げたい。誰か替わって!
でも他人に指示出すのってやっぱり苦手だし、引継ぎの事を考えると自分でやってしまった方が手っ取り早い気もする。そう考えたら、やっぱり自分でやるしかないと考え直すしかなくなってしまう。
堂々巡りかよ。馬鹿みてえだな。
ああ、メロンソーダの気持ちがよくわかる。俺も自分の好きな事だけしてずっと生きていきたいよ。そうすればこんなに悩む事もないのにさ。スコア稼ぎてぇよぉ。
「……そういえば、今回のゾンビ掃討でスコアどれくらい入ったかなぁ」
今回の楽しみってそれくらいしかないな。
-・-・-・-
エルタニア王国北部の川沿いにある岩陰の傍。
そこにはココまで移動してきた水陸両用が可能なバギーが置かれている。六輪車でさまざまな悪路でも走ることができる。さすがに海を渡った時は古臭い帆船に乗っての航海となったが、今では良い経験となった。
光学迷彩カバーを外し、六輪バギーに乗りこむと、アダプタと接続されて同期し、エネルギーが機体に送られる。
後は休憩をして西のドワーフの国へと目指すだけだった。
すると現実の方でネット通話要望が来ていた。
相手は、ドワーフのトッププレイヤーのバッハだ。
『おう、俺だ。首尾はどうだ?』
「やはり、エルタニアのハイエルフがランカーのスノーだった。イベントを一緒にこなしたが、スコアも同じく上昇していた。ユキノなんてエルフは幾ら探してもいないしな」
『そうかそうか。で、どうだった? 強いか? それとも弱いか?』
「存外、ただの戦闘馬鹿でもないらしい。興味深い存在だ」
『へえ、えらく気に入ってるじゃないか。パートナーにでも引き込むのか?』
「そうできたら面白い。だが、敵として相見えた方がもっと面白いだろう」
『バトルジャンキーかよ。まあその方が俺も都合が良い。用事が済んだんならさっさとこっちに合流してくれ。色々準備して待ってるからよ』
「わかっている」
通話を終えると、スコアランキングで見た自分の位置を思い出した。
6位が先ほどネット通話をしていたドワーフのバッハ。
5位が今回姿を偽って遭遇したハイエルフのスノー。
4位には一時期まで一位だった、戦姫と称されるお嬢様、アリッサ。
3位に自分の機体名であるシグ。
2位にはまだ見ぬ永遠のライバル、アンドロメダ。
1位は謎の最強プレイヤー、サイトー。
1位のサイトーにはもはや太刀打ちなどできる気がしていない。
奴は異常だ。レベルもスコアでも天井知らずに上り続けている。
レベル50から先、一つ数字を増やすだけで一週間は掛かると聞く程なのに、ヤツのレベルは既に80と抜きん出ている。
あれは端から気にするべくもない。
だが、アンドロメダは違う。
奴は常に俺の一つ上になぜか張り付いている。
見計らったかのように、アンドロメダはスコアを追い越した瞬間にそれ以上のスコアを叩き返してくる。
ヤツとの差を縮めるどころか、ヤツはさらに差を作り出す。
追いつこうとして、手が触れた瞬間にヤツは更に先へと移動しているのだ。
同じオートマタなのに、同じ廃人勢だというのに、俺の方が上手いハズなのに、俺の方がこのゲームに人生を費やしているはずなのに……。
これしかないと思ったことで、何故か勝てない。
それを悔しくないと思う奴などいるのだろうか。
少なくとも俺はもう我慢の限界だった。
もっと強い奴を倒す必要がある。
もっとスコアを効率的に伸ばす必要がある。
もっと高いスコアを手にしなくては奴には届かない。
ただの魔物などではダメだ。
もっと手強くて、スコア入手の高い奴を探しだして収穫する必要があるのだ。
強い奴を倒せばそれだけスコアが手に入る。
魔物だろうと、NPCだろうと、プレイキャラだろうと。
さすがに倒したプレイヤーのスコアを全て吸収できるような仕様ではないようだが、ある程度はその数値に準拠して奪い取れる。
それを考えると、スノーというキャラは非常に魅力的だ。
「ゼタ君……もっと、もっと肥えてくれ。俺のために、スコアをいっぱい溜めてくれ」
戦力の中途半端なイベント型のスコアラーは、俺たち戦闘特化型の餌でしかない。
忍者……アサシン系のクラスなんて、どうせ斥候か情報収集の役にしか立たないだろう。だからゾンビの大群相手にアレだけ手間取る。
「ハイエルフ……今度会う時は、あのキレイな顔をフッ飛ばしてやる」
なぜ最後にネタに走るのか……。




