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【凶報】教会地下に住んでいた数百人のゾンビ達が一日で姿を消す

取材した謎のエルフさん

『地下のゾンビ? 魔物がこんな所にいる方が悪いのです』

『しかしスノーさん、貴方はご自身の住居を奪われたと聞いております。その言葉は自分に帰ってくるのでは?』

『……な、なにを勘違いしていらっしゃるのでしょうか? わ、私は迷える彼らの御霊を神の懐へ導いただけですよ?』


 と供述しており、これは善なる行いだったと主張している模様です。

 一方……彼女の契約者兼、保護者であるZさんは次のように述べています。


『ゾンビを一掃して何が問題なんだ』

『原住民を強制排除したことについて罪悪感などはないのですか?』

『一切ない。思う必要性も感じない』

『まさに人の心を持ち合わせていない冷血漢の様な一言ですね』

『貴方はゴキブリを駆除するのにも心が痛むのですか?』

『ゴキブリは人ではありません』

『ゾンビだって人じゃねえだろ』


 シグさんの戦い方はFPSとかそういう次元ではなかった。


 さながら歩く武器庫のような戦術バリエーションだ。なんでもアリじゃあないか。


 大型レーザーカノンに、お次は小型巡行ミサイル。次は何が出てくるというんだ。


 きっと凄まじい弾薬費になるんだろうなぁと他人事で考えていると、約束はしていないが払うのは自分だったと思い出して茫然としているのをやめた。



「これ以上シグさんに獲物を取られすぎちゃダメだ、急ごう!」

『はい』



 矢筒から一本、銀製の矢を一本引き抜き、番えて弦を引き絞る。今度は“剛”とだけ入れて変換をする。弓装備の時に一番よく使う魔弓術で、単純に矢の速度と威力を上げた射撃だ。矢に白い魔力のエフェクトが出たら準備万端だ。


 スノーなら目視している敵の中から、すぐに倒せる相手を探し出して射てくれるだろう。


 銀矢は通常の木の矢よりも重く、貫通性能が増している。威力だってその辺の魔物など吹き飛ばせる程度はある。

 それに銀の武器は対悪魔・アンデッドに対して有用な効果がある。銀矢一本でゾンビ一、二体は確実に葬れるだろうという算段もあった。



 一時、スノーに任せる。

 スノーの意思によって放った銀矢は一直線上にゾンビの顔面目掛けて疾っていく。


 だが矢が相手の頭を捉える前に、一発の弾丸が走りだす爆音が響いた。


 その瞬間、銀の矢の向かっていた先に居た頭は鋭利な鉛の弾丸によってバラバラに吹き飛んだ。



 すぐさま顔面を吹き飛ばした犯人を見ると、彼は腰だめに抱えたカノン砲を、今度は見た目通りのライフルとして使用していたのだ。


『おっと、横取りはルール違反だったかな?』

「……いえ、別に」



 この野郎、スノーがどれを狙うのか見てから獲物を決めやがった。そりゃあ矢と弾丸なら後者の方が速いだろうよ。面白い事してくれるよ。



「ユキノ、三本いけるか?」

『余裕です』



 今度は矢筒から三本の銀矢を番えさせて、絞らせる。“鷲爪”と入れて三本の銀矢に対して同時に魔弓術を付与する。


 シグさんの使う火器はどれも威力重視で単発ずつしか使えない。ならばこちらは手数で対応するしかあるまい。


 次こそは自分達の手で敵を葬ろうと意気込むのだが、何やらスノーは遠くの敵を見やるのをやめて、隣のシグさんを振り向いていた。


 何が気になるのかと思うと、シグさんの背部下側と足の脛裏から、青い炎が噴出していた。次の瞬間、シグさんは地面の上を滑るように移動し始めたのだ。


 今までずっと普通に歩いてたから、ホバーブースト移動ができるとは思わなかった。オートマタとはいったい何なのか、考えさせられる仕様だな。バトルロボットは自由な発想が大事だって? せめてジャンルくらいは弁えてくれ。異世界ファンタジーでSFをやるんじゃあない。SFはスペースファンタジーの略じゃあないんだぞ。



 シグさんは右腕だけで巨大なライフルを単発で撃ちつつ、左腕は肘下辺りに格納していたマシンガンを使って鉛玉をばら撒いて残ったゾンビ共を粉微塵に変えていく。ついでとばかりに先ほど使用した小型ミサイルも使用し、たった一人で戦場を作り上げていた。



 スノーは冷静に判断して張りつめた弦を元に戻した。


『……すみません。あれには追いつけません』

「わかってるよ」


 どう考えてもダメな結果しか思い浮かばない。矢で打ち抜く前に先に見える敵全てを横取りされて終わってしまう。


 まさか本当にこちらが4体倒すだけでも厳しい状況になるとは夢にも思わなかった。



「どうするかね……」

『魔法は使わないのですか?』

「それも考えたけどね」


 俺もオートマタに負けじと、ファンタジーの特性を利用して戦おうとも考えた。


 ただ、中級魔法以下は全て、銃の弾速には敵わない。


 俺が魔法を作る基準は、アサシン系統にありがちな威力不足を補うための攻撃ばかりだからだ。よって、スノーの使える魔法は威力重視ばかりで、速度はそれほどないのだ。



 ただし、上級魔法を使えば少しくらい横取りできるかもしれない。

 なぜなら上級魔法は攻撃範囲を重視して作られた魔法ばかりだからだ。早さとか関係なく、敵を巻き込める。


 けれど、後の事を考えると使うのはどうしても気が引ける。“ヘイルフィンブル”を使うと、この場の全員どころか、通路で待機しているアゲイルや緑茶さんにまでダメージが入るだろうし、“アトゥイコロカムイ”はうっかりで地下空間そのものを破壊しかねない。どちらもダメだ。



 矢はダメ、魔法もダメ。

 ならば残るは剣しかあるまい。



「やっぱり剣だ。剣が一番いい」

『……やはりそうなるんですか』


 スノーがあきれた様子で軽くうな垂れていた。変装中のスノーは剣を使う事を嫌っている。それはわかっている。

 でも、あのシグさんに対して、残された勝ち筋はそれくらいしかないだろう。



「シグさんの火器でも討ち取れない強さのゾンビを俺達が先に狩る。変装スキルも解除だ。目にも止まらぬ速さを見せ付けてやろうぜ」


『……脱いでいいんですか?』


「もちろん」



 そういうと、スノーは嫌そうな態度の一切を止めて、迷いなくマントの留め金を外し、マントを地面に落とした。変装スキルで装備していた新緑の革鎧も脱ぎ捨てると、現れたのは白布の羽織を着こなした忍び衣装を着たエルフニンジャだった。髪は金髪のままだから外国人のなんちゃって感が否めないが、別に髪の色は戦闘力に含まれないから問題ない。


 大事なのは、軽装になる事だ。



『最近はずっと狩人の姿でしたので、久しぶりだと気分がいいですね』

「なんだ、割とノリノリじゃないか」

『脱げれば何でもいいです』


 まるで露出狂のような発言だが、許してほしい。


 スノーは元から暑がりだ。その上で、変装スキルで通常の装備の上からまた一つ装備を重複させていたのだ。『暑い上に動きにくい』と初めの頃は愚痴っていたほどだ。



 それも、変装スキル解除時は水を得た魚のように動き回る。


 弓を折畳まずに肩から掛けてもらい、右手で竜骨小太刀を握り、左手をフリーにしておく。


 スノーがトントンと二度ほど軽く飛び跳ねる。準備は終わったという合図だ。


 俺も首の骨を鳴らし、肩をほぐしてから呼吸を整えてゲームパッドを握り直す。



 全力疾走を指示しながら移動スティックを前に倒した瞬間、爆発的な速度で加速して走り出した。


 周囲の物体が高速で過ぎ去り、背景のグラフィックが横に伸びて見えるほどだ。普通の人間の足で出せる速度では絶対にない。



 突進する先には、顔はゾンビ、体は骨の杖を持った魔物が魔法陣を盾にして待ち構えていた。



 リッチ、レベルは73。異名持ち(ネームド)“元王宮死霊術士”だ。かなりいい具合に育った魔物だ。経験値も実に美味しかろう。



 魔法の速度も速い。いつの間にか無数の石のツブテが宙に出現すると、全てスノーに向かって襲い掛かってきた。ただ、残念ながらその攻撃は無意味だ。


『やる気あるの?』


 銀嶺のローブの効果によって、飛んできた石の軌道が急に変わった。スノーに対する飛び道具、投擲の類は一つたりともスノーに触れる事は許されないのだ。


 リッチに向けてコマンド入力の突進技“魔迅残影剣”を発動させ一気に切り込む。


 だが攻撃は魔法陣の盾によって防がれた。竜骨小太刀でも破れない盾に、リッチがほくそ笑むように見えたが、続くコマンドを更に入力。スノーがリッチの背後にいつの間にか移動していると、リッチの足の骨を砕いて切っていた。



 クラスがニンジャになってから、コマンド攻撃は増えたし、また一つの技の後の派生モノもかなりの種類で増えていった。覚えるのが大変なほどだが、使えるものから使えないものまで、俺の頭蓋骨に納まっている豆腐ちゃんが全てを記憶している。


 続いてダウン状態の敵に対して行えるコマンド技を使い、地面に倒れたリッチに竜骨小太刀を突き立てる。刺さった場所から氷結を始め、リッチの自由を奪っていく。


「矢を一本!」

『だと思いました!』


 言ったのと同時にスノーは銀の矢を右手で掴み、既に準備は整っていた。再び武器を地面に突きたてる攻撃をすると、銀矢を逆手に掴んだまま、顔面に振り下ろして突き刺した。何とも形容しがたい気色の悪い奇声を上げてリッチは頭から灰になって崩れ去っていく。



『次、二時の方向へ30の距離に二体います!』

「丁度いい、そいつ等まとめて頂こう!」


 魔撃の溜めを利用し、風属性を設定、移動する距離を打ち込む。


 移動魔法、ジャンプだ。

 この魔法に限って言えば、魔法を作って覚えるよりも手動で魔撃を使ったほうがいい。距離を数字で打ち込んだ方が強襲に使えるからだ。


 スノーの足の裏に風魔法のエフェクトである緑色の光が纏われる。そこから軽く膝を曲げる程度の余力で地面から飛び立つと、さっそく着地点に標的が見えた。



 一体は薄汚れた鈍重にも見えるプレートアーマー装備の魔物で、ロイヤルガード・スケルトンという未確認、報告無しのレアモンスターだった。レベルは90。異名持ちで“邪教の聖騎士長”と表記されている。


 もう片方は黄金の鎧と小さな王冠を装備しており、ボロボロに擦り切れた赤マントを装着しているゾンビだった。魔物名はワイトで、レベルはたったの13と低めだ。一応、異名は持っていたが“邪神に見放された王子”となんだか可哀想な設定が垣間見える名前だった。



 もしかしたらここのゾンビたちにもドラマがあったかもしれない。余裕がもしもあったなら、その辺を踏まえて交渉をしたかもしれない。


 だが、そんなモノ、今は関係ない。

 今は狩り競争中だ!



「往生しろやッ!」



 気分よく空中からの強襲攻撃で、斜めから一気に斬り込んだ。地面を滑走していく最中、滑った地面から無数の巨大な氷柱が無作為に突き立っていく。都合よく氷柱がその場に居た魔物等を串刺しにして拘束している。


『仲良くあの世へ送ってあげますよ』


 竜骨小太刀を納刀すると、肩に掛けたルナイラの弓を素早く装備する。それと同時に魔弓術の矢作成で氷の矢を作り、素早く弓に番えて引き絞る。さらに再び魔弓術を使って、今度は単発、最大威力の技を使う。



 ルナイラの弓が壊れるかと思うほどに引き絞られた矢は、解き放たれた瞬間に砕けて散った。散った氷から風属性のエフェクトがあふれ出し、荒れ狂う暴風となって二体の魔物を襲った。



 横回転する竜巻が発生する。

 地面から突き出した氷柱が竜巻と一緒になって暴風の一部となり、二体の魔物は巻き込んで氷漬けの塊の一部にしてしまった。氷結の嵐は一瞬で通り過ぎたが、敵はもはや指一本だって動かせないだろう。


 後は銀の矢で丁寧に頭を射ち抜くだけだ。


 二本の矢を番えて同時に放ち、二体とも討ち取ったと確信した瞬間だった。



 ロイヤルガード・スケルトンの頭を銀矢が貫通する前に、突然砕けて飛び散った。同時に遠くから銃撃の音がしたので、恐らくシグさんが撃ったのだろうとわかった。少し遅かったかと後悔したが、ワイトの方は銀矢で仕留めた。



『悪いな。他にはもう残ってなくてね。暇だったのだ』

「さいですか……」


 ただし、水を差された気分になったので、さすがに敬意を払えるような口調は維持できなかった。


 うん、やっぱり、ちょっとムカつくもん。


 そんな俺の気も知らずに、シグさんはあっけらかんと近寄ってくると、スノーの姿を見て面白がっていた。



『ふむ。先ほどの狩人はフェイクか。忍者とはまた、面白い』

「理解が早いですね。……一応、秘密にしておいてくださいよ?」


 別に公開されても気にはしない。ただ、面白そうな事が一つ減るだけだ。


『確約はしない。だが、良いものを見せてもらったのだ。折角なので秘密は守らせてもらおう』

「そりゃどうも」


 

 どうやら広めたりはしないらしい。

 それは別にいいのだけれど、俺が今気になるのは本当にもう一匹もゾンビは残っていないのか、だった。


「ユキノ、残党はいるか?」

『そうですね。……はい、残念ながらもう残っていません』

「……そっか」



 ゾンビ掃討数勝負の結果は、101対99で負けてしまった。一部、ダイスで決めた結果だったが、まあ、仕方がない。


 もしかしたら一発目の初撃で倒した本当の数は70以上だったかもしれないし。そもそも、普通に戦った33体争奪では見事に大差をつけられている。


 どっしりと、腹に圧し掛かってくるような重みを感じた。

 これは、敗北の感覚だ。


「はぁ、くそったれ。完全に負けた」


 負けて当然とは考えない。

 初めから勝てない勝負だったとは言わない。

 理不尽な戦術レベルの差があったとはいえ、納得して勝負を挑んだのだ。


 その結果、悔しいと思わないのなら勝負事など初めからしない。


 だから悔しいと感じるのだ。



『ゼタ君。中々、ユニークな戦い方だった。楽しかったよ』



 だから思う。この借りはいつか必ず返す、と。



「次は戦術兵器相手でも勝てる準備をしときますよ」



 今度からはいざという時に、魔属性のチート魔法もちゃんと用意しておくか。

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